「シンジ君たちはうまくやってるかしらね・・・連絡とれないけど・・・」
 
 
ほぼ平常状態に戻ったマギが後処理モードに入っている。マギの不調とみればここぞとばかりに侵入を図ろうとする外部の盗賊群にはきっちりタグをつけてあとできっちり報復迷惑料をとりたてるのも恒例行事。
 
 
亜種マギが停止し、エヴァ4444BC型のような物理戦力による襲撃も止めた。
 
 
機体だけなら零号機、初号機、そして八号機もいるとなれば、物理戦力も怖くない。
今のネルフ総本部には、何者も入り込めない結界がある。入れば石になって蹴られて死ぬ。
非科学的だが、マジで。なぜそうなっているのか語っても死ぬ。野暮の天麩羅となって。
「この年の差って」とか言っても塩の柱と化したりする。たぶん今だけ神話タイム。
なんか鐘の音が聞こえたり、花が舞っていたりするけど、幻聴幻覚とも言い難く。
 
 
もちろん、親友のそんな時間を祝ってあげたいのはやまやまなのですが、そうもいかないのがつらいところの葛城ミサト。ここにはいない碇シンジのサポートをせねば。赤木ナオミをサーチしつつ、他の赤木シリーズの活動も停止させとるあたり、三賞間違いなし!また焼肉に連れて行ってあげましょう。これまで本丸のマギの不調で外に出したはいいが、まともなサポートが出来ていなかったし。普通の子供なら、半べそで戻ってくるけどねえ。
 
ま、やっぱり外見はあの通り柔和だけど、ひと味もふた味も違うのよ!シンジ君は!
中学ダブっててもなんの問題もないわよ!品行も方正だし、鈴原ナツミちゃんとこれでどうにかなるとかもないっしょ!たぶん!初号機と参号機で大ゲンカとかやめてね?
 
 
「零号機と初号機はまだ、繋がってる?」
 
レイに急にこんなこと聞かれてももちろん、ぎょっとしたりしない。これは任務の話。
だからそこの新米、顔を赤くしたりしなーい。
 
「ええ。まだお願い・・・完全に、終わるまで」
どんな手で盤面をひっくり返されるか分からない。初号機さえ、その頭さえ使える状態にあれば、再戦は可能。リセットスイッチがあるなら使うに決まっている。このままいけば負けはない。負けはないが・・・葛城ミサトは相手の筋を読む。読まずに、その存在を消去して勝つ方法もある。損害とその後の利益と。計算。打算。計算。予測。そしてカン。
 
 
「・・・・・天京のアスカに繋げる?」
 
そのスケジュールは当然、完璧に把握してある。ソドラ管理作業のため弐号機ともども動けず連絡すら受け付けぬことも。それでも、カンが囁いた。碇シンジの土壇場で、惣流アスカが必要になる、と。他人に説明はできない。妄想を指揮に混入させるべきではない。
 
通信担当オペレータの返答は否。それができるならもう呼び戻してるのでは?あちらの作業も専念させないと大陸全域がまずいことになる。島国のいち都市と天秤に載せると、だ。
 
「だよね。分かった」
それくらいならば、碇シンジを呼び戻せばよかったのだ。通信が可能だった時に。
 
皮肉なのは、そこで呼び戻していれば、亜種マギたちの動向も変わっていただろうこと。
 
守りを抜かれても負けるが、攻めていかないとやはり、負ける。求める結果は得られない。
 
赤木ナオミが何を求めているのか・・・・・読み続ける。超抜級の天才でも同じ人には違いない。時田氏とコンビが組めるくらいだ。そこが理解のキャスティングボートにならないか・・・たぶん、リツコは分かっているくせに黙っている。天才のくせにしょうもないところ拘ってくる面倒な女だ。言えぬこと、言ってはならないことはあるかもしれないが、相手を選んだっていいでしょうが。あー・・・碇司令に丸投げしてえ・・・・できんけど
 
 
息子が、己の手の届かぬ、そとの世界で振り返りもせずビュンビュン疾走しているのを、どんな気持ちで見ているのか・・・・げ。冬月相談役と目があった。
い、いや、私も元・保護者として複雑な気分ですよ?面倒な人間だらけでさぞ面倒くさい思いだろうがよろしく頼むよ、葛城君、とか目で語られましても。同類項に入れられても。
 
 
 
「ゴッドスモウランド島に未登録のエヴァ、一体出現!」
 
 
発令所オペレータの声に葛城ミサトの目の色が変わる。そこは約束の地。
 
お望みどおりに碇シンジをそこに向かわせるから、そっちもおいでと。いうのが約束であるのならば、だが。傍目からは談合か裏取引に見えるだろうが、知ったことではない。
 
派手にやらかしても周囲になるべく影響がでないように取り計らった結果だ。
すなわち、遠地ではあるがこちら側で設営した土俵であり、それなりに監視の目もあった。
 
そこに移動経路を感知させず、いきなり実体化したように見せるのは
 
 
「我々も知らぬ”最新型”か」
 
冬月相談役のため息はもっともだが、ちょっち人間の愚かさその他への嘲笑まじっていて、発令所の空気が悪の組織っぽくなるので控えて頂きたい。耐性のない若いのもいますので。
これが芝居の舞台なら、さすがベテランの演技!とか感心するところなんですけど。
 
ほら、碇司令もうなづいているし。「・・・バチカンといい・・・警備がぬるすぎるな」
こっちは・・・まあ、外国映画っぽいですけどよしとしましょう。とにかく。
 
もちろん個人所有なわけがなく、某大国が他の大国と「それぞれラスト一体だけ。あの初号機をぶちまわせる役は必要です」約定して建造「頂の大三角」トライアングル・センターを気取っていることもネルフ総本部は把握していたが知らん顔をしていた。
 
今頃上へ下への大騒ぎだろうが、日本政府が頼み込んでもさすがに相手をしてやる余裕はない。ここでスクラップにされても文句は言えないし言わせない。
いや、言ってくれたらいろいろ助かるけど金銭面とか。
 
 
だけどまあ、面倒くさい・・・・これ絶対初号機いるじゃん!!でも出せないし。
八号機に行ってもらおかなあ・・・声かけにくいけど、むしろこうなるとやる気だしてくれるかな−・・・いや・・・逆にこれは頼みにくいやつか・・・家族的に家庭的に。
うわあー・・・面倒くせえ・・・・髪をかきむしりながらのたうちまわりたい!
 
 
「そうだな・・Mark66,とでも命名しておくか」
 
冬月相談役が。こっちの気を百も承知でそんなことを。なんでそんなに嬉しそうなの?
問い合わせる気もないけど、一応、お国では大層な名前がついてるのを知ってるくせに。
まあ、年長者の機嫌をそこねることもない。採用ー。「では、マーク66で」
 
「ふふふ」「くくく」・・・トップが微塵も動揺していないのはいいことではあろうが。
 
 
しかし、シンジ君たちを引き戻さなくていいのだろうか・・・その指示が未だに来ないけど・・・という声ならぬ声は当然あろうし、幹部連も理解している。マップで見る分には、待ち受けるバッドエンドへ一直線としか思えず。もう任務は十分果たしたのではないか。
 
 
「マーク66の操縦者は分かる?」
最新型だけに、遠隔操作のセンもある。まあ、それで初号機どころか、うちのエヴァの誰にも勝てるわきゃないんですけど?・・・まあ、勝利条件とか被害額にもよるけど。
赤木ナオミだと名乗ってくれれば・・・終わる。碇シンジの仕事も終わり。
 
何がしたかったのか、分からぬまま、・・・・分かったことにしなければならない。
 
外から内部情報を掻き出せるようなレベルで、そんな機体をもってこれるわけもない。
だから期待はしていなかった。不明であろう、と。
 
 
「赤木ナォタです」
予想に反して名前が出てきた。マギが調子を取り戻すとやはりスタッフの働きにもクリティカルヒットが出やすくなったりするのか。いやいや実力かな?疲れてもいるだろうにさすが、と褒めてやろうと思ったのに、なぜか顔色がすぐれずその目はリツコ博士の方へ。
 
あれ?報告先は私、葛城ミサトでいいのよ?目を合わせたくない何かあるのかな〜?
私は碇司令と冬月相談役とは一線を画してる、人間側よ〜。
 
「ミサト」
 
マジな顔でリツコ博士がそばにきた。うわ・・・・チョー面倒で厄介な話じゃん!覚悟決めとけって顔ですよそれ。
 
「赤木・ナォタは1年前に死亡してる。・・・寿命で」
「ただ名乗ってるだけ、ってワケじゃ・・・なさそうね」
 
 
 
マーク66。兵器の夢を越えるために、もういちど夢を。覚めない悪夢をなんどでも。
 
 
 
三日月を模した頭部は伊達政宗の兜のようで、それなりに格好いい。もちろん仙台で製造されたわけではないが。デザイナーもたぶん仙台出身ではないが。
 
 
その立ち姿には人の意思が感じられる。伊達にエヴァを見続けてきたわけじゃない。
その中には、「赤木ナォタ」を名乗る、誰かがいる。もしくは、ほんとうの魂直結か。
 
 
「マーク66はダブルエントリー。歩かせる程度なら単独でいけるだろうけど・・・」
「分かったのは名前だけ?ってことはワザとか・・・」
 
 
エヴァの中に「死」にまつわるものがある、というのは、澱む連想を引き寄せる。
自分たちもそのやり口からして、ろくなもんじゃないのは自覚している。ただ、願いとして。はかない望みとして。そこには、「生」を置いておきたい。勝手な話だけれど。
 
 
自分たちの知らない最新型は、やはりこちらから操作できない。停止無力化できれば良かったのだが・・・これを力づくとなると・・・ああー!!こんなのカンタンに盗まれてんじゃないわよ!!バカか!?バカバカバカバカバカバカバカ!!十号機みたく地中に埋めとくなりしなさいよ!・・・まー、開発に一枚も二枚も噛んでたならやれちゃうんだろうけど・・・後のコトさえ考えなければ。ごらん、無敵だ、か。フィーバー状態だなあ・・
 
 
「・・・戦闘までやれると思う?」
「基本、造る側だから・・・・パイロットの選定も・・・十分に選び抜いた子を乗せる予定だったんでしょうしね・・・オートではATフィールドも発動しない・・・筈」
 
マーク66の中にいるのが誰なのか、は、ともかく、力で制圧可能かどうか、を葛城ミサトは赤木リツコ博士に問うた。これはあくまで使徒戦ではなく、死者の名前を分かりやすく提示してきたことからして、ある種の示威行動の可能性もある。機体に乗ってパイロットが逃亡してきた、という可能性はちょっとあるまい。ロボットアニメの第一話ではないのだ。機体性能が高いのは見ただけでわかる。たとえ乗っているのが素人でも通常兵器の手に負えるものではない。メインの捕り手として、やはりエヴァが要る。航空戦力でN2爆弾を大量投下とかいうのはもちろん論外だ。現在進行形でシンジ君たちが向かっているのもあるし、現地の方々も黙ってはいない。派手にやるかもしれんけど、ここは隠密ってことでひとつ、よろしく、ということで話が各所とついているのだ。つけたのだ。
 
ここに現れた、ということは、ここでやるべきことがあるのだろう。果たすべき何かが。
 
 
「ウルトビーズT、ウルトビーズU、降下!着地と同時にマーク66の拘束にかかります!」
 
オペレータの声に、軽く頷く葛城ミサト。「対応がむっちゃ早いわね・・・有り難いけど」
 
 
ウルトビーズは、ユーロネルフの保有するエヴァであり、「こっちが知ってる最新型」でもある。軍隊や既存戦力との連動連携を主眼とした、「あくまで兵器は兵器の道をゆく」の言うなれば「兵隊エヴァ」。神秘だの儀式だの人類の次なる段階とか知らんもんね!というある意味、まっとうな、地に足のついたエヴァンゲリオンでもある。
 
北欧でやらかす以上、総本部として、手伝ってもらわねばならない。いろんな意味で。
カーテンの外におけるわけもない。機嫌を損ねるくらいなら素直に助力を仰いだ方がいい。
 
もちろん、同じネルフを名乗っても考えが全く同じなわけもなく。冬月相談役のサポートを受けてもその交渉は非常に厄介だったが、やり遂げた。傍目には、血も涙も無い鋼鉄の女・葛城ミサトがエヴァ戦力をいきなり指名でしかもノーギャラで引っ張り出したかのようにしか見えなかったが、「そんなわけあるか」葛城ミサトも苦労しているのであった。
 
「西洋妖怪のあんにゃろめっ!!舌が何本ついてんのよ!」
もちろん、これも公表などできるわけもない。闇のテーブルでのおはなしとなる。
「日本の妖怪女め!いったい何個口があるんだ!」
双方で似たようなことを言っていたことなども。もちろん良好な協力関係にあるのだから。
ネルフでそれなりの地位にあるとなれば、人類屈指の賢人であることは期待されるわけで。
 
 
マーク66は手ぶらであり、非武装。さすがに身体の中から無限にミサイルが発射される構造とかにはなっておるまい。目から強烈なビームくらいは出すかもしれないが。
 
 
ウルトビーズ2体がATフィールドを展開しながら接近しても、これといった動きは無く、フィールドも展開しない。自然体、というよりは、棒立ち。対抗応戦する意思が感じられず、内部のパイロットに不調があるのか、それとも「シンジ君達の仕事?やってくれた?」何か特殊な外的要因があったのか。本人が語らない以上、まずはエヴァから降りてもらわねばならない。何がしたかったのか・・・・本心は未だに読めない。その目的は。
 
「エヴァ初号機を呼べー!出てこいー!かかってこいー!!」とか言ってもらえたら非常にやりやすいのだが。死者は語るまい。まさか起動後に死亡とか・・・
 
 
ぶん!!
 
いつのまにかマーク66の手には錆びた釘バットのような得物が握られており、一閃した。
正式な野球スイングではなく、かなり乱暴な片手のぶんまわしであったが
 
 
ぼん!ぼん!
 
ウルトビーズ2体の首の根元からエントリープラグが発射された。
 
 
「は!?」
死神でも睨み殺すような目でオペレータたちを見てしまう葛城ミサト。
「い、い、い、いえ!ユーロネルフからの信号ではありません!し、も、もちろんこちらでもありません!原因不明です!ごめんなさい!すいません!ごめんなさい!」
 
 
「どういうことよ・・・・肝心な時にいつも使えなかった射出信号が・・・・」
パイロット入りのプラグ自体は近海に着水、ユーロネルフもすぐさま回収に動き出し、生命に別状もないらしいが・・・・こんな簡単に最新型が無力化されてどーするの・・・・
 
いや、たまたまそこにいたのがウルトビーズだっただけのことで、もし、こっちのエヴァが出場していても同じ目に合わされたのだと、したら・・・・これは悪夢どころではない。
 
 
 
「フリクリ・・・・完成していたのね・・・・」
 
赤木リツコ博士が念仏を唱えるように。それだけで発令所に線香の煙が充満する幻視が。
 
 
「エヴァに「そのパイロットは違う」「ほんとうはこちらの”子供”だ」と誤認させる情報体を送り込むことで、シンクロしているパイロットエヴァ側から排除させる。・・・チェンジリング、取り替え児システム・・・排除されたパイロットはもう2度とそのエヴァとはシンクロできない。チルドレンごろしの技術・・・・プランの存在は知っていたけど・・・」
 
 
からからからからから・・・・・
 
大量の風車が発令所で回り出す。それも幻覚。これは罪なのか、そこから掬っているのか。
エヴァに誰も乗れなくなれば?エヴァというのものが無用の長物になる世界。それは。
 
 
「何よそれ・・そんなもんまで造ったの・・・・?造れたの・・・・?」
別の星からやってきたのではないか・・・エヴァを騙せるほどの幻想とか
プラグを失ったウルトビーズたちは向かい合って跪いていた。愛し子を抱くように。満足げに。神々しい宗教画に見えなくも無かったが、のんびり感賞してるヒマなどない。
 
 
 
「こんな遺産が拡散・・・・いや、所有権を主張する連中がドンドン出てきたら・・・」