もう少しで雪吹山、というところで横道を探索、そこで小さな神殿を見つけたのはゲーマーのカンであったか、それとももう少し碇シンジに考える時間を与えるためであったか。
 
 
実体の身体は順調に(ユトとタキローがおかげだけど。カーアクション的にはそっちもバギーホッパーにマッハライダーを足したような有様だったけど)ゴッドスモウランド島に運ばれているのだから、こんなのは素人の浅知恵、よけいなお世話だったかもしれないが。
 
 
結果的に、勇者なつみんの判断は見事なビンゴ。やはり、勇者は「もっている」。
 
 
運ともラッキーとも違う。小さな力で運命を変える。導きを感じて、素直に誘われる。
 
まあ、ただの村人Aとかがそれをやると途中でモンスターに食われたりトラップにかかってデッドエンドで終わったりもするが。「えー!ここで寄り道とかしなくていいじゃん!一直線に目的地いこうよー」的、短絡攻略発言を抑えるだけの実力と結果を示していたのもあった。今や勇者なつみんもレベル70。立派な勇者。これが実生活に反映・・・されなくとも、「反比例の法則」にひっかからねば、まあいいかな、と。
 
 
 
その小さな神殿に、赤木ナオミはいた。
 
 
 
オレンジの髪の小さな身体が、神殿中央の儀式台の上に仰向けになって。
 
 
動かない。
 
 
傍らに黄金の仮面をかぶった神官のような機械人間が立っていた。
 
 
「もしかして、”勇者いかりん”様ご一行ですか」
 
予想に反してというか雰囲気を壊さないようにしているのか、声は滑らかな人のもの。
黄金の仮面であるが、声からするに美形であろうと男も女も想像してしまう艶もある。
 
 
「違わないけど違います。僕たちは”勇者なつみん”パーティです。そこのとこ、よろしく」
碇シンジが返答する。
 
相手が単純な、シナリオにかまない系のノンプレイヤーキャラクターかどうか試しているような発言であったが、なんとなく頭わる・・・いや、初見でスペック負けしてしもうたような・・・けど、勇者いかりん・・って、やっぱりこの人がやるべきやったんちゃう?
やっぱデフォルトそれやろ。ふつー。・・まあ、ここまで来といて降りる気もないけど。
 
 
「勇者なつみん・・・・スズハラナツミ・・・鈴原ナツミ・・・・これはこれは・・・しかもその装備・・・獄任もおそらく満足したことでしょう・・・あなたになら・・・」
 
自分の存在、自分の名がここにあるのは、そりゃ想定外というかバグとか裏技に近い状況だろうけど、すごろくみたいにここで「ふりだしにもどる」んは勘弁してほしい。それに獄任ドゥさんの名がここでとか。うわ。罪悪感。しかも、さっそく組み込んどるし!
テーブルトーク式RPGのゲームマスター並の即応力だ。と、とにかくここに赤木ナオミがおる、ということは・・・ちっとも動かないけど・・・大丈夫なのか・・・ここが終着地点となるか。それを確認するには
 
 
「お仕事中やったかもしれませんとこ、お邪魔いたします。勇者なつみんといいます」
 
やはり会話。やはり礼儀。ここで「獄任のかたきだー!!くたばれー!!」とかファイアーボールが飛んでくるかもしれんから、それなりに用心しつつ。相手が言葉を話せるもんだから前面に出たがるナオラーコと、壊し屋だからかもう前面に出るしか選択肢がないコナコを抑えつつ。フレンドリーに。勇者とは代表交渉者の別名かも。
未知との初接触初会話は恐怖でもある。そして、友好へ。ほんま、大変な仕事ですわ。
 
 
「これはご丁寧に。「ゲ■ン■ケ■ン」所属、ベガ級言語復活士ルナ・ギミックです」
 
 
黄金仮面の機械人間はそう名乗った。ゲームマスターより、ゲーム制作会社のスタッフ。
たとえが卑近であるのは承知だけど、むしろそれでいいはず。知ったかぶりはせん方がええ。ここは向こうの庭であり、手の内。こっちのレベル、程度のほどは把握しとるやろし。
 
「まず、確認させていただきたいのですが」
 
「はい」
自分が答えた。ここが行き止まりなら、ここで燃え尽きてもうちはええけど、シンジはんはこの後も大一番があるはず。露払いはさせてもらいます、ということで。
いや、勇者の自覚とか覚悟とか決意とかじゃないから。バフかけるのもやめといて。
すぎやま先生の魂の名曲をくちずさむのもやめて。相手はゾーマじゃないから。
 
 
「あなたたちの目的は、「ゲ■ン■ケ■ン」への到達ではありませんね?」
 
重たそうな、間違ったらやばそうな問いかけだけど、正直にいくしかない。
 
「はい。ここ・・・こちらには、人捜し、そこにおる赤木ナオミはんを探しに来ただけで、
それが果たされたら連れて家へ帰ろうと・・・いえ、帰ります」
 
 
このクエストは誰のもの?自分のものでもあるが、共通目的というものがある。
正直、自分はおまけだけど、それでも主役達の思いは知っている。こう答えるだろうな、というのは。こう答えてほしいな、かもしれんけど。シンジはんも頷いてくれた。
それだけで、こうも心強くさせてくるとか・・・・!!やっぱり兄やんの親友、心の友だけのことはありまんな!かならずやり通して、帰ったるで!!RPGは当分ええ!!
 
 
「そうなりますと・・・・その目的は果たされず、ここで帰路に向かうということになりますね」
 
帰してはくれるようだけど、目的は果たせないというのは・・・
 
 
「赤木ナオミはんは、渡せへん、ということでしょうか?」
 
立ち位置からして、儀式台の赤木ナオミを見守っているようではある。
まるで・・・生命の蝋燭が燃え尽きるのを待つ死神のように。いや、その連想はちょっと失礼やったな・・・具合が悪いのを看護しとるのかもしれへんし
 
 
「赤木ナオミ・・・彼女は、己の死亡後、「ゲ■ン■ケ■ン」にてメギとともに埋葬されることを望んでいますから。彼女の命はあと・・・6分ほどでしょうか」
 
「失礼やなかった!!」
やばっ!!ヘタなことを言うておったら、自分たちも連れてかれるところやった!!
しかしあと6分とか!!倒してないのにタイムリミットとか!!ふざけんな!!
しかもその命、というのはゲーム内ライフのことではない!とりかえしのつかない
輝きの陰り。もう、そこにいた、エンドタイトル。出待ちしとったんか!!
 
 
「・・・・うるさいわね・・・・」
儀式台から掠れた声がしたが、身をよじることもない。それだけで分かる。もう水も肉も祝福も、かぼそい空気の流れさえ、届かない。本能的に分かる人の終わり。陰りが強くなっていく。探し求めた相手がかならず元気でいてくれるなんて。そんな約束は物語の中でしかできない。では、ここはどこなのか。ここまで来たのに、結末が現実と繋がって
 
 
ばさっっ
 
 
襲来に近く人影が、飛んで。覆い被さった勢いの乱風が、オレンジの髪を揺らした。
 
 
碇シンジが、赤木ナオミの目の前にいた。ざまざまな契約を果たしておらぬ野郎の身が女子相手に実行するのは明らかに反則な体勢。「赤木・・・いや、時田ナオミさんですね」
 
 
夜雲色の瞳で問うても体勢が悪すぎる。「こ、こいつが実はラスボスだったのか!」「裏切りものら・・・”はりせんぼんのます”発動なのら・・・」「、そ、そうじゃないよ!?刑事さんが犯人を逮捕するムーブがいきすぎたというか?とにかく落ち着いて!タキローさん、ユトさん!手伝ってくださいよ!」「近寄りたくない・・・」「あははははは」
 
 
「ふん・・・碇シンジか・・・・こんなケダモノ系だったとはね・・・」
 
 
リツコさんの若返り、美少女小悪魔ブリーチバーションってところか・・・・至近距離からまじまじと顔を見て、まさかそんなことを考えていたわけではない碇シンジ。
さすがにもう少し時間があると思っていたのだ。ただ悟った猫や象のように寄り道もせず目的地に一直線ではないのは分かっていたのに。これは勇者なつみん大当たりだ。
 
 
でも、間に合った。この状態ではもう何も届かないだろうけれど、言葉は。言霊は。
 
 
「時田さんが迎えにきますよ!それまで・・・保ちますよね!?」
 
 
よしっ!!感動の決め台詞!実際にやったらまずいだろうけど、これはもう心臓マッサージ足すことの電気ショック!いわば言霊AED!このビリビリの愛の効き目でしばらくは保ってくれるはず!
 
 
「・・・・時田ね・・・あわす顔がないよ・・・あったら・・・台無しだ・・・早く・・・・くたばるとするか・・・あとのことは・・・この機械人形に・・・聞いておくれ・・・」
 
 
「あと1分になりました。まるで言葉の弾丸で撃ち抜いたかのようでしたね。殺人罪にはなりませんが」ルナ・ギミックが宣告した。
 
 
「ダメな選択肢だった!!
 
時田さん家に愛はなかったの!?あー!あー!もうー!!」
 
力づくではどうにもならない問題もある。感動でなんでも解決できるわけもない。
 
雪吹山の大神官を蘇らせるとかいうクリア命題がこれに相当していたのか?これも解けていないのだからどうしようもない。どや顔で言うとった過去の自分の首締めたいやろなあ・・・シンジはん・・ただこれは責められないし、諦めるしかない。赤木ナオミはやりきった顔をしている。「・・・ナオラーコ・・・コナコ・・・ツリーツ・・・ナディオ・・・カガガ・・・」
唱えるように名をあげたが、ここにいる者もいない者も。もう意識もはっきりしていないのかもしれない。天源破戒式を組み上げたのが赤木ツリーツ、大海嘯皇帝式を組み立てたのが赤木ナディオだということを碇シンジたちもナオラーコたちから道々聞いていた。
 
 
「望まれるならお見送りをどうぞ。責任をもって遺体は「ゲ■ン■ケ■ン」に運搬させて頂きますが、それ以降は魂に語りかけることもできませんから」
 
どういう意味なのか、正確なことは分からない。分からない方がいいことだろう。
 
「ナオミ!」「ナオミ!」ナオラーコとコナコが儀式台に駆け寄った。泣いていた。
 
 
メギという成果を消滅させれても、なぜかおめおめと生き延びていた落ちた赤木。
成果と同時に自分たちは消えていくはずなのに、いつまで、生きられるのだろう?
なんで、生きていられたのだろう?分からなかった。自分たちの命はそれまでのはず。
 
限界を越えて、そして、終わりがやはり来た。イレギュラー的にたまたましぶとかっただけのこと。脳の機能に比較して、あまりにも育たない自分たちの肉体。ナオミでさえあれくらいで止まっている。けっして解けない知恵の輪で組んだ賢者の檻の中にいる。それ以上は育たない。育ってはいけない。そもそも、どこにも行ってはいけないのだから。誰のそばにもいてはいけないのだから。我らは影法師。影奉仕。影胞子。世界を支配する重要なパーツ。
 
「ごめんよ・・・・・」赤木ナオミが「アタシだけ・・・・楽しんで・・・でも、あんたたちに・・・伝えたかった・・・”だから”生き延びられたって・・・仕組みは未だ・・・わっかんないけど・・・製造理由だけじゃ・・・ほかのりゆう・・でも・・・だれかのためでも・・・いきて、いいんだ・・・・あたしらのいのちも・・・それだけの・・・そうすることを・・・ゆるされてる・・・あたしが・・・しょうにん・・・だ」
 
 
 
言い残して赤木ナオミが息を引き取った。