「ふっざけんな碇シンジ!!お前だきゃあ、絶対にあの世に道連れにしてやる!!」
 
マーク66がいきなり怒号した。しかも赤木ナオミの声だった。理由は説明されていないが、激おこなのは分かる。あまりの憤怒オーラで、使徒戦に慣れていない発令所スタッフがバタバタ倒れていった。
 
 
かつてない絶望級の残酷ズルズル攻撃・フリクリ発動もこんな気合いを必要としていなかったのに、この吼え具合はまだ何かあるのか・・・葛城ミサトを始めとした使徒戦ズブズブ連はこの程度、恐れもせずに定常運転であったが、さすがに身構えはする。
 
なるべく早めにカタをつけないと、隠匿作業に支障が出るぞと冬月相談役から無言の指摘。証拠さえ押さえてしまえば、なんとでも言い訳は創り上げてみせる。現存兵器が自ら引退することはなく、それを封じるもしくは出番を無くす新型が出てきた時だけ身を引く。
力は使う者の心がけ次第、という真理もあるにはあるが、
 
 
「よくもよくもよくもよくも・・・・・・!バカにして!バカのくせにバカにするな!」
 
この激情ぶり。心がけ、とかいう穏やかなレベルではなく、完全にブチキレた嵐ハート。
しかも知性に影響がドンかぶりなのか、原因もよく分からない。大事なものを踏みにじったのだろうなー・・・・くらいは想像がつくが。具体的にはなにも。
 
戦闘において冷静さを失った者は敗北・・・そんな黄金律からいえば望ましい状態ではあるが・・・この怒り具合は・・・ミッション的にはどうだろう?接触はした・・ようだが
 
 
 
「ヤバいわね・・・・シンジ君、いったい何をしでかしたの?」
赤木リツコ博士が保護者に尋ねる顔で。責任はあなたが取るのよ、と。
 
「う、うーん・・・・心当たりがないでもないけど・・・・」
ただ追求だけされたなら、襟首ひっつかんで誤魔化すところであるが、東方賢者は相手の激情の狭間からあっさり入り込んで己の仕事を完遂させてるから始末が悪い。
 
マギを攻撃していた全ての敵勢システムをひとつをのぞいて完全排除。伊吹マヤたちに命じてマーク66の背中の方から機体内部の情報を入手。「外から鎖付きの扉を埋め込んでなきゃ使えないって・・・まあ、うちのエヴァチームには全く及びもつきませんね!」葛城ミサトと似たようなことを言いながら。「信用したくないなら、もう使うべきじゃない」
 
 
マーク66はダブルエントリーだが、パイロット席にいるのは赤木ナオミ唯一人。
 
奇妙なことにもうひとつの席にあるのは、棒状の何か。解析にはもう少しかかる。
形状だけなら、さきほどフリクリを発動時、マーク66が振った錆びた釘バットに酷似していた。ちなみにそれも実体では無くホログラムであった。
 
赤木ナオミが激怒しているのは、生体データからでも分かる。演技や駆け引きではない。
リアルに怒っている。「シンジ君が何か彼女にイケナイことを・・・・!?不潔!」とかいう役割ではもうないので、ひたすら解析作業をすすめる伊吹マヤ。青葉シゲルからユダロン行のことを聞いてはいるが、体験しないと理解が及ばないことを理解している。
 
ただまあ・・・これは今後の研究を待たれる症例ではあるが・・・この激怒のおかげで、赤木ナオミの生体機能が上昇、ドーピングレベルでこれはこれでやばそうではあるが、しているようにも読み取れる。マーク66の内部データによるとさきほどまで「ほぼ死にかけ」であって、臨終カウントダウン状態であったのも確か。特殊な肉体であるからそのまま通常データをあてはめるのも見当違いかもしれないが。逆に、次の瞬間、崩壊しそうな脆さも感じられるが・・・・この先は、賢者先輩たちにどうにかしてもらうしかない。
この激怒といい、努力でどうにかできることとできないことがある。
 
 
 
 
時間はすこし遡る。これも努力ではどうにもできないことだ。
 
 
 
 
赤木ナオミはしんだ。ひらがなで書いても漢字で「死亡した」と記しても同じ。
 
 
ゲーム内ではあるが、そもそもまともな「現世」でもない。妖し怪しいゼーレの隠し天領。
「ゲ■ン■ケ■ン」である。常人ではそこに至る手段さえ。立ち入るべからず。近寄るべからず。かろうじて、携帯ゲームに模した「目玉」にてのぞくことを許される異界。
 
 
「彼女の遺言は、ネルフ総本部にお届けしますが・・・勇者のご一行様にも聞く権利はございましょう。いかがされますか?」
黄金仮面ルナ・ギミックの声には異界なりの誠意があり、信用していいと思われた。
けれど、さすがにこの判断は自分がすべきではないだろう。碇シンジに任せる鈴原ナツミ。
 
 
「ゴッドスモウランド島にはヘリなら乗り換え込みで20分、このままこの車なら1時間ちょっと・・ですが地域一帯にアラート発令してますねえ。もともと人払いしてるのに、2重警戒って。あはは」
 
この期に及んでユトの口調がまったく変わらないのは、落ち着くべきか震えるべきか。
 
ヘリコプターとかも用意してたのか・・・驚くべきか感心するべきか。その笑顔を。
 
「目的は・・・これは不可抗力です。引き返すことを提案します。状況もかなり変動しています。戦闘ではなく、戦争ならばもう僕たちの出番ではない」
タキローの方は、そうあるべき、バランスを取るために、意識的にやっているのが分かる。
冷静に、必要以上に落ちることなく。動き出せる定位置にあるように、と。主が次を。
この若さでパニックになっていないのが凄いと思うべきなのだろうけど、こっちも少しいろいろマヒしてきてる。この中でもいろいろあったけど、当然、この外でもいろいろあったのだろう。現在進行形で。赤木ナオミの遺言。何を考え、なんのためにここまでしたのか。それを記してある書物。ひとつの命が、祈りが、形になったもの。この機会を逃せばただの子供である自分が聞くことはないだろう。後から人から聞くのも違う、と思った。
 
 
碇シンジの判断は。
 
 
「僕たちの任務はここで終わり。遺言も聞かない。やり遂げられなかったんだからその資格はないよね。帰ろう。第三新東京市に!」
 
切り上げる判断。いじましく情報を回収しようとしないのは、退くときはさっさとしないと結局大きく失う、ということを知るがゆえ。加持兄弟あたりに教えられたのかもしれない。凜々しく立ち返る。評価はあとで幹部連がするだろう。とりあえず、全員ここから生きて戻らねば。まあ、サーチャー以外のオフェンス役としての働きがなければ本丸たるネルフ総本部は今頃陥落していたであろうが・・・最前線にいれば自分たちがどんな手柄をあげとるとか意外に分からない。エヴァでの使徒戦とは違うところだ。
 
 
ゴッドスモウランド島へは向かわず、引き返す。島で何が起こっていようと起ころうと
自分たちに出来ることはない。後始末チームには面倒をかけるけれど・・・
 
 
 
「・・・に乗れなくなったけど、しょうがないよね」
 
 
引き上げるにはそれ用の段取り調整がまた必要になってくる。 「ゲ■ン■ケ■ン」内の赤木ナオミの遺体を回収して時田氏に渡す意味もなかろうし、実力的に不可能そうだった。
ナオラーコとコナコの身の振り方もなかなか判断の難しいところだが、ナオミの遺言に目を通したいというので、ログアウト後、自分の足でネルフ総本部までくる、ということで話がついた。「一緒に戻ってやってもいいのら」とナオラーコが言うのでユダロン村まで足を伸ばすことにしたりとか、細々と実務的なこと含めて碇シンジ、タキロー、ユトで決めていく。実際はユトとタキローで案を出して、碇シンジは承認するだけだが。その方法が最速であるのだから理に適っている。アラート、というものが具体的にどういうものか鈴原ナツミなどには分からないし、碇シンジも本当に理解していたのかは怪しいが、目的地であった島が風雲急を告げているらしい、のは分かる。やばそうだから近寄らない。
ごくまっとうな判断。「ヘリは便利ですけど、こうなると危ないから使わない方がいいですね〜撃墜右させられるかも〜」口調はのんきでも物騒極まることをユトが言っている。
 
 
だから、碇シンジが口にしたことも、そんな「普通」のことだろうと思って、よく聞き取れなかったが、鈴原ナツミはあまり気にもしなかった。最終クエストが果たせず、冒険の旅を諦めて帰国する・・・安堵や寂しさ、欠落に苛立ち、餓える自責に、家族、兄の胸の中で思いきり泣きたいような童心がえり・・・さまざまな感情が去来しまくってもう頭が働かない。ナオラーコとコナコと三人で、ぎゅっと固く固く抱きしめ合っていた。
 
 
最悪の事象が起こるのは、こんな時。
 
万全の状態をねらわない、しくじり迷い疲弊しきったところを、思いも寄らぬところから。
それは
 
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・いま、なんていった・・・?いかり・・・しんじ」
 
 
死者の声。赤木ナオミの、かすれた、きしんだ、あの世の谷風がふいに届けてきたような
 
 
「おやおや・・・これは・・・」
呪文がスキマ無く記された特製の死体袋を用意していた黄金仮面ルナ・ギミックが感心したように「これほどの執念・・・・袋が破れそうですね・・・・るるるる・・・」
 
 
死者、まちがないなく、その籍に入った者との対話である。それなりの礼法が必要になる。
引きずり込まれぬように。線を引き、交わらぬように。そのための専門職もある。
ユトとタキロー、どちらもその資格を取得済みであるし、主の代わりに問答役を務めるべきではあった。ただ、毎度のコトながら、年若い、若すぎる主の反射行動は電光石火。
 
引き止める間もなく、あちらに踏み込んだ。「反応力〜!」姉弟役のシンクロつっこみ。
 
 
「・・・に、乗るって言ったんですよ、ナオミさん」
 
どうひいき目にみても、正義側ではない、ダークサイダーな笑み。悪の花を背負って。
分厚い古典「悪の美学」を小脇に挟んで、エア片眼鏡をクイクイやりながら。
安らかな人の眠りを妨げる邪悪の権化。喜色満面で他人の弱点をツンツンする悪魔。
 
 
「うそだ・・・うそをつけ・・・いくらなんでも・・・そんなこと・・・ときたも」
 
「本当ですよ。普通なら、ないかもしれませんけど、今回はあなたを探す条件として、ですから。時田さんも納得して受け入れてくれたんです。一応、探すことはできたんですから、やっぱり乗ろうっと」
 
「だめだ・・・そんなこと・・・・やめてくれ・・・・やめてあげてよ・・・おねがいだ」
その哀切の声は、人間が100万いれば、99万9999まで受け入れざるをえない。
そのはずだが・・・人の心があるなら共鳴し、動きを止めるはずだが・・・
 
 
「聞けませんねえ。だっていろいろ苦労しましたし、仕事には対価があってしかるべき」
 
美学の欠片もない傍で聞いていてもひたすらムカツクデビル小僧の名は・・・碇シンジ。
 
 
こ、これはもう、兄やんに縁切りを助言せんとあかんレベル・・・・!ドン引きの鈴原ナツミ。こんなん兄やんと絶対相容れんタイプやし、これが演技やったらほんまパイロットやのうて俳優になった方がええ!いやー、まじぶん殴りたいわぁ・・・けど、こーゆー小悪党キャラを最後に出してきてええんか?ぶっ殺される未来予想図しか見えんのやけど。
 
 
「ふっざんな碇シンジ!!」
しんどったはずの赤木ナオミの咆吼が、神殿どころか 「ゲ■ン■ケ■ン」雪吹山エリア一帯を揺るがした。
 
 
 
 
そして、時間は元に戻る。待っていれば誰にでも出来ることではあるが、荒れ狂う状況を穏やかにするのは・・・・時間が解決してくれるかもしれないが、被害もとんでもないことになりそうで。
 
 
 
「あー・・・・任せていいのね?シンジ君、本当に」
「任せてください!最後は大団円にしてみせますから!」
 
 
「ゲ■ン■ケ■ン」に至る携帯ゲーム世界からは強制ログアウトされた。車を止めネルフ総本部と通信を繋ぎ、状況報告して指示を仰ぐ。仕事の流れ的にはそうであるが、現場の実際となると、その場にいて切り札も用意していた者の発言力が強くなるのもやむなし。
 
 
まともな作戦家としては、子供を筆頭としたヤングチームはもう引き上げさせるべきではあるが・・・戦果としては十分なものをあげているわけだし・・・かといって
 
 
「お前だけは許さない!日本に逃げ帰れると思うなよ!!」
 
ゴッドスモウランド島ではマーク66に乗った赤木ナオミが怒り猛り狂っている。
シンクロ率も驚異的絶好調。動かせるといってもせいぜいが歩かせる程度の数値だったのが惣流アスカ、綾波レイらと比べても遜色ない。マーク66がなんらかの補正をしていたとしても、こうなると使徒並、フリクリのことも考えれば、それ以上の脅威だった。
 
それがご指名でネルフ総本部所属、エヴァ初号機専属操縦者・碇シンジを
 
「かならず!かならず!!かならず!!とっ捕まえて、ぶっ潰して、埋めてやる!
「ゲ■ン■ケ■ン」の中で溶かしてやる!!魂も残すもんか!この悪魔小僧!!」
 
このようにロックオンしていると。他の誰に任せろと?という話にもなり。頭と胃が破裂しそう。まともに考えれば、フリクリ封じの策を講じた上で、エヴァチームを派遣、というあたりだが・・・・・時間がかかりすぎる。葛城ミサトも悩むところだった。
 
赤木ナオミの再リミットを待つ・・のが現実的か。それなら政治力で後始末をするだけで
なんとか・・・なる。が、これも間隙を突かれてマーク66をまるまる奪取された日には
厄介極まることになる。
 
 
そこで碇シンジが「僕がなんとかしますよ」と立候補。爽やかな後光が差していた。
悪魔小僧!と死んでた者すらガマンならずに蘇生して咆吼させる同一人物とは思えない。
渚式分類法になると、サード・チルドレンとは三重人格者に相当するわけだが。
ありがたや菩薩少年、と拝み出す発令所スタッフもちらほら。
 
 
「あ〜・・・う〜・・・あー・・・じゃあ、お願いしようかしらシンジ君」
 
命令ではないのが、これからやる行動がネルフとしてもかなり微妙なラインにあるから。
 
たいがいのことは「超法規的」ですませるが、今回のこれは。八号機に応援準備をさせながら葛城ミサトは決断する。碇シンジにやらせてみると。確証はなにもない。
あるわけがない。空前絶後。今回限り。もう2度とない。ありえない。手垢のついた言い回しだが、かえってそれがふさわしいかもしれない・・・・つうか!
”こんなこと”またあってたまるか!!
 
 
奇跡のコラボレーション☆JA連合&ネルフ総本部
 
シン:JA ウィズ 碇シンジ!!
 
もう、好きにやっちゃって!!
 
 
VSではなく、withで&だ。誤植ではない、正しい。業界ありえんコラボでガッチリ手を組んだ!なにと喩えればよいものかー・・・「プラレス三四郎」でいえば、マッドハリケーン・柔王丸タッグか・・・「ウルトラマン」で言えばフジ隊員と長澤マサミ・・・ジャイアントロボとバビル2世・・・・「コンポラ先生」でいえば、ラーメンキャリィスーパーシルエット・・・並び立てると胸がドキワクするのだが、自分とこのは不安しかない。なんとかしてくれそうではあるが、さらなる災厄をまき散らしそうでもあり。そもそも赤木ナオミが蘇ったのは碇シンジの発言が契機らしいし。
 
 
 
「・・・・え・・?なんですか、これ・・・・?」
 
車で「合流地点」とやらに移動して、外に出てみると・・・そこには
 
 
巨大な人型ロボットがいた。JA連合の旗機、シン:JAであることは鈴原ナツミも第三新東京市民であるから知っていた。正確には、見当がついた、であるが。
 
 
「麻雀・・・ですか?なんで?」
 
カラーリングが麻雀牌のそれ。さすがにそのままの外見でリアクター内蔵で外国にやってくるのはまずかろう、というのは分かるが・・・偽装するにしても・・・なぜ?・・・
普通に黒塗りにしとくとか・・・・では、あかんかったのか?何を考えとんのか・・・
 
 
「サンバイマンカラーか。なかなかいいじゃない」
 
動揺も疑念もまったくない碇シンジはパイロットスーツに着替えると、さっさとロボットの足にとりついて昇っていった。縄ばしごとか怖くないのか・・・・いや、これに乗ることになんかないんかあの人!おかしんちゃう?
 
 
「まあ〜それがシンジさんですよ〜」
「僕たちまともな人間には理解できないんだ」
ユトとタキローが同じく見上げながら断言。この二人もまったく止めんかったな・・・
段取り手配をしてるのだから、ロボットの登場に驚かないのは分かるけど・・・・
 
元来、エヴァのパイロットである碇シンジがロボットに乗って、怒り狂っているエヴァと止める、というかあのブチキレ具合だとガチンコでやり合うハメになるだろう。
すごい構図だ・・・・世紀末まではまだ当分あるけれど・・・退廃的な何かを感じる。
 
 
こ、これでどうにかできるんか・・・・・?火にガソリンをぶちこむようなやバさがプンプンとしとるんですが。「碇ブランド」に騙されとんちゃうん・・?いや、司令の実の息子がこんな芸人でも絶対にやらんよーなマネを身体張ってやっとるのはえらいけど・・。
見習ったらぜったいアカンやつだ・・・あー、これ止めんかったうちらも同罪か・・・・
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ!?」
 
 
だが、怒りを鎮める効果自体はあったようで、マーク66からの怒りの罵詈雑言が止んだ。
あまりの驚きで思考停止したともいえる。衝撃で炎を吹き飛ばして消火する方法もあるがそれに近かったのか。
 
 
「やっぱり、感動こそが最後の武器だね」
 
まあ、ロボットで怒れるエヴァをぶちのめして制圧する!とか息巻くよりかは好感度高いけど・・・それでも口にするから台無しというものはある。けっこうこの人、黙ってられない人なんかな・・・外見は内気で大人しいんやけど・・・言葉にすることで己を鼓舞しているとかなら、納得するし、むしろ応援したくなるけど。シンジはん・・・
 
「それはない」「それはないですよ〜」ユトとタキローが自信を持ってこれまた断言。
 
ほんま、この人らもどういうつながりだったのか・・・高度な仕事人ではあるけど。
こっちの心も読まんでな、といいつつ、勇者なつみんとしてあれだけの冒険をともにしてきたのだからしゃあないな、とも思う。ここで別れたらもう会うことないやろうけど。
 
 
碇シンジの駆るシン:JA(サイバイマンカラー)は、背中から気球を出すとゴッドスモウランド島に渡っていった。ふわふわかと思ったら、それなりに速い。
ここからどうなるんか・・・まったく想像できん・・・・もう見守るしかない。
 
 
「見届けても・・・ええですか?」
 
もうやれることはない。むしろ足手まといだろうから、早々にこの現場を離れた方が理にかなっている。碇シンジの、ロボットの後始末とかはそれ専門の部隊の仕事だろう。実働フォローもネルフやJA連合からのスタッフさんがもう入ってやってくれとるわけだし。
ここからはもうリアル科学の領域で、きっちりとした有能な大人達が碇シンジによりそってくれている。もう安心だ。自分の役割は終わった。もう、することはない。
自分を護衛してくれる二人もプロとして安全早急に完遂してしまいたいだろうし・・・
だから、これはわがままに近い。映画の序盤とかなら死にフラグ級の。
 
 
「ほんとに勇者なんですねえ・・・・」「普通は、こんな所から一刻も早く逃げ出したいと思いますけど」ユトとタキローの返答は・・・呆れのない感心で。
「そうしてもらえると、僕たちも有り難いんですよ」「そうなんですよね〜」
不思議なことを言い出した。その顔に浮かんでいるのは、奇妙な笑顔。諦念大入りの?
「ここだけの話ですけどね・・・」タキローは説明してくれた。一般人にはありえない。
 
 
「けっこう負けたりやられたりするんですよ、シンジ殿は」
 
「ただ、ぜったいに諦めませんけどねえ。地球上の生物で最もしぶとくてしつこいんじゃないですか。ゴキブリもクマムシもしんじさんには三歩ゆずって恐れ入りますよ〜」
 
 
「え・・・?そ、それは・・・・」
コメントのしようもない。ここにいないからっていきなりのディス?にしては、その笑み。
 
「それなりの勝算はあるのかもしれませんが・・・・よくネルフの者たちは承認したな・・・ゲンドウ様の圧力か?・・・あ、すいません。ともかく、うまくいかずロボットごとギタギタのズタボロにされるかもしれません。そうなったら担いで逃がす役が必要です」
「見積もりは父譲りで広範囲で構築できても、ここ1番の度胸が母譲りのドンブリ勘定なんでしょうから・・・うふふふ・・・たぶんですね、アレ、うまくいきませんよやられます。女心がまだまだ分かってないですよ。これもいい勉強ですかね〜」
 
 
負けて半殺しにされて逃げ帰っても、見捨てず回収するのが仕事だと言い切る。
この絆は、なんなのか。そのために、自分にもリスクを背負わせてくる。平然と。
まさか契約書にこんなムチャは書いてないだろうし。ともあれ、ここで見届けなければ。
 
 
ノート端末をタキローが開くと、シン:JAのカメラと連動した映像が映し出される。
 
さすがに島には渡れない。平和な話し合い、碇シンジの言う「感動」でケリがつけば1番いいのだが。何が起こるか、誰にも分からない。「さすがにリアクターがやられたら巻き込まれますけどねえ」「何かあれば、ユト姉さんがあなたをあのホテルの部屋に飛ばしますから」「・・・・よろしくお願いします」ここは、ただの観戦席ではない。兄や家族やクラスメートの顔が一瞬、強く浮かんだが、震えも抑え込む。これは自分の判断。望み。
 
 
「ほれちゃったりしてますか?」
 
ユトが不意に聞いてくる。ふざけているようではない。最終確認、の、その先を聞かれた。
 
そうだ、と答えたら、この人は自分をここに何かあろうと止めてくれるのかもしれない。
タキローには分からないよう。おふざけを咎める視線を向けてくるが、これは彼女岸の話。
息子に近づく早死にしそうな女は排除するよう、もしかして命じられているのかもしれない。
 
「あないな麻雀ロボットに喜々として乗る男子はちょっと・・・好みやないですなあ」
 
嘘をついてもいけないし、正直であってもいけない。大事なことは目で語り。
だいたい、タキロー君が聞いとるやないですか!場所えらんでくださいよ!
 
 
死んでもうた相手を引き上げるのは、この北欧の国じゃしらんけど、日本じゃイザナギの神様でもようせんかった大仕事。それを為し得るほどの男に惚れるか惚れんとか。
まあ、力量とかよりも方策や慎重さの問題もあろうけど。慎重さ・・・・うーむ・・・
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
島の中央で対峙する巨体がふたつ。
エヴァ・マーク66とシン:JA(サンバイマンカラー)
 
 
シン:JAが近づくまで、マーク66、赤木ナオミに動きも声もなかった。
あまりの衝撃にショック死が心配されたが、バイタルは反応あり。生きている。
 
 
「ほんとに大丈夫なの・・・?」
ネルフ発令所で赤木リツコ博士が葛城ミサトに再確認する。天才らしからぬ凡人の口にするようなありきたりかつあまり意味のない心配。「じゃあ代案を出しなさいよ!天才のなんでしょ!」とサメのように齧りついたりはしない葛城ミサト。だが無言。無限地獄に降り立った地蔵のように無言。
 
 
沈黙。実務報告は当然あるが・・・盛り上がってしかるべき奇跡のコラボレーションを前にして全く盛り上がらない発令所内の空気。冷静迅速ともまた違う心臓に悪い系静けさ。
 
しゃれにならないショッキング・ホラーがはじまる、あの、タメているような・・・間
 
ここから絶望奈落コースに設定ずみ、変更は受け入れられません、的な。やっちまった。
 
 
麻雀のカラーリングのせいではなかろうが・・・・煤けている、というか・・・・背中が
なんであんなカラーリングなのかというと、赤木ナオミが好きだったアニメ「麻雀合体ロボット・サンバイマン」を参考にしたという、なんとも痛々しい返答が。
 
 
「で、でも、ロボット・・・JAでしたらフリクリは効きませんから・・・」
「そ、それにJTフィールドもありますしね!」
「そ、そう悪い方法じゃないと思いますよ?事実、攻撃の気配がないわけですし」
 
そんな空気をなんとかするのも百戦錬磨の猛者の務め。発令所三羽がらす伊吹マヤ、日向マコト、青葉シゲルがなんとかしようと努力するが・・・実戦慣れしとるだけに、「まさか身内のJAに手は出さないだろう」的安易な心持ちになれないのが透けて見えた。
 
 
麻雀=賭け事=バクチ・・・・容易かつスムーズにすぎる3連チャンの想像。
勝つときは大きいが、負ける時も激しい。・・・負け被害をどれだけ縮小できるかというのが戦術というものだが・・・。
 
 
「さあ、僕と一緒に帰りましょう!いろいろ難しい話は後回しにして!」
 
ヌケヌケとシン:JAの中より言い放つ碇シンジ。相手の機体が(建前上)ネルフも知らない謎の最新型であることなど全く頓着していない。スペックは非公式のはずだが、サクッと赤木リツコ博士がマギで計算してみたところによると、格闘戦ではほぼ、互角。碇シンジが余計なことさえしなければ、シン:JAのオートパイロットだけで鎮圧可能だと。
秘匿優先で引きこもっているのが仕事のマークシリーズと、ヒマさえあれば秘境に飛んで猛稽古を積み重ねるJAと、どっちがネルフ総本部の強敵たりえるか・・・・
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うう〜・・・・・・・・・・・ううう〜」
 
うめき声からすると、赤木ナオミは真剣に悩んでいるようだ。エヴァのパイロット、特に初号機の碇シンジが、JAに乗っている、という事実。時田もそれを許した現実。
秒どころかコンマで沸騰して襲いかかると思われたマーク66が苦悩している・・・
 
 
麻雀牌色に塗られたロボットを前にして・・・現時点で最強であるはずの最新エヴァが
 
 
何もできずに、立ち尽くしている・・・・やはり・・・思い出には勝てないのか・・・
 
時田氏との記憶、表には出ないもののJA連合での日々、JA強化に対する貢献の度合いは育ての親のひとりといっても過言ではなく・・・!他人にはトチ狂った、としか思われないであろうサンバイマンカラーリングも・・・!赤木ナオミにはあまりにも懐かしく
 
 
 
「く・・・うぅ・・・・ううう・・・・・初号機なら・・・そのドタマを握りつぶしてやるのに・・・・胸の真ん中にぶっとい杭を突き刺してやるのに・・・・」
 
がくっ
マーク66,赤木ナオミは崩れ落ちた。誰もが(内心者含む)信じられなかったが、碇シンジの作戦勝ち。「サンバイマンの計」とでもいおうか、機略が見事にはまった。
被害もゼロ。
 
 
ラストバトルの武器は・・・・・・・・・「感動」
 
 
碇シンジの言った通りになった。なってしまった。よくよく考えるとJAを人質ならぬロボ質にとって投降を迫った、ようでもあるが。ものは言いよう、言った者勝ちであった。
何百手先まで読んだ結果、こうなっているのか、ただ単にガチャ運が良かった的なことなのか・・・・それはさすがのマギも検証できないこと。その必要もないだろう。
 
 
拳をふるわず、戦わずして、なんとなく有耶無耶に、闘争を収めることも、人間にはできるのだから・・・平和の鐘の音が美しく軽やかにゴッドスモウランド島に鳴り響いた
 
 
気がしたが