バキイイイッッッ!!
 
 
マーク66の黒い虹のようなアッパーカットが、それは幻聴であることを思い知らせる。
正しくは、弔いの鐘だと。地獄の死者によく似合う。
 
 
 
「どう・・・・して・・・」
完全に愚かな負け犬のせりふを血ヘドのように吐きながら、シン:JAとともにぶっ飛ばされた碇シンジ。オートパイロットにしとけば、よけられたらしいのだが。
 
 
そこから間髪入れず、仰向けに倒れたシン:JAに飛びかかってマウントをとるとボコボコに殴り続けるマーク66。流れるような最新式の動きであるが、これもオートパイロットにしとけば以上同文。碇シンジなどお荷物どころか拘束具でしかなかった。
 
「ひどい!なんで!どうして!ひどい!なんで!どうして!」これしか言わない音飛びレコードのような有様。まあ、訓練を受けたわけでもないので仕方がないのだが。
優秀なJAのオートパイロットにしとけばよかったのだが。
 
 
 
「あー・・・・・ごめん」
マーク66の赤木ナオミは謝ってきたが、そのパンチが止まることはない。ボコりながら。
「アタシはもう、なんていうか・・・やる気ないんだけど・・・ナォタが」
 
 
「”初号機でないなら、なくていい!碇ゲンドウと碇ユイの血筋を絶やせるなら!!死ね!”」
物凄く分かりやすい殺意を向けられたが・・・・どこか嘘くさく、腹話術の人形が語っているようで・・・それでも、攻撃力は本物であるから、このままだと圧殺される。
 
 
「これって誰の恨み・・・?いや・・・それはあとで考えよう・・・これはまずいし」
 
碇シンジはとりあえず身の安全について頭を巡らす。が、そんなすぐには!平和的に終わると思ってたし!気分はエンドロールだったし。エピローグで日本に戻ってるはずだったし!決戦の地でやっぱり決戦しないととか!しないで済むならしなくていいんですよ!古いんですよ!悪しき伝統に、僕は断固抗議する!!
 
 
「シンジ君!!JTフィールド展開準備!!赤木ナオミはATフィールド発生展開!!」
そこに強烈強靱な覚醒薬のような葛城ミサトの声が届く。
 
「マーク・・・相手のエヴァのATフィールドを取り上げてJA機体を保護!そこからいったん距離をとって!フリクリの機能停止もやれるんだったらやって!!」
 
聞き慣れた指示。ほっと、落ち着く〜、とまではいかないが、スムーズに切り替えられた。
 
テーブル席からリングに。やられたらやりかえす、時々、やられるまえにやれ。おかげで
JTフィールドの展開準備自体は、JA連合のスタッフも舌を巻くほど迅速にやれた。
なぜかネルフ発令所スタッフ連がそこで鼻高々になってたりするが。「オレたちはそんなことで驚かないもんね」マウント。だが・・・
 
 
「ダメね。ダブルエントリーの悪い面がイキになってる。アタシからは止められない。ATフィールドもJTフィールドの対策済み。実戦じゃ使えない反転レベルよ。・・・ああ、これ、ナォタが諦めない限り止まらない。フリクリもね。・・・もう諦めることも想いを改めることもないから、”破壊”しちゃって。難しいようならアタシごとでいいから」
 
「赤木ナォタって名前のダミープラグって理解でいい?シンジ君、JTフィールドはナシ、オートパイロットに切り替えて、脱出はそれに任せて。失敗したら時田さんを恨んで」
 
葛城ミサトは落ち着ききって局面の最後まで見通しているように、周りには見える。
 
だが心中は。正直、今スグ司令席に駆け寄って碇ゲンドウを問い詰めたい。が、そんなことしても碇シンジは今の苦難から救われない。思っていたより、闇が深く、沼だった。
最後の宝箱に毒の針が仕掛けられていた気分。誰が仕掛けたレベルならまだいい。
昔、昔の、大昔からそこにあったのなら・・・・。今はシンジ君のことを考えよう。
 
 
シン:JAのオートパイロットはさすがに優秀で、マーク66のマウントから脱出することに成功。「あの手足でよくやれるな・・・しかし太鼓判を押すしかない!」そのアクションはプロの一流格闘家でも唸るほどのものだった。連合スタッフの鼻の穴がかつてなく広がったのはいうまでもない。だが、このままではやばい。勝ち筋がまるで見えない。