「はあ・・・つかれた・・・・はやくお風呂入りたい・・・・ベトベト・・・だし」
 
 
 
天京でのソドラ管理における作業がなんとか山場を越えて一段落ついた惣流アスカは、さすがにヘトヘトになっていた。作業自体の超難易度や危険度もともかく、弐号機パイロットとして作業だけしていればよかった数年前と違い、弐号機で危険防護作業をやりつつ、超のつく問題児ふたり、エヴァ十二号機専属操縦者・榛名比叡ナルコ、エヴァ十三号機専属操縦者・奇笛ユイザを働かせつつ、膨大な人数の作業員達の頂点、総監督としての業務をこなさなければならない。さすがにこの地に骨を埋める気はないので、可能な限り早くソドラ管理の安全安心な形を造ってしまわねばならない。それでどれだけ儲かるとかは・・・まあ、それも含めて、だ。灰基督ならそのあたりもうまくやってくれるだろう。
 
 
忙しくはあるが、サポート体勢は充実してるし、良い意味4割悪い意味6割で他の人間には務まらないだろう現場暮らしに「あ〜・・・・女子高生か〜・・・・」綾波レイや洞木ヒカリが送っている生活が羨ましくないといえばうそになる。給与面では大満足というか使いどころがないというか、天京ではどこいってもサービスしてくれるから油断してるとここから離れられないカラダになりそうで自重してる。イケメンだってダンディだってよりどりみどり。ただ、勤務時間が実質24時間であるので、最低限火焔耐性がないとそばに侍らすのはかわいそうだな日干しだなカラカラになるな〜というのはある。
 
基本的にAAAな職場だ。「ATUI」「 ATUI」とにかく「ATUI」。どうしても体内と精神に溜まっていく熱を発散させる休養日が必要。危険防止に作業全行程を止めてあるから30時間ほどはゆっくりできる。睡眠に10時間あてるとして、残りは・・・とりあえず、まあ風呂だ。水風呂だ。それも雪だるまを何個もぶちこんだような冷え冷えのやつ!
 
それから食事。5分ですませる現場飯とお妃様メニューとの極端なシーソー食生活でもやれているのは素材自体がいいのだろうが・・・・たまに、中間がなつかしくも、なる。
 
 
けれど、これがうまくいけば、人類は、いやそれも含めた自然生命、ガイアの環境衣は
極端な熱に、不可逆のダメージを受けることはなくなる・・・溶岩の雨を降らせて調子こいた人間に懲罰くらわす、というのはソドラのほんの一面でしかない。わずかでも別の面をこの地で顕現できたなら・・・・まあ、そんなことはまだ極秘の秘。かなり遠い夢。
マンハッタンドリームの後始末。NもN2も熱核兵器の無効化とかとても公表できない。
目指していることを知っているのも、元・葛城ファミリーしかいない。
 
 
その時、ようやく通信解除された連絡用端末から着信があった。イヤーンな予感。
 
正直、取りたくなかった。このクソ疲れて汗ベタベタな時に・・・と思ったが、こっちの状況が分かるわけでもなし、待って待って待ち焦がれてました、というタイミングは
 
悪い気は、しない。送信は<碇シンジ>ミサトあたりからかけるように言われたのかも。
 
すぐに取ったりはしない。少々じらしてやる。切れたら切れたでかまうもんか。
 
<厄介事の臭いだな・・・無視だ無視><もう寝ようよお・・・風呂もいいから・・・>
ラングレーとドライはそもそも話す気がないらしい。だから逆に通信を繋いだ。
「もしも・
 
「アスカ、助けてえ!!」
 
碇シンジの悲鳴混じりの助力要請。思春期男子が同年代女子にこうも純粋ストレートにすがれるのはむしろ偉業といってよい。見栄も恥もない。己を助けられるのは誰なのか、希望も絶望もないまぜにせず考え出した結果を口から発しただけのこと。
 
端末をよく見たら通信解除はされていなかった。電波柱マークが錨マークになっていた。
繋がるはずがないのに、むりやり接続してきたのだろう。うわ、アラートも抑え込んでた。
 
 
「姫様!」「アスカ嬢!」異変を察知して護衛が駆けてくるのが見えた。あ〜休日〜〜!
これでおじゃんだわ・・・・せめて、シャワーくらい浴びたかった・・・・
 
 
「・・・・どうして欲しいのよ」
 
事情やら状況の説明やら現場の情報やらはこちらから頼まなくてもネルフから送ってくるだろうから、それだけを聞く。どうせまたバカがバカなことを言い出すのだろうけど、そうしてやるしかない有様なのだろう。なら、してやるしかない。やれる限り。
 
 
北欧の地から飛んできた碇シンジの緊急の頼み事は、内容から難易度からしてムチャクチャだった。世界中の誰もこんなことはできはしない。かろうじて出来るかもしれないのが一人いるけど・・・碇シンジはこっちに、「自分」に頼んできた。因縁も承知の上で。
 
それを今スグやれと。世界一偉い誰かに頼まれたって蹴るしかない。バカじゃないの?
 
 
<あのバカがくたばっても世界は変わらない。放置だ放置。それがいい>
<計算完了。私なら出来るけど・・・原子炉持ちでしょ?しくじったら責任とれないよ>
 
 
「世界の何かを変えてきたから、あんなことになってんでしょ。黙って初号機に座ってりゃ無敵のシンジ様なのにさ。でも、責任は自分で果たすやつだから、こっちは頼まれた通りに”送って”やればいい。そうりゃ、あとはてめえでどうにかするわよ。
 
碇シンジは」
 
 
<<<そーゆー奴>>>トライアングルでハモった。誰にも聞かれない。
自分たちだけ、知っていればいい。
 
 
「エヴァ弐号機、再起動!ソドラ管理じゃないけど、使うわよ!準備して!急急!」
 
「「火焔太后の仰せのままに!」」
天京でつけた護衛、中華メイドや大陸でも5本の指に入るサイバー拳法使いたちは動揺も迷いも無く、法律的にはかなりまずい指示であったが、疾風の如く実行に走った。完全に私淑させてしまってる「火焔太后」AS惣流アスカであった。
いまや灰基督に続く実質天京ナンバー2。
これは、管理体制の構築が終わっても日本に帰してもらえるのか。それはともかく。
 
 
監督ではなく、いちパイロットとしてのエヴァ弐号機操縦者、惣流アスカ・ラングレー(ドライ)に火がついた。イグニッション・キーが最強であるはずの少年の泣き声救援要請であるのは「あ〜〜・・・・シンジの奴、コトが終わったら絶対に説明に来させるわ」<むしろそれを言い訳にして一時帰国させてもらったらどうだ?><それ、いいかも。もう仕事・・・やだぁ。バカンス行きたい・・・沖縄いきたい・・・泳ぎたい・・・海ぃ・・>
 
 
カラダは疲れきっているけれど、心は。あのバカがピンチであるのに、燃えててどうする?と思ったりもするのだが。そうでなければやっていけない。好きとかではない。中学校をダブりとか学歴は関係ない業界とはいえ。必須栄養素的な?<そっちの方が恥ずかしい・・・・往生際が。なあ、ドライ><集中させて!?ちょっっとでもわずかでも計算が狂ったらそこでかなりいろいろ終わる事態なんですから!・・・え・・・願いましては、ちゅうちゅうたこかいないかかいなあんこうかな・・・0,666673339/・・99,67636366/・・・・16666・・・180000999・・・前回のデータが流用できるとはいえ・・・これは・・怖いよ・・・・天才すぎて怖い・・・岳飛や呂布がここにいても嫉妬するしかない出来映えですよこれ・・・・よしっ!!計算検算ともに完了!アスカ!>
 
 
「あとは、どーにかしなさいよ!!シンジ!!」
 
 
セコンド役にしてはあまりにも距離がありすぎ、遠く離れている。なれど、心は。
 
必要としているものを、欲しているそれを、乾ききっているところに水、はボクシングではまずいが。共闘するにも知らせが遅すぎた。まあ、現地に乗り込むのもまずい局面ではあったようだから、マントとかなびかせて颯爽登場、泣きべそで感謝するバカの顔を見下ろしてやるのも一興だったかもしれないけど。・・・・しかも、あのJAって・・・
 
 
これは、過去への落とし前でもある。本当の勇気は許すこと。弱い昔の自分があるから
こそ。今なんて弐号機の中には、3人もいる・・・だから、届く。あのバカのトコに必ず。
 
 
紅の天河。碇シンジのもとへ遠空をものともせずに閃き煌めき駆け抜けるそれの、残光は。
しばらく消えず、天京の者の目を魅了し楽しませた。