「サード・インパクト・・・か」
「サード・インパクト・・・だな」
「サード・インパクト、ですね」
 
 
3年前のおよそ6分の一ほどに縮小されたネルフ総本部総司令室での密談である。
 
 
密談では、あるのだが。サード・インパクト、というやばい単語が出てきてもいるのだが
 
 
「この箱も、ここでいいー!?」「ああー!判断がつかないヤツは全部ここでいいいから!」
「10年以上見てない資料とかもう捨てりゃいいんじゃないのー?むしろ捨てるべきじゃ
ないのー!?」「これ・・・欲しい」「捨てるな!欲しがるな!ここに置・い・と・け!」
 
縮小方法が、執務デスクから入り口までのスペースを衝立でざっくり保持しました、てなものであるから、遮音も何もあったものではない。領域の6分の5は、判断待ちの荷物保管室になってしまっていた。しかも現在進行形で稼働中。総本部自体が大改装中でもあるので騒がしくない所などない。総司令室が久しぶりに使われていることなど、大忙しのスタッフたちの知ったことではなかった。さすがに、「ここ全部保管エリアにしてくれりゃいいのにな〜」とまで放言することはなかったが。 組織の体面というものがある。
 
 
いろいろと変わったことがあるにせよ。非効率にだだっ広いのもアレだが「どうせほとんどいないんだから、組織トップのお部屋なんかいらんだろ!?ヒャッハー!!」というのもアナーキーすぎであろう。というかそこまでいけばもうそりゃ組織とかではない。
 
 
「あー・・・・あとで注意、しときますので」
衝立の向こうを黙らせるのは簡単だが、それで作業効率が落ちるのも困る葛城ミサトは、密談の続きを促した。彼女自身もヒマではないどころか怒濤に忙しいところを、時間をなんとか無理矢理むりくりこさえてやってきたのだ。やらなきゃやらんことが山積みどころか山脈積みであるので、呼び出したのが碇ゲンドウでなければムーンサルトプレスでも喰らわしてやるところであったが、さすがに、それだけの「極大の厄ネタ」であった。
むしろ、次期ネルフ司令である自分を呼ばずにコトを進めたら月光蝶をお見舞いしていた。
いや、司令になったら使えるわけじゃないけど。ヒゲとかないけど。
 
それでいて、赤木リツコ博士は呼ばなかったのは、多分、冬月相談役の判断だろうなーと。
 
 
事件は現場で起きるけれど、そもそも事件を起こさせないのが会議室の仕事。
現場がやらかしたり現場で自然発生する事象を責め立てたりするのは、余裕の証。
出来うる限り、災いトラブルの芽は早いとこ摘んでおく。日の目を見てからでは遅い。
そのため、トップ会議は闇を覗き込み、闇の深淵に立つことが必要だったりするが。
 
 
「ほい追加ー!!まだまだあるよー!」「はあっ!?ちっとは断捨れよ!保留が多すぎるだろ!!こんな時に離れなかったらいつ離れるんだよ!!」「だってえー・・・」「ヘタに廃棄したらどんな目に遭わされるか・・・お前が助けてくれるならいいけどよ・・・」
「だいだい次期司令の荷物が多すぎるんだよ。アタマが思い切らないから」「・・この雪の山小屋?のミニチュア?とか・・・資料じゃないよね・・?」「ビール工場のミニチュアとか屋台のプラモなら分かるんだが・・・なんだろうな・・?シン司令執務室に飾る気か・・?」「ずるいー!私物を運ばせるのはまだガマンできるけど、私もオキニのナギサきゅんぬい置きたいー!」「それはガマンできる所が違うだろ・・・」「赤木博士の目についたらどうなるか・・・やめといた方がいいぞ・・・」
 
 
「ああ。君たち、すまない。現在、こちらで会議中でな。もう少し声を抑えてくれ」
 
葛城ミサトが覇気なり殺気を飛ばして職員達を昏倒させる前に、冬月相談役が。
 
 
「「「い、いらしらんですかっっっ!?す、すみませんっ!!静粛にいたしま、いえ!作業を一旦中断しますっ!!失礼いたしましたっっ!」」」
 
一斉に踵を揃える音と驚愕と謝罪。中にはあまりにビビりすぎて両手で敬礼して光線を放つようなポーズをとってるのもいたが。さすがの貫禄であった。このまま中断されても困るので「いや。作業は続けてくれ。運搬に関わる対話もかまわん」碇ゲンドウが許可する。
 
 
「は、はいっ。で、では、そ、そのように・・・続けさせていただきます・・・」
「(・・・葛城さんはいないよね・・・まさか」)「(いないだろ。ラッキーだったな・・いたらもうオレたちはすでに死んでるよ)」「(作業効率は上げといた方がいいな・・・)」
 
 
「すみません・・・」
葛城ミサトの目が遠いところを見ている。切ないような、単にキレる五秒前のような。
どういった「すみません」なのか、分からぬ関係でもなし。軽く頷いただけで、続ける。
 
そして、空気も変わる。重い、幾千幾百の修羅勇者でも為し得ぬ、天空を支える巨人がようやく軋ませんながら開くような門の音を幻聴する。神話の少年はそこで一度、斃れた。
 
 
「”彼”の再稼働・・・そして、現地投入・・・ということですね」
「ああ」
「結局は、それに尽きる。その一点にな」
 
 
たいていのことは組織の力でなんとかなる。葛城ミサト、碇ゲンドウ、冬月コウゾウ。
「業界」における特上レジェンド。現人魔神、デミゴッド3人組。トリプルクロス。
むしろ立場上、組織の力を用いてなんとかせねばならない。未成年をご指名など。
 
あってはならないし、かつてそれを本人を半分だまくらかして強要し何度も半死半生の目に追い込んだ反省というモノがあるだろうし、行政指導は入らないとしても常識というものがある。ただまあ、それによって大事件が未然に防がれたり、災いの目が白日に晒されて処理しやすくなり、多くの人間が救われるかもしれない、というのならば。
 
 
コトの発端は、JA連合(時流に合わせてこれまた長い正式名称があるのだが略)の時田氏からの人捜しの依頼であった。
 
「”ナオミ”を探して欲しい」と、いう一聞、お門違いに聞こえてジャストミートの血を吐くような頼み事は、裏の事情を知るネルフの者たちにとっては「・・・・まあ、そうなったんだったらウチで引き受けるしかない案件だな−・・・・・」というものであり。
一介の私立探偵どころか、ネルフ諜報部門でも単独判断がつかないレベルの超大型難題ゆえに超忙しいにもかかわらず、トップ会議にマッハエスカレーションされた。
 
 
”ナオミ”は、対外的一般社会的には時田氏の養女であり、「業界(深部)」的には赤木ナオミ・・・マギ開発者、赤木ナオコ博士のコピー実験体であり、「皇帝列会式」スーパーコンピューター「メギ」を開発し、ネルフのマギにケンカを売ってきたウルトラクラッカーであった。一言で言えば、「敵」であり、情勢を勘案し複雑にいえば、「強敵と書いて”とも”とも呼びたくないけど、上位組織の意向あってのことだしそれで恨むのも了見がちょっちセコいかなー?まー、何より第一、わたしらネルフは負けてないし?見事なまでに返り討ちにしちゃったし?JA連合の時田サンの身内扱いってなら、なんていうか?プラレス三四郎でいうところの「黒崎玄剛」か「荒巻多作」ポジションだから怒ってもしょうがないっていうか?味方してくれないワケじゃないし、よほどのことじゃない限りスルーしとくか。間に入ってる時田サンがなんとかするでしょ。・・・するよね?」という所であり。
 
 
それが、行方知れずになったと。
 
 
もちろん、魑魅魍魎うごめく「業界」のことであるから、これが時田氏の仕掛けである可能性もなくはない。が、「無念極まる・・・シロウ、一生の不覚・・・!!」と額に刻んだまま頭を下げる時田氏の姿に嘘も催眠も脅迫もなく。素で、イヤでイヤで仕方が無いが
もう打つ手も無くどうしようもなくネルフに依頼してきたのだから、受けざるを得ない。
 
なんのかんのいいつつ、これまで何度も助太刀してきてもらったJA連合である。遠くの上位組織は頼れるどころかこちらを苛めるしかないので、近くの他人の時田氏の存在が心強くなかった、といえば嘘になる。主役ロボだけが世界を動かしているわけではないのね・・・・などというとケンカになるので黙っておく葛城ミサトであるが。
 
 
これが、”時田ナオミ”ちゃんと時田氏との思春期反抗期的なムーブで、実は幸せの青い鳥はすぐそばにいました、とかの心温まる展開で、幽霊マンモス団地に隠れてました、仕事に追われる時田パパが迎えにきてくれるのを待ってました、なんて話なら楽でいいのにな・・・・・と、てめえも殺人的に忙しいのでふと、そんなドリームを見てしまうが一秒で却下否定。そんなはずがないのだ。そんなわけがないのだ。この世はもっと残酷なのだ。
 
 
少年にも少女にもおっさんにもお年寄りにも、そして、・・・・いろいろがんばっている
女にも。リョウジにやらしてえ・・・頼りてえ・・・と、思うが、こちらも殺人的な量のインポッシブル気味のミッションを振りまくっているので無理筋。たぶんマジで死ぬ。
 
 
報復の、ため
復讐の、ため
 
 
自ら姿をくらまして、組織的警戒網に引っかからないのだとしたら・・・その目的は。
ろくなものじゃなかろう。もちろん、上位組織による誘拐の線もないわけではない。
それはそれで元サヤに収まった感もあるので、むしろ手を引くしかないのでネルフ的には楽が出来るのでラッキーなのだが。とうとうその日が来た、ともいえる。それで気を良くしてこっちの子供らに手出しされてもアレなので、対策を練るのは練るがネルフだけに。
 
 
とにかく、時田ナオミ・・・いやさ、「赤木ナオミ」を捕捉せねばならない。
 
 
その痕跡は瀑布で砂金を探すような荒行であり、正直、解脱もしとらん人間のできる仕事ではない。覚醒したブッダならばやれるかもしれないが、そんな修行をする余裕がないしコンピューターを使った方が早い。つまりは電脳賢者、赤木リツコ博士の出番であろう。
 
それなのに、ここに呼ばれていないのは、そういうことであった。もし捕捉するのが他の人間だったら秒で捕まえているであろう。天才に対抗できるのは同レベル以上の天才だけだが・・・化学反応というのもは、ある。人間はあくまで肉体をもっている生物であるから。その周囲の人間達も、なるべく関わり合わせたくないのであった。武術的じゃない方の気を使ったのだ。正直、今の赤木リツコ博士は誰が見ても遠距離ラブラブモード発動中であり、母親のコピー実験体と再びバトル、というのは・・・・あまりにも忍びない。
 
これまで天才なのに空気を読んで、ガマンしていたのであろう。カナギ、サギナ相手に母親ズラしてオカンレベルを上げていたのが、解禁されたのだから。忍びなかった。
 
割合、ひとでなしの三人組ですら忖度したのだから、伊吹マヤを筆頭とした「最近、赤木博士はサザエさんっぽいよなー、いやもちろん仕事はできるんだけど雰囲気が?」「わかるー!あの家族、いやされるー」「髪型もそれっぽくない?煙草もやめたみたいだし」他のネルフ職員たちは言うまでも無く。見守っていたかったのだ。金髪の乙女(30越えてるが表現の自由だ)の恋の行く末を。「源氏物語」ならぬ「ストーリー・オブ・氏源」を。
愛こそ光。大昔も現代も未来も、皆、そういうのが好きなのだ。止めたくなかったのだ。
オフコース。オフコース。オフコース。第三新東京ラブストーリー。こんなんであるから。
オリハルコンを精製するよか難しいであろう賢者のホニャラララ。専念させるべき。
年上の女房は金のジャングルブーツを履いていてもゲットすべき。いやワラジだったか。
ともかく。とにかく。
先陣切ってガチンコさせるのは、ダメ、と。どうしようもなくなったら、お願いする、と。
 
 
いうわけで。誰か他の者を特攻みさせようと。一応、ネルフの面子にかけて記しておくと、自薦はあったが他薦はなかった。やる気だけではどうにもならないヤバキチな案件では
あるのだ。そこらへんを総合的に判断して、最適の人員を送り出す。のがトップの仕事。
 
 
一般職員たちと同じ目線ではむろんない。メギが少々パワーアップしたからってどうせやられるわ。タイムボカンシリーズと同じだわ。マギが勝つわ。ずるかろうとえげつなかろうとその手法がSF(すこし不思議)だったとしても。使徒とかもそんなんだし〜。
 
とか油断こいてたわけではない。打たれるだけ打たれまくってきた杭にしてサンドバック生活の経験から微塵の油断などありえず。この選択を違えられば世界は終わる!!かもしれん!!、くらいの緊張感をもって選出する。した。
 
 
碇シンジ
 
 
元サードチルドレンである。チルドレンであるから、3年たってもまだ未成年である。
 
エヴァ初号機をもって、人類の天敵である使徒を殲滅せよ、というのならともかく。
どこぞに消えたSSS級の電脳犯罪者、特α級のヴィジョネイル、証明された天才の血筋、
外見はロリ美少女っぽいらしいが「時田サンが言うからそういうことにしておいてやるか・・・保護者の欲目も甚だじゃないの?ちっ。あー、この挑発的な目つきがソソる人にはいいのかしらねー」・・・らしいのだが、とにかく危険人物には違いなく、ネルフのブラックリストにも脅威度最上級ランクで記載されている。未成年がどういう出来る相手ではなし、そもそも積極的に関わり合わせるべきではない。未成年が探し出せるならとうの昔にJA連合で保護しているだろう。
 
碇ゲンドウ(実父)葛城ミサト(旧・保護者)冬月コウゾウ(叔父貴ポジ)らも、そんな少年探偵めいたことを期待して指名はしない。初号機も今回は使わない。
 
 
ただ・・・「その名」は・・・この「業界」におけるネームバリューは
 
<核爆>ティルトウェイト級であり、「碇シンジ、動く」だけで、大騒乱になるのは確定。
 
 
未成年一人になにをおおげさな、というのはモグリである。「大迷惑だからてめえの国から出してくるな!!出さないでください!お願いします!」「・・・嘘、ですよね?冗談、ですよね・・?あんなモンスター、出してこないですよね・・・?ほんとは実在して、ないんですよね・・・夢、ですよね・・・」「せ、世界を征服する気なんだな・・・く、くるなら来い!に、にげるもんか、にげるもんか、・・・うええええん!!来るなあー!」
というのが業界の一般的な反応である。まさに世界最恐。アルティメット・きょうてえ。
アンリミテッド・ぼっけえきょうてえ。3年ほど完全沈黙していたのもそれに拍車をかけた。顔出ししてアイドル活動でもやっていればまた別だったのかも知れないが。
 
ヘタにちょっかいだされるのも煩わしいネルフが「不可侵ジ」キャンペーンをはって業界中を震え上がらせたのもまずかったかもしれない。だが、武田信玄の遺言を守らなかった武田家がどうなったか・・・・、歴史から学びもするネルフ総本部であった。
 
 
武田信玄が雷のパワーかなんかで蘇ったら戦国時代はどうなっていたのか・・・そのあたりは国営放送の教育番組に任せるとして、お花がたくさん咲いている場所(鳥取花回廊ではない)へのGOTOトラベルを楽しんでいたもしくは棺桶で長めの半身浴をしていた(ソフト表現)碇シンジが3年を経て覚醒し、自分だけ中学生のまま、という現実に直面し
 
 
「まあ、3月のライオンの零君になったと思えば」
と、マンガから生きる知恵を授かっていたので、割合あっさり受け入れて通っていた。
 
さすがにこれに付き合うのは友情でもなんでもなく、ただの留年であるので鈴原トウジらはフツーに高校生になっていた。どうせネルフ本部なり自宅なりで会うのだし。
 
「碇パイセン」が世界各国からここぞとばかりに留学してきた「パイロット候補」たちを従えマジ卍なチームなどを作ったりする話は長くなるので割愛する。美少女後輩とかもちろんいたりするのだが。それはさておき。
 
 
生体上の、いやさ健康上の問題はないように思われた。データがないのだから判断の難しいところであった、元々のつくりからして、だが、初号機を軽々動かしてみせるあたり、「業界」的には”復活”と宣伝してもまったく誇張でもなんでもない。100パー事実。
 
 
このまま真面目に中坊生活でも送らせて様子をみる、というのがベスト常識判断であろう。
 
そもそも未成年の中学生なのだから。やむをえない事情があっただけで素行が悪かったわけでも試験が出来なかったわけでもない。むしろ、もう年金がもらえてもいいほどの活躍はしていた。もちろん、もう何もして無くていい、するな、息だけしておけ、というのも、業界の一部からの切実な願いであろうとも、本人たちの知ったことでは無かった。
好きにやるに決まっていた。
 
 
それなのに。
 
 
碇ゲンドウ(実父)葛城ミサト(旧・保護者)冬月コウゾウ(叔父貴ポジ)らは指名した。
 
 
碇シンジにやらせると。正確には、この状況でもっとも適切で効果的な人材が、彼だと。
 
身内には危険を避けてもらいたいのが人情であるが。それで判断が狂うようでは。
 
赤木ナオミを早急に捕捉しなければ、ネルフに痛撃を与えてくるのはほぼ間違いなし。
どうやるのかなんて知らないが、凡才の考えもしない手段を編み出して実行するから天才なのである。アイデアだけなら怖くもなんともないが、それを実現する精神力と覚悟こそ。
 
 
対抗できるのは、同じく天才、東方賢者・赤木リツコ博士だけだろうけども。
 
 
その天才が威力を発揮しない状況にしてしまう、してしまえる者を投入すれば・・・?
話は違ってくる。悪魔の知恵である。正正堂堂、天才に対抗させておけばよいのに。
 
 
「碇シンジ」という超おいしそうなエサをぶら下げられて・・・ガマンできるか。
 
サード・イン「パクっ」と作戦。
 
 
「碇シンジ」という業界ネームバリュー・バンカーバスター級をブチ込まれて黙っていられるか・・・それによる大騒乱で、静かに深く進行させていた目論見が露見、まではいかずとも一時停止なりすれば、上出来。ほんの少しでも隠匿の綻びが判明すれば、あとはマギの、ネルフの、大人の仕事だ。中学生は部活でもがんばっていなさい。ひどい話である。
 
だが、現時点、最も有効な手段であった。まともな手段でどうにかできる相手ではない。
一時は世界を支配しかけたほどの才能。赤木リツコ博士と伊吹マヤがいなければそうなっていた。・・・それを考慮すると、今まで見逃していたのは甘かった。始末すべきだった。
 
捕獲できたら、どうすべきか・・・結論を出すにはまだ情報が足りない。けれど。
敵対し、万一、碇シンジを傷つけるようなコトになったら・・・まあ・・・・
ただのケジメじゃ、すまさんけえのう・・・・的なことにはなるだろう。同時に。
 
 
碇シンジ、「彼」をこの先、どうするか。復活早々、鉄火場に送り込もうという口で、ではあるが、これも考えねばならない。ただの中学生ではないのだ。保護の金庫の中に隠しておくのが1番正しい。業界的には。切り札と伝家の宝刀は表にさらすべきではない。
神秘のヴェールの中に鎮座させておくのが一番いい。なぜなら、その力は、あまりにも。
 
 
「あー、ですけど、引き受けくれますかね、シンジ君」
「普通は、断るだろう」
「・・・何か、メリットがなければ・・・苦しいな・・・」
 
 
トップが相談しようが、どう解釈しても、これは通常業務ではない。ミッション、などと格好つけても大義名分がない。行う意義が示せない。碇シンジの立場になって考えれば即答であろう。
 
「いやです」
 
一択だ。
 
どう拡大してもパイロットの仕事ではない。そもそも捜索するのは味方ですら無いのだ。ムチャクチャな無理筋であり、こんな話を押しすぎれば今度は綾波レイと惣流アスカが黙っていない。
 
 
碇シンジの心身の復活に多大な労力を払ったのが、この二人であり、復活あがりにそんな無茶ぶりさせて、またおかしくなったら、どーするんだ!!と言われたら返す言葉がない。
 
 
現在、綾波レイは零号機とともにしんこうべにおり、ニェ・ナザレ関連の任務と綾波党後継者としての教育を受けている。もはや世間知らずの妖精キャラなどではない。
なんせ聖★綾波女学院のJKなのだ。(詳しくは割愛)
 
 
惣流アスカは、碇シンジの回復後しばらく様子を見ていたが、「ま、これならいけるかな」と診断を下すと、弐号機とともに天京に飛んだ。十二号機と十三号機と相談しながら、ソドラの管理の枠組みを構築中。まさに煉獄太后「インフェルノ・エンプレス」(未婚だけど!)。西方は赤く燃えていた。(詳しくは・・・原稿なし!)
 
 
そんなわけで、実力を持ってクレーム入れられたら、なにせ正義としかいいようがないほどに正論である、かなり困る。これで使徒使い、霧島マナなどが介入した日には。
(ちなみに、ゴドムの片割れを用いて日本に四季を取り戻す計画を現在実行中)
 
 
碇シンジ本人が「やってもいいですよ」と言わない限り、実行は難しい。
 
動けばすぐさま業界中に知れ渡る。惣流アスカにさんざんバカバカ言われたが、碇シンジはけっして愚かでもバカでもなかった。バカが最強の決戦兵器に乗ってはいけないのだ。
 
 
かといって、まだ、飲む打つ買う、でどうにかできる年齢ではない。また、それで説得可能でも将来が心配だが・・・・「一応、話すだけ話してみましょう」・・・まあ、断られるだろうから、葛城ミサトが伝達役を務めることになった。結局、そのために呼ばれたようなものだが、仕方ない。リツコ博士にもっていくにしても。間をもらったと思うべきか。
 
 
 
「え?いいの!?」
 
しかし、予想に反して、碇シンジは条件込みでOKしてきた。
 
 
「しかも、いいの?”そんなの”で。条件が」
理解不能なのだ。自分だったらOK条件どころか完全に「罰」だ。神を呪い刑務所に入った方がまだマシ。でも彼はこう答えたのだ。
 
 
「いいですよ」
 
十代の三年はけっこう大きいが、やはり24時間フルタイムで現世に出勤していないと(ソフト表現)肉体の成長は緩やかになるようで、中学生、と言われたらぴったりで、高校生と言われると、少し違和感がある顔立ち。いや、それでもなんか色気が増してる気が・・・いやいや、夜雲色の瞳をのぞいていると、昔の記憶もあいまって不思議な気分に。
 
今は父親と同居している。帝王学を授けられたり・・・しているようではない。
もう自分の手からは離れているけれど。アスカと三人と一匹で過ごした記憶。家族ごっこだとわらわば笑え。これもんで、こんな鬼任務投げつけるとかどんなデビル上司よ。
 
 
・・いやいや、待てよ・・・?そんなワケがないから、これは捻って・・・断るためにわざとそんな条件を出した・・・とか?ともかく、当人がそう言うのだから、そのように話を進めねばなるまい。それで向こうが蹴るのなら仕方ない。そして、交渉当日。JA連合本社。
 
 
 
「バカなのか?それとも、からかってるのか?」
 
時田氏が青筋立てながら呻くように言った瞬間、ぶっ飛ばしてやろうと葛城ミサトが拳を固めるより早く
 
 
「”それ”が僕が出向く条件です。出来ないならいいですよ」
 
宇宙文明が残した神像の如く、おごそかに碇シンジがそう告げた。
 
 
「むぐっ・・・・・」
企業トップを黙らせるのは並大抵のことではない。しかも時田氏、ネルフにさえ刃向かい続けた筋金入りのファイターをである。感情は激しく渦を巻き、そのまま有名怪獣のように蒼白く吐き出したいのだろうが・・・グッと耐えた。理性が押しとどめた。
 
 
「やっぱり、出来ませんよね・・・」
 
どういうわけか、ここで残念そうな碇シンジ。見慣れた葛城ミサトにしても、それが嘘や演技とは思えない。断るために持ち出した条件ならば、おかしな話で。つまり、マジ?
え?その条件・・・マジなの?シンジ君・・・・ウソでしょってかムリでしょ。
 
 
「そ、”それ”は・・・・ひ、必要な・・・・こと、なのか・・?いや、なのです、か」
 
言い換えたのは葛城ミサトの方を見て確認したわけではない。その目は碇シンジに。
無理筋を頼んでいる自覚は当然ある。それにさらなる「無理筋」でカウンターされるのも仕方ない。だが、それでも、呑める筋と、呑めぬ筋、呑んではならぬ筋がある。
 
 
これは、呑めぬ筋だ、と葛城ミサトにしても思う。もし、ただの意地悪で言ってるのなら、さすがに元・保護者として元・被保護者をあとでヤキ入れてやらねばなるまいが。
交渉術としては正しいが、ウチのシンジ君がやっていい手法じゃない。ないの!
 
 
「必要になると思われます・・・・たぶん、ここぞ、という局面で」
 
意地悪ではないが、ウソだ。葛城ミサトには、ギリギリ分かる。考えずにモノ言ってる。
 
だが・・・これは碇司令か、誰の仕込みか分からないが、・・・・・この説得演技力。
 
外見だけなら、ただの子供。ただ、その後ろには、エヴァ初号機の影がある。それが響く。
 
その上、彼には白銀の髪の守護天使がついている、と。それが囁くことがある、と。
 
業界伝説の類いかもしれないが。某有名レスラーが小さい子供がいるのに自宅マンションでライオンを飼っていた、といった・・・うそのようなほんとの。しんじつのような、それに届かず欠けた、「しんじ」・・・とか。利益計算視点では全く読み解けぬ朧の言の葉。
 
 
これをナンパに活用したらゲット率・・・いや、ちょっと系統が違うか。ともかく。
ここで時田氏から葛城ミサトにアイコンタクトがきた。「これ・・・ホントですか?」
普通考えれば、碇シンジなど腹話術の人形役であり、ネルフのトップ連中の采配であると。
「イエス」と葛城ミサトは返した。全くそうは思えないけど。やれるものならやってみればいいのだ。
 
 
時田氏もこの業界の素人ではない、かなり深部情報を得ているのが、その目を曇らせた。
信じてしまった。傍から見れば、「ウソにきまっている」話を信じてしまった。
 
「そういうことであれば・・・了承した。そのように・・対応しよう」
 
重々しく、とんでもない話を受けてしまった時田氏。冷静な真田女史が不在であったせいもある。ちなみにネルフ側に一切の罪悪感などない。救われる者はまず、信じなさい。
 
 
「それじゃ、頑張らせていただきますね!」
「それでは、そういうことで。詳しいことはまた後ほど」
いらんお土産をもたされる前にさっさと帰っていった碇シンジと葛城ミサト。
 
 
「え、ええ・・・よろしくお願いします・・・」
引き受けてもらえたことは良かったが・・・・地獄に仏、というか・・・鬼が仏の面をかぶっていたらどうすればいいのだろう・・・・未成年にこんな重要事を託してしまって・・・しかもその条件たるや・・・・・考え出すとキリが無いが、ただもう返答はしてしまった。まさか反故にもできない。それが赦される相手ではない。
 
 
時田氏は、その後、「バカじゃないですか!?」「からかわれたんですよ!」と真田女史を筆頭にして全社員から集中砲火を浴びるのであるが、連合トップとして、約束は守った。
(その相手が子供であったことについては追求なしなのがJA連合らしかったが)
 
 
どうにかできるとしたら、これくらいのタマであろうと、本能が告げていたこともある。
バカ呼ばわり程度で、かけがえのないものを取り戻すことができるのなら
命の使い方など、人それぞれであるが。
己の力では呼び戻すこと、叶わなかった。
望んでいるなら、それに助力すべきであったか。
 
 
誰も聞いていないことを確認して、「ナオミの夢」を囁くように歌い出す時田氏。
愛だの恋だの欲しいだのという関係では無論ない。恨みや怒りや嫉妬がないわけでもない。
 
 
「comback to me」これだけだ。
 
 
どこに潜伏しているのか、・・・・全力を尽くしてはいるが、ナオミの手が入ったシステムを使う以上、百年経っても追いつくことではできまい。