マーク66のマウントからなんとか(オートパイロットのおかげで)脱出できたシン:JAを駆る、というか駆れていない乗せてもらっているだけの観光乗馬状態の碇シンジ。
 
 
とりあえず、逃げまくっていた。これは碇シンジ自身の判断。シン:JAからは筋金入りのファイターによる無念感と不信感がひしひしと伝わってくるが、逃げる碇シンジ。
 
 
正確には、逃げる→つかまる→寝技関節技のハイレベルな攻防→逃げる→つかまる→寝技関節技のハイレベルな攻防→その繰り返し。つかまってからの寝技関節技の攻防事じたいは玄人スジも熱くさせるほどのものだったが、地味といえば地味。なんかぐにょぐにょ絡まり合ってキモい、とか、組み体操に失敗して崩れてる、とか。素人にはウケが悪かった。
 
セメントなのだが。建築資材ではない方の。熱い戦いなのだが、伝導率がいまひとつ。
 
まあ、視聴者を楽しませるために闘っているわけではないが。スタミナ、電力切れ、を狙った戦術であれば、正しくもあるが・・・・マーク66もさすがに最新型だけあった。
 
 
 
「マーク66,ATフィールド発生!!」
 
 
魚釣りはフナに始まって鮒に終わる。
エヴァの戦闘はATフィールドにはじまり、絶対領域に終わる。とりあえず、これが使えないと話にならない。それが業界の黄金律だったはずなのだが、JTフィールドが出てきたことでややこしくなった。パーかチョキしかなかったのに、グーが出てきた。
 
 
一方がATフィールドを出してきたら、対抗する側もATフィールドを展開できなければ
負ける。分かりやすい。ハイレベルな関節技や寝技のテクニックとか本来必要ないのだ。
 
 
「・・・はあ、さすがに高出力ね。制式タイプとはダンチだわー」
 
同じATフィールド同士なら、分厚い方が勝つ。実際はもう少し複雑だがあえてそういうことにしておく。そのあたりの機微はチルドレン、パイロットにしか分からない領域だ。
 
 
 
けれど、葛城ミサトは”せせら”笑っている。なぜか。
 
 
 
シン:JAのJTフィールドでも、それ用の対策が施された最新型ATフィールドは絡め取り反転し、自分のものにして逆襲、という必勝パターンが使えないというのに。
このままいけば、最新高性能領域で、碇シンジはシン:JAごと潰されるだろう。
走って逃げようと、これまで追いつかれてきたように短距離走は相手が速い。
 
 
詰んだ。
 
 
この最適な戦法変更は、マーク66に備えられたサポートAIによるものか。
いたずらに殴り殺しにいくより、効率的に賢い。もしくはシン:JAから接触データでも取得して、JTフィールドが効かないことを確認していたのか。それさえ効けば、一発逆転もありえるわけだから警戒するのも当然な最新型クオリティ。抜け目なし!
 
 
ただ・・・・ネルフ総本部発令所の空気は、緩んできている。
 
シン:JAに乗って戦場に立ったまではいいが、ここまで全くいいところなく、ひたすらつかまり、抜けだし、またつかまる、の繰り返しの絶望はやはり人の心を疲弊させる。
 
 
その中での「アスカ、助けてえ!!」碇シンジの悲鳴。これは人々の心を折りかねない・
 
・・・・はずなのだが、天京の惣流アスカとの通信接続が確認されたと同時に、空気は
緩んだ。勝ち筋の見えぬ黒い霧は払われた。安心感は伝播する。逆転は約束された。
 
 
そして、空気も読んだ。
 
三羽ガラスをはじめとした発令所スタッフは、冬月相談役の方を見上げた。
さすがに一線を引いた形の自分に、こうしてくるとは・・・・苦笑する冬月相談役。
隣の碇ゲンドウの方を軽く見やって、小癪な若者(中年も増えてきたが)どもに頷きで
返す。まるで、巨匠とうたわれた偉大指揮者のように。命じる。心の内で唱和せよと。
 
 
ネルフ総本部決め台詞「髪が白くなっても背をピンと伸ばして言ってみたい部門」
第一位!!ダカダカダカダカダカダカダカダカダカ・・・・・・・!!ばばーん!!
 
 
((((・・・勝ったな))))V
 
なぜか急に魚眼レンズ的アングルで発令所スタッフ全員新人ベテラン問わず心を一つにして、心の中で唱和した。
 
 
教科書通りのATフィールドを展開しての押し相撲のマーク66に、哀れぺしゃんこにされるはずだったシン:JAと碇シンジ。これでサポート役たちが全員揃って「勝ったな」とかなんの冗談だと思われたが・・・・・
 
 
実際、勝っていた。
 
 
「さすが、アスカ。いやドライかなラングレーかな、まあどっちでもいいか・・・」
 
シン:JAがATフィールドを展開して、マーク66をガッチリ受け止めていた。
 
しかも、深紅。炎のごとく輝きゆらめくそれは生命力に満ちあふれ、ロボが扱うにはいくつもの高い壁があったはずなのだが、そんなもの楽勝で越えてきた。
これでカラーリングが麻雀合体ロボットじゃなかったらなあ・・・との意見もあろうが。
 
 
「このフィールド・・・・エヴァ弐号機・・・・星天穹・・・ATバビロン・・ニムロッドか・・・信じられないコトするわね・・・・バカじゃないの・・・?いや、バカだわ」
 
機体の操作はしないが、目の前で発生した奇跡よりなおありえない「神技連接」起こった事象のデータ解析はやらずにおれない赤木ナオミ。炎のようでもあり宝石のようでもある相反した輝きを宿すフィールドは・・・どこからきたのか。いくらシン:JAでも碇シンジが乗っていようが、ATフィールドは発生させられないだろうし、むしろ見て分かる。
 
 
借り物だ、と。弐号機は現在、天京にいるはずだが・・・そこから、束ねたフィールドを矢のように、というと語弊があるか、速度はケタのケタ違いであるが、やってることは宇宙ステーションでのパネル設置に近い。猛烈な速さで届けたそれを、JTフィールドで受け止めて、盾のように並べ構築した・・・言うのは簡単だが、これは化け物のしわざだ。
 
いや、超超遠距離から、的はでかいがある程度移動する原子炉積んどる相手に貫かぬように、最適に受け止められるように、微妙に速度を直前で殺したコントロールとか・・・
どっちかといえば、これは悪魔の技術。ありえん×ありえん×ありえん×・・・とまともに検証していくとキリがないが。結果として、現実として、JAが弐号機のフィールドを「貸してもらってます」という・・・人の心が微塵でもあったらこんなん頼めんだろう普通・・・ああ、普通じゃなかったか。怪物ハートだったか。
 
 
くしゃっ
 
 
いらない広告でも折るみたいに。マーク66のフィールドが潰された。これもまあ・・・ありえないが・・・・弐号機はしょせん旧の制式タイプで、こっちは最新型・・・どっちが強いかとか言うまでもないはずが・・・・くしゃっ、て。バトルにもならないとか。
なぜなのか・・・前田のクラッカーでも食べてきたから?これだから碇ユイの血筋は
 
 
・・・・・・ぽきん
 
 
ナォタの妄念を詰め込んだ遺品のバットが折られた音が聞こえた。反応消失。ダブルエントリー機能停止。「・・・・終わった・・・・・」もったいないお化けも成仏だ。
 
 
 
<なんという友愛と慈愛・・・・!これが人の可能性・・・、やはり捨てたものではなかったな人類も・・・・>
なぜか発令所に入り込んでいるやたらに体格のいい清掃スタッフが感涙していた。
強烈な思念波を放ってくるが、全員スルー。その正体は超越存在アルマロスであるが、本人は完璧な変装が人類どもにバレてないと思っているので、ネルフ総本部はお達しにてスルーを徹底させている。そうでないと、ついこの見当違いの感想にツッコミたくなるため。
 
「友愛でも慈愛でもねえですよ、これわ!」・・・・・と、総出で指摘してやりたかったがそうなると後始末が大変なので知らんふりをする。「一部あるかもしれんけど、それが全部と言われたら!」「それだけで、こんなことできないでしょ!やれないでしょ!」と
言ってやりたかったが、まあ、それも惣流アスカ本人が望むかといえば、であるが。
 
<これは勝負がついたようだな・・・・さ、業務に戻らねばな。ワッシャーの充電もそろそろ終わったであろうしな>
外見がアレで物言いもコレであるが、仕事じたいは丁寧でそつがない。超越存在も自分の仕事に戻ったところで
 
 
そこから流れるように足四の字固めとか・・・・エントリープラグにダメージがいかないようにしてのことか・・・・ギブギブギブ!!シンクロ自体はしてるから痛いっての!
もう動かないっての!!降参!ギブギブぅ・・・油断しないオートパイロットはさすがだけどぉ・・覚えてろ時田の奴・・・あとで・・・・あー、あとはないんだっけか・・・・
 
 
「1,2,3,元気ですかーーー!!ダァー!!」
 
勝ち誇る碇シンジとシン:JA、ここだけみれば完全に仲良しパートナーに見える。
ここからシン:JAが碇シンジを排出して、踏んづけてくれないかしら、とか思う。
 
けど、JAの、時田が心血を注ぎ、連合のシンボルであるJAの裏切り劇場とか・・・
似合わないし見たくはない、か。
 
 
「うーん、強かったですね、彼。・・・・・・僕たちの次にですが!」
 
さらに調子アピールする。雑誌だかテレビで見たアピールをそのままやっているような浅さがこの上なくムカつくが・・・実際、強いのだからもう手に負えない最悪だ。
これだから碇ユイは・・・その血筋は・・・まあ。いいか・・・もう彼女はいないし・・・自分たちの血も・・・まともに残りそうだし・・・
 
 
「え?赤木ナオミさんは別にプロレス好きってわけじゃない?あー・・・それならー・・」
 
 
碇シンジの声も遠くなってきた。決まり手は足四の字とか・・・ひどい人生だった。
 
 
・・・ああ・・碇シンジ・・こいつも・・・道連れにしてやりたかった・・・けど・・
最後にJAがこの目で見られて・・・・サンバイマンカラーとかふざけてるけど・・・
好きなものに好きなものがのっかったものが・・・つくってもらえて・・・それは
 
 
 
うれしかった・・・・だから・・・みちづれにするのは・・・なしにしてやる・・・・
 
ほんとは・・こんなしまごと・・・・ふきとぶ・・・・じばくすいっちが・・・あるんだ・・・
 
 
こころのこりは・・・・・・・のろいを・・・とけなかった・・・・こと・・・
 
あたしたちは・・・・あんたの・・・・こどもじゃ・・・ない・・・・
こどもでも・・・・あんたの・・おもいのこりを・・・ひきつぐことなんて・・・・