ユトとタキローとはストックホルムの駅で別れた。
 
 
 
碇シンジと鈴原ナツミにしてみると、もう少し、日本に戻るまでくらいは一緒にいてほしかったのだが、諸処の事情でそうもいかなかった。ナオラーコらとも別ルートになる。
 
 
「あとは本職の皆様にお任せしますよ。僕たちは護衛もしないことはありませんけど、どちらかといえば調査の方が得意なので」
タキローが見るだけでも、物凄い数の護衛がついている。ネルフはもちろん、いつぞや襲撃してきた組織の方々もかなりの割合で。力の天秤は定まった。さすがにここでやったろう精神を発揮するようなところは長生きできない。名目上は、どこかの王族がお召し列車でどこぞに視察にいく、という建前。とりあえず、ゴッドスモウランド島を破壊することなく・・・オーロラが流れるような不思議な現象は起きていたが・・・無事に返却したので王家も全面協力してくれている。これ以上揉め事は起こさず、さっさとてめえの国にお帰り下さいね、ということかもしれないが。
 
 
「シンジさんは、ここいらじゃもう伝説の男ですね〜ナントカ神拳を伝承しちゃってる感じのレジェンド無双というか〜」
ユトとタキロー、特に、ユトの方は使ったことがバレるだけでやばい。ゆえに、その存在は隠蔽され、碇シンジは一人で一般人少女を守り通しつつ、そうなると無免許で車も走らせたということになったりするが、縦横無尽の大活躍。学歴を考えるとヒーローぶりがひどい。どこのロボットアニメなのだろうか。事実、巨大ロボットにも乗り込んでいたが。
 
 
「こっちで何か仕事を頼まれた、とか?」
そのあたりの常識はマヒしているのか、碇シンジの興味はそちらにあった。
 
「いえいえ、僕は基本的に京都からも出たくないので」
「わたしも、さすがに眠たいのでユイさまの元にもどりますよう」
正直な告白であるようで、妙なところで電光のように腰が軽い碇シンジを誤魔化したようでもある。繊細な仕事についてこられてたまるか、というのはあるだろう。
 
 
「ありがとう、ユトさん、タキロー君」
「あ、ありがとうございました!助けてもろうて、それからもいろいろよくしてもろうて」
 
碇シンジのぴったりについて鈴原ナツミが礼をいう。影を踏めるくらいのポジショニングはしとかんと凡人に捕まえられるタマではない。まさか彼女気取りとかではない。
ここから無事に日本に戻ってもらうんも自分の仕事、となぜか思ってしまうのは。
感化されてしまったのだろうか。
 
 
「またのご用命は・・・ご勘弁下さい。六分儀の他の者をどうぞご指名を」
 
「タキローちゃんほど出来て動けるのはいませんからねえ。どうせまたお仕事することになるんですから、もう少しお愛想しといた方がいいと思いますよ〜。それでは、シンジさん、ナツミちゃん。どうかお元気で」
 
 
ゆら、と頭を下げた、と思ったら、次の瞬間にもう遠く背中しか見えない。
 
 
「え!?ユト姉さん?・・・あー・・・そういうことですか、すいませんシンジ殿、ナツミさん、僕たちはここで。もう絶対に安全ですから、何も心配すること無く帰路についてください・・・あー、僕もまだまだだな・・・・」
 
からんっと、高下駄を鳴らしてみせたのはおそらく、照れのようなわざと。
 
タキローも雑踏にまぎれて消えた。もとより、そんな姉妹などいなかったというように。
自分たちとも、赤の他人であるというような。もう一度、靴がどこかで軽やかに鳴る音が。
 
 
碇シンジも手を振ったりはしない。ただ、その音を聞いている。
 
家について裸足になるまで、おそらく、その音ふたつが完全に守ってくれる。
約束の音。なにも心配することはない。戻り道で油断こいてるところ、後ろから刺されて「なんじゃこりゃあ!?」とか叫ぶこともない。
 
 
「うち、もう少し・・・お礼を、感謝を伝えたかったんですけど・・・」
 
会うことは二度とあるまい。袖振り合うも、とはいうが、この強烈な体験はなかなか咀嚼できたものではない。そもそも、おまけの自分の声など、仕事の邪魔にしかならぬのでは
ないか。そうも思った。なにかタイミングが狂っていたら、闇の底にいたかもしれない。
「何も言わない方が、よかったんですよね・・・・」
 
 
「なら、手紙を出せばいいんじゃないの?はい」
そう言って碇シンジは切手の貼ってある封筒を差し出した。
 
「もうしばらく時間あるし」
 
 
こんなものをいつ用意したのか・・・・けど、封筒はひとつ。
「タキロー君宛だけど、ユトさんのもいっしょにいれておけばいいよ。タキロー君が届けてくれるから」
「それは・・・・・」余計なお世話というものでは、と思ったけれど受け取った。
まあ、頼めば確実にやってはくれるだろう。簡単には会えない場所にいるだとしても。
 
 
「帰国してからだと・・・・たぶん、忘れちゃうから。あのふたりのこと」
 
そんなアタマ軽い女やないです!と言い返さなかったのは、そうだろうな、と納得していたから。ユトとタキローの顔ももうぼんやりとしてきた。そういう術なのか、これ以上巻き込まれないよう、心遣いされたのか。分からないなりに、思いを封書にしたためた。
 
 
ポストに投函。これがただの旅行ならば、家族宛なのだろうけど。いや、電子かな。
いろいろ規制あるけど、リアルタイム動画とかもあるけど。まあ、これはただの旅行じゃ
ない。だいいち、男子とか。シンジはんと、とか。ありえん。できればヒカリ姉さんと温泉とか。いや、まあ、もちろん贅沢言うたらあかんのも分かっている。無事これナンバー1。
 
ふるふる・・・体が震えてきた。いまさら何や。ぶるぶるぶる・・・帰れる・・・
 
うちにかえれる・・・かぞくにあえる・・・・父母じいやん、兄やんに・・・あえる・・
 
そう思うと。こんな遠くに、外国になんか来てもうて・・・自分が思いもよらんかったかたちで・・・さびしいさびしいさびしい・・・・ふるふるふる・・・・止まれ震え!
 
今頃これて、おかしいやろ!シンジはんも変な目で見てる・・・涙とかあほちゃうん?
 
 
 
「知らない駅だしね」
 
ハンカチとか出してきて、拭いてきた。小さい女の子にするみたいに。うわ・・・
 
二人がいなくなってから泣き出す、とか、思いきり不安になっとるのをさらしたみたいで、というか純度100%でさらしまくっとるわけやけど、不思議に惨めさはない。
中学ダブりだろうと、兄の親友だけあって、やっぱりあるわ兄オーラ。ケンスケはんもあるけど、本気出すとこっちの方がすごいな・・・まわりの人たちがみんな笑顔やし。
むっちゃ安心するわあ・・・・妹ポジション立候補しとるあの二人の気持ちも多少分かった。「今回は、大丈夫。アスカみたいにおいてけぼりくらわしたりしないから」
 
 
・・・・ん?今、なんつった?このヒト・・・なんかものすごいひとでなし発言を聞いたようなー・・・あの惣流先輩を放置できるとか・・半周まわってスーパー人類なの?
 
 
「ちゃんと、家まで送り届けるよ!」
笑顔で告げられて、なぜかさきほどの安心感がマッハ霧消。そこまではせんほうがええんちゃうん・・・そんな予感が閃いたのだ。
「僕が、責任を持って!あ、もちろんガードの人たちもいるけど!あ、剣崎さんポークさん、よろしくお願いします」
 
「うーん・・・もうひとり・・・二人居たような・・・送るのは君たち二人でいいんだよな?碇シンジ君」「はい、僕と、鈴原ナツミさん、2名です。剣崎さんたちなら安心ですね」「本当は加持に任せたかったんだがね・・・いやー恋人に使われるってのは歯止めが無くなっちまうのかなあ。あれは過労死するな撃たれるより先に」「もう諦めましたけど・・・私のコードネームはポークじゃないので・・・それで荷物はこれだけですか?」
「はい剣崎。・・・爆発?・・・・海上で?・・予定は変更せず・・・・了解」
 
 
 
「あとはもう移動するだけで日本につくから。寄り道の観光とか買い出しとかできないけど・・・通信も控えた方がいいみたいだから、みんなでトランプでもやる?」
 
もはや演技でも何でもなく、素で気楽な旅行者と化している碇シンジ。
目つきの悪いのとグラサンの黒服が同席しているのだから逆にそれはすごいのか。
 
「あまり油断はしてほしくないんだがなあー」「剣崎さんっ!シンジ君はともかく一般の女の子の前ですよ!もっとリラックスさせる言動をお願いします!」「黒服がついてる時点で諦めろよ。ヒットマンはどこに潜んでるか分からねえ」「護衛ジョークですから!安全ですから!ヒットマンとか潜り込まれる前に全部排除してますから!どうかご安心を!・・・・あ、ババ引いちゃった・・」「負けた奴は1万おごりといこう」「剣崎さんっ!」
 
 
「剣崎さんとポークさんは、諜報部の中でも五本の指に入るくらいケンカが強いんだよ」
「はぁ・・・そうですか」
 
どこで聞いたのか知ったのか、訳知り顔で説明してくる碇シンジがちとうざい。
それにケンカて。諜報の者としてそれは有能の証なのか?ポークはんはえらくババ引きが弱いけど・・・「賭け事なんて若者の教育に悪いですよ!だから全てノーカウントッ!」
列車内で叫んだりもしたけど・・・ま、まあ、護衛はこのひとらだけやないらしいし。
 
 
列車での帰路は順調。さすがにもうハリウッド的アクションとかいらん。
武装ヘリとか来るな。携帯ミサイルとかも用はない。さすがにもうええやろ。
この黒服のおっちゃんたちの見せ場が無くなったとしても。平和にトランプしといて。
 
 
 
もう何も起こらん・・・・はず。その、はず。うちのヒロイン役もこのままお役御免や。
うちなりに、まあ、一生懸命やったし・・・やれたんちゃうかな・・
 
も、もちろん惣流先輩や綾波先輩やったら、もっと華々しくやっとったんやろけど。
 
どうかな・・・・合格点はもらえますかね・・・ちら、と碇シンジの方を見ると・・・
 
 
「99?」
 
「え?そないな高得点はさすがに!」
 
「レベル99まで上げたかったなあ・・・的な視線でしょ、今の」
 
「レベルて!ここでレベルて!どんなガチゲーマーなんですかうちは!」
 
「いや、勇者はやっぱり僕たち村人とは違うし」
 
「しゃべるなや!!うちらだけの秘密にするトコやろ、それ!!永遠の!絶対の!」
 
 
 
「・・・・碇の坊ちゃんは綾波レイと政略婚約中じゃなかったのか?」
「いつ情報ですかそれ!剣崎さん遅れてるうー!それは解消されて今はー」
「それとも違う状況が目の前で展開してるわけだろ。歴史は動いた。俺たちが証人だ」
「今はゲーム内キャラクターで結婚したりするんですよ。剣崎さん遅れてるうー」
「いやポーク、そのグラサンをとって真実の目で見てみろ。ふたりの・・・絆を」
 
 
「とにかく秘密ですから!誰にも!特に兄と惣流先輩と綾波先輩には!絶対ですよ!」
「ナツミちゃんの活躍を黙っておくなんて・・・僕には・・・・君がもしあの時いてくれなかったら・・・この旅は・・・・」
「シンジはんの手柄にしときゃいいですから!うちこそレベル的にはただの村娘ですし。
・・・・・ええですね?うちはあくまでオマケで、シンジはんの3歩後をついていっただけですから!そういうことでよろしゅう!」
 
 
「なんてイイ娘!!今日日、めずらしく控えめで、男の子をたてて弁えてて庶民派で」
「加持のやつの惨状を見るに・・・本人達の幸せはともかく・・・坊ちゃんにはお姫さんたちよりゃ結局、こういう普通の娘の方が人生円満にいくんじゃねえかなあ・・・」
”狂犬”の異名をもつ男と「豚肉」のコードネームをむりやり与えられた男のささやかな誤解、勝手な意見が恐怖のはじまりになることなど・・・・
 
 
 
「ワイはむろん、親友を信じとる!シンジは・・・いろいろ問題もあるが、トータル的にごっつエエ奴や!ワイがくたばるまで続く、魂の!心の兄弟や!・・・けどまー、義弟になる・・・・なってまう展開がこないに早く来てまう、とか!?ワイはシンジを信じるし!そんなことはない!とは思うが・・・星空の下のディスタンスでナツミとふたりきりになってもうたら・・・そら、大概の野郎は辛抱たまらんやろ・・・日本人男子の好みド真ん中ストライクやからな・・・実は大阪弁バイリンガルとかもう最強やろ・・・それで生命の危険があったりしたらなおさら燃え上がってもうたりとか!?いやいやなし!メリーアン展開とかないやろ!?STAR☆SHIPに乗ってまうとかないやろ!?」
 
「なんでそんなにジ・アルフィーみたいなんだよ・・・大丈夫だよ、シンジを信じろよ」
「そうよ。危ないところを碇君が助けてくれたんでしょ?兄として感謝しかないじゃない」
「エヴァには乗らなかったけど、大活躍してたとか・・・ハッキングの源流を突き止めたとか・・・すごいですよね碇君・・・ジェームス・ボンドみたいな・・・・・あ」
 
 
この時点で、鈴原トウジが洞木ヒカリらとともに、第三新東京市に戻っていたことを
二人は知らない・・・・それが、新たなる惨劇の幕開けになることも・・・
 
 
「まさか、”兄者”と呼んでもらう日は・・・・こんよな?いや、ナツミがええんやったらワイが文句つけることでもあらへんが・・・・・あと5年10年は・・・じいさんのコト考えると5年のがええんか・・・とーもーかーくー!旅先での火遊びですまそうとかいう魂胆なら・・・ワイの拳が泣き叫んではおるが・・・ヤツを倒すしかない・・・」
 
「せめて信じてるのか信じてないのかハッキリしてやれよ・・・妹が可愛いのは分かるが」
「これを兄と呼ぶのが嫌でナツミちゃんのイイ話が流れないようにしないとね・・・」
「(・・・でも、アングラ掲示板で・・・凄い勢いでシン×ナツの話題が流れてる・・
誰か企んでるの・・・?今言っても鈴原君を動揺させるだけだし・・・うーん・・・)」
 
 
「謹慎。一応、これは謹慎なのよ。休暇じゃないの」
<弐号機をどう使おうが勝手じゃあないか、と言いたいところだが黙っててやる・・・謹慎といいつつ里帰りするのもおかしいが、まあ、突っ込まずにおいてやるか>
<沖縄がよかったのにー!とにかく泳げるところー!でも、現実的にはプールかなー>
 
惣流アスカがルンルンで荷物をスーツケースに詰めていく。「基本。そう、己の基礎を見つめ直すための、これは反省の旅なのよ」<じゃあ荷物くらいは扉の向こうでハンカチかみしめながら悔しがってるメイドと護手連中にやらしてやったらどーだ?>
<同行してもらっても良かったんじゃない?面倒なことは全部してもらえるし>
 
「いや。それがダメなのよ。あまり便利すぎると、精神に贅肉がつく。わたし一人で来た道を検証したりすることが大事なの」<私達、だろ。手の内は全部わかってんだけど?>
<お寺で座禅とかじゃないよね?わたしたち、普段、ものすごいレッドホットゾーンにいるんだから、こんな時くらい水遊びとかして精神の平衡を保つのは重要なことだよ?>
 
たまには、中学時代の友人と集まっていろいろたわいもない話をしてみたりするのも・・・来た道を検証する的な意見で、必要なことだろう。ヒカリに頼んで予定を組んでもらってたりするけど。未だに中坊のままの誰かさんにこれからの道を示してやるのもいい。
これは謹慎。遊びでもなければバカンスでもない。有意義なことをせねばなるまい。
ユイザとナルコの手前もある。その点、お土産のチョイスはちと神経を使う・・・。
 
「〜♪ブーランデーの鐘よ、ひーびけー」
鼻歌は鈴木結女メドレー。言い訳などする必要もないほどの激務を日々こなし、疲弊疲労しきったところで碇シンジの無茶振りを聞いた。鼻高々で凱旋してもいいのだが。
<いつの間にやら、そんな小物じゃなくなってるし、な><当面はアスカに任せておきましょう>相応の器を得た彼女は、いまや多くの味方を得ている。兵士少女Aではない。
短いとはいえ、誰に非難されることもない楽しい停滞。そんな時間があってもいい。
 
そうだ、第三新東京市、いこう。的な。
 
優しい友人達が、彼女を迎えてくれるはず。数多くの戦いを共に切り抜けてきた戦友達が。
そのはずだ。それなのに・・・・神も仏もいないのか、それとも戦女神に嫉妬されたのか
 
惣流アスカの素敵が約束されていたはずのキラキラシャイニング・バカンスは・・・・
大爆死をとげることになるなどと・・・この時は誰も・・・
 
 
「・・・・・え?は・・・?あの・・・聞き間違えてしまったようで・・・もう一度お願いできますでしょうか・・・」
「まだそんな歳じゃないだろうに。疲れがたまってるのかねえ、こっちにきたら大サービスで新品ホヤホヤにしてあげるよ。まあ、15%引きってところか。それで、もう一度だけ言うけど、碇シンジのことだよ」
 
葛城ミサトが綾波党の党首にして、綾波レイの祖母、綾波ナダと電話で話していた。
 
「こっちに派遣しておくれよ。あのロボ、初号機はいらないけど、碇シンジだけね。なんで、とは言わせない。赤木の小娘を引き取ってうちの女学院で留学生って建前で面倒はみることにしたけど・・・全員くせ者じゃないか、責任感の強い孫はたまったもんじゃないよ。もう500グラムも痩せちまって・・・ううう・・・どこかの無責任なお役人どもの後始末なのに金だけだしてあとは知らんぷり・・・ううう・・・このままじゃ責任感の強すぎる孫は倒れちまうよ・・・・って、ことで、事情を知ってるサポート役が欲しいんだ」
 
泣き真似なんかしているが、碇司令や冬月相談役と勝るとも劣らぬ人の皮をかぶった妖怪だ。その魂胆も容易に読めるものではない。ただ、言ってること自体は正しい。もろにこっちの弱みをついてきている。ただし、こっちの監視役は3日でダメにされてもいる。
綾波一統の本陣、しんこうべ。赤い目の魔キ。異能とか怪人とかが昼日中から闊歩する別世界。こうして話もできることは出来るが・・・・本音を見誤ればとんでもないことに
なるだろう。
 
「で、でも・・・・シンジ君は男の子ですし・・・しかもまだ中学卒業してませんし」
 
「別にイイだろ。学歴なんかどうでも。理事長のあたしが言うんだから、特別枠で転校させてやるよ。それで孫の手伝いをしてくれればいいから。貴重な人生経験になるだろ」
 
ムチャクチャ言うなこの妖怪ババア!!と怒鳴ってやりたくなったが、我慢する。
本気か?本気なのか?それとも年齢には勝てず、認知症のアレとか・・・組織のトップがなると悲劇しか待ってないな・・・「それでも・・・シンジ君の現在の保護者は・・・父親の碇司令でして」「ゲンドウならお前さんに一任するとさ」「マジか?い、いえ失礼しました、本当ですか」「本当だよ。なんせ女学院だからね、そこで妙なこと起こされると学院の評判にも関わるし・・・」「じゃあやめとけよ」「なんか言ったかい?」「いいえ」
 
「碇シンジ男の娘計画」・・・・・ぶちキレられて地球滅ぼされたらどうするんだ・・・・ビジュアル的には、いけんこともない・・・いや、ゲームの設定みたいだが女子しかいないはずの学校に「まあ!男子が!(花)」てなことであれば、別に女装する必要は無い。
学校施設的にどうなのか、と思いもするが、そこは教師用を利用させたりするんだろう。
 
本人の意思・・・・ではあろうが・・・さすがにこれは・・・・つい先日、ムリを聞いてもらったばかりであるし・・・「ただの転校なんだから悩む必要ないだろ。ある意味、男の夢を叶えてやるような話だしさ」これは魔女妖怪のささやき。かろうじて抵抗した。
シンジ君の女装見てみてえ!!とか思って唇を噛みしめて耐えてやった!えらい私!
 
「孫娘の体重が心労のあまりあともう500グラム、一キロも減ってしまったら・・・うちの連中も何するか分からないし、あたしも止めようがないからねえ・・・」
どんな脅しだ。しかもレイがそんなタマか。まあ、人間、得手不得手はあるが。
「ポテチとケーキを山ほど食わせて内藤陳さんのおすすめ小説でも読ませときなさいよ」
とでも言い返してやろうかとも思ったが、そんなスナック感覚で抗争を始められてもどっちの子分どもも困るであろう。仁義はあるはず。まだ。あちらとの間には。JA連合程度には。しかし・・・魂胆が完全に読めたわけではないが・・・あちらがシンジ君を、碇シンジを、評価しているのは間違いなさそうで。箸にも棒にもかからんガキを後継者に近づけたりはしないだろう。こっちへの嫌がらせ程度では絶対に。碇司令では判断保留にするしかない話だわ、逆にね。こーなると。どうしたもんかねー・・・・
 
 
 
このような血も凍るような人生トラップが待ち受けていることも露知らず・・・・
 
 
少年は少女を家に送り届けた。