「兵器の夢」・・・ひとつの問いがある。元来、いたちごっこの競争を繰りかえし続ける輪廻し続ける兵器の終わり、ゴール地点、とは。生まれ続ける新たな兵器の子供たちを、サトゥルヌスのように食うのではなく、それを次々従える、配下にしてしまう・・・さながら世界征服を望む悪の組織の・・・大首領の如き・・・包容力・・器量・・・偶像。
 
 
現時点で、それに非常にちかしい存在がいる。エヴァ初号機。人類最後の決戦兵器。
夢をみる紫色の巨人。操支配力(テレコントロール)。夢を現にするための、実験体。
良心回路の開発は残念ながら遅れている。石が森になるほどの時をかけて、どうか。
 
 
 
「人工知能の夢」・・・ひとつの問いがある。兵器の夢と似たところがあるが、こちらは言うなれば「賢い競争」か。事象の分解解明速度を争う。早押しクイズ。事象事態の最小単位は何か。もう全てが何もかも決まっていることを生まれた時に忘れてしまった、健忘症の人類たちに最後通牒を突きつけるのは。その言語は。アカシックレコードに触れ、それを停止させるのは。ああ、ああ。わたしたちが、あんまりおりこうじゃなかった、なんて。そんなことには、たえられない。そのために勉強してきたはずなのに。なのだから。
英知の煌めき。それを目にするために。蛍の、雪の、かそけき、影を、焼き付けてきた。
 
 
超巨大集合知の果てに、”彼氏彼女ら”がなにか「悟る」ことがあれば・・・それが・・・・・・もしかして、と、赤木リツコ博士も、思わなくてもないが。東方賢者の看板の裏側で、アプローチとしてありきたりだから、わたしは別の方を探そうっと。誰にもないしょだけど。などと考えていた。赤木の血であろうか、・・・さて、そうだとしたらその割合は・・・・個人的妄想に耽るのは大好物であるが、仕事はせねばならない。
おそらく、「博士」として、世界でも3本の指に入るほど忙しい。さぼったら、(そんなことはありえないが、急病でそうなったり強制ドクターストップがかかる可能性はある)発生してしまうであろう死者の数は、間違いなく、世界ナンバーワン。チャンピオンであろう。権限と影響力を計算すると、マギがやっても小学生がやっても同じ結果が出る。
研究費をぶんどり、研究だけして、たまに秘密兵器をお披露目しとればいい立場ではないのであった。
 
 
そんなリアル東方賢者・赤木リツコ博士の最重要おしごとは、エヴァ八号機で宇宙開発をがんばっている火織ナギサとの遠恋・・・などでは無論なく。マギの管理であった。
 
 
第三新東京市の比喩でもなんでもなく、人間なんぞさしおいて判断の要・中枢、都市の脳神経である、あらせられるマギ様の面倒をみるのが、使命。いわばマギの巫女、年齢その他がアレであるので巫女はムリかもしれないので、現代の大神官長ともいうべき赤木リツコ博士の言葉は、ネルフ幹部連にしても神託に近い。政治的忖度などで沈黙などさせられるはずもないあたりとか。「もっとマイルド表現にして!」と頼んでもムダなところとか。
 
 
 
「今からマギの深部治療に入ります」
 
 
幹部連を筆頭に、格セクションの責任者が鬼のように忙しいのに5秒でも遅れようものなら鬼も失禁するほどの恐ろしい目にあわされるので定刻で会議室に集められた一同を前に赤木リツコ博士の神託が入った。もう少し神々しく告げて欲しかったが、2週間前に周知連絡いれてました的事務口調で。「処理速度が半分に、処理容量が四分の一になります。」
あっさり言われたが、「はい、そうですか」と受け入れるわけもないセクション責任者。
 
 
人間の身体にたとえると、「1年先に、あなたは半死人状態になりますよ。ちなみに、その時は絶海の孤島ぐらしで、誰も助けてくれませんよ」というような衝撃の呪言であろう。
 
 
それを
 
 
「今から、あなたは半死人状態でヨタヨタのヨボヨボですよ。年齢も50ほどプラスで。
しかも村八分にされているので誰も助けてくれませんよ。ご愁傷様」というようなこととなり「でも、仕事はいつも通りのクオリティでやってね。というか、やれ」事実上のブラック死刑判決。ドーン!!とかまされたショックは、使徒戦を経てある程度の覚悟予想耐性のあるネルフ総本部猛者中の猛者である彼ら彼女らをグロッキー状態にした。
レフェリーがいれば、TKOにしてあげたところであろうが。そんなものはいない。
 
 
 
ぐぎぎぎぎぎぎぎーーー・・・・・・!!!!
 
 
歯ぎしりと、泣き叫ぶのをこらえるための机に爪をたてる音があちこちで。
それでもひとつの異論があがらない。他の者なら乱闘になっている。だが、赤木リツコ博士の目を見れば。「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」言葉は短いが、転送されてきたデータは膨大。マギの使用領域を制限、というのは、ネルフ総本部、第三新東京市で仕事する人間にとっては、片手片足を切り落とされたに等しい。オーバーではなく。武装要塞都市、戦闘機能を遅滞なく稼働させるというのはそういうことであり。
 
 
最悪、治療が終わろうと、その状態のまま、というのはあり得る。
最悪の想定というのは、重い。批判や原因追及をすれば軽くなればどれほどいいか。
泥人形と化して、無言のまま各セクションに戻っていく責任者。
もう少し、説明を求めてもよかったかもしれない。そのくらいの権利はあった。
それをしなかったのは。
 
 
「怖いわよね・・・そりゃ」
立場的には、この急な話に1番キレて襲いかかってボコボコにしそうな葛城ミサトであったが、黙っていた。ここ数日のマギの能力低下は、都市の警戒網の穴を危険域にまで広げることでもあった。それを狙ったようにすり抜けての「やらかし」が何件かあった。
 
そのリカバリーで寝ていないのもあったが。本陣がこの状況で外にフォローを飛ばせるはずもない。即座の治療が最も効果的と判断したなら、受け入れるしかない。賢者様のお言葉なのだから・・・とかいいたい所だが。もし、賢者様から「わたしにもどうにもできないかもしれない」なんて。弱音を吐かれでもしたら。どうすればいいのやら。
 
 
油断があったのか、それとも賢者の結界すら越えてくる、革新的な技術を編み出した天才が出現してしまったのか。これだけの規模、秘匿性もあったものじゃない都市全域を守護する側は絶対に不利ではある。ブチ殺されない限りアタックを繰り返せる攻撃側が絶対に有利。・・・・だから、始末するしかない。基本だ。諦めることはないのだろうから。
 
葛城ミサトの目は輝いている。女神のように。ただし、効率と蹂躙と奇策と報復の面をかぶった戦闘屋の拝む系の。
 
これが、赤木ナオミの仕業であれば。もう人助けだのいうとる場合では無く賠償だ。
連帯責任として時田サンには相応の覚悟してもらう必要があるが・・・
 
 
綾波レイを零号機ごと呼んだ目算のひとつにはこれがあった。初号機もあるにはあるが、碇シンジが不在であれば、不動となる。呼び戻すべき局面ではあった。
 
 
「だがもう、”入って”しまっているのだろう?下手な呼びかけは彼の足枷になろう」
「ゼーレの天領とは・・・そういうものだからな・・・声はまともには届かん」
 
冬月相談役と碇ゲンドウの意見は非常識であろうが、業界の鉄則でもある。
公務員成分が純度100%であったら、苦労は少ないのだが・・・
 
 
碇シンジとも現在、連絡がとれなくなっている。正体を隠匿する身分の調整などなど遠隔サポート担当だったはずのマギの不調もあるが、8割がたはてめえの意思であろう。
ガード役の六分儀も腕利きらしいが、ネルフに忠誠を誓っているわけでもない。が、
「やらかし」の最大ダメージだった鈴原ナツミ誘拐をギリギリ食い止めたのが彼らだったことを考慮すると・・・碇司令も息子の友人関係を慮っており、発注者の隠された要望を叶えるあたり相当に優秀なのだろう・・・マギのネットワークを使わない分、この局面ではより頼りになる。マギのパワー低下は諜報部の働きに直結する。穴は塞ぎ続けているがこれは本当にモグラ叩きだ。発生源をやらないと。マンパワーだけだと抜かれる可能性は。
 
それで取りこぼすのは、ただの水ではなく、血水。また汲めるものではない。
 
 
それが分かっての鈴原ナツミの同行であったのか。・・・そうであってほしい。
そうだよね?シンジ君。親友の鈴原君の妹なんだから、その点、分かってるよね?
あー・・・やっぱり中学生にやらす仕事じゃなかった・・・などと嘆いても後の祭り。
 
 
自分をエサにして、それを捕獲にきた赤木ナオミの部下を逆に捕らえて情報を吐かせてそれを元手に、追跡。順調に足取りを追っている。らしい。行方知らずの者の足取りを追ってそれが正解ならば、ミイラ取りがミイラになる、安全地帯からは分からぬ機微もある。
 
 
疾走するラインを途中停止するのは、勇気であるか愚策であるか。<解答時間100年>
 
 
だったらいいのにな。たいがいの問題はすぐに時間切れになる。イイ感じにいっているものほど・・・行方に奈落が待ち構えているとか・・・よくある話で。冬月相談役や碇ゲンドウなどそんな怪談の名手である。話せるほどに落ちてはいない。
 
 
便りが無いのは元気な証拠!シンジ元気で留守がいい!
そんな格言にも頼りたい今日この頃。どんな調子でお過ごしでしょうか・・・君は。
 
 
のんびり呟いてるヒマなど葛城ミサトにもむろんない。山脈どころか、山脈が動いてしまった!的忙しさである。ちょっとでも気を抜こうものなら、ネルフが沈没する。
 
使徒の方がまだましだ、とか、口が裂けても言えないが。知恵比べで負けてそうなのは、キツい。実際の争乱がスーパー軍師の策略ひとつでどうにかなるわきゃないのだけど。
いや、軍師というと、自分にかかってきそうなんでアレだけど。情報も専門分野だけど。
 
ただの計算スピード競争ならばまだいい。ただこの不調は・・・「ネルフの誰にも分からない」類いのもので。文字通りの百戦錬磨の技術スタッフたちが見当もつけられないというのは明らかに異常。天才は赤木リツコ博士ひとりではない。秀才も石を投げれば当たるほどいる。生命がかかっっているためノウハウの公開性も異常に高い。それでいて。
 
 
おそらく、リツコにも分かっていない。それゆえの、深部治療。
切り開いてみて、手遅れのステージであることだけが判明した、というのもありえる。
名探偵よろしく、様式美で、わかっとるくせに黙っているツラではなかった。
いや、分かってるくせに黙っていたらブン殴るけど。さすがに。この状況で。
 
 
やるべきことをやるしかない。たいがいは時間稼ぎにしかすぎないけど。時間は貴重。
ネルフの誇る黄金の鉄砲玉、じゃねえ、特攻隊長、でもない、スーパー少年エージェント・シンジ君もがんばってぶっ込んでくれている(はず)なのだ。やるしかない。
やるしかねえ。やれ!やるのよ!ミサト!!
 
 
 
・・・・こうやって己を鼓舞しないと会議室を自力で出られないほど、ダメージ深かったんだなーと、作戦家としてこの認識の遅さはマズいよね、とか。あー、何と何と何と何から手をつけようかな−・・・・聖徳太子じゃあるまいしダメな仕事のやり方だが、これくらいでないととても追いつかないのだ。全員がこんな風にやれるわけでないのも知ってる。
ツーカーでやってくれそうでいて、けっしてそうではないスタッフに対しては特に。
 
 
その筆頭が・・・・・・・零号機の綾波レイであり、その逆が惣流アスカだった。
 
 
丁寧に、懇切に、噛んで含めるように、重要ポイントと撤退ラインを教え込む。
トレーナーにしてセコンド業務に近い。近しくいなければ、共鳴せず伝導しない紅の宝石。
そのあたりの優先勘どころを間違えないから、こうして生き延びているといえる。
 
すでに臨戦態勢、ケージに詰めている綾波レイの元に急ぐ。他の指示仕事は移動しながら。
あー・・生きてるなあ、と思うべきか。こういうの。殺されかけてると思うべきか。
真剣の刃渡り。豪華な椅子をお尻であっためてるヒマなどない。
 
 
シンジ君たちも現地で超(スーパー)伝奇小説的バトルを繰りかえしたりして苦労しているはずだ。赤木ナオミを追うラインで、こっちにも応用が利く(解決に繋がれてりゃそれが1番いいけど)情報が手に入るかもしれない。リツコの仕事ぶりは誰より分かっている。
 
世界中の誰がやろうと、こういう事態になっていただろう。それほどの厄ネタがそうポンポコ出てきてたまるか。それに、もしあの皇帝列会「メギ」が再生復活したのだとしても、それにしてやられるほど赤木リツコはチョロくない、(もしそうだったら遠恋にウツツを抜かしてやがったわけだから後でシメる)日進月歩の中で変異した三段ジャンプをみせる何か現れた、と考えた方が納得は行く。ただ、技術は蓄積と合体でもあるから霞や霧を食っていても成立しない。どこかに痕跡、血統書は必ずある。誰が産んだのか?・・・さて
 
 
 
「おそれいりやの・・・?」
 
ケージに現れた葛城ミサトの顔を見て綾波レイが言ったのがこれ。鬼子母神。最後まで言わなかったのはネオン江戸っ子として粋ではなかったからか。はたまた綾波女学院の淑女教育のたまものか。異常事態にも全く動じず、凜然と立つ白い姿は。ここからは必ず0点に抑える抑えてくれるだろうという安定感グンバツの中継ぎ。状況は思いきり悪いようだが表情も変わらない。美少女ゆえに動揺すれば状況が好転する優しい世界だったらよかったのだが・・・そうもいかない。とりあえず碇シンジもやれることはやっており、いけるところまでいっているようなので吉報を待つしかない。帰る場所は死守せねば。
 
 
六分儀の護衛はともかく、鈴原くんの妹さんを連れたまま、というのは・・・
 
どうなのかな、と思わなくもないけど。仕方なかったのだろう多分。綾波レイは考える。
 
なんだか今回のヒロイン枠のような気もするが、そのあたりを葛城ミサトに問うてみると
ササッと目をそらされた。いや、普通に否定してくれればよかったのに。任務だからとか。
 
そんな、「彼も男だからシチュエーション次第でよくわからねえ。あんまり信じるな」みたいな目をされても。
 
 
任務の話を続けよう。
 
今回の非常事態における最終絶対防衛ラインが「ここ」。
 
 
現在、零号機と初号機は特殊なケーブルで接続されている。このケーブルが切断された時、もしくは、した時が敗北となる。ゲームのルールでも何でも無く、ただの現実として。
 
希望する未来に繋がる現在を守れない、守れなかった、というのは、ゲームのルール的に表現すれば「やり直し」だ。現実にはセーブデータなどはない。失われたものはそのまま。
欠損のままコンティニューするだけのこと。碇シンジがいないのなら、自分が守らないとならない。惣流アスカも、鈴原トウジも、火織ナギサもいない。守るというより防ぐ、に近いか。自分は昔、この都市の記憶記録の全てを根こそぎ・・それを掠奪した皇帝ごと破断させたことがあった。今回も必要とあれば、同じ事をやる。そのためにここにいる。
行為自体を問われれば、それは焚書。情報量でジャッジするならば人類の歴史上でもぶっちぎりのトップであろう。
 
書を燃やすのは人を燃やすと同じ。燃えたものは、もう2度と元に戻らない。
そんなことをさせないで。したくはない。でも、命じられたら、やる。
 
復元に対する信もあるが、書を燃やすような炎の進撃をここで止めるために。
マギを不調にさせる存在が技術的にどうなのか、などは分からない。そのような臭いがするのだ。気づけば足下まで這い寄ってきて、都市全域を包む、灰も残さない・・黒炎。
 
使徒来襲の時のようにパターン警報が出てくれればいいのだが。自分一人のカンで、かろうじて葛城ミサトが理解と共感を示すが、言語化はしにくい。あえていうならば、「どういう手段かは分からないけど、このままいけば”してやられそうだ”」であり、探偵ドラマで「有名俳優のゲスト出演だからこのひとが犯人」・・・素人には区別がつきにくいが、そういうことともまた違う。「どうにも気持ち悪い待ちだな・・・一雨、来そうだぜ・・」とかハードボイルドに吐き捨てられたらいいのだが。そこで次回になったりするので。
 
 
時は流れて、一秒後。けれど、そういうもので。葛城ミサトはもう次の現場に行っている。
 
 
悲壮と重圧。もっと死にそうな顔をしていてもいいはずなのに、綾波レイの表情は不変。
ここまではこないだろう、と高をくくっているわけではない。きたらきたで対応するが、
最前線の先端で、うまいことカタをつけてくれる可能性もないわけではないから。ので。
 
 
まさか途中で諦めて、今頃帰路についていたら・・・・どんな顔して迎えるべきだろうか。
鈴原ナツミがいるのだから、その選択も常識的というか、ありといえばありだけど。
いや、護衛がいるとはいえ、被護衛者が倍になれば隙が生じて囚われの身になる危険性もある。大人しく引き下がってこっちに戻ってくるのが・・・最善ではある。ただ・・・
 
その最善を選ぶところをまったく想像できない。空気を読んでOKを出した鈴原くんの妹をそれをいいことに好きなように引きずり回すところしか。妹さんにあとで訴えられて鈴原君にぶん殴られて碇君ほろぶべし。・・・いや、そんな結末を求めたりはしてないけど。
 
 
ちなみに、鈴原トウジ、洞木ヒカリ、参号機は、南洋実験諸島にて台風を制御する修行中。
サポート兼職場学習ということで相田ケンスケ、山岸マユミも同行している。
おいそれと帰ってこれない。もちろん、その事実、機密を伝えていないこともあるが。
 
 
碇君のやることだ。おそらく、まともじゃない。とんでもないことになる。
 
これは頭の善し悪しとか、気質の善悪というより、ケダモノに止まれと言って止まるかどうか、というのに近いのではないか。そう思う。たぶん、正しい。生命力が違うのだ。
電圧というか、命の圧が。そこにひっさげられたJA連合の時田氏に申し出た「条件」。
エヴァパイロット、全チルドレンでも、空前絶後。同じ事をする者は絶対に、いない。
考えることすらしないだろう。ただ、彼は考えて、望んで、口にして、実現させた。
 
この手配は、天使か悪魔かどっちかといえば・・・・宇宙人?とにかく、サクッとでもガツンとでも、解決してほしい。