月孔城


と、その場所は呼ばれる。人類補完委員会直轄試験場、バイオスフェア�靴涼羆�に位置する、渚カヲルの住む場所。遥か昔の隕石跡。月に対応して輝く、白銀の聖地。
古くからこの地に生きてきた民たちが人外の場所として崇めてきた、空間。
貴重なテクタイトが産出する、地球の要所であるが、血の流れたことは一度もない処女地。


こんな場所に住んでいれば、誰もが不思議になる



「ただいま・・・・」



顕微鏡で確認するような殺人的スケジュールをこなして、渚カヲルがホームに帰ってきた。ようやく、留守にしていた間の仕事を片づけ終え、平常のスケジュールに戻ったのだが、それでも多忙なのには変わりがない。第三新東京市での生活など、まさしく「ぐうたら夏休み」のようなもの。
使徒との「戦闘」すら、四号機を使用しての「管理」に比べたなら、まだ楽だった。


やはり、常人とは次元の違う場所に住んでいるのだ。この少年は。



だが、愛されている。



「オカエリダ」
「帰ってきましたか、キャプテン」

異形の影が出迎えに立っていた。人間では、生き物では、ない。鋼鉄の人型ロボットとクリーム色の肌をしたアンドロイド。


「ただいま、グラッグ、オットー」
渚カヲルがほおえんだ。


ここで話は変わるが、「キャプテン・フューチャー」というSF小説、世界初のスペース・オペラをご存じであろうか。エドモンド・ハミルトンという人の書いた、大層面白い小説である。この人の奥さんが「スターウォーズ」の脚本を書いたのだ。
それに出てくる、月面に住んでいる正義のヒーロー、キャプテン・フューチャーの仲間、フューチャーメンの鋼鉄ロボットとアンドロイドの名前が「グラッグ」と「オットー」なのである。おそらくは、そこから命名したのであろう。日本でアニメになったこともある。
渚カヲルの両親が、生前、その天才ぶりを発揮して造り上げた、「人工生命」への階梯の一つ。
ではあるが、遺憾があった。未完成なのである。
完成させる前に遠い所へ旅だってしまった。渚カヲルに残された遺産。


グラッグは確かにこのサイズでは計算間違いなんじゃないか?と思うほどの力があるが、
頭が悪い。人間の方で、不自然なほどに分かりやすい命令を出してやらねばならない。
オットーの方は、なかなか口も達者で、自分で「その本」を読んで真似するくらい学習能力も高いが、未だ変装能力を実現出来ていない。運動スキルもスポーツマンレベルでは、まだまだという所だ。

他にも、E・E・DOC・スミスの「レンズマン」から名の与えられた、体長二キロメートルのミドガルドオルム種の巨大竜蛇「ウォーゼル」、体高十五メートルのバッファロー、「バスカーク」・・・・・そのような数え上げればキリがない生物群・・・・・がいる。

この大地でやることがありすぎて、コメットやブリタニア二世号で宇宙を駆けめぐることは叶わぬだろうが・・・いつしか、彼らが人のいけない場所のことを教えてくれる日がくる・・・・


それから、そのような科学による「創造」だけでなく、「会社」まで興していた。
その名も「不死販売株式会社」。カムフラージュのためのダミー会社ではない。
渚カヲルはそこの筆頭株主であり、個人には多すぎるほどの資産をもつ世界で一番金持ちな十代でもあるのだった。


ここにはそのような「遺産」たちがけっこう、生きている。



天才なだけに、イナズマのように移り気だった少年の両親は、ある程度完成の目星がついてしまうと、他の題材に乗り換えてしまうという悪い癖があった。
常人が五歩も昇れば、ぜーぜーいう階段を楽々、九十八歩まで駆け登ってしまう。
その神人レベルの才能に、ゼーレすら苦々しく思いながら口には出せずにいたのだ。

その死後、脳だけを摘出し、人格は廃してマギレベルのコンピュータに接続し「生きている脳」として思うように操ろうとした計画があったが、そのような思惑すら、その天上な天才夫婦には通用しなかった。迅雷の如く、故郷の土になった。ある人物の手も借りて。


「カヲルちゃん、あとはよろしくね」


そんな感じだったらしい。

毎日がハッピーで、科学者のくせに悩んだ顔など見たことがない、息子の名前を「ルンルン」にしようかと、冗談抜きで・・・・その時だけは悩んだらしい・・・・考えていたような、そんな両親。ドグラマグラなゼーレとは対極にいる存在だったわけだ。


そんな両親が残した、未完成の家族を守らなければならない・・・・どんな形であろうと
世界でもっとも風変わりで大きな愛情を。渚カヲルには若き城主の風格がある。



一時間しか眠らない城主の寝室には、まだ明かりがともっている。
世界中探しても、もはやこの少年に「眠れ」と命じる者はいない。



世界の見る夢を



ネルフのロゴの入った水筒を台の上にもってくる。綾波レイに贈られたものだ。
その中には・・・・・水筒を傾ける・・・・・・・水がこぼれるはずだ・・・・

が、中からは・・・・冷気を伴いながら流れてきたのは・・・・・スライムゼリーのような「氷」だった。「柔氷」という。ネルフの大深度地下施設の一つ凍結樹海「ニフの庭」にのみ存在する不思議な「氷」。それを持たせた綾波レイはいつぞやの約束を守ったのだが、これは土産のつもりだったのか、霧島教授が言づけたのか、それは分からない。


そこに凝縮される膨大な「時間」が、少年の赤い瞳を冷やしていく・・・・・


それは、綾波レイのせめてもの気遣いだったのかもしれない。離れてはいても、同じ階梯にある者に伝え、教えること。


「明日は・・・・・曇りかな」

ちらっと見た、エヴァンゲリオン晴り降り人形は零号機だった。








第三新東京市 再開発地域 幽霊マンモス団地 402号室


綾波レイ


今日は満月なので、一晩中起きていなければならない。街に満ちてくる「声」がここまで押し寄せてくる・・・・・ねむれない。このところ、ねむりが・・・・少ない。


自分の裡に入った・・・・・碇君の記憶・・・・・・・それが・・・・



雨の続く道 灰色の壁 傘さす親子・・・・・頭を打ち続ける・・・・血と包帯
粉々に砕かれる弱者の心
狂う視界 弐号機をころしかける初号機 それを見ている自分 初号機の頭部に照準を合わせた


凍結する銃把



使徒は殲滅された


わたしは・・・・・何百もの昏い波紋が水の形象を乱していく・・・・・散っていく


あのとき・・・・・



開かれたベランダから月の光が満ちてくる。赤い瞳に満ちてくる。
ここまで狂い咲いた白い夕顔。蒼い影。灰色の夜音。しずかな。


どうすれば・・・・・


迷っているの わたし


その言葉を口にだそうとして驚く。風が、まだ止まない・・・・

碇シンジと惣流アスカの疾風が。使徒を消し去った後も吹き抜けることなく。

風の音を聞き続ける・・・・・・が、それは意味を形成することもなく、奈落に消える
そこまではいい。それは少女を惑わせはしない。


やがて、闇で終わる・・・・・そのあとだ。蒼い蛍火が目の前に現れる。ふらほらと。


赤い瞳が瞬きもせずにその光を見つめる。光の意味するものは・・・・・「綾波レイの心」

碇シンジの心象の中の「綾波レイの心」・・・・ふら、柔らかく、穏やかで、寂しげな、ほら・・・しーんと澄み切っていて、水のような、光・・・・だと


じっと見つめていると・・・・・かえらない光 ルシフェルの燐光


自分の中に、そのような心はない、と知っているから。同時に、碇君がそれを見ているということは・・・・・自分の中にそれがある、ということ。対真存在。


赤い瞳がひとつ、まばたきした


螺旋反転 じ、じ、じ、反応するのにしばし時間の


かかるのは
浮き上がる青い光雲のるみね

蛍光灯のような


碇シンジの心



ただ、知らないだけ わたしも、碇君も



じゃ、だれもしらないの 百の水鏡の中に存在する・せるふ


きえてほしいのか、きえてほしくないのか、自分の中から




ざわざわざわざわ・・・・・・・汐声が大きくなってきた・・・・街から押し寄せる声
白い泡 ホワイトノイズ ・・・・・・しゃわしゃわしゃわしゃわ・・・・海蝉の音
くりかえしくりかえし・・・・・ごぽごぽごぽ・・・・・・しおをまねく月の光
すらーじゅ・まりあ どこまでもつづく なみうちぎわで朝になるまで耳をかたむけていなければならない よそみをしていると波にさらわれて 二度ともどってこれない
何万人分の心声(シンセ)、集合意識・・・・それは自然現象に等しい、もうひとつの海。



たとえ、自分をみていても 境界を





・・・・・・綾波レイは、「暴走した初号機の頭部を撃ち抜くべきだったかどうか」
という、碇シンジが聞いたら泣き出すようなことを考えていた。



ファースト・チルドレンはいつも誰も知らぬ青ざめた籤をひく・・・・・


蛍を・・・・忘れてしまっても

 

止められるのは、私だけ・・・・・だから








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「さて、と。これで厄介な666結界にもバックドアの取り付け完了ね。ふふ・・・・・”ヘヴンズ・ドア”ならぬ”ヘルズ・ドア”、というわけ・・・・ふふふのふ」



午前四時四十四分 日本 第三新東京市 ネルフ本部



ネルフの誇るスーパーコンピュータ・「マギ」にハッキングが行われた。その侵入者の前にあらゆる防壁、警報は回避され、無力化された。マギの専任オペレータ達も、その侵入を感知することはおろか、データが改竄されていることにも気づけなかった。



「さーてと、次は・・・・・」

侵入者は圧倒的な力をもっていた。やすやすとマギに入り込んだと思うと、らくらくと最重要機能の一つである「666結界」のプログラムを書き換えてしまった。
バックドア、というのは出来上がったプログラムのテストを容易にするためや、または緊急時の為に、あらかじめプログラムの中に設けられている仕掛けのことである。
くだいていうと、製作者用の裏技のようなものである。
侵入者はマギの中でこれから好きなようにデータを漁りにかかる。
東方の三賢者の名をもつ、このスーパーコンピュータはその筋の人間にとっては、まさしく宝の山であった。ネルフ本部、そして第三新東京市の脳みそをまるごと手中にしたようなものである。が、それだけにセキュリティも世界最高レベルのものが使用されている・
・・・・のだが、実際こうして易々と破られてしまった。



全世界のコンピューター・アンダーワールドで畏怖と恐怖と敵愾心を3・6・1の割合でその名を呼ばれる「マギ」が、である。



マギが生まれてよりこの方、その存在をどこやらで知った世界中の悪名高いハッカーたちが征服してやろうと愚かな喧嘩を売り続けてきたのだが、一度として敗れたことがない。むろん、それを企んだ中には国家組織レベルのものもあった。

それは珍しいことではないどころか、いってみればマギの日課のようなものだった。
かかってきた手を逆手にネジって情報を吐き出させることも、楽しい日課であった。
ウイルスだのワームだのをまき散らしにくる阿呆に、十倍返しすることは週二であった。ネルフのオペレータが「水・金」といえば、それは「生ゴミの日」ではなく、「ウイルスをたたっ返す日」のことである。


なぜそのようなことをするかといえば、やはり「マギ」が人格移植OSを搭載した形式であることに深く関連があるかもしれない。第七世代の有機コンピューターであることは、他の北京だのシリコンバレーだのにある、コピー・マギ「マギ弟子」たちがそんなことをやらないことを考慮すると関係ないかもしれない。さらにいうと、システムアップした人間の人間性も関係あるかもしれない・・・・・。


どこらへんが「東方の三賢者」なのだろう、という所だが、きちんと「賢者」らしいところもある。


いいかげん、マギが、努力や執念が通じたこれまでの相手とはケタが違うのだ、ということを認識され始めた頃の話である・・・・・赤木博士も少し、若く、自分の才能に笑いが止まらなかった時期のこと・・・・


よせばいいのに、MITの血気盛んで優秀なコンピュータ研究者のチームが「マギ」攻略のための超高速高性能コンピュータを造り上げて挑戦してきたのだ。もちろん、偽名であるが、ネルフにはバレバレであった。中には有名な闇BBSのメンバーも入っていたようだが・・・・電脳世界には国家の枠組みなど存在するようで存在しない・・・・ただ、知的チャレンジ心が旺盛だったのだ。「マギ」をどこか敬意を払いつつも征服するべき山脈「最高峰」のように見ていたのかも知れない・・・・データを(大量には)盗む気はなかったし、むろん、破壊クラックする気など毛頭なかった。彼らもコンピュータが好きなのだから。ちっとばかし中に侵入して、旗を立てる代わりに<ピンポン>のような冗談ウイルスでも残しておこう、と、その程度の目的だった。



だが・・・・しかし・・・・・その「日」が悪かった


その日はマギシステムの生みの親、赤木ナオコ博士の命日だったのだ。


十二月二十四日 クリスマス・イブ


報を受けた喪服の赤木リツコ博士の目が冷たく・・・・・とんでもなく冷たく光った。


結果、恐ろしいことが起こった。


人類補完委員会の緊急特別召集会議が始末をつけるほどの・・・・。
その事件は今でも裏世界で「賢者の贈り物」事件として語りぐさになっている。
加持兄弟がこの業界で名が売れ始めたのもこの事件がきっかけだった。
「あのころは・・・・まだ若かったわね・・・・」
たまぁに赤木博士はその当時のことを回想して、つぶやいてみたりする。
葛城ミサトもまだ若く、ピキピキのパツパツであった。


ともあれ、マギの恐ろしさは裏の世界中にサイババと知れ渡った・・・。


伊達に世界の中枢に位置していないということだが、そのために、「伝説化」してしまい、中に侵入を果たした者もいないということで話にリアリティがなく、「マギ」の名は有名だが、実際にどれほどの代物なのかを知る者は皆無なのであった。
カスパー、メルキオール、バルタザール、という三種三体に分かれていることすら、殆ど知られていない。
公的に存在は明らかにされてはいなくとも、その能力たるや世界に冠たるものである。
それを探るために敵わぬのは百も承知で今日も今日とて愚かなハッキングがくるわけだ。あらゆるウイルスが通用しない、その秘密だけでも手に入れたい者どもが群がる。



そんな基本的なことさえ、その他の者は叶わぬのに、444の並んだ時に現れた侵入者はマギ・オリジナルのみが最終防壁として持っている、あらゆる攻性侵入を防ぐことの可能なマギの最大奥義「666結界」にまで手を加えることが出来た。誰にも気づかれず。
その楽勝さはここまで自分の「勢力圏・スフィア・オブ・インフルーエンス」だといわんばかり・・・・。身の程知らずの侵入者の脳みそを天麩羅にするべきシステム・ICEもぴくりとも稼働しない。イントルージョンをカウンターしないのである。


「パーティの準備をしましょう。大勢のお客を呼んで・・・・・・そのために、もう少し”間口”が広いほうがいいわね」
またしてもプログラムに改変を加える。マギのメインICEと「免疫システム」がわずか数分でダウンしてしまう・・・・・恐ろしい速度だ。人間業ではない。その上、システムを随の随まで知り抜いてなければこうはいかない。どこで発見したのか裏コードを使用している。すぐには異変に気づかぬように、表層は元気に振る舞うよう演技指導を加えて。


「ふふふのふ。腐肉に集る・・・・蠅の王・・・・・」



何重にもプロテクトのかかっているネルフ本部の最高機密、使徒との戦闘記録・・・通称「函」にその手をかけた。わずかの躊躇も抵抗もなく開けられる・・・・。

「バールのようなもの・・・・・でね、と。あー、つっこんでくれる人間がいないから。
ヘドバでも呼んでおけばよかったかしら。本部の皆さんは全然気付いてくれないし、退屈な作業になりそうねえ・・・・・」


軽口を叩きながらもその殆ど涜神めいた侵入速度は刹那も衰えない。


「あらららら・・・・これはいけませんねえ。情報操作の幻魔大王と謳われた碇ゲンドウにしてこの油断。トラップの一つも仕掛けてないじゃないの。いくら「マギ」だって人間の造ったもんなんだから完璧ってことはないのにねえ・・・さアて」

侵入者の女神のような甘指が「函」をくすぐりよがらせて、自ら全ての情報を献上させる。
機械の賢者をもデロデロに犯してしまう麻薬で爪を塗らしているのか。
何が狙いなのか、侵入者がその気になりさえすれば、「マギ」を内部から心臓発作を起こさせてしまうことも、中枢の電脳を壊死させてしまうことを容易かろう。


しかし、侵入者がその名を唱えるとき、どこか・・・・・歪んではいるが、愛情めいたものがわずかに匂った。その歪曲を内包するほどに範囲の広い、愛情だが。



第一次直上会戦・対サキエル戦


エヴァ初号機、ならびにネルフ本部の初の実戦、初陣である。

「やはりATフィールドか」「ああ、使徒に対し、通常兵器は役にはたたんよ」


侵入者が眺めるギリシア神話のアルゴスの怪物を思わす百面モニターの中の一つがビデオのように当時の発令所の様子を映している。
実際、ビデオだ。ただし、レコーダーに直結している、ネルフ本部監視用の。
そんなもんが自分達を映していることを、無論、発令所スタッフは知らない。
用途はいろいろあるのだが、ボーナス査定用ではないことは確かだ。


マギは眺めている。そして、知っている。


「勝ったな」まだ地上にも上がっていないうちに言い切る冬月。だが、温厚、慎重、冷静の三拍子そろったこの人物がいうのだからそうなのかもしれない。
「ああ」ニヤリ。不敵な笑みを浮かべる碇ゲンドウ。
「兵器は動いて当たり前だろう。何を感心しとるんだ。こいつらは」「余裕はいいが、油断にならんようにしてもらいたいもんだな」


その光景もまた、「戦闘記録」の一つだが、それは侵入者の目的ではない。ついでの余録。
「冬月センセ。伸びた背筋がいかしていらしてよ。ほほほほ・・・・」


笑いながら侵入者は作業の手を休めない。「戦闘記録」のコピーを開始する。
もちろん、そのような過去の光景など必要ない。時間の無駄。欲しいのは・・・・・


縛ヲ解かれたエヴァ初号機は、今まで暗い地の底で縛り付けられていた鬱憤を晴らすかのようにいきなり走り出した。ヲオオオオオオオオオ・・・・・
モニターされている碇シンジの姿。瞑目し眠っているように見える。

「しょ、初号機、顎部拘束具を引き・・千切りました」
日向マコト オペレータの職務ヲ果たす。「マヤ、シンクロ率はどうなってるの」「日向君、シンジ君の状態は!」ぼけぼけっとしている場合ではない。

「パイロットのシンクロ率、41.8%、0.5%アップしています」
「パイロットの状態に変化なし。脈拍、呼吸、ともに正常」
まさかショック死したんじゃあるまいな、と思わせるが平然として生きている。




「うふふふ・・・・そう、ここから始まったのよね・・・」


ぞぷしゅっ

宙高く跳ね飛ぶ使徒。初号機がその勢いをもって跳ね飛ばしたのだ。体格は同程度にも関わらず、ダンプが人形はねるよりも軽やかに容赦なく。「使徒、コアに亀裂発生!」オペレータの青葉シゲ


「戦闘記録というより・・・・これは、強度実験記録ね」
だが、単純すぎるがゆえに、多くのデータを与えてくれる、「よい」戦闘だといえる。
「碇、シンジ君・・・・・・・いい子だわ・・・・面白いし、ね」


侵入者はしばし手を止めて、かりかりぽりぽりと錠剤のようなものを摂った。


完全切断された左腕と、アンビリカルケーブル。それが、初陣の結果。

複製完了。


エヴァ初号機、サード・チルドレンの消失。


第二次直上会戦 対シャムシエル戦


フィフス・チルドレン渚カヲル、ネルフ本部到着
ファースト・チルドレン綾波レイ、七ヶ月の昏睡状態より覚醒


「なにさらすねん」 目玉模様がそう胃って零号機のほうへ向いた、ような気がした。初号機の左腕をつんつんするのはやめて、さっきから何やらガチガチ撃ち込んできよる黄色い一つ目巨人にヤキをいれるべく、接近してくる使徒。光る鞭は仕返す脅しを表現するように、ヒュンヒュンと回転させている。怒らす肩はないものの、その接近は余裕のヤッちゃん、ではない、よっちゃんで、悠然。コアは誇らしげなバッジのように輝き、亀裂のひとつもない。


「なんでカヲル君を使わなかったのかしら。わざわざ病み上がりのレイちゃんを使わなくてもいいような気もするけれど・・・・・こだわりすぎだわね」

「ともあれ、悪天候での戦闘記録なんだけど・・・このザマじゃさして参考にはならない」


零号機が、がくん、と動きをとめた。後ろからひっぱられている。後ろから、アンビリカルケーブルを。使徒が。「何」「ケーブル外して!早く」遅い。ズルズルズルズル・・・・・あっという間に使徒の足下まで引き寄せられてしまう零号機。「わてから逃げられるとおもうてんのか、われ」見下ろす目玉模様は確かにそう言っていた。



使徒、初号機左腕により「扼殺」



侵入者はその事象に対しては無言であった。


「原型を留めたサンプルを入手。・・・・前回のは海で魚のエサだものねえ・・・・」



複製完了。第三新東京市を御するほどの巨大なデータを易々と・・・・・侵入者の腕前はともかくとして、どのような機械を使用すればこんな真似が出来るのだろうか・・・・
侵入者は、産業スパイの如く要点のみを拾っているのではない。シェルターへの市民誘導等、直接使徒との戦闘には関連しない項目まで残さず。マギにある膨大なデータをそっくりそのままコピーしているのだ。しかもこんな短時間で。非効率だが、それを可能にする、恐ろしいほどのマシンパワー。覗きのこそ泥の力量ではない。
使徒迎撃要塞都市、その活動のノウハウを髄のみならず、血肉まで吸い上げる。





第三次直上会戦 対第一の不確定使徒戦


中央モニターに映し出される使徒。それは云うならば、巨大な、一つ目のテルテル坊主であった。見かけ通りに比重が軽いらしく、ふわりふわりと雨天に浮いていた。地上300メートルほどの上空だが、風に吹かれるように第三新東京市に向かってくる。「い、いくら雨だからって・・・・」伊吹マヤは若い女性らしく、かわいいものが好きだが、あのテルテル坊主はかわいくないから嫌いであった。


「なになに・・・・・・テルエルう?センセもまあ、お変わりなくて結構でございますこと・・・・裏死海文書・使徒名鑑に載っていない使徒相手に。葛城ノートでも空欄になっていましたけど・・・・さすがは冬月先生」


この戦闘では、作戦部長 葛城ミサトではない人物、作戦顧問と称する野散須カンタローなる人物が指揮を執った。こんなポストは正式にはない・・・のだが、すっかり定着している。実はゼーレの方より、その位置にあたる人間を・・・・まあ、目付監査役だ・・・
送り込もうとしたのだが、冬月コウゾウは先に人を配置してしまうことでそれをもめることなく阻止してしまったわけだ。どこから見つけてきたのか・・・・・侵入者は興味を覚えたが、それは別口経路になるので諦めた。その人脈、能力たるや、かなりのものだ。


「それから武器は火炎放射器を頼む」ぎょっ。いくら雨だからといって・・・・伊吹マヤは使徒に対するのと似たようなことを内心呟く。「よ、よろしいんですか」「かまわんよ。どうせあの体型じゃ銃器も鈍器も刃物も効んからの」作戦顧問、野散須カンタローは平然としている。


戦術についてはマギの分析がある。それもコピーの内にある。注目すべきは・・・この戦闘が二人の指揮者によって行われた、という点。戦闘中の指揮の引継。侵入者にとってはそちらの方が興味深い。ここには多くの分岐が内蔵されていた。一歩間違えば、ここで作戦部は内部崩壊していたかもしれないのだ。異分子の受容不可、拒否反応の発生。
所詮は、人間の集まりだ。人間の精神の回路基盤はひどく抵抗が荒い。
だが、ある負荷がかかっているとその抵抗値がすぱっと下がることもある。


「あるひー、うちゅうじんがー、やってくるとー、なんびゃくねんもー、いがみあっていたー、ちきゅじんがー,さんじかんでー、なかなおりしましたとさ。うちゅーえーゆー・ろーだんより」
急に子供の声になり、嘲笑こめて。侵入者は、どんな声でもだせるのだ。


「恐怖に怯えて、一カ所で寄り集まっている・・・・それがネルフ本部の人間関係の基本・・・・・かもね」


零号機はいいところまでテルエルを追いつめるのだが、肉を斬らせて骨を・・・断たれてしまう。またしても初号機左腕が動き出し、「引きずり」殺してしまう。カランバ。
試作機一体で戦うしかないじり貧ネルフのかわいそさが身に染みる戦闘であった。


はっきりいって、この当時のネルフは涙がでるほど弱かった。


戦闘データには無声慟哭が染みついているはずなのだが、侵入者は感知しない。




そんなネルフを甘く見る存在が現れる。民間企業の造った人型兵器ジェットアローン、通称JAである。これはあくまでロボットであるから、甘く見ているのは造った人間である。

時田シロウ。日本重化学工業連合の社長。ネルフ諜報部のブラックリストのかなり上の方にその名が記されているJAの開発責任者。口先三寸で弐号機との「模擬戦」を行うことに成功、JTフィールドで虚をつき、見事勝利をおさめてしまう。なんと使徒にも勝ってしまい、その勢いで「業界」独占を計った。が、のちコケる。


「・・・・・・パス」
臥薪嘗胆でもあるまいが、その模擬戦のデータもマギには保管されているが興味はないようだ。転送作業もそこだけ飛び越えてしまう。必要ないのだ。
「せっかくATフィールド生成のデータをリークしてあげたのに・・・・この腰抜け」
今度は成人女性の声だ。
「何がJTフィールドよ。バカじゃないの・・・・ののののの・・・・の、の、ののののののののののの」


かりかりぽりぽり・・・・・また錠剤を口に含む。噛みくだく。


ふぅ・・・・・



「そのくせ、技術者の誇りがなんたらかんたら、本気でぬかすんだからね。恩知らず。
リークを受けた時点でそんなもんはないんだから。コピーだけ造ってりゃいいのよ。
コピーだけ・・・・」

画面上の時田氏の写真データにヒゲをかく。五十年ほど歳をとらせる。白骨化させた後、シュレッダー状に切り刻んでしまう。


「ちっ。ATフィールドさえ使ってりゃあ、ゼーレの権能で取り上げてわたしのものにしたのにさっ。・・・・・・時田め。日本人はこんな時にチエのまわる小利口だから嫌いだよ。やっぱしドイツのノイエ・メルセに造らせればよかったかー・・・後弐号機はいい出来だけどね」

しかし、その口元は笑っている。JA二世号の姿を思い浮かべて。「くくっ・・・・あれは反則だよ・・・」

思い出し笑いをするのは、とびっきりの善人かそこぬけの極悪人かのどちらかだという。



今度はセカンド・チルドレン、惣流・アスカ・ラングレーの個人データを呼び出す。

「アスカちゃんもしっかりしなさい。”みんな”の模範になるんだから。


モニターの反射に淡く輝く琥珀色の瞳がニマッと細められる・・・・・


でも。あれが使徒だったら・・・・・・・



あんた、とっくに死んでんだよ」



「LOST」



ばん!その指先が銃のかたちをまねて。指先からこぼれる赤い光が額にポイントされる。「ばーん」惣流アスカの顔を撃ち抜く。個人データは四散し、数値変換されて演算のための電子人形に再生させられる。侵入者にとって、惣流アスカがネルフに正式に復帰するまでの事象などには興味はない。AT・フレイム・・・・その才能を開化させるまでの時間は・・・・空白と同義。エヴァを操れぬチルドレンに存在価値はない。記録失頁。



第四次直上会戦 対第二の不確定使徒戦


エヴァ弐号機を用いての渚カヲルの初陣


斬ッ。 一撃でケリがついた。内部のコアごと真っ二つにされる使徒。「あの・・・使徒、完全に沈黙した・・・んですよね」減給モノの青葉シゲルの報告だが、それを咎めるものは誰もいなかった。「研究用にあまり傷をつけないようにしましたが、なにか危険な兆候はありますか」「なによ・・・・あれ」楽勝すぎる瞬殺に、作戦部長としては被害も無しに喜んでいいはずだがそれより前にあまりの強さに言葉が出ない。「あれは・・・まさか・・」「なんなの!?日向君」「や、八つ裂き光輪に似ている・・・・」



「冬月センセも今回は名前をつけるスキもなかったようですわね。・・・・・・って、あ。こんな隅の方に・・・・・・・え・・・・ザコエルかウニエルかどちらにするべきか熟考の末、ザニエルに決定・・・・・しかし、あくまでこれは私個人の・・・・であって、後世に伝え・・・・研究を待つものである・・・・・見つからないと思って好き勝手なことを・・・・キール議長に教えてさしあげましょう。ふふふふ・・・ザニエル」

「ダイヤすら切断する四号機のルビーメス・・・・・これも、戦闘とは言い難いわね。
エフェソスも外された状態だし」


人間は負け戦や苦しい戦から学ぶものが多い。生きていればこそ、の話ではあるが。
実際、この戦闘はあまりに楽勝過ぎてデータを閲覧複製する人間にとっては面白味とうま味の少ない戦闘であった。マニュアル通り、で本部の人間の苦しみ足掻く様が薄いので、侵入者にとっても物足りなかった。が、これも完璧にコピーしてしまう。




総合戦 対ラミエル戦


「コピーする価値があるとすれば、本当はこれだけ。
ネルフ本部の真価が問われた一戦・・・・・さすがにデータ量も大したものだわ。
今までのものが美術館の絵画クラスならば、こちらは聖堂の壁画クラス・・・・。
ちょっと真面目にやりましょうか」


侵入者は軽口批評を止めて、情報複製に専念した。「搬入通路」に用いている衛星から悲鳴のような警告が入ってくるが気にも止めない。蛇の道は蛇。マギには侵入出来なくとも、この「おこぼれ」を狙いに集まってくる小物どもの気配のする・・・・コピーした情報を運ぶ長大な・・・・地球を弐周も三周もする・・・・道の途中で電子の賊が現れないとも限らない。速度が勝負。この苦しみ藻掻く様を誰が「他人」にみせてやるもんかね



「V・A・SH・eヴァシュエ・・・・・強制高速転送・・・・・スタート」



衛星路線。海底路線ともに異常なし。侵入者が使用するルートは強制的に封鎖された。
電脳世界における、強烈無比な権力を持ち合わせている無機の王の進軍路。
手ぐすね引いて待っていただろう、見えざる盗人たちを弾丸高速ですり抜け、知らずに安らかに眠る者たちの目の前を超特急で駆けていく。一秒にも満たぬ出来事。しかし。
その余波で世界中のどれくらいのハードがお釈迦になったであろうか。
都市災害規模のバックラッシュである。


「スピードゴースト・トレイン」と渾名され(余談だが、渾名したのはアメリカの新聞)、解明されることは永久にない事件は今、起こった。この時刻でも世界は、動いている。
これは、侵入者が意図してやったわけではない。それを回避する手間を惜しんだのみ。
超巨大なマシンパワー。「マギ」そして、侵入者の用いるシステムハードがどれだけ巨大なものか・・・・。




「転送完了・・・・ざっとこんなものかね」
電脳災害史に残る事件を引き起こしておきながら、侵入者は悪びれる風でもアルビレウ風でもない。まるでどこかの碇シンジだ。

モニターの中で、侵入者と同種の精神を持っているかもしれない碇シンジの初号機が使徒・乙ことマタサキエル(”アトエル”もいいかと冬月副司令は考え直したようだが、それでは日本語圏の人間しか分からないのでやめた)を一撃で片づけていた。




浅間山 サンダルフォン捕獲作業、戦闘


第三新東京市ではなく、また、使徒胎生捕獲を最優先にした「作業」であるという点で、貴重といえば貴重だが、侵入者にはこれまた必要ないデータであった。



「人に断りもなく・・・・・伍ビーを使うからこういうことになるのよ。バカ委員ども」

複製の必要ナッシング。「あれは未完成もいいとこなんだからね・・・・ふん」




ふたたび第三新東京市 ただし停電中 電子暗夜戦 対マトリエル


「これもまた入り用のデータだわね・・・・てえか、電子データになってない所が」

大停電中だったはずのネルフ本部の様子が侵入者の操るモニターにはありありと映されている。電力がなくて往生し、それでもなんとか暗闇アリのように働こうとする職員の姿を見ながらケタケタ笑う侵入者。模造紙に各セクションの報告をまとめてみたり、メガホンで命令を伝達したり、エヴァ外部電源からチロチロと電気をひいてみたりする姿を。

「これで現代科学の粋をこらした施設とはねえ・・・・・ネルフ本部はトップがトップなだけにどこか本質的にビンボくさいのよね。機能一本で余裕というかゆらぎがない。
あらら・・・リッちゃんがゼーゼー云いながらタラップを昇っていく姿なんてリパルタンDの宣伝みたいじゃないの。がんばれー」

「戦自の調査員の人たちも・・・・あらあら・・・・・ラジエルに細切れ・・・・せっかくのチャンスをあげたのに・・・SRIでも派遣させればよかったのかもしれないわね・・・・怪奇をあばいてくれる・・・って

歳がばれるわ」



モニターには正確に・・・正確すぎる、当時の様子が映されている・・・・
あの暗闇の中の。誰よりも正しくネルフ本部の内情を把握しているようだった。
がしょんがしょんと通常兵器による迎撃もなく、侵攻を続ける使徒、マトリエル。


A・V・Thの駆るエヴァ弐号機によって殲滅


「制式タイプの優秀性がこれで証明された・・・・んだけど、本部の人間の歯噛みする姿が目に見えるよう・・・・・実際、見えるんだけど。そういうことに頭がいかないのが多いから困ったもんだよ。多少、ネルフ本部も大幅な人事刷新の必要アリじゃないのかな」

わずかに、嫌悪の響き。闇の中で雑然と蠢く人めいた感覚が、侵入者の感性と合わない。モニターより伝わる温度が皮膚をうざく炙る感触。眉間が刹那、シギと夜叉咲く。



「なんでこんなに・・・・しぶといのよ・・・こいつら・・・・ああああああああああああああああああ!」


かりかりかり・・・・ぽりぽりぽり・・・・三度錠剤に手をのばした。


ふうっ・・・・・・はあっ・・・・はあっ・・・・はあっ・・・・・・厄介な・・・・

はあっ・・・・・・は・・・・・






交響音楽戦 対ラジエル戦


「良くも悪くもオリジナリティ溢れる戦いだわね・・・・・よくもまあ、こんなこと考えつくわね・・・葛城ミサトというのは骨の髄まで戦闘のことしか考えてないんじゃないの・・・・・日常生活は破綻するしかないタイプだわ。それを頭に据えて戦うネルフ全員が既にいっちゃってる点もあるけど」


侵入者の興味は、やはりエヴァ用巨大楽器「プログ・キャノン」に向かう。
制式名称のみならず、裏に隠された魂の名・ソウルフルネームも知ってしまう。


「なになに・・・・はあ?なにこの名前・・・・・・零号機の「リィ・アマーティ」、四号機の「デル・ジェス・クロンツ」・・・この二つはともかくとして・・・・初号機の「無量塔ガルネリ」と弐号機の「アントニオ金八」ってのはなんなのよ。人造人間ハカイダーみたいなネーミングセンスだねー・・・・「チューホー・リィ」と「アマーティ家」をくっつけて、「ヨーゼフ・クロンツ」と「デル・ジェス・ガルネリ」をくっつけて、「無量塔・・・これは、”むらた”って読むわけ・・・蔵六」と先の「ガルネリ」をくっつけて
「アントニオ・ストラディバリ」と「宮本金八」をくっつけたんでしょうけど・・・・」




「バカ?」




チルドレンのカノン・・・・・弦が、ひかれる・・・・・使徒を滅ぼすための四重奏曲が
夏の天空に吸い込まれていく・・・・・・・光がなだれ落ちてくるような瞬間。それと同時に、元素としての音が時空を超えて何かを運んでいるようにも思えた。風と水、光へ、そして何かを。そして最後に四人四体、四方にて。合わせたように、イ音をひいた。開放弦、弦をおさえずに弓でこするだけで出る音である。あるがままの音、生まれたまま何の作為もない、純粋無垢の音。イ音のラテルナ・マジカ。スヴォタナ・ランプのように伸びていく。使徒はその魔法のランプの音に伴われて昇天する・・・・・・・・


「結局、せっかくあげたヒントもリツコさんは気付いてくれないし。
まー、あの高級ホテル食パンマンみたいな霧島先生に一本ってところかしら」

「でも、なんであれしきのことを思いつくのにあんなにかかるのかね。
あんなミューヂカルまがいなことをしなくとも・・・・”攻略本”を読んでおいてなんだけどねえ」




天空落下迎撃戦 対サハクィエル戦



「これが問題の・・・・・無限階層型ATフィールド・・・・バビロン」
四体のエヴァの築く、天をも貫き征してしまう赤い光塔・紅のミグダル
現在確認されているうちエヴァの攻撃オプションの中で最強最高の威力出力を誇る。
渚カヲルがネルフ本部より去ることになった原因。


しばし自分のハードに解析連結させた四号機のモニターを見ながら侵入者は呟く

「ゼーレのお偉方も恐れるわけだよ・・・・・・その照準がナノセコンドほどでも自分らに向いていたと知ればねえ・・・・地球の何処にいようがおかまいなしの無限の射程距離と完璧な命中精度と防御手段の皆無を考えれば・・・・ネルフ本部に留めておけるわけもないか。渚カヲル・・・・・」


ネルフ本部の総力の結晶ともいってよかろう・・・・・このデータは
おそらく、「この時点」が力のピーク、ネルフ株の最高値だ。パイロットや首脳部は云うまでもなく、元々優秀なスタッフ達も経験を重ね鍛え上げられている、ケンカ慣れだ。


だが、それだけにこれを複製することは・・・・・・他のエヴァ四体、チルドレンを用いても使用可能にするということは・・・・至難の業であろう。結晶とは、時間のことだ。

だが、同時にネルフ本部もこの攻撃方法を使用出来なくなった。肝心要の渚カヲルと四号機がいないからだ。その至難の業を成し終えるまで赤い瞳の少年が日本の土を踏むことはあるまい。・・・・使徒を全て滅ぼしたとしても。


「これを他のでも使えるようにしろっていうんだから、云うだけの奴は気楽でいいわよね・・・・・」
しかし、侵入者は舌なめずりしている。とても頭のいい、負けることを知らぬ魔女の顔。



全工程を統括する頭脳と実力をもつ渚カヲルと四号機。
アンチ・ATフィールドとその冷静をもって補佐補正する綾波レイと零号機。
おそらくはこの戦闘イメージの発端、AT・フレイムの惣流アスカと弐号機。

そして、「シンジ君と初号機は・・・・一番大変な部分だけれど・・・・”土台”をやってもらうよ」「(大変なのは大変だけど・・・・頭使わなくていいから・・・うー、この計算式ムズい・・・いいわよね・・・さすが渚)」「・・・・・この解、ちがうわ・・・」
「え?どこが・・・・あっ!」「うん。なんとかガンバルよ。えーと、Xがひーふー・・」

気はやさし・・・・・・いとは言い難いがパワー超絶・力持ちの初号機と、碇シンジ。

「使徒対策勉強会」の映像を微笑ましく見守る侵入者。碇シンジ一人がまじってしまったばかりにどこか、子供が砂場で城でもつくっている雰囲気がある。
「なるほど。空中に目盛りがあるわけじゃないから、数学的イメージでパイロット同士のコンセンサスを図っていたってわけね。ま、ただの信頼なんかじゃ大仕事はできないからね・・・・・それも四号機の測定能力あってこそ、か」


「ひー、ふーってアンタねえ・・・」「いや・・・みんなが真面目にやってるから・・」
「大沢親分みたいなことしてんじゃないわよ。えーと、要するにアンタのパートは・・・」
「「大沢親分って?」」「・・・・・」ふいに皆の注目が集まり、赤面する惣流アスカ。
加持兄弟の仕込みで、日本文化についてしょーもないとこまで網羅している者の悲劇。



機能実力は云うまでもなく・・・・・
こういうことを重ねて編み上げられたものを・・・・・はて、どうやって複製したものか。


「結晶された時間も取り上げることになる・・・・・少し可哀想だけど」



「その点、フレイムの方は簡単だったんだけどねえ。要するに発想の転換。高出力だから炎の形になるわけじゃなく、高出力を導くために炎のイメージが必要だっただけだから。
思いついたアスカちゃんはまぁ、天才と呼ばれていいわね。複製の可能な天の与えた才能。
ほんとに理想的な・・・・・愛すべきチルドレン。機能の大半を封印した四号機の真似なんかして」



ともあれ、これも根こそぎ複製してしまう。





高速追撃戦 対・・・・・・「・・・ヤジロベルでいい。分かりやすいし」

すっ。ふいに背後から盆にのせられて水の入ったコップが差し出された。
それを驚きもせず、当然のように手に取るとごくごくと飲み干す侵入者。



「ダビデ?いつ戻ってたの」
幼女の声で問う。百面モニターの忙しい光輝の照り返しを受けて神父姿の人物が立っていた。太り気味で目は埋もれるような糸目。十字架の代わりに首から下げているのはゼーレの紋章。普通の教会つとめではなさそうだ。黒い網帽子のおかげで歳の判別がつきにくい。意外に若いのか、年経ているのか、・・・・人物がにこにこと諫めはじめた。

「つい先ほどです・・・が、ナオミ様。そろそろお休みになられませんと・・・・周りの者に聞くと、すでに二十日眠られていないとか・・・・お体に障りますぞ」

「まだ平気だ。伊達に若い体じゃない。それよりお前の方こそ長旅ご苦労だったな」
急に歴戦の女将軍のような声を出す。いかな巨人にもアンバランスなほどにでかい、木製細工と電子機器とを融合させた奇妙な椅子に腰掛けたまま、視線をモニターに戻した。



オレンジ色の髪がゆれる・・・・・


耳にはオレンジ色のタコのイヤリングをしていた・・・・・



その耳もかさずにナオミは複製作業に戻ろうとした



「明日の朝はナオミ様が毎週かかさずご覧になっている”麻雀合体ロボット・サンバイマン”がありますぞ。そういえば、先週分と先先週分はご覧になられましたか」

「え?」
慌てて振り向くナオミ。その姿は・・・・・・ぐるーん!・・・・・惜しい。
慌てて振り向きすぎたので、椅子は安全回路を開いて一回転させて戻してしまった。
「え?え?え?!!」

「・・・・・・・しまった・・・・・・忘れてた・・・・・!」臍をかむ。

「ご覧になってい”た”ですな。訂正させていただきます」




「そ、そんな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
主の脱力を表すようにモニターが次々とブラックアウトしていく・・・・・
「マギ・オリジナルを配下におくことも大切ですが、ナオミ様の御体も大切です。くれぐれもご無理はなさら・・・・・

うわー・・・・


ナオミは大声あげて泣きはじめた。遠慮なくコンソールをベショベショにぬらすベソ子だ。
ぼろぼろぼろぼろ その羽毛のような白衣に涙を流す。サイレン赤のようにわめく。


うわぁー・・・・



「せっかくここまでがんばったのにぃ・・・・・きいっっっ!!!
!もういらない!!こんなの!!!」

挙げ句の果てには、マギから吸い取った膨大な貴重データを電子混沌の海に捨ててしまおうとする・・・・・さすがにそれはダビデが止めたが。無茶苦茶な癇癪持ちだ。

「あとは他の者に任せましょう。アバドンから手伝いもきておりますし」

休んでください、とは云いましたが、データを消せとは云っておりませんので・・・・・対応には慣れているらしい。その、突発的な幼児まるだしの行動にも。

「うー・・・・・・・

イヤイヤをするように首をふるナオミ。そのオレンジの髪とタコのイヤリングが揺れる。

「その間にビデオを見ましょう。”礼拝”の帰りしなに日本に立ち寄ったので直接に録画しておきました」
「ほんと?!」急に目を輝かす。いそいそと白衣の袖で涙をふく。
「じゃ、一息いれよ。でも、アバドンの連中にも触らせるなよ。あいつらの蜘蛛怪人みたいなレンズ眼、キライだから」


「はい・・・・・ナオミ様」






つづく