鉾
 
 
 
がネルフ本部に到着した。あまりの巨大さ故に一旦、十二の部品にばらし、十二の船団をもって海を渡り第三新東京市まで運ばれてきた。積み荷が積み荷だけに海路の天候が心配されたのだが、まるで鉾先を恐れるように、荒々しい大気の精霊も海洋の大将も船団の行方を塞ぐことはなく、避けてでもいるかのように、安全すぎる航海だったという。「いかにもこりゃ荒れそうだな案配だな」と長年の経験を誇る航海士や船長の見立てがあった日でもそれに反し、雲は十二の船団を覆うことは出発以来、一度もなかった。絶世の美女を人柱にたてたとしてもこうはいくまい。「なにか神に特別な配慮でもされてるようなヘンな航海だった」詩人になりそこねたある船長は航海日誌をこう結んだ。
 
 
そして、十二の部品はネルフの工場に運ばれ、組み立てられる。
その作業自体は雄壮ではあるが、巨大兵器を扱い慣れているネルフ工廠にとってさして難しいものではない。渚カヲルの指示書が実によく出来ていることもいうまでもない。
 
 
ひとつひとつの部品がエヴァが扱うにちょうど好いくらいのサイズである。
 
それを十二個分、ひとつに合わせて。どれくらい馬鹿でかいものなのか。
既にして兵装ビルに入る代物ではない。二つ折りにしてもまだ余る。三つ折りにすると使用時に再展開する場合の強度にいまいち心配がある。というので、主線道路のひとつに埋設することとした。鉾がくる前に道路工事は完了している。周辺住民はケーブル工事だと思っていたようだが、事実はかくの如し。相田ケンスケあたりが聞けば推理が及ばず悔しがったであろう。それにしても、まるで武家屋敷のような都市であった・・・。
 
 
ともあれ、ただでさえ鬼のように悪魔のように魔人のように強いエヴァ初号機がとうとう
渚カヲルプロデュースの無敵兵器を手に入れてしまった。人類として限界レベルの代物。
基本的には、あまりに激しい電力を発するようになった初号機の制御の枷としての蓄電器としての機能を持つわけだが、逆にいえば溜め込んだそれをいちどきに怒濤のごとく解放することのできる恐怖の電力兵器であり、これさえ持っていけば世界中どこでも転戦でき、エヴァシリーズの弱点であるはずの電力供給、電線断線も怖くはない。そのためのプラグもソケットもおまけでちゃあんとついている。さすがに四号機操縦者にぬかりなし。
地下に埋設するのもそういう理由で、余剰電源は都市機能に回される仕掛けになっている。
そして、その巨大さからくる重さ、破壊力はいうまでもない。計算によると、本州だけの山地を平地にしてしまうのに、鉾をかつぎながら行脚しても一週間かからないという。
文字通り、山脈をなぎ倒す!鳴動させる!崩落させる!粉砕する!悪夢の巨人兵器。
大気を薙ぎ打ち据えれば天風の運行は逆転し、大地に突き立てれば自転のギアも切り替わる。大海に突き入れ漕いだなら、陸を覆う大津波が生まれることだろう。
こんな一撃を脳天に受けでもしたら、コアどころか粉ひとつぶも残るまい。
 
 
そして、何より恐ろしいことは、この鉾さえあれば初号機単独であの
「天逆衛星軌道兵器」たる、
AT・バビロンを使用可能だということだ。大難しい軌道計算も渚カヲルの創ったOS「天眼(びほるだー)」により、地球上どこでもエントリープラグ内に浮かぶフォログラムの地球儀を指させば絶対の赤い光がその地点に涙容赦なく突き刺さる簡単さ。
十四の少年、しかも碇シンジなどに使用させるなど悪夢以外のなにものでもない。
本人の教育と周囲の心臓にとても悪い。
こと遠距離戦において絶対の切り札を握ったといってよい。
で、その威力だが・・・・「あの頭上の月を狙って撃ってみればよく分かるよ」
という開発者の無責任コメント。おそらくは計算しきれなかったのだろう。
 
 
ところで、いささか下世話な話、この恐ろしい鉾の天文学的開発費用は一体、どこから出ているのだろうか・・・・。ゼーレが出すわけもなく、むろんネルフにそんな金はない。
答えは渚カヲルの自分のお金。親子二代でいつの間にか天文学になっていた渚資産。
自分の財産で自分の設備を用いて自分の造りたいものをつくったのだから世話はない。
もちろん、金さえあれば誰でも造れるわけがなく、世界中捜してもこんなもんを造れるのはあの白銀の少年だけである。ものを造るには材料が必要なのだから。
 
 
「ナキヨシュア・ユーシャロト・ボルタルク」という三種類の鉱石がこの鉾のメインの材料。ボルタルク・電裔岩と呼ばれるものの採掘の様子は以前に記した。先の二種もどうしても自分の城で生成できなかった希の中の希、レアの中のレア。宮沢賢治とますむらひろしの物語の内に抱かれ、錬金術師と鉱物学者の夢の夢、「錬金術上にても想像上の産物(おりはるこん)」「合成に弐千年かかる科学者慟哭爺化滅亡金属」とされる”奇妙金属”ナキヨシュア、とユーシャロト。この二種の発掘の様子も渚カヲルの苦労物語なのだが省く。
その他、千年経ても錆びない鍛錬された鉄やらどうしても溶けない銅やらチクアメゴン国有林の低伝導性花崗岩やら聞くだけで楽しい金属、鉱石をふんだんに用いている。
地に住まう数万の金属の精霊や石の魔物が昇天する雷の塔。
 
 
このたいそうな鉾の創造の動機と言えばなんだろうか?
もの造りの魂が熱く、白銀の若い城主をつき動かしたから?その情熱は
 
 
これは、友情の返礼。おそらくは史上最高額の。誰も信じはしないだろうが。
子供だましの手作りのエヴァ晴降人形。そのおかえしに。
鉾の深奥に秘められた少年の意図は誰も知られることはない。ただ、贈った相手にだけ。
伝わる。贈るものはこれしかなかった。大事な友人をこの世に繋ぎ止めておく、杭。
 
 
渚カヲルにとって、碇シンジは・・・・・・・
 
 
 
 
この先は「神の領域」で使いようによっちゃあ、十分そこにこじ開けて到達できる、ラブクラフトの「銀の門の鍵」のようなオトロシの鉾なのであった。
 
 
そう、その異様は旧い、イニシエの神のごとし・・・・・
 
 
 
エヴァ初号機はいま、銀繭蛹網(モスラーヤ)にくるまれてある
 
 
「鉾」はエヴァ初号機の右腕に、神経接続される。これは、棒術の心得があるわけでは全然ない碇シンジに「武具」として鉾を使わせた場合、使徒を倒す前に市街が廃墟になるだろうことがマギの計算によらなくとも完璧に予想できるからである。そのサイズからいって訓練でどうにかなる代物ではない。パイロットと神経接続させておいて肉体の本能感覚でバランスをとらすより仕方がない。イメージとしては、筋力はともかくとして、普通の人間が電信柱を持ち上げて振り回すようなもの。「よっとっとと・・・・うわー・・・(絶叫)」てなもんで、どちらかというと碇シンジはとろい方だが、そちらの方がまだ安全だ。そんなわけで、これは武器というよりは儀式のための「祭具」といった方がよい。
 
それから、基本機能としての余剰過電力・オーバーロードをふせぐアースとして本体たる初号機と繋いでおく必要がある。その為に右腕も改造される。まさしく右腕左腕とも文字通りのARMS・アームズとなってしまった。試験されまくりの実験機体たる初号機の面目躍如たるところであろう。そのうち、空も飛び始めるのじゃなかろうか。
 
 
 
その銘は「ゼルエルの鉾」
 
 
という。
 
 
 
ネルフでも知っているのは総司令たる碇ゲンドウと冬月副司令のみ。
作業総責任者たる赤木リツコ博士もその名は知らない。ただ「渚君の鉾」だ。
表だった暗号名(コードネーム)は「三金属の鉾(ナキヨシュア・ユーシャロト・ボルタルク)」というのが使われていた。海の真ん中で電波傍聴されても誰もそんな金属は知らんというのが採用の理由。
 
 
「ゼルエル」とは、裏死海文書・使徒名鑑によると「最強の使徒」であるという。
 
 
これを倒せるほどの武器、ということでその名がつけられた、という伝説方式命名法。
ドラゴンを倒す伝説の剣、など倒した人間の名前がついてもおかしくはないのだが、それに則るとこれは、「エヴァ初号機の鉾」もしくは、「碇シンジ君の鉾」となる。
一応、ゼーレにも報告書を提出せねばならない関係上、そのあたりを考慮したのだろう
 
 
人類最後の決戦兵器・人造人間エヴァンゲリオンの、使徒殲滅の血祭り最終祭器・・・・
 
・・・・という推理も成り立つが、本来の心は謎である。
 
 
「あの少年がこのように”挑発的”な命名をわざわざする理由がわからんな・・・」
冬月副司令もそう首を傾げる。「ああ」と碇ゲンドウ。「なにかあるぞ・・・」
 
 
ただ、そういった事情で、実戦時にこの鉾をどのように呼ぶかは未定である。
葛城ミサトが決めるのだろう。たぶん。
 
 
そして、鉾が到着してこの所、停滞ムードであったネルフの雰囲気が多少動き始めた。
仕事があれば、人は活気がでてくる。どうもすっかり戦闘民族づいている。
マギのトラブル、欧州旅行組の行方不明、最近来なくなった使徒の不気味など厄介なことが続くが、動いていれば多少、気が楽になる。
 
 
と、それは鉾が到着したことで仕事量が膨大に膨れあがった、体があと三つ欲しい赤木リツコ博士にも適応されるようだ。研究室に籠もるということがなくなった。カツカツと廊下をヒールで鳴らしながら携帯であちこちのセクションに指示をし問合わせに答える姿は
世界中で一番有能な三十代女性に見えた。事実、いくら世界が広くともトップ5にははいるだろう。どうも不死鳥の輝き、妖鳥めいた艶がある。声にも鶴の気合いあり。
 
「若いツバメのプレゼントだもんねえ」と葛城ミサトがからかうひまもない。
今は思索の時はなく、今こそ行動の刻。
 
 
ただ、謎がある。
 
 
エヴァ初号機の鉾接続の作業についてだ。なぜあのよに全身をグルグルとケーブルで巻いてしまう必要があるのか。直径�价碓未虜戮い里�らメートル単位の極太いのまで何百種類、
総計何百キロになるのか、雷帝の網、全身が隠れまるでファラオの繭・・・。
 
 
「こりゃ、まるでエイリアン幼生体だ・・・・・酸のヨダレこそたらしてないけど」
と、初号機ケージに葛城ミサトと同行しているのをなぜ忘れてしまったのか、日向マコト。
「日向くぅん・・・・」
ギーガーのような葛城ミサトの金属製のかすれ声。ふりむきもしない。
マコトはすでにしんでいる。
 
 
葛城ミサトは機嫌がわるいのだ。「こんなザマでいざってえ時に出撃できないじゃないよ」
とこの作業に猛反対したのだが、「その時はその時だし、機械で巻き取れば十分もかからないわよ」との赤木リツコ博士の(そんな簡単に出来るわけないじゃない、素人の見立てでも一時間はゆうにかかるわ、ありゃ)素人だましの嘘だとおもいつつも「とにかく、これは技術部の問題です」の一言に黙るほかない。なにせ今までそのプライドをさんざんくすぐり殺してきたのだから。(十四話参照)葛城ミサトにも貸し借りの記憶力はある。
 
 
万が一のための作業中の「落雷事故」「磁場被爆」に対するための安全策だと説明されてはいたが、それならそれでせめて右肩くらいまでやっておけばよいような気もするが、まあ、前回に碇シンジが”あのような”ことになり、碇ゲンドウも”あのような”ことになったのだ。エヴァ工学の第一人者であり、作業責任者たる赤木リツコ博士に知恵ぶかい鳳凰のような微笑みで言われれば納得せざるを得ない。どうも作業指令用ではない情報伝達用のケーブルが複雑に底の方で走っているような気もするが、好奇心は猫をも感電死させる。
どっちにしろ、どれほど優秀な情報員が調べようにもここまで細かく全身を巻かれた日には、全体を把握するのにどれくらいかかるのやら。真実は赤木博士の頭の中にしかない。
 
 
葉を隠すには森の中、だ・・・・・一日一回、赤木博士は必ず自分の足で初号機のケージにやってくると、作業着に着替えて蛹になった初号機の頭部をぐるりと一巡する。
そして、なにやらぼそぼそ呟く。肝心の右腕の方は直に見ないのだが。
煙となんとかは高いところにあがりたがるというが。なんとかに二文字いれよう。
 
 
 
「いわゆるひとつの絡新婦(じょろうぐも)の理(ことわり)ってやつかしら」
 
葛城ミサトなど、多少は赤木リツコ博士のことを知る人間はその動向が心配でならない。
科学者なんぞ金銭もたせて人目につかないところにいかせたらなにしでかすか分かったもんじゃない。シンジ君を手元においているのをいいことに、ひそかに右腕だけではすまさないトンデモ改造を初号機に施しておいて「本人の承諾は得てあるわ」とこっちに黙って動かす気じゃあるまいや。・・・・・・やりかねない。
あの蛹みたいなケーブル繭に封じ込められた中から、メタモルフォーゼだか武装現象(アームドフェノメノン)だか起こしたエヴァ初号機が”黄金に輝いて”羽化して繭を食い破って出てくる・・・・・
というオトロシゲな悪夢を作戦部長室でのうたた寝でよく見る。疲労のせい、だろうか。
 
 
「なに隠してんのかね・・・・よっぽど”見せたくない”何かがあるのよ。繭の中に」
 
 
 
赤木リツコ博士の昏い、野望色の瞳の中にはなにがあるのか・・・・
 
 
 
「それから・・・・・・シンジ君だわ・・・」
リツコ博士がなにを計画し企もうが、結局の所、エヴァ初号機に乗り込み、実際に鉾の威を奮うのは碇シンジ君。その際に何を思うのか、なにを考えているのか。
距離をおいてしまったことで、知らず知らず造っていた「壁」から解放され、少年のことがよく見えてきた・・・・・などということは今のところ、微塵もなく。
言葉を交わす機会が激減したことで、ますます意思が知れなくなっている。
その言葉も伝え聞くだけ、ということが多い。
 
 
視察のため「鉾」が埋設された道路を端から端まで歩き、彼はこういったそうだ。
 
「エヴァの洗濯物が干せるくらいに長いんだね」と。そして、夜空を見上げて。
 
「これなら、星座の位置も変えられるかもしれない・・・・夜もひっくりかえせば、朝になりそうだよ」
お好み焼きのヘラじゃあるまいし・・・・渚カヲルからの贈り物ということで有頂天な碇シンジである。その後ろを検分についていた弐号機パイロット、惣流アスカは「えらいもんがえらいやつに渡ったわね・・・なんで渚、アンタは・・・・・」
 
 
やたらに生活感のあるSFチックなセリフに慄然するほかない。まるで星天に対する絵筆
のようで、ちょっと目を離せばやりかねない。天にまします星々を右に左に東に西に。
 
 
「それだけ、あのバカの負担が重くなるってコト・・・・・分かってやったの・・?・・」
その強さに嫉妬を感じていないといえるだろうか。
 
階梯が見える。それを登り始めれば、もう、届かない。一段階、上へ。レベルが。
まるで天に問うように。無敵の檻の中に入れられた少年の肩にのせられた重りを。
 
 
「ねえ」・・・・・・・・・すくなくとも、わたしには、たえられない。
それこそ、矛盾というものだ。
 
 
葛城ミサトにしてみれば、碇シンジもまた、不透明な繭の中に。
 
へんてこりんな、面妖な、蛹になったエヴァ初号機に象徴されてる。
幼虫でもなく、蝶でもない。子供でもなく、大人でもない。
俗に、少年の背から天使の翼が切り放たれると、地に足をつけ少年は男になる、という。
蛹は、幼虫の時分にあった腹脚が消滅し、翅の芽が動き出す。どちらもリリックである。
 
 
 
「蛹の意義というのは昔から議論されてきたのですが、その結果、現在二つの対立する学説に分かれています。一つはベルレーゼ・イムス説、もうひとつはポヤーコフ・ヒントン説です。これは、簡単に言うとベルレーゼ・イムス説では蛹を完全変態して成長する外翅類の幼生と同じ位置づけでとらえます。外翅類というのはトンボやバッタを含む仲間です。これに対し、ポヤーコフ・ヒントン説では蛹は幼虫と同じ位置づけとします。ですから、前説では蛹は最終齢幼虫のような意味合いがありますが、後者の説では蛹は第一齢成虫で、本物の成虫は第二齢成虫というような意味合いをもつのです・・・・」
 
 
聞こえてくるいい調子の霧島講義。その隣には碇シンジ。いつの間に来ていたのか。
葛城ミサトの視線に気づいたのか、碇シンジがこっちを見る。そして、にこっと黙礼。
確かに、違って見える。碇司令よりよほど親子に見えてしまう。男の側においておけば、やはり影響されるのか。ちょっと、雰囲気に重みを増してきたような。
 
 
さみしさ半分、うれしさ半分、だ。
 
家族であろうがなかろうが、一緒に暮らすということは、ある役割をずうっと果たして欲しい、ということでもある。それ以外を演じてはいけないのだ。
しかし、成長にはいったん舞台から降りてでも、自由を手にして喰んでおかなくてはならない時がある。葛城ミサトは二人の子供にそういう類の成長を望む。
アスカは口にはしないけれど、洞木さんに料理を習っている。
シンジ君は家を離れ、もらった家を掃除して、リツコの家に眠っている。
これからどうなるのか分からない、夜も灯りがついている、心地よかった楽しい我が家も失うかも知れない。けれど、それはそれでしょうーがないことだ。
 
 
 
そう、彼に変化を。願ってみたのだから。
 
 
 
 
 

 
 
     「土ッ性根すえて仕事せいや、こらア!」
 
まるで手抜き工事でグリーン芝の下に石ころが入り込んでいるのを発見し、「なんじゃこりゃあ、あー、こりゃ全部やり直しじゃおい。グリーン芝全部張り替えろ」とこちらを甘くなめくさった下請け業者に命じるゴルフ場設計者のような怒声が伊吹商事に響き渡る。
 
 
     「こーの、アンゴウが!(岡山弁)」
      (岡山弁=広島のかばち、に相当する。が、共通語に翻訳不可能)
 
 
ものすげえ迫力の尾道カンジさん。先に注文した電詞文製作所の製品があがってきたのでそのチェックに立ち会っていたのだが、ざっと見ただけでこの有様である。
五十から始めたというコンピューターのキャリアには、それ以前の人生のそれが確実に積算されているらしい。恐ろしい眼力だった。だが、
 
 
「あんだと!?この白猿の仕事にケチつけようってか」
 
言われた方も負けてはいない。白いツナギに「九尾の白面猿」のロゴマークの半被。
秋葉森最強最速を手前で誇る電詞文製作所、「チーム白猿」。粋でいなせで血の気が多い。伊吹商事の表に停めた改造バイクを見てもわかるが、暴走系職人集団だ。脇の下には、
”ドス”型携帯コンピュータ”ドス=V”を提げている。むろんこの場合のドスとは、DISK OPERATION SYSTEMの頭参文字のことではない。そして、この若い衆が「坂本マサシ」
頭に金冠を巻いた、白猿のアタマであった。
 
 
「粋がるのはなあ、兄さんよ・・・・・」しかしもって年期が違う。尾道さんの日焼けした腕がガチガチガチンとキーを叩くとケリがつく。「ここいらへんを見てしてくれや、な」
 
「うきいぃぃぃぃぃ・・・っ!!」
普段は鉄火で粋でいなせな江戸っ子風の若者なのだが、間違いをつかれるとてきめんにサルになってしまう。素直に反省する点は美徳といってよいが。反省の雄叫びをあげる。
 
 
確かに、速さに拘りすぎて彼らの仕事は荒っぽい。はっきりいって「雑」。しかしまあ、要はプログラムなんぞ走ればいいのである。特徴として、白猿製の電詞文は、爆走はするが、止まらない。止まらない代わりに暴走すると言った方がよいか。そう言った点を重宝する会社もあるにはあるわけで、今までほとんど文句も言われたことはない。
というか、この乱暴な若い衆を相手に精度の高さを遠慮なく堂々と求めてくるのは尾道さんくらいなものだろう。そして、荒さをねじ伏せるほどの正確な眼力を持つ者も。
ちなみに、その「速度」を的確に評価する人間もこの伊吹商事にはいる。
松下コウノスケである。いま、彼の頭の中では超高性能のスケジュール管理専用の独自設計のデータベースが稼働している。「だいたい、この程度の速度なら、あと日程は・・」
どの程度で自分たちの注文したものが上がってくるのか・・・・今回の仕事のような全く
新しい技術水準を求める仕事の場合、それを読み切るのは非常に困難だ。その手がかりとしてこの白猿の仕事はある。冷徹なことこの上ない松下コウノスケの評価である。
 
 
「ついでに言わしてもらうがな・・・・」
”ついで”などではとても収まりきれない量の専門的指摘をゴリゴリみっちり受けることになった白猿のメンバー。その様子はまるでベテラン刑事に説教される暴走族だ。
最初には確かに仕事の話だったものが、いつしか仕事の有り様、そして人生の有り様、そして、テーマが「#風雪荒波小林旭# 男の・・・・生き様 #高潮大雨高倉健」に行き、尾道さんが浪々と語り始めると感涙しすすり泣きだす若者達。
「そういうわけでな、お客だよ、まずお客のことを考えねえといけんわな?だろう?」
と、いうまとも系説教から始まり。
「飲み代が欲しくなったら、よく赤松を切ったもんだ。一本五万くらいするからな。それでそいつを五、六本切ってきてだな、バーベキューとかやったもんだ」
「それでな、トマトをやまほどもらってきてなあ、わしが踏んだやつをジュースとかいってなあ・・・本場のワインも足踏みで作ったりするがなあ。野球部の監督は部員に飲ますわけだよ、そいつをうめえうめえとしらネエもんだから飲んでんだよ。もちろんわしは遠慮したがな・・・・」
挙げ句になんの話なのか話は尾道さんの青春武勇伝にまで及び、若者達を沸かせている。
 
 
「なんかあそこだけ夕日が輝いてるよ・・・・・まだ昼前だってえのに」
社長の伊吹マヤと話ながらも、社内一部の時間変化につっこみをいれる橘エンシャ。
 
「若いってことはいいことですねえ・・・」
このごろ腹をくくったせいか、酸いと甘みがぐっと染み込んできた感のあるワインレッドな伊吹マヤ。西暦2015年、まだまだいけるか。
おっさんアイズからすれば、「いい女」、同年代の野郎からしても「雰囲気が変わったね」。中学生くらいにしてみたら「ちょっと、ふけたみたい」と言われるかもしれないが。
 
 
「ま、それはいいですけど、例の双那夫妻の件ですけど」
「このご時世にヨーロッパ旅行とはねえ。優雅なこった。まったくあやかりたいもんさ」
 
 
「なんとかして連絡つきませんか」
 
 
「さあね、これまで秋葉森から一歩たりとも出なかった人間が欧州くんだりまで遊びにとは考えにくいからねえ。地下機械根(アンダーネッコ)のほうじゃ大勢困ってるらしいよ、あの二人が店を閉めちまって」
「現在となっては日本唯一の鉄道模型専門店、ぷらっとほーむ999。あの機械伯爵の剥製看板には驚きましたねー・・・・と、その裏では秋葉森黒海賊市場の総支配人、と」
「そんな大層なもんじゃないよ。裏基盤工房の仕切役だろ、秋葉森じゃそんなもんよりただの町内会長の方が偉いサ」
 
 
「なんとかして連絡がつきませんか」
 
 
「そればかりだね。そんなに聞きたいことがあるのかい・・・・生き別れた肉親の手がかりってわけでもなさそうだけど」
「最後の詰めなんです・・・・・もう一人の方が見つかれば・・・・それでも」
「そっちはダメ。完全にダメ。経歴痕跡あらゆる手がかりを完全に消されてる。自分でやったのか、それすらもわからない。名前さえ覚えがなけりゃ、あたしでも最初ッからこの世に存在しなかった人間じゃないかと疑いますよ」
「いたこと・・・いえ、いることは確かなんです。これ以上ないほどの証拠があるわけですしね・・・」
「この秋葉森や神戸去街、それから・・・第参新東京市だったかね。なんだかビルが箱根細工みたく災害に対してひっこんだりするとか・・・・知る人ぞ知る、日本四大奇街ってね。
その設計者が・・・・」
「赤木レンタロウ博士・・・・漂泊の都市工学者・・・・は、いいんですけど・・・・」「なんでこんなに見つからないのかねえ。街造りの先生のくせに人間嫌いなのかねえ」
 
 
その三人に会って数十点の技術的疑問点を問いただし解消しなければ、たとえ計画が完遂したとしても意味はなくなる。いや、造り上げて公開することには意味はあるけれど、私にとってのそれはない。まさか、その人達もかつての自分の「作品」がこんな形で使われるなんて夢にも思っていなかっただろうけれど。
求める過去の賢人たち・・・・時給はいいです。
 
 
「ま、どうしても見つからなければ・・・・・あたしの先生を紹介してあげるよ。
あたしゃ、元が法律関係なんで経験に基づく統計ってのが売りの霊験からきしのインチキだけど、先生は本物中の本物だからねー・・・・・でも不義理しっぱなしであんまり顔見せられないんだけどね」
橘エンシャの表情からしてどうもよっぽど苦手としているらしい。が、口を滑らせてしまったのが最後、伊吹マヤの眼が光る。
「確率統計からして、これだけプロが捜しても見つからないものがぽっと見つかるわけがありません!行きましょう、橘さんっ」
 
 
「え?」
 
 
ガタッと社長席から立ち上がると「皆さん、ちょっと出てきます!五時までに戻ります」橘エンシャの腕をとるとずいずいっと出かける準備をする伊吹マヤ。即断即決。
「松下さん、尾道さん、あとは頼みます」
 
「ああ」祭門チサトをサポートに、モニタから目も離さない松下コウノスケ。
「ああ、いってらっしゃい。社長」打って変わって笑顔で送り出す尾道さん。
 
 
「社長!?あ、あの女・・じゃねえ、おヒトじゃこちらの社長さんっすか?!」
たまげる白猿の面々。社長てえことはこの親父さんより偉いってことですが・・・。
あのケバい女帝っぽいおばはんが社長で、ありゃただのOLかと思っていた。
年の頃もそう、自分らと変わらんじゃないですか。
 
 
「ああ、だが勘違いするな。あの人は君タチ(尾道さんはお前だの貴様だのとはいかにも言いそうだが、どんなに怒っても目下であろうと使わないのだ)より百倍は気合いが入っているよー(こう伸ばすのも尾道さんの独特の呼調で視線は遙かオーガスタあたりの白い雲を眺めている感じでこう言うのだった。言われた方はなんとも煙に巻かれる)」
 
要は、人あしらいが上手いのだ。伊吹商事の他の面々ではこうはいかない。
交渉事は尾道さんの得意分野ということだ。そのかわり、細かい仕事はこの人はいっさいやらない。本当にやらない。いわば、昭和初期気質の親父が脱いだものを片づけないという「自分の家のくつろぎモード」を会社でも実行してくれるのであった。
 
例えば、尾道さんは珈琲が大好きで一日に十五杯も飲むのだが、魔法瓶にお湯が少なくなっても自分では補給したためしはない。ヘビースモーカーだが灰皿も絶対に綺麗にしない。お茶くみなどいない自力救済主義の伊吹商事においては潤滑を阻害する、社内規則違反といえようが、(この点、異常にやかましいのが松下コウノスケで照明の消し忘れ社内の片づけはもちろん。トイレの紙も三角に折り、なんと朝七時には自分で社屋の前を掃除するのだ。祭門チサトもそれにつき合っている)なんせこの人の座右の銘は「木っ端拾いの材木流しになるべからず」であるから仕方がない。”表にはみせない苦労”系主婦である、春込イスズさんがこまめにはやめになにもいわずに片づけをしてくれなければ、これもまた伊吹商事の亀裂になっていたやもしれぬ。たいがい、人間組織はこのようなしょーもないことで大喧嘩になったりするものだ。人間性が表れている。
 
 
 
ついでだからもうちょっと伊吹商事の内部事情を記しておこう。
年配熟年、ということで世間一般の見方では伊吹商事の安全弁こと、原田ホウロク、勝山チョウスケ両氏などもいかにも会社内の細かい片づけなどしそうもない。若い頃はやっていたかもしれないが、年をとり偉くなればそんなものは新入の女子社員あたりに一任して当たり前だろう。実際、伊吹商事に入るまでは両氏も弁当箱も洗ったことがなかった。
が、今では給湯室で食後、二人話ながら弁当箱や湯飲みやコップを洗っていたりする。
「私も自分がこんなことをするとは思ってなかったですなあ」と原田ホウロク氏。
「女房が驚きましてね、おとうさんがお弁当箱を洗ってくるなんて、とね。今じゃ、洗い忘れると逆に聞かれるんですよ。ははは」と勝山チョウスケ氏。
その後ろ姿をじいっと石野丸アラシが見ていたりするのだが・・・・。
 
 
給湯室のケースに並ぶ個人のコップなどを見ると個性がでていて面白い。
その中で際だって変わっていると言えば、加藤ジンエの味のある焼物であろう。
事前にヒビでも入れておいて運悪く触った人間に請求でもかける、それが社長ならなおベター・・・となれば一休さんの世界なのだが、これは加藤ジンエ作。趣味らしい。
「これはあのにせ東京タワーの建設途中の地下の土をもってきて焼いてみたんですがね」
いつもシニカルな薄ら笑いを浮かべている加藤ジンエがその話をするときばかりは単純に楽しげに笑って見せた。重さにして170グラムほどの可愛げ。
 
 
ほんまもんに高級品を持ってきているのは藤原ルカ。マイセンだがハリセンだかフローラダニカだかいうちょっと皆のものとはケタが違う。愛用していますから、がその淡々たる理由だが、一番目立っているのは石野丸アラシの真っ黄色の「円筒形パックマン」コップだというのは一般庶民のなごみで安心させる。
 
 
さて、橘エンシャを引き連れて出発しようと、ドアを開けたところで石野丸アラシが現れた。この時間は学校のハズだ。リトル巨人くんや童夢くんと同じで小学生にはしっかり学校にいってもらい、ナイターでも夜九時までという協定が石野丸電気店側とついこの間結ばれ、石野丸アラシの引き渡しのもめ事にケリがついたばかりだ。
 
 
「マヤ社長、どこ行くんだ?」
「得意先にご挨拶です。それよりアラシ君、学校は?」
「いいじゃないか、学校なんてつまんね・・・・ここの方が面白い」
「ダメよ、学校は勉強だけじゃないわ、お友達と友情を育んだりしなきゃ」
「フン、今どき一年生の教科書にも書いてねーよ、そんなこと。幼稚園レベル」
「お友達と友情・・・・あのねぇ社長、・・・・・・・って、やっぱ。やめとこか。
アンタ正しいよ」
「いいじゃない、チサトさんだって学校いってないんでしょ。聞いたよ」
ふくれると逆に男の子言葉がはがれてしまう石野丸アラシ。
子供だから仕方がないのかも知れないが、他人の事情などおかまいなしだ。
伊吹マヤはさすがに石野丸アラシにだけは”社長”として対しきれない。
小学生低学年の先生のように対する。おそらくはそれが一番、自然だ。
 
 
手を伸ばして・・・インベーダーキャップをなでなでする。
「それはね、・・・チサトさんはお祖父さんが学校だったの」
 
 
特殊な事情、というやつだ。どちらかといえば、祭門チサトは小学生高学年の頃から野口英世のように既に新雷で子供相手に教えていたというのだから登校拒否とも言い難い。
そのまま保母にしてしまわなかった七刻山のショーコの決断こそ有り難い。
 
 
「だからね、聞いたからって簡単にそんなこと口にしちゃだめよ」
なでなでなでなでなで・・・・・・・・・・なぜなぜなぜなぜなぜ
 
 
「ふん・・・・・・・・・いいもん。
ゲーセン行ってインベーダーやってぐれてやるから」
とても新世紀の子供とは思えない古典なセリフを吐く石野丸アラシ。
 
「あら。世の中それほど甘くないし、大人はそれほど無責任じゃないわよ」
にこにこと微笑みながら、伊吹マヤはとっくにたてておいた対策を実行に移す。
スーツのポケットから護衛用に持たされたスタンガン付きポケベルを押す。
それは、秋葉森限定の正義の味方にして伊吹商事の警備員、ISDN回線男の緊急コール。
 
「げっ・・・・!まさか・・・アイツを呼ぶの?」
 
今は”正義の町内巡回”の途中だが、これを押せば何時でもどこでも瞬時に駆けつけて応じてくれるはずだ。
「そう、きちんと学校まで回線男さんに送ってもらいますから。もう遅刻でしょうけど、なるべく早いほうがいいでしょ」
「やめてやめて!!それだけはゆるして!あんなのに送られたら二度と学校にいけなくなっちゃうよ!とにかく絶対やめてよ!」
 
 
「あと一分以内にくると思うわ・・・」
その無慈悲な微笑みこそが、月にかわって仕置きの証。ああ、時限爆弾の女神。
 
ぶろろろーん。遠くから聞こえてくる爆音。
 
 
「もうしない?きちんと学校にいくって約束する?」
子供が反省すれば、すぐに許すのが先生である。教育である。骨身にまで沁みさせて思い知らすのはそうではない。
「する、するう!!いきます、行くから早く!」
 
 
「約束したわよ」と、伊吹商事の軽の後部ドアを開けてやる伊吹マヤ。そこにリスのように滑り込む石野丸アラシ。たしかに自分に迫ってこられる正義の味方というやつは生半可なゾンビの大群より怖いかもしれない。まあ、悪人をビビらす迫力がなければ勤まらない職業(?)だし。「イブキより全隊員へ。危機は回避された、通常シフトに復帰せよ」
携帯から保安部へ連絡を入れる。聞こえた爆音が遠くなっていく。
 
 
ちなみに、保安部とは東芝マスオを部長としてその下にISDN回線男を配したセクションである。いかにも伊達で冗談ぽいが、重要な部署であった。二名しかいないがハッタリを
かますことも大切。計画が進むに連れ、面子が面子だけに勘違いの甘い匂いを嗅ぎつける者たちも現れる。使ってもなかなか減らない伊吹社長の謎の資金のこともある。
現にすでに何件か妨害が入ってきていた。それを撃退するのは、普段の表のサラリーマン顔の東芝マスオさんではない、裏の顔、特上極悪凶悪ハッカー「ンーガグック」の彼だ。
そのうち、彼の暗黒仕事人の活躍ぶりを記すことになるだろう。
 
 
そして軽はひとまず、秋葉森小学校に向けてはしりだした。
 
 
一体全体、伊吹商事という会社は何をつくっているのだろう。
百山田サブロウが馴染みの記者に電話でのインタビューを受けていた。
引退したコンピュータゲーム作りの天才が今度は何をやるのか、なんとか記者はネタにしたいらしいのだが、のらりくらりと巨体をかわし要領を得ない。
 
「ある人物に、電気羊の夢をみてもらうことかな・・・・・今取り組んでいるのは無限の記憶容量から発生する果てしなく繰り返される忘却の抑制・・・惚けの防止といったら分かりやすいかな・・・」
「全っ然、分かりやすくないですけど。もう少し凡人にもわかる表現でお願いしますよ」
「それを指揮しているウチの社長は凡人だが・・・・・しいて言えば教育ソフトだよ。
世界で唯一人を教育するソフトだ。もっと分かりやすく言えば、宇宙人相手の対話翻訳ソフトだ。どうだい、分かりやすいかな」
「・・・百山田さんは人を担がないから。で、そんなもんが売り物になるんですか」
「売る気はないみたいだな。今のところ、その予定はない」
「なんだか皆さん、美しき電脳村の村民みたいですよ。社長さんのお名前は武者小路でしたっけ」
「伊吹だよ。ちなみに芸術家でもないな。その目的も実のところ、よく分からない」
「念の入った詐欺師じゃないんですか。秋葉森のジンクスを知らないわけでもなし」
それは、知らんだろうな、と思いつつ百山田サブロウは返答しなかった。
説明も億劫になってきたのでやめてしまう。人間の心の在処など話におよばず。
 
伊吹マヤ
 
あの都市(まち)の風景のひとつとして
 
 

 
 
MST−511 パンプキン・ヘッド 深夜にもそのカボチャの電車は止まらない。
順調に欧州地図を駆け抜けていた。ドイツ領内に入るが面倒なパスポートのチェックはない。食堂車での騒がしく賑やかなパーティも終わり、車内は静まる。乗客は寝台の中でまた別の夢を見るわけだ。車窓は闇を映すのみ。夜景を楽しむものでもない。
よい子の眠る安らかな夜・・・・・・そのはずだった。
しかし、夜は夢を醸造するが、おとぎ話のダークサイドを覚醒させる時間帯でもある。
 
 
食堂車で二人居残って、ザッハ・トルテに舌鼓をうつにせ綾波レイ。
無精ひげはいやだったのか、さきほど化粧台で加持リョウジの変装を落としたヘドバ伊藤。
 
「そろそろね・・・・・”目的地に到着”するわ」
「それまでには食べ終わるから・・・・いやー、今回の旅行は堪能させていたーきました!」
「どう?それ美味しい?」
「さっすが本場って感じ!日本は夏ばっかだからね、こーゆーチョコレートとかクリームものは全然かないませんねぇ・・・はぐはぐ」
「ふぅん・・・・・そりゃ佳かった。で、やっぱり神戸に送ればいいかしら?」
「ん?いや、いーわよ。まだスイスに用事があ・・・・・・・・・・・・・くっ?」
 
「どうしたの?ノドにつかえたの?」
 
「ごほっ・・・・・・・くっ・・・・・・このケーキ・・・・・・・」
いきなりただでさえ白い顔をさらに白くするにせ綾波レイ。そのままテーブルに伏してしまいぴくりとも動かなくなった・・・・・あまりに唐突な「死」。
 
 
「林檎のケーキだとハマりすぎてたかもね・・・・魔女の毒林檎、とかね」
 
 
「よく働いてくれたけど、どうも素性の分からない人って信用ならないの。得体の知れない赤瞳といい。アバドンのラボに放り込むよりは幸せでしょ。あなた、綺麗だから餌食にされるわ。ごめんなさいね」
指をのばして死亡した少女の白い頬をフクリとつく。もう硬直が起こっている。
「棺桶もあるし、ちょうどいいわね・・・・あとで運んでおきましょう」
そして、食堂車は無人となった。座席のキャンドルが吹き消されることもない。
後片づけにくるはずの乗務員はいつまでたってもやってこない。
じ、じ、じ、じ・・・・・・道化人形の台座の蝋燭が灯り続ける。夜の列車に。
 

 
 
さてこれよりは悪夢のギニョールの幕開けでございます。
 
 
少年「なんだ、参加者はひとりだけかあ」
少女「たぶん、わたしで打ち切りね・・・・でも、あなたが企画者なの?」
少年「うん、そうだよ。でも・・・・この企画は失敗したなあ」
少女「でも、参加者が一人でもいる限り、やるんでしょう」
 
 
子供はとっくに眠る時間。それは家の中でもカボチャの列車の中でも同じ。
ところが、寝台個室から抜け出してきた小さい影がひとつとひとつ。
別々の個室からそっと抜け出してきて、閉店したジュースとお菓子売り場の前で待ち合わせ。少々薄くらい非常灯の灯りの中に浮かぶのは、ターバンを巻いた黒い髪で青い瞳の男の子と、金髪の赤いリボンの緑の瞳の女の子。女の子の方が背が高い。
 
 
「まるで平日の遊園地・・・・さびしいなあ。こんなことになると思ってなかったらサービスするよ。参加料、”お国の硬貨三枚”は頂きません」
「ツアーの中のツアーはいかが?ってあなたのメールの文句が気に入ったから来てみたんだけど、ちょっと読みが甘かったみたいだね。昼間、あれだけ騒いでいたら夜は寝ちゃうわよ。あなたと違って列車の旅なんて慣れてないしね」
「そうかあ、もうちょっと対象年齢をあげるべきだったね。カボチャ列車の夜間内部探検ツアーは。でも、あまり事情がわかる年齢だと、見つかったときの言い訳に困るしなあ」
「じゃ、いくわよ!・・・・・あ、そういえばあなたの名前なんていうんだっけ?」
 
「ボクは覚えてるのにな。ボクの名はシコウ。キミの名はミハイラ」
「ご名答(めーとー)、ミハイラ・ホーエンツォレルン、いい名前だからすぐに覚えられるんでしょ」
 
このとんちんかんな問答にはすこし説明を要するかも知れない。
このふたりの少年と少女は、このカボチャの列車での知り合い。初対面であった。
双方の家にはなんの面識もなく、ただ子供同士が知り合った。図書館車両での子供向け読書会でちょうど隣同士だったのだ。それが、シコウ、シコウ・鈴聞土という男の子。
ミハイラ・ホーエンツォレルンなる女の子。メールアドレスはその時に聞きだした。
 
彼は旅空の少年。少年の家は旅する商人なのだ。
この列車に乗ったのも仕事の内。車内でいくつか契約をまとめていた。
もちろん仕事するのは少年ではなく、父親や母親、祖母や祖父、兄や姉だ。
家族丸ごと、列車にのって国から国へ世界中を移動する。大陸間ジプシーだ。
名前がちょっと漢字混合で変わっているのもそのせいで、母親は亡命中国人。
 
そういう家柄の少年にとって、列車の旅など覚めてるというか慣れている。
カボチャの列車でも何度も乗っておりただヒマなだけ。そこで暇つぶしと商売を兼ね、この元手いらずの企画をたててみたものの、結果はこのとおり。
ターバンなんか巻いているのはその下に商売ものを隠しているためで月光仮面のコスプレではない。実用的歩く家庭金庫だ。
 
「それじゃ、行こうかあ」
 
探検はいいけれど、ここは自然の洞窟や廃墟じゃないのだ。客層が客層だけに、しっかりとセキュリティシステムが働いている。ちょっとでも異常があれば乗務員が来るだろうし、
なによりこんな時間ではどこも電気施錠がなされている。ブランドグッズ土産物や軽食やお菓子販売も閉めている時刻だ。どこにも侵入はできない。
ただの散歩だ。富家のお嬢様にとってはこれだけでも冒険なのかもしれないけどね・・・。
 
「あ、ちょっと待ってて」「いいよ」
手洗いのようだ。そんなに緊張することないのに。出発前の手持ちぶさた。
シコウはターバンから列車乗務員専用のカードキーと煙草、ライターを取りだした。
 
ぽっっと。一服。
車窓から見る景色は夜だろうが昼だろうとすでに頭の中にある。鉄道地図も記憶の中に。そろそろハイリンヒックの白霧峡谷にさしかかる。年がら年中霧に包まれているという。
ドイツの霧といえば、ブロッケンの怪物、という気象現象が有名だが、こちらの方も地名を冠した化け物伝説がある。中欧の生き字引である祖母に聞いたことがある。
 
 
昔々、このあたりの静謐をたいそう愛する、物静かな貴族領主ハイリンヒック伯爵ががおったそうな。
ところが、昔々でもそれほど大昔ではなかったので、その領主の代にやかましい鉄道が走るようになった。領主は鉄道をたいそう嫌い、憎んだ。そこで魔術をかじっておった伯爵はそのあたりに大量に発生する霧を使って大きな大きな巨人(ゴーレム)を造りだした。伯爵はもともと静謐を愛する物静かな人であったから、それを使ってちょっと脅かして鉄道を路線変更や頻繁な汽笛はカンベンしてもらおうくらいの考えだった。ところが・・・・ただでさえ見通しの悪い難所であるここでそんなもんに登場された日には運転手も機関士もたまったものではない。ちょっとゴーレムが挨拶したところでたちどころに大事故大惨事となった。その事故による死者の中には、運悪く遊びに来ようとしていた伯爵の娘、孫娘の惨い姿があった・・・・。
 
 
 
それ以来・・・・・・
 
 
 
 
「こら」
 
 
背後に気配、車窓に反射する金髪の少女。想念を破られてくわえた煙草に火をつけたままシコウは振り向いた。思わぬ少年の”犯罪”にぎょっとするミハイラ。
ばしんっ!!それもつかの間、目をキリリ吊り上げると名前も覚えてなかった少年にビンタをくらわす。「子供のクセになにやってんのよ!!こんなもんっ」床にポロリ落ちた煙草を踏み消す。喫煙が慣れ性になっている少年はあっけにとられるほかなし。にじにじ。
 
「ほらっ、こっち来なさい!」来なさい、というよりは強制連行だ。
三年上のの腕っ節で洗面所に連れて行かれるシコウ。そしてやらされるうがいと洗手。
そんな大層なことかな・・・・思いつつも。やっぱり女の子だね。
 
「そんな子供の時から吸ってたら三十くらいになれば鼻がもげて・・・・ん?」
 
ん・・・・・体に違和感。周囲の空気に肌が摩擦を感じる。なんだこれ?
少女も似たような感覚があったらしい。怪訝な表情。
 
 
「今の?」「あなたも?」向かい合い、確認し合う。二人同時の錯覚は考えにくい。
この・・・・・今乗っている列車のスピードがだんだんと減速していくような。
ユックリズム。今まで意識せずに感じていたものが圧していたものが、減っていく。
おかしなもので、基本的に平地をゆくはずの列車がかなりの傾斜を昇っていくような体感がある。身体的経験がそのような錯覚をおこさせている。足下がぐらつく。
 
 
「これが噂に聞く地震ってものかしら?」「たぶん、違う、とおもう」
異常事態。この四文字の気配だけで気圧される少年と少女。
 
 
ブン・・・・・・・そしてふいに消えてしまう照明。非常灯まで完全に。
暗闇にのしかかられ、少女は悲鳴をあげる。反射的にシコウにしがみつくのだが、それは背丈のせいで胸に少年の顔を抱きつけているような格好になる。花畑に埋まったみたいに柔らかい、いい匂いがする。二重に視覚が封じられた少年はそう思った。
 
 
 
闇の中・・・・・・
 
 
 
「停電・・・・かしら。電力節約のための消灯じゃ、ないわよね」
「なんかテロリストでも乗ってたのかな。電源車にでも細工とかしてて」
「ええっ!?」
「うそうそ。このあたりの電力供給は不安定なんだ。鉄道嫌いの幽霊が出るから。
とにかく・・・・・探検は中止にして帰ろう。責任上、送るから」
「それは逆でしょ。わたしが送るわよ。でも、懐中電灯とか・・・持ってない?」
「まかせてよ。ペンライトだけど」
 
 
「(でも、車内放送や乗客のざわめく様子がない・・・・おかしい)」
まるで車内は死に絶えたように。この突然の停電に不審を感じて通路まで出てくる人間もいないというのは・・・・乗客全てが寝入っているわけでもないし、何より乗務員のアクションがないのは異常だ・・・自分たちだけ別の車両に放り込まれて、扉を開けたこの先はぽっかりと闇が待ち受けている気がした・・・・シコウの足が止まる。
 
 
「静かね・・・・・・こんなに静かだったんだ・・・・長いね、停電・・・」
ミハイラが言った途端に照明が復帰した。
「なんなのよ・・・!」「あっ・・・・・!」
 
 
 
二人の目の前にイグアナが立っていた。
 
 
 
表記に間違いはない。二足直立。それも、大きい。子供の身長など遙かに超えている。
 
 
「ちょっ・・・・・ちょうどよかった!!まだ現実と夢の世界が区別つかない子供だ。
助かった・・・・・きみたち、悪いんだけどさ・・・・」
 
 
さらにイグアナが日本語で話しかけてきた。シコウが商売上、日本語を習得していたが、
先ほどのようにミハイラに抱きしめられて・・ベアハッグならぬフローラル・ハッグか・・・・口がきけない。
 
「ここの、ここ、後ろのチャックを開けて欲しいんだ。変装の名人の怪盗四十面相みたいな奴・・・じゃない、こんな言い方じゃだめだな・・・そうそう、僕はは悪い魔法使いに姿を変えられた王子様なんだ。大蔵大臣か防衛大臣に任命してあげるから助けてくれ、ここのチャックを下ろすだけでいいんだ、簡単だろ?」
 
後ろを向く人語を話すイグアナ・・・・停電のおかげで檻の電磁ロックが解除されたので解脱を中止して逃げてきた青葉くんである・・・・・・が懸命に訴える。
 
 
「着ぐるみ?いいけど・・・・・そんなまぬけな悪人もいないだろうし」
「ええっ・・・・シコウ君、言ってることがわかるの?」
「日本語だよ。東洋の島国の言葉。王子様、できれば英語でお願いします」
「やめときなさいよ。悪人じゃなくても変質者なのは間違いないわ。かわりにわたしたちをその中へ押し込むかもしれないわ」
 
「大丈夫だよ・・・・・(ここで断ったら怒りだして暴れるかもしれないもん)・・・・
 
・・あれ?接着剤だ・・・・イグアナの王子様、くっついてとれません」
 
「なにー!?そこまで念入りに・・・・なんで007並に警戒されなきゃいけないんだ!オレは確かにオペレータとしては超一流だけど、そこまでマークしなくてもいいじゃないか!オレは単に副司令にいわれて出張に来ただけの普通の公務員なんだぞー!!」
 
 
「王子様じゃなかったんですか。ヘビとかカエルとか爬虫類に変えられるのは王道だけど」
「かわいそう・・・多分、このひと長旅でノイローゼにかかったお笑い芸人よ」
 
 
エマニエル坊やじゃあるまいし外人のがきに冷静に突っ込みをいれられ、はらワタニエル青年になってしまった青葉君が「このがき十年早いぞ」着ぐるみのオプションのベロ攻撃をシコウ少年にかます。「うひゃっ」シコウのMPが10ポイントへった!
 
 
「シコウ君になにするのよ!」
ビシッ!ミハイラが少女とも思えないローキックをくらわす。
足をすくわれ、こけるイグアナ。「ふん、いい気味」「すごいね・・・何かやってるの?」
「カラテをね。アイキドーもちょっと・・ボディーガードにうろつかれるの面倒だから」
 
 
「くっ・・・・この格好で合流しないといけないのか。仕方がない、ほんとにイグアナになった王子様、で押し通そう。それじゃ、君たち夜更かしはほどほどにね」
 
「ちょっとまって」
「何だい?」
「これからどこ行くの?緊急の用みたいだけど」
「お姫様を助けにいくのさ・・・・本物のな」
 
「さっきの停電は、もしかしてあなたか・・・お仲間の仕業ですか」
 
「それは知らないな。もしかしたら・・・・・そうなのかもしれないが」
加持さんあたりがやったのかもしれないな、と思いつつ、今更ながら、なんで子供がここにいるのか不審に思うイグアオバ君。
「そういえば、君たちはなんでこんなところにいるんだい?子供は寝る時間だろう」
「単なる夜のデートです。これが最初で最後の夜ですから」
「シコウ君・・・・!」
 
「ふーん、進んでいるんだな。ま、恋することはいいことだ。じゃあな」
 
「あ、もう一回ちょっと待って」
「なんだい、お兄さんは急いでいるんだ。それにこれは夢だよ、夢。イグアナに閉じこめられた日本人男性と夜中に話したなんてお父さんやお母さんに言っちゃだめだよ。忘れるんだ」
 
「思い切り都合がいいね。でも、言うとおりにするよ」
「こんな話、いくらこの列車の中でも信じてもらえないわ」
 
「ところで・・・・お姫様ってどんな人?」
 
「おいおい、デート中なんだろ」
 
「もしかして、黒い服で青い髪で白い肌で赤い瞳をした・・・綺麗なあのひと?」
 
「よく分かったな・・・・・どこかで見たのか?!」
 
シコウはうなづく。「ここに来る途中でみかけたんだけど食堂車で男の人とケーキ食べてたよ。昼間と夜とじゃイメージ全然違うんだね、あの人・・・」
 
「食堂車だな。とりあえず行ってみるか。ありがとう・・・君は」
「シコウです。シコウ・鈴聞土」
「仲良くしたいわけじゃないけど、ミハイラよ。お忘れなくイグアナさん」
「ははは、覚えておくよ。でも君たちは忘れてくれよ」
 
 
 
と。
 
 
ガラリと扉を開け、行こうとすると次の連結部には怪しい輩が妖しい血刀を下げてゆらーりと立っていた。その足下にノドをパックリ裂かれた乗務員が横たわり事切れていた。
 
 
イスラムの神秘主義者とKKK団を足して二で割ったような格好・・・
ゆったりとした舞踏服のようなものに、三角の覆面。尖った木靴。ナイフ。
怪しい宗教関係者ですませようにも、足下の死体が許さない。まさか蝋人形でもなかろう。
 
 
ぎょっ
 
 
である。それは向こうも動揺であった、いや、同様であったろう。
いきなり直立するイグアナを見たのだから。心臓がノドまでせり上がりそうになる青葉君。
 
うわー、ちょーヤベエよ、殺人現場かよ。なんでオレがこんな目にィィィ・・・・・
推理小説なんか読んだことねーから、謎解きなんてできねえぞってゆうかスグ目の前に凶器持った殺人犯が現行犯っぽい生々しさで立ってンだからその必要はないって感じでおいおいもうかんべんしてくれや状態に突入の青葉君であった。でもちょっと子供達を守らねばならんなと思ってもいたりする。その気合いが通じたのか・・・・・
 
 
だだっ!!いきなり反転、背をむけて逃げだす三角覆面の犯人。
決めつけて悪いが、この状況ではそう判断するしかあるまい。
 
 
「おいっ!待げよう!」
”待げよう”=待て、と逃げようの複合語だが、体が二つない人間には不可能な矛盾的行動になる。逃げるものを追うのは本能というものだが、理性的判断からすれば警察でもない、子供連れの自分がわざわざ危険に飛び込むのもどうかということだ。
 
 
しかし、その中途半端がいけなかったのか、逃げかけた三角覆面が再び反転してこちらに向かってきた!こちらの逃げ腰を察知したのか、覆面してて正体分からんのにやはり、目撃者は消せ、とばかりにナイフを先端に凶悪な針の如く走り込んでくる。
 
 
 
「逃げろっ!!」
後ろ手に閉めた扉の前に立ちはだかり、体を張ってイグアナ仁王立ちになる青葉君。
 
 
どすっ
 
 
「うぎゃあああああああーーーーーーーーーーーー!!」
 
ぐさっ!、ぐさっ!、ぐさっ!、ぐさっ!
 
狂ったようにイグアナの着ぐるみを刺す襲撃者。この調子だとそのうち貫通してしまうかもしれない。「に、げ、ろーーーーーーーー!!」「芸人さんっっっっ!!!」「出ていっちゃダメだよ!誰か呼んでこよう」「そんなの間に合わないわよ!見殺しにするの?く、鍵・・・・開けなさいよ!!」しかし、ガッチリ鍵だけは死守する青葉君。
「じゃあ、この消火器で」「すりガラスを割るの?」「さがってて・・・」
「逃げるんだ、こいつは、子供でも容赦しない感じだっ!!うりゃーああああっっ」
逆襲に出たらしい。北欧で二人の刑事を散々な目にあわせた、あの伝説が今またここに!
 
甦る!RON・GE=DO・HA・TU・TE・N・・・・・
 
 
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラアっ」
 
 
子供たちは扉のすりガラスの向こう側に、悪鬼そのものの異邦人をみた・・・
 
 
 
「はあはあ・・・・・とてもじゃないが、危険手当とボーナスは三十六色金銀入りくらいつけてもらわないとかなわないな・・・・頼んますよ、副司令(おやっさん)・・」
頼もしい男の声で本宮風に極める青葉君。イグアナもズタボロだ。
さすがに特務機関で鍛えられていた日本男士の風貌に外国子供も声がない。
「一所懸命・・・・これが侍(サムライ)なのかなあ」
「この人、頭はチョンマゲ(TYO・N・MA・GE)なのね」
 
 
がらり 向こうの扉が開いた。「!!!!」
 
 
ぎょっ 
 
 
「にげろっっ!!」感心する子供達の手を引いて逆方向にダッシュする青葉君。
なんと三角覆面さんのお仲間だった。しかも五人。しかも銃器で武装している。
さすがの伝説も効果領域は刀剣類に留まる。そちらは加持リョウジの領域だ。
イグアナの足下に転がる仲間の撲殺死体(死んでないけど気絶しただけ)を見て奇声を発するなり躊躇いも警告もナシで発砲してきた。こりゃ勝てっこないし相手にしないことだ。
 
 
 
すたこらさっさ・・・・・・青葉君たちは逃げだした・・・・・・・
 
 
 

 
 
 
「これ、綾波さんじゃないよ」
 
碇シンジはたしかにこう言った。映像からプリントアウトされた「例の写真」を見ながら。
 
 
「綾波レイ一行、オランダの美術館にて何をトチ狂ったか放火して名画を燃やしまくった疑惑」、略して「綾波疑惑」についての会合である。その席上で。
これほどはっきりした証拠をみせつけられながら、はっきり碇シンジがそう言った。
 
 
碇シンジがこういう性格でなければ「お前らの目はフシ穴か。かわりに目玉ほじくって銀紙でもはっておけ」とでも受け取られかねない発言である。
 
 
「なにぃ?」と最近、口もきかない惣流アスカの片眉がはね上がる。最近、いろいろと碇シンジに含むところがある惣流アスカはモロ上記のとおりに受け取った。
 
 
「シンジ、どういうことだよ」と相田ケンスケらが問う前に、最近聞かれなくなった惣流アスカのあのセリフが出た。
 
 
「アンタ、バカあ?」
 
 
しぃー・・・・・・・・・・・・・・・・ん
 
 
 
一瞬、静まり返る席上。言われた碇シンジもぽかんとしている。
言ってしまってからこの静かなる反応に悔やみそうになる惣流アスカだが・・・・
 
どうも周囲の反応がおかしい。
 
 
どれくらいおかしいかといえば、ここでいきなり「美味しい紅茶のいれ方」コーナーに突入するくらいおかしかった。実演はなにかと用意がいい洞木ヒカリさんです。
 
 
 
<<おいしい紅茶のいれ方>>
 
その壱・・・・カップなどは温めてから使いましょう。そうしないと注いだお湯の温度が
さがり、紅茶の成分が抽出されません。
 
その弐・・・・分量も茶さじなどを使い、計っておくのがいいでしょう。ひとそれぞれ好みがあるでしょうけど、みんなの前でいれる場合はそっちのほうがいいですね。
 
その参・・・・紅茶は新鮮な汲みたての水を沸騰させた水でいれるほどおいしくなります。山の中にでも隠棲してない限り、汲みたては難しいので沸騰はさせましょう。
 
その四・・・・ちなみにティーバッグには紅茶は一人分しか入ってません。当然というか残念というか・・・お客様をもてなす場合はけちけちしてはいけませんね。出し殻を三、四本まとめても味はでませんよ。あきらめましょう。時間は四十五秒から九十秒。激しく揺すったり絞ったりすると味が悪くなります。
 
 
とぽとぽとぽとぽとぽとぽとぽ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
「なっ・・・・・なっ・・・・・」
 
 
いつの間にか並べられた白いカップに注がれる美味しい紅茶であります。
そして、惣流アスカをのぞく全員がほぼ同時にカップを持ち上げ・・・・・味わう。
急にホラッキ・ヒカリーヌ伯爵夫人主催の上流階級の午後のお茶会にワープしたかのような空気に自分一人だけ下町のジャリん子になったかのよーな疎外感を味わう惣流アスカ。
 
 
そして、皆が同時に。
 
 
 
 
 
と、一息ついてから。
 
 
「なによその・・・・・平和大観音みたいな表情は、しかも小さな拍手つきで。ヒカリ?」
 
 
 
それに対する答えはひとつ。ほぼ同時に全員、「久しぶりに聞いたから」
バカだからバカだって言ってやったことだけのこと。ほんとうは言う気はなかった。
 
 
「いやー、久しぶりに聞いたのう、何年ぶりや?」「へえ、鈴原とアスカって実は幼なじみなんだ?」「そうや、実はワシ、ドイツのタイガーバームクーヘン市にちっさい頃住んどったことがあるんや」「ああ、あの野球の盛んな!」「あらら・・・・悪口を鶯みたいに聞き入ってしまうなんて・・・」「やっぱり、こうでなくっちゃなあ。あるべきところにある、定型の魅力ってやつかね」人を肴に好きずきに勝手なことをほざく。
 
必要なこと以外は口をきかないと決めた。それが、いつものくせで出てしまった。
それだけでなんでそんな幸せそうな表情ができるのか・・・・・
 
 
「アンタたち、バっカじゃないの?」
 
 
「おお、新たなパターンを開発してきよったでえ!別バージョンやっ!!おおー」
「効果範囲が広がっているぞ・・・おそらくは威力の方も1.45倍は・・・」
「あのセリフがない惣流さんはたぶん・・・・・」
「ワサビ抜きのお寿司だわ」「うん、砂糖を入れないコーヒーみたいだ」
「それ、同じのようでまるで正反対ですね?」
鈴原トウジの号令にあわせてどんどんぱんぱんとさわぐ一同。
 
 
「にしても言われるとほんまムカつくなー、今までさんざ言われとってシンジ、よーこの女生かしとったなあ。あー、ほんまムカつく」にやにや鈴原トウジ。
 
 
「やっぱりあのセリフをいわせるのはシンジしかいないよなー」にやにや相田ケンスケ。
「うんうん、わたしたちじゃ役不足ね」「とても自然な・・・呼吸でした」
 
 
「そ、そうかな・・・」照れる碇シンジ。べつにほめとりゃせんのだが。
 
 
「これ、綾波さんじゃないよ・・・・・なんつー超ゴリ押しのボケをこうもナチュラルにかませる奴は第三新東京市広しといえど、シンジっ、オノレしかおらんっ!」
「まるで作為的な感じがしないところが凄いよなー、もしかして近眼なんじゃないだろな」
「碇君って眼鏡はどうかしら?」「けっこう、似合うと思いますけど・・・」
 
 
あ、アンタらねええ・・・・・・・・友人達のナンジャクさに思わず@怒りのうめぼし@が出来てしまう惣流アスカ。
 
 
「アスカはどう思う?碇君に眼鏡って」奇襲のような洞木ヒカリの問いかけに
 
「え?あ?・・・そうねえ、父親がかけてるから顔の造作的には・・・そんなに違和感はないと思う」応えてしまう。いや、そういうことじゃなくって。
 
 
「視力はいいよ。でも、”これ”を綾波さんだって言うのは無理があるよ」
せっかくほのぼのとなりかけていたのを滝流しにする碇シンジ。「だって・・ほら」
 
 
くるりと、皆の前に見せた写真には綾波レイの顔が、ぽっかり空間になっていた。
 
 
よろしく首のない花嫁。
 
 

 
 
パンプキンヘッド=カボチャ列車の食堂車。
電灯が消え闇の中。その中の一つの席に蝋燭の炎が寂しげに燃えている。
浮かびあがる人影。反射する赤光。「れ そん でゅ れすらーだ れ そん でゅ
れ みかや れそんでゅ れーじぇんと ツ れーにー・めーけーれ」呟く歌声。
 
復讐の女神めいたその姿にたちすくむ・・・・・死体を片しにきたヘドバ伊藤。
 
 
「編集は終わったの?」青い髪の少女は口をひらいた。
脳に直接でも心に響くでもない、たしかに鼓膜をふるわす声。
その微笑み。たしかに生者のものだ。たしかに死んだはずの生者の。
 
 
「なんで生きてるの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
 
「立ってないで座ったら?」
 
声に導かれふらふらと墓へ行進する亡者の足取りで席につくヘドバ伊藤。
 
「出身地が神戸だったっけ・・・・・・あんた、もしかして綾波レイの背後霊(ゴースト)?とっくに死んだ双子の姉で妹を守ってるとか・・・・・・」
 
「なかなか感動的なお話。映画向けね。でも違うわ・・・」
うーん、とひとつ目をつぶって何か考えるふうの、にせ綾波レイ。
 
「じゃあ、本物が全てを知ってここに座っているってのは?」
 
「それも違う・・・・。本物のレイちゃんはまだ棺桶の中・・・・カンタローさん、ソノさん、アオバクン・・・・ややこしいけど、わたしと一緒だった方ね・・・・・彼らも無事ね・・わたしみたいに消されなかったみたい・・・・・さて、もう一組は・・・・加持リョウジさんがははぁ、もう抜け出して連絡つけてる。大したものね・・・・あと十五分からそこらでドイツ支部のヘリが乗りつけてくるわ・・・・・野散須カンタローさんとソノさんは・・・・・こちらも凄いわねコンテナ蹴破ってレイちゃんを捜してる・・・・でも方向が正反対・・・一番近いのは子供を二人連れているイグアナの青葉君か・・・・運悪く乗り込んでいたテロリストに追っかけられてる、と・・・・」
 
 
「よく言うわね・・・・あなたが姿を大っぴらにしてるおかげで各国の情報機関やら秘密組織やらがぞろぞろ乗り込んできてんのよ。温厚なのから過激なのまで、おかげさまでこっちが裏でどれだけ苦労したか分かってんの。まったく、アレキサンドリア四重奏じゃあるまいしこの列車の乗客、半分以上が堅気じゃないのよ・・・・中にはまるで話の通じなかったのもいるけどね!」
 
 
「あらら。強気ねー、人を暗殺しかけたくせに」
 
 
「生きてんじゃないの。生きてるって素晴らしいじゃないの。歴史にIFは存在しないわ・・・・・バカが口火を切った以上、連鎖反応が起きるわ。列車内戦闘・・・乗客を眠らせてなきゃパニックになってる。こういうヘヴイな状況を想定していたのか、どうか、あの方の作戦は当たってたわね。八割が趣味だろけど」
 
「あの方って赤木ナオミちゃん?」
 
「ふん、もう驚きゃしないわよ。あんたが新手のチルドレンだろうとなんだろうとあの方には勝てないわ」
 
「心配しないで。チルドレンだってあんな毒物喰らえばふつー死ぬから」
 
「もう時間もない。列車も止まるわ・・・・・鉄道史上に残る大惨事にして、大いなる謎(ミステリー)を残すことになるわね」
 
「なるほど、舞台も舞台だし、そろそろ見えてきたわ・・・・・”霧の巨人”が」
 
「あたし的には謎はひとつで十分で、ふたつも残したくないんだけどね。
出来れば教えて欲しいんだけど。スタッフロールにいれとくから・・・・あなたの正体」
 
「それは残念。私はてんこもりの方が好きなの謎もクリームも・・・でもヒントだけなら」
「それでもいいわ」
 
 
「”趣味じゃありません”。それがヒント」
 
 
「!!!!!・・・・・・・・・・まさか・・・・・・・・・あなた・・・・」
 
 
「しーっ。まだ内緒にしといてね・・・・・あらあら・・・・日本にいるシンちゃんには見破られたみたい・・・・・・・・あーあ、王様の目玉は・・・・」
 
 
にせ綾波レイはそこまで言いかけると燭台の炎を吹き消した。
闇が生まれ、その地点から急速に膨張した”それ”は車内の空間全てを包んでしまう。
 
 
そして、列車が停止する。
 
 

 
イグアナマンと化した青葉君とシコウ、ミハイラの少年少女は逃げる。
三角覆面は木靴なんぞ履いているせいで遅いが、それに輪をかけて青葉君の着ぐるみが遅い。「ここで二手に分かれよう。連中が追いかけてるのはオレなんだから」二階席と一階席の分岐で青葉君は二人を二階席に押し上げると自分は追跡者を挑発しながら一階を走り去った。長髪、いや、挑発ならまかせてくれ!の挑発っぷりに迷わず覆面連中は青葉君をブチ殺しにかかった。そのまま向こうで銃撃戦が始まったようだ。
その音から遠ざかるようにして、二人は手をとって駆けた。そのうち・・・・
「一体、なんなの・・・・・これ」「ぼくにも分からない・・・・けど、本当のことだ」
 
 
二人の周囲は濃密な闇がたちこめている。いつからこうなってしまったのか。
単なる停電ではない。その証拠にいくら走っても手を伸ばしても壁に当たらない。
空間が拡大している・・・・・列車が得たいの知れぬ洞穴のように化けた。
少しでも手を離せば、そのまま二度と会えぬと確信してきつく手を握りあう。
 
「ものすごく大きな蛇にのみこまれたみたいだ・・・・・」
床の感触も、こころなしか硬質感が失せている。強く踏み込めば弾力がかえっている。
「シコウ君・・・・・いる?」「ここに・・・・・いるよ」
声に出さねば、感触すらも欺瞞に思う。柔らかい人形をつかんでいる、という保証はこの闇の中、ないのだから。
「とんだツアーになっちゃったな・・・・・もしかして流れ弾にあたって自分でも気づかない内に死んじゃってるのかな」「怖いこと・・・・・いわないでよ。死んだなら死んだって天国の標識とか、そのあたりに見えるはずよ・・・・じゃないと、迷うじゃない」
「ぼくたち、歩いてるのかな」「自分がそう思わないと・・・・歩くために人間は翼がないのよ・・・・・蹲ってるよりは自分に納得できるわ」「夢だったりして」「夢ならこんな不気味でもいいの?」「うーん、夢で出くわした困難の解決方法って覚えられるのかな」
「いつも時間切れになってるような気がするけど・・・・科学者や芸術家のインスピレーションの話はよく聞くわね」「終わらない暗いトンネルを歩いています。どうやったら終点に辿り着くでしょう・・・・答えは」「ちょっと、走ってみる?それだけ早く終わるかも」「・・・こんな目にあってるのになんでぼくたちパニックにならないのかなあ」「そういえばそうだね・・・さっきのイグアナ男さんのせいじゃないの?あれで境界を越えたって感じ」ちかっ「赤い光・・・・見えた?」「見えた」「とりあえず・・・」「行ってみましょう」「あかいめだまのさそり・・・・十分、気をつけよう」「一歩、進むごとに赤い光点が増えてる・・・・正解なのかしら」「わからない。・・・・まるで赤い星座盤だ」
「話し声が聞こえる・・・・」「ひとまずは立ち止まって聞くのがセオリーだよね」
 
 
 
図書館車両。
 
 
本棚の奥の奥に隠された棺桶の中に本物の綾波レイが監禁されていた。
その車両だけは窓から夕日が射し込んでいた。人影をオレンジで浮かばせる。
コンコン、棺桶に挨拶するようにノックすると鍵を使い、開く。
囚われた白水晶姫・クリスタ・ベル。解放した闇雪姫・くらゆきひめ。
黒と白、にせものとほんものの姫君が対面する。
 
 
「あなたは・・・だれ?」
 
 
「綾波レイ、よ」
これまで何回か繰り返されてきた問答に、今回は問いかけに対し、いつもの返答がない。
 
 
「死んだ人間には名前、という資格があるけれど、生きている人間は何をもって自分を証明すればいいのかしらね。レイちゃん、どう思う?」
 
 
「・・・・・・・」
 
「どう生きているかっていう自己証明はわりあい容易いけど、どう生かされているかっていう客観的証明はむつかしいわよねえ。そんなの、完全に人間にはわかりっこないし」
 
「なにがいいたいの」
 
「それより先に、”なんでここから出したの?”って尋ねてもらえると話がやりやすいんだけど。あんまり時間がないから。いつまでも虚数の中に漬けておけないし・・・」
 
「なぜ、ここから出したの・・・・」
素直に従ったのは、もう一人の自分の”顔”が電波状態の悪いテレビのようにブレて見えてきたからだ。なんらかの理由で変化を続けられなくなったのだろう。時間のせいか。
 
 
「信じられないだろうけど、それはレイちゃんを助けるため。もっと、具体的に言うと、あと十二分でレイちゃんの心臓は停止するわ。理由は、わたしがレイちゃんの心臓を動かしておくことが出来なくなるから。それで、わたしが帰ってくる間、レイちゃんには病院車両で眠っていてほしいわけ。この列車には大病院並の設備があるから、あとは大人の方々に任せておけば大丈夫でしょ。なるべく早く片をつけたいところだけど、ちょっと分からないしね。物凄く強力な援軍がこっちに向かってるし、元々、まんまと罠にはめられちゃったわけだし。どーもね、自信ないわ。いきなりで信じられないだろうけど・・・・・、オープン・ユァ・ハート、信じてほしいの」
 
 
「・・・・・・・・」
さすがの綾波レイの顔にも動揺が浮かんだ。思いも寄らぬことを立て続けに言われ、なんとも返答のしようがなかった。この、もう一人の自分は、敵なのか味方なのか。
おちゃらけているようで、その言葉には真実の力があった。これまでの会話でも。
ただ、自分に近しいものだ、という感触があるだけだ。自分に近いもの。
 
 
「自分でいうのも恥ずかしいんだけど、好意をもっちゃった”敵”、かな」
 
 
心を読んだように、いや、おそらくは。”顔”はほとんど判別できなくなっている。
顔を確かめようとすると、頭の中にざーざーと砂嵐が流れる。思考妨害。
これは・・・・・もう一人の自分などでは、ない。
 
 
「”役目柄、ずうーっとあなたたちを見てきたから”」
 
 
 
最後に残っていた赤い瞳を、天使のように閉じる。
 
 
 
「”零号機の起動実験・・あの事故のとき、レイちゃんの心臓は壊れてしまった。ガラスみたいに砕けた音を聞いたよ。血管が緩やかに固まるのを血流が眠り始めるのを見たよ。あの時点ではレイちゃんが目当てのファースト・チルドレンだと思ってたから慌てたなあ。結局、呼び名に意味はなく、”彼”だったんだけど。
そこで、心臓機能を補完させてもらったというわけ。レイちゃんの姿を借りたのも、その方が生命情報をいちいち読み直す手間が省けるから。もちろん、斥候としていろんな所に潜り込めるってこともあったけど・・・・・とにかくずうっと、あなたたちを見ていた”」
 
 
 
「あなた・・・・・」
 
 
 
「”そう、こう呼んでもらってもかまわない。
 
 
 
             第十二使徒レリエル”」
 
 
 
 
同時に、虚数の夕闇が裂けた。
 
 
天に広がる灰色の星空。それをバックに通常空間に戻った列車内を見下ろす巨人。
プログレッシブ・チェーンソーを叩きつけ、偽装のための仮面を被ってはいるが、
その白い体は、浅間山の火口に使徒と相打ちになり消え果てた・・・・・・
 
 
「エヴァ・・・・伍号機・・・・・・・」
 
 
 
上空に、黒白の球体が地球の葬礼客のように出現していた。