「よく私の名が分かったわね・・・・父に会ったの?」
李遠ナナセ・・・・本名赤木ナナセが突如現れた伊吹マヤに確認する。
「はい、漂泊の天才都市工学者、赤木レンタロウ氏に秋葉森で」
「ふうん、今そんなところにいるんだ・・・それじゃ、もうひとつクイズ。父の本名は?どこまで調べてきてるのかな」
「レーマ・レッドツリー・・・・帰化された際に名前も変えられたんですね。はじめてお会いした時、金髪だったから驚きました」
「・・で、なんのご用かしら・・・・っていうのも白々しいわね。父の論文なら私が預かってるけどね・・・なんせ量があるから」
「”人造人間における脳神経の情報伝達速度と強度についての一考察”」伊吹マヤは即答。
「それをお借りしたいんです。今すぐに」
「父も姉も貴女を信用してるなら、私も信用すべきかしらね」
やたらに判断が速い。赤木ナナセは・・・・その名はそれほどまでに重いのか・・・・にっこりと笑った。第三新東京市に求めていた答えがあった。
「ちょっと待ってね。”海線”を切り替えてくるから」といって外に出ていった。
伊吹マヤにはその意味が分かっていたから、ふっと息をついた。
赤木に始まり赤木を辿り赤木に終わる。秋葉森のお電話様から聞いた赤木家の血の物語。赤木レンタロウ、ナオコ、リツコ、ナナセ、そして”ナオミ”。結婚前からどちらも赤木だったのだから世話はない。リツコとは腹違いの姉妹、科学者の道を選ばなかったナナセがその名を沈めてしまったことも、レンタロウもナオコも次世代に血を残すことを”ほぼ強制的”に求められるほどに優秀だったことも、ここまで来ればどうでもいいことだった。渚カヲルや碇シンジが住んだあの旧い屋敷で、次の赤木が育まれていく・・・ようなことはもうない。あまり、時間がない。
伊吹マヤには。
あの、暗く寒いマギの迷宮の中で、誤って吸引した自白剤のためとはいえ、すすり泣かれた尊敬の先輩の声が。
こびりついている。その、胸の内が。驚くほどに了見が狭く、眩しいほどに自分勝手で、
可愛いくらいに自分が一番賢いと思っていて、呆れるほどに世界に遠慮がなく、怖いくらいに恐れを知らず楽観的で、・・・・天才という人種は珍獣より珍獣だと思った。例えば。
本気の本気で、赤木リツコは「なんで自分に人間に、体がひとつしかないのだろうか」などと考えているのだ。普段、そんなことを。「母さんも身体をあと二つ三つ、”つけて”生んでくれればよかったのに」。これは、天才が孤独であるとか、その方が研究がスムーズにいくとか、そんなかわいげのあるもんではない。その方が楽しい、と本気で心の底から思っているのだ。
スピリット・オブ・ワンダーとしかいいようなし。
ええ加減、これ以上聞いたら常識が破壊されてしまう一歩手前で、ようやくまともなことを喋りだした。マギについてである。マギは誕生よりこの方、ずうっと内部に監視機能が作動していたこと、これをなんとかしてパーにしてやろうという計画、実行方法。
本来のマギの姿に戻す・・・・賢者に監査の鎖は必要ない。知は自由なるべし。
「そんなこと出来るんですか」と問うと自白催眠状態の口で「私なら出来るけど・・・他の人間じゃ無理でしょうね」などと偉そうにぬかした。どう無理なのか、的確に言ってのけてさえした。どれほどの能力と成果と時間の収支が必要になるか。
その、科学者としての声が。誰にも機密を明かすことも頼ることも出来ぬことを。
けれど、女性としての冷たい愛の声色で。
「でも、そうしないとあの人が助からない・・・・・」
そして、娘としての声が。
「母さんを助けて・・・・・・・・」
その一言で、伊吹マヤはマギ内部より抜け穴を使って第三新東京市からドロンパした。
誰に命じられたわけでもない、頼んだ当人さえ半分夢うつつ半分トランキっているので覚えていないかも知れない。だが、天才しかやれない仕事を成すために、伊吹マヤはそのまま自分の才能の不足分を補ってくれる特殊な街、秋葉森に迷わず向かった。資金はちょうどそこらにあった赤木ナオコ博士のヘソクリ遺産通帳を使わせてもらうことにした。通帳を見て、その額(!)に目の玉が飛び出たが、慌てて拾ってはめ直した後は不安だった心が一気に力強くなった。そして、秋葉森で人材を募集し伊吹商事を造った・・・・。
苦労の度合いを比べても仕方がないが、同じ三羽ガラスで「新世紀救世主伝説〜北欧の拳」と異名をとった青葉シゲル、「はじめてのおるすばん」日向マコトと比べても勝るとも劣るまじ。なんといっても「社長」である。今だって「元・社長」である。
そりゃいいとして、エヴァ初号機に組み込む「とある特殊なプログラム」を開発した伊吹マヤだが、そういった極秘裏の事情がありテストもチエックも出来ない状態にあり、なんとかして一発で正常に稼働、走らせるためにある論文、それに付随するテストデータを必要としていた。逆か。その論文とテストデータがあったからこそ、赤木リツコはこんな方法を思いついたのだろうから。マギにも貯蔵されていない秘密の資料・・・・それは漂泊の夫、赤木レンタロウの作製したもの・・・・”ゆえ”にマギのライブラリには保管されていない。レンタロウはレンタロウで、自分の論文保管場所をキープしていたからだ。
それは・・・・・
「はい、アイスコーヒーおまちどおさま」海の科学者と喫茶店の主をちょうど足して二で割ったような眼鏡の中年男、寺庵ネモオが注文の品をおいた。ぱっと見ただけで、なぜか親近感がわくのは、相手が客商売のせいだけではあるまい。赤木の人間とうまくやれる特殊な才能の持ち主、という共通項のおかげ・・・・かもしれない。
実はさっきまでてひどく追われてのどがかわいていた伊吹マヤはそれに口をつける。
おいしい。おいしすぎる。もしかしたら、このひとは世界アイスコーヒー愛好協会の副会長かもしれない。
「ネモオさーん、こっちいいわよー。”海線”切り替え、オッケー」
店の外から赤木ナナセの声。
「よし。分かった」
寺庵ネモオが立ち上がり、レジを兼ねているコンピューターで何やら操作する。
それで、今まで海中の様子を映していた店内のモニターが切り替わり、データ画面になった。そう、このデータこそ。「すいませんが、これに落としていただけますか」伊吹マヤは銀色に輝く記憶ディスクを差し出す。「わかりました」。
普段はこの店の売りである海中の映像を伝達する、海中深く伝わるケーブル・・・・・
あれが実は赤木レンタロウの論文保管庫に繋がっている。海の底に、あるのである。
沈んでしまった都市の中に。置き去りにされた潜水艦の中に。自分専用の海底図書館を建造したのだ。ライフワークのひとつだそうだ。いつのまにやら誰も知らない内に海の底にもともと存在しておった経路をうまく利用しつつ、赤木印のケーブルラインが檻のように張り巡らされている。陸地に出てるケーブルの方がいつも気紛れに全国を移動するので何者にも潜り屋にも特定はできない。海に沈んだ英知に価値を見出す者も希だ。
ダウンロードには少々、時間がかかった・・・・。
それを何に使うのか、などと赤木ナナセは聞かなかった。
あまり興味もなさそうだった。その間、プライベートなことを聞いてしまった。
大学の頃、始めて会って、半年だけ一緒に暮らしたこともあることなど。
おかわりのアイスコーヒーを飲みながら。驚く伊吹マヤ。
「お互い、歳が歳だったからね、これが中学だの高校だのの思春期だったら厄介かもしんないけどね、ほとんど赤の他人の友人かな。リツコ姉さんは友達がいなかったからね。
大学での一人暮らしも始めてで、そのフォローにあたしがいかされた・・・・なんて秘密だよ。無茶な親だよ。そんなんで今まで初対面だった腹違いの妹を合わすかね。しかも科学の道なんてとっくに諦めたアウトドア派の妹をさ。そのうち、父の血が出て髪が金色に変わるころにゃ、友達も出来て。煙草も・・・そうだ、煙草は。”喫煙は脳に悪いわ・・・現物を見せてあげる”なんていってこっちをやめさせるために吸い始めたのがミイラ取りがなんとやらで、ヘビースモーカーになっちゃったんだよねえ・・・・・・ん?」
話の途中でふと赤木ナナセが外を見た。「今晩は珍客が多いね・・・・あれはテレビの撮影車かね・・・・テレ3?・・・・このへんにそんなネタあったかな」
伊吹マヤの表情が一変した。昔話に聞き惚れる娘から、企業秘密をなんとしても守り抜く社長の顔に。ダウンロードも完了した。銀色の記憶ディスクを機材から抜き取ると
「どうもいろいろありがとうございました。これ、お代です」急いで店から出ようとする伊吹マヤ。「おいおい、待ってくれよ。これじゃ多すぎる」万札だ。「迷惑料です!それじゃ」だとしたら少ないかも知れないが、どちらかといえば、二人を巻き込まないための早めの店内脱出のように見えた。だが、気づくのが遅かった。あれが彼女の「敵」なのだとしたら、車は目の前。女の足で敵うわけがない。赤木ナナセは海の女の腕力で伊吹マヤを引き留めた。「待ちなって・・・・・うわっ!」それは人道的には正解であり、将来的には間違いだった。これで、伊吹マヤの敵は赤木ナナセらも同等と見るからだ。
DOZUッ
伊吹マヤの出ようとした箇所に思い切り「巨大ハサミ」が撃ち込まれた。
ハサミにはコードがついており、勢いでアスファルトに潜るとジャキン!!という音を立て地中の何かを無理矢理切断すると、強く引っ張られて飛んで戻っていった。
ぶん。
ハサミは地中の電送コードやらを切断したらしい。周囲の街灯が嫌な感じで消えた。
海の闇がざざざああっと潮音と同時に陸にあがってくる。
「くうっ!」伊吹マヤは大急ぎで携帯で警察に連絡した。警察程度の戦闘力でこの「敵」がどうにかなるわけもないのはここに来るまでの襲撃で思い知ったが、まだネルフに連絡をとるわけにはいかない。使徒と戦った身で言うのもなんだが、こんな奴がこの世にいるなんて。護衛についてくれた加持ソウジさんもやられた。病院に運んできたけど心配だ。
こんな・・・
撮影車から何者か、異形の者が下りてくる。撮影用の強力ライトに影が浮かぶ。
両手が巨大なハサミになっている・・・。怪人である。ただし、これは現実。
「モウ逃ゲラレンチョキ。覚悟シテ首ヲ狩ラレルチョキ」
本人曰く、どこかの組織に改造された改造人間であるらしい。目的はこの世にある全ての通信ルートの切断。早い話がテロと軍事機密の不倫が望まれぬ子供を造ってしまったようなものだった。問題なのは、明確な存在意義を与えられているので、いちいち指令を受けなくても勝手に動作してしてしまうところだった。彼が最初に通信不通にしてしまったのは自分を改造したその組織だった。ちなみに、その連絡不通の隙を敵対組織に突かれてその組織は壊滅した。彼を封じ込める呪文を持つ組織は消え、彼は思う存分好き勝手に世界中の通信ルートを切断しまくった。その両手のハサミで。
ウイルスを撒くのもいいかげん卑劣な悪事だが、通信線を切断するのは豪快だが最悪の悪事だ。目に付くのでそんな悪党はすぐに逮捕される、と誰しも思ったが・・・・
改造人間だけにやたらに強かった。国連からその首に懸賞金がかかっても彼は狩られることはなかった。逆にその首をジャキンとやり返した。どこの国の警察機構も軍隊の特殊部隊も百戦錬磨の殺し屋も敵わなかった。だが、そんな彼に「待った!」をかける気はおかしくて、いや優しくて力持ち!ズバーンとイカした奴が現れたのである。イカれた奴、ではない。くれぐれもお間違いなく。
それはさておき、そのイカした奴が伊吹マヤ当人でない限り、伊吹マヤの首はジャキンとやられるであろう。なんせ、第三新東京市に戻ってすぐに襲撃されて逃げ回ったのだが、ここにくるまでにパトカー五台をひっくり返して、警官の一斉射撃を受けてもけろりとしているのだから。その移動にテレビ撮影車を使っているのは洒落のつもりか。
追われる自分が、特撮ヒーローもののヒロインになった錯覚が生じてきて、辛い現実その背に担う社長モードの伊吹マヤにはクラクラしてしまう。
「さっきは素直に捕まれば何もしないっていってたくせに。嘘つき」
「方針ガ変ワッタノダチョキ。マスターヲ「クシャマン」呼バワリシテ怒ラセルノガイケナイチョキ。恨ムナラ”クシャマン”ヲ恨ムチョキン」
「なによ!?クシャマンって!」
さすがに生死がかかっているので、伊吹マヤも上品になどしていられない。ましてや。
その謎な”クシャマン”とやらのせいだとしたら・・・・
「知ラン・・・・・・・チョキ」
彼はハサミで頭をポリポリかいた。しらんらしい。
「伊吹ちゃん、あれは一体、なんなんだい?」と赤木ナナセ。
「借金取りじゃありません。ストーカーに近いかも。戦闘的ストーカーです!!。
本人が言うには改造人間らしいですけど。漫画じゃあるまいしそんなのいるわけ」
伊吹マヤによると人造人間はいいけど、改造人間はいけんらしい。強く否定された。
「改造人間・・・・TTZか」寺庵ネモオが驚いたように言う。
「電脳犯罪史上のワースト10に確実にランクインする、無敵の通信切断者。
全世界の通信業者の天敵だ。コードネームT・T・Z・・・俗に”チョキチョキズ”の名で知られる。武蔵野秋葉森で捕獲されるまで何万のケーブルが奴に切断されたか・・・・あいつが・・・・」
「伊吹ちゃん、あんたって大物なのね」
「鶏を割くに牛刀を用いられてるだけですよ。ぜんぜん、嬉しくないです」
「だろうねえ」それは前者と後者、どちらにかかっていたのか。
赤木ナナセはそこらにあった銃らしいものを構えるとハサミ男、チョキチョキズに向けてぶっ放した。ドンドンドンッッッ。本物だった。だが、相手はまともに命中してもよろけもしない。「あれま。命中した後に三倍から五倍に膨れ上がって爆発する”鮫殺弾”なんだけど」そういう弾丸を三連発する赤木ナナセの手首に驚く。先輩とは全然違うう。
それで相手がくたばったとしてもまったく意に介さないであろうナナセの表情に。
「無駄だ。記録によるとバズーカ砲の直撃受けても特殊部隊の包囲網から逃げおおせたようなタマだからな。逃げるぞ」運転席についた寺庵ネモオがバスを急発進させる。
「きゃ!」「あいよ」その反動に倒れかける伊吹マヤを慣れた感じで支える赤木ナナセ。
「ア。逃ゲルカチョキ」
ハサミを逃走するバスに向けるチョキチョキズ。先ほどの破壊力からいって命中さえすればバスの機関部を切り裂いて爆発させることもたやすい。
その改造目は狙撃スコープと同様の働きをする。ハサミの射程距離は、バスを十分とらえられる・・・・・発射を躊躇う理由はない。だが、改造耳はパトカーの接近をとらえた。
そのわずかな遅滞で、外見に似合わぬ加速力を持つバスは射程距離外に出てしまった。
「チョキー」
「追うとしようか・・・鋏男殿」
撮影車から、ウェーブのかかった長い髪に沢山の、本物か偽物か蝶々を止まらせている、夜の虹のような少女と、褐色の肌の僧侶神官の雰囲気をもつターバン男が声をかける。
「ル・シフェン、カンプラーラァ」マスターの次の忠誠を誓った少女と褐色の仏教徒に無用の破壊活動を止められている。仕方がない。車で追うとするチョキ。実際、彼もそんなには伊吹マヤの首がチョンギリたかったわけでもない。ただ、彼のマスター、壊滅した組織からどうやったものか、彼を支配するパスワードを掘り起こしてきた”あの女”が命じるからしょうがない。チョキチョキズは車に戻り、追跡を再開した。
「退屈でしたか?その本は・・・」
銀仮面の運転手が微笑みながら問いかける。クラウゼ・ギミック。彼女だ。
綾波レイのかたわらにある、その古びた革表紙の本は・・・
「怪奇!ユダロンシュロスの罠!」とあった。
こんなものを読んでいた記憶は・・・・・・・ある。慰みにと渡されて、読む気もなかったのが、一応開いてみた・・・・そこからの記憶が曖昧だった。メビュスのような捻りを感じる。繋がってはいるのだが、いつの間にか”おまけ”を手にしていた。自分だけよその時間軸を旅してきたような。そう・・・・・本物の魔性に会ってきた・・・・あの時間。
まるで、どこかの終わらない物語のように。
だが、物語はいつかは終わらせなくてはならない。夜の夢も。
この指輪にはその力がある。使わずにすめばいいが、おそらく。
綾波レイの赤い瞳に、銀の人面指輪が映る。
ことば・・・人と人との絆を断ち切る力の宿る、魔性の与えた指輪が。
砕き消し去る言葉が唱えられるのを待っている・・・・。
綾波レイは腹を決めて、超高級御車を降りる。
”今度の”ユダロンシュロスは、内部はごくまともな秘密研究所になっている。
少なくとも、先ほどのような化け物館ではない。この外見は偽装なのだ。
この村自体が偽装なのだろう。農作業をしているのどかな風景も、なにもかも。
組織のつくったにせものの村。
武装要塞都市第三新東京市に住み、ネルフ本部に勤務している身にはいっそそちらのほうがしっくりきた。落ち着く、とまではいわないが、違和感はなかった。
館部分は、食堂やら寝所やらいわゆる福利厚生部分で、肝心要の機能は地下に存在する。
一千機の爆撃機に爆撃かまされたところで、びくともせぬ隔壁に守られている。
・・・・てなことを銀仮面クラウゼ・ギミックに説明されながら一行はとうとうはるばるやってきた目的地中の目的地、ユダロンの納められている地下空間に到着した。
ユダロン聖堂とでも言おうか、地下に造られた礼拝所にも似たそのヒンヤリと清い冷気の漂う空間には、巨大な球があった。びっしりと金属の鱗が生えており怪獣の卵を思わせた。
そこからヒドラ蓄音機のように九本の、ねじれた螺旋の金管楽器らしいものが生えている。
そこから何本もコード類が伸びて周囲の見慣れた白い箱のような電子機器に接続されている。白い墓場のようにドミノ状に何十体も並ぶ光景は「ああ、やっぱりなあ怪しくていいなあ」と一行に感じさせた。彼らの感受性に変化が起きているのは長旅のせいであろう。
全身白衣のなんだか怪しいおそらくここの技術スタッフたちが忙しげに働いていた。
「あれが、ユダロン・・・・・」加持リョウジが呟く。
ようやく苦労の果てに任務を完了したわけで、感慨もひとしおだった。
「じゃ、ないですよ」とクラウゼはあっさり否定した。
「ユダロンはもっと”深い”場所にあるんですよ。・・・闇を好み光に弱いものですからね」
綾波レイの方見て同意を求めるように軽く首をかしげる銀仮面。”ねぇ、”と。
他のものはそれを地下深くに埋設されているものだと理解したが・・・・。
あの魔性の時間をとおってきた綾波レイにはその言葉の意味が分かった。
「よっ、よおこそ。ユッ、ユダロンへ。極東はネルフの本部の皆様」
なぜか大きな顔に大きな汗玉を浮かべた、この秘密神聖的雰囲気に相応しくない凡人オーラを放つ人物が一行の前に現れた。なんか、村役場の観光課の課長のような・・・・・
少なくともこの暗黒科学の城であるユダロンにいていい系人物ではない。
一応、着ているものはゼーレの式服なのであるが。加持リョウジでさえ、その式服の文様をまじまじと確かめた。が、本物の、しかも高位にあるものの式服だ。なのだが。
「誰?」と、一行は思った。
よそ者である自分たちよりさらになんだかよそ者っぽいというか、一般村人が迷い込んできてしまったかのような場違いな印象を全身から受ける。あんた、番組が違うんじゃないの?というツッコミを思わずしてしまいそうになる空気を、危うくクラウゼが救った。
「あ、城長。お連れしてきましたよ・・・・・皆様、こちらがユダロン村の村長であり、ユダロンシュロスの長であり、この瑞西結界のマネージャーでもある、イヨマンテ・イスカリオテ・ジュロダカラ・ユダロンです」
「あ、どうもどおも。ただいまご紹介にあずかりましたイヨマンテ・イスカリオテ・ジュロダカラ・ユダロンです。長い名前で申し訳ない。イヨマンテで結構ですので」
ということは、すげえ偉い地位にある人物なのだが、全然オーラがない。
野散須カンタローや加持リョウジなど、数々の世界的修羅場をくぐってきた人間ならば、極悪道を究めた達人は、いっそ誰よりも通常人に見える、ということを知っている。
ただ、その眼力をもってしても、目の前のこの人物は普通の人間に見える。見えてしょうがなかった。うろうろと落ち着かず、おろおろと狼狽えているし。困った。
極悪の達人は、人間の心をもっていないから最後の最後まで通常を保てるものだが。
「そ、それでは皆さん、ごゆるりといつまでも逗留なさってください。か、歓迎いたします。それでは」
と、一行の返礼も聞かずに一方的にそれだけまくしたてるとイヨマンテ城長はくるりと背を向け走っていってしまった。よほど忙しいのだろうか・・・・
「こちらもそれほどヒマではないのだがのう・・・まあ、それはええとして」
ちょとばかしあっけにとられたが、質問を再開する。
「あの、金属鱗の怪獣の卵のようなものは?」
「あれはユダロンからの翻訳機で”ジェーゴン”といいます」
「翻訳機?なんですかな、それは」ここまでくれば物見遊山、と野散須カンタロー。
「ユダロンは特殊な言語規格で動くものですから、外部に向けて連動させる場合、それを変換させるものが必要なんですよ」
正確なところを説明したところで理解できるわけもない。する方もされる方も両者、実はそれが分かっている。次元が違う、ということを。「なるほどのはんたい」なのだ。
要は、その金属鱗箱のジェーゴンとやらがないと、ユダロンはまともに使えないらしい。
車に最高級のエンジン積んでもタイヤがなければ走らないのと同じ理屈だ。
それさえ分かれば十分だった。
「で、そのジェーゴンの周囲を右往左往されているのは・・・なんだか尋常な雰囲気ではないように見えるんですが。まるで事故が起きているような・・・」
本職はオペレータの青葉シゲルが全身白衣の技術者を指していった。
忙しく働くのはけっこうなのだが・・・・どうもそういうことではないらしい。
空気的には、はじめて使徒を拝んだネルフ本部発令所のそれに似ている。
彼らが奇声と怒声をあげながら叩いている機材のモニターにはMEGIという文字が洪水のように流れており、はたしてなんの仕事をしているのか専門家の目から見ても素人目から見てもさっぱり分からない。
「ああ、どうも外部からのハッキングを受けてまして。なんとか撃退しようとは努力しているんですが、相手の力が強力でなかなか押し返せないような状況でして。いやー、ユダロン自体は言語規格が違うせいでハッキングのかけようがないんですが、その接続器ジェーゴンの方は半分、通常規格の台ピン製や日本製を使ってますんでね。鱗の生えた金属箱の周りのスパコンたちがそうなんですが。それで外部からのハッキングも受けてしまうという・・・蟻の穴から堤が崩れるとはよく言ったものです。城長が慌ててるのも実はそのせいでして」
クラウゼはへいぜんと状況説明した。
「なんか違うような気もしますが・・・・、ということはユダロンは使えない、ということですか?!」
「そうですね。日本のネルフ本部様から打診があったような使用方法はできません・・・・・敵対する組織の保有するコンピューターの”言葉を乱して”内部数列を破壊して根本的に使用不可にするという逆クラックのような使い方は」
「ユダロン自体の機能には問題ないわけですね」加持リョウジは確認する。
「ええ、たとえジェーゴンの関門を突破されて支配されたとしても、ユダロンの機能に傷一つつくことはありません。もともと、そういった”機械”ではありませんから」
さすがにゼーレの虎の子、”架空機関”の一つのことはある。
「で、どうされますか。申し訳ないですが、ジェーゴンは使用できませんので・・・」
そんなことを言われても一行の中には分かる人間は二人しかいない。
「こういうこともあろうかと、こっちには優秀なコンピュウタァ使いがおりますのでな」「コンピュウタァ使い・・・始めて聞く職業ですね」
「青葉君、キミの出番じゃあ」
「いや、オペレータといってくださればそれで十分ですので・・・・」と照れと自負を交えながらロンゲをキラキラと輝かせながら青葉シゲルがこれまでの肉体路線を捨て、本来のスマート知能路線で走ろうと、いざやスタートラインにつこうとする。
「あれま。あなたですか・・・・けれど」
「フッ。ユダロン語なら修得してきましたのでご安心を。ネルフ本部の赤木博士より洗脳同然に仕込まれてきましたので・・・・・人間、命かけたらなんでもできますね・・・・・」
「それなら安心ですが、あなたがハッキングを停止させてくださるんですか」
「フッ。まさか・・・・やってやれないこともないでしょうが、時間の無駄ですよ。それでは敵の目を欺けませんしね。もっとエレガントな方法を採ります。とうっ!!おりゃー、のけのけっ、混乱する者どもよっ、俺の夜叉王・コンソールさばきを世界の果てで見てろっ。それでですね・・・・」
階下に飛び降りて、機器の前で右往左往する全身白衣の研究員たちを蹴飛ばすようにどかすと青葉君はエレガントな方法を説明しようとした。が、
「仕事に燃える若者の姿はええのう。日本の未来がここにある。
それじゃ、青葉君、あとは任せたぞ。儂らは飯を食ってくるからのう」
青葉シゲルをのぞく全員、館に上がるエレベーターに乗っており、扉が閉まりかけにそんなことを言われた日には・・・・・
「あうっ・・・・俺も飯食いてぇ・・・・・・今週もサービス、サービス、サービス残業ォ!!」
「どうだったかの」
青葉シゲルが戻ってきたのは、なんと夕食が終わった直後だった。
「全然ダメっす。完全にこっちの動向をサーチされて、いく先いく先で先回りされて使おうとしたスパコンが抑えられてしまって・・・・ここの機材を使う限り、動きは丸見えらしいですよ」
青葉君がやっていたのは、ここから他のコンピューターにアクセスしてジェーゴンの代わりをやらそうということだった。早い話がうちが泥棒にあったから隣の家から泥棒してやれ、電気泥棒ならぬ容量泥棒、という「連鎖泥棒作戦」であった。元々、美術館放火事件の濡れ衣も着せられている身である。こわいもんはない。ユダロン言語が使える青葉君ならではの作戦だったが、翻訳機とはいえジェーゴンほどの大機能のものの代わりが務まるほどの高性能のものは世界にもそうそうない。マギクラスのものというと・・・各国政府の”玉座”、多国籍企業の”金庫”、軍隊の”武器庫区”、などだが、その分、ガードも難いわけで。 青葉君もそんなところには目もくれず、向かったのは大学や博物館。クムラン大学や敦煌大学が有名だが、その地下で誰にも知られず日夜古代文書の解読をシコシコ続けている白髪三千丈な学者コンピューターがあるのだ。多少、停止したところで誰にも迷惑がかかりそうもないのがよい。多少、性能が落ちるがなんせ言語専門機であるから、単一作業に専念できる。速度はそれで十分カバーできるだろう。しかも、人類共通の財産、という理念の元で稼働しており盗られて困るデータではないのでガードが甘い。ないに等しい。
そのはずだったが、アクセスは拒否された。しかも、「ネルフを首になった青葉シゲル君の使用は禁止するピョン」、と名指しでだ。邪魔者に先回りされた。
くそー、青葉君は逆に燃えた。
そこで今度は金さえ払えば、どんな非合法な使用方法でも受け入れるという攻性の情報都市を巡った。カッパラル・マ・ギア、ロシアメンテ、電気九龍、武蔵野秋葉森。何台もマギクラスのスパコンを保有する、独立都市群(テクノポリス)。金さえ払えば、というのは大金を払えば、ということと同義語だ。青葉君に大金の持ち合わせはなかった。しかし、払うのはどうせ彼ではない。遠慮せずに”ツケ”にしてやる。そこで、使用権のオークションに参加した。駆け引きもヘチマもなく最初からヴイヴイ飛ばしていった。繰り返すがどうせ払うのは自分ではない。震えながら画面を見つめている全身白衣の研究者たちの給料に影響するかもしれないが知ったことではない。オークションネーム・「ミスターロンゲ」初参加でありながら、猪突猛進の勢いにおされて次々に競争相手がドロップしていく。しかし、その勢いにあざ笑うかのように平然とついてゆく謎の競争相手「ナオミドリーム」。値段が8億を突破した時に主催者側からストップがかかった。資産調査である。やばい。正体不明の組織ユダロンからアクセスしている青葉君はそれをやられると不利だ。向こうは早々に銀行口座の番号を伝えたらしいが、こっちにはそんなもんはない。モタモタしている間にかっさらわれてしまった。
たかが時間制限の使用権に確かに異常な値段だ。主催者側が警戒するのも無理はない。
史上最高額の落札でニュースになるのだろうが、青葉君には関係ない。
次の都市巡りをする。が、ここでも邪魔に入った「ナオミドリーム」。
どのくらい金をもっているのか、またしてもストップ高まできてやられた。
「くっ!!なんなんだ。こいつは」腹が減っても戦をする青葉君は次の手段をとった。
日本の武蔵野秋葉森。ここには封印されたマギのプロトタイプ、「旧マギ」がある。もはや誰も使わずにあり、存在も知られていない。邪魔されることはないだろう。最初からこれを使えばよかったのだが、不安があった。なんせ使用コードを教えた赤木博士当人が「あれにはなるべく触れないように・・・」などと青い顔していったのだ。「凡人には・・・手に負えない”化け物”よ」、と。自分で有機キノコを栽培して生活する有機コンピューターらしいが、嘘もほどほどにせーよ、と。電気が通じてまだ動くのかどうか、それだけが心配だった。が、アクセス可能で喜んだのもつかの間、「666結界」ではね飛ばされた。誰かが内部で直接、使用しているらしい。自動起動ではない人間の手応えがあった。「なるほどっ、ここは一対一の決闘(デュエル)といこうじゃないか!」と高々に宣言したものの、青葉君はギタギタに撃退された。扱い慣れていない機材とは言え、この俺をやるとは。
相手は相当なテクニシャン・・・・・とはいえ、周囲の全身白衣・ユダロンスタッフたちの視線がいたい。チクチクと後ろ指さされ組。
まさか、自分を退けたのはまだ秋葉森にいた時分の伊吹マヤであったことなど彼には知らせない方がいいであろう。
「まあ、それならしょうがないのう。ご苦労じゃったのう、青葉君。
アイスクリームでも食うてゆっくりしてくれ」
空きっ腹にアイスなど勧められても嬉しくないが、青葉シゲルはデザートのアイスクリームを食べ始めた・・・・。
一行の中で最高の技術者である青葉シゲルがダメならば、もはや打つ手はない。
彼らのここまでの旅は無駄に終わってしまうのだろうか・・・・
今のところ、本部からのユダロン使用のゴーサインは出ていないものの、使用準備が整っていないのでは任務の意味はない。彼らの任務は完遂できないのか。
「いやー、うまいっすねこのアイス。一仕事終えた後には格別の甘さ」
おそらく、これは敗北宣言なのであろう。
青葉君の頬には悔し涙が・・・光っていなかったし、「おーい、給仕さんや。悪いが、さっきのコース料理を一人分、まとめてでいいから持ってきてくれんかのう。暖めてな」と野散須カンタローは青葉君の晩飯を注文し、加持リョウジもここから見えるスイスの夕日を楽しんでいる風であったし、野散須ソノさんも食後の一服を吸いたそうにしていたし、綾波レイも虚ろげな林檎の瞳で銀色の指輪をこれみよがしに映すこともなかったが。
だが、やはり、彼らは「人生、諦めが肝心」とあきらめてしまったのだろう。
そうに違いない。
「見事な景色だ・・・・これはあの都市では見られないな・・・」
加持リョウジがポケットから小型カメラを取り出す。
たとえ、にせものであろうとも、旅の終着地点ユダロンシュロスから見下ろす夕日の農村風景の美しさにはかわりない。それは、心が見せるものだから。
「遠き山に日は落ちて、とはよくいうたもんじゃ」
ふと、皆が静かになり、窓から見える黄金の風景に時間が流れる。
食後。のんきに写真撮影などやっている場合ではなかろうが、皆で撮影してしまう。
他の手段を模索することもなく、家族旅行の真似事など・・・・似つかわしくない。
ここまで長い旅路の果てに、辿り着いたのは写真をとるためではないのに。
「ハッキングを退けました!ジェーゴン、ユダロン、使用可能です!」という都合のいい知らせをただ待っているだけなのだろうか・・・・
だが、敵はあまりにも強大。使徒戦でもないし、畑違いの領域でこまされるのも仕方のないことかもしれない。青葉君とて、しょせんは一介の特務機関の国際公務員でしかない。いや、こうなってはただのロンゲだ。野散須カンタローもただのハゲだし、加持リョウジもただのヒゲだ。ソノさんもただのおばさんだし、綾波レイもただの綾波レイだ。
ユダロンが無敵の鉄人28号なら、翻訳接続器であるジェーゴンはリモコンだ。
「敵に渡すな、大事なリモコン」「いいも 悪いも リモコンしだい」と歌われているようにダダダダだーんと死守しないとバババババーンと負けてしまうものなのである。
「やばいな・・・・ネルフめ。完全に追い込まれてるじゃないか」
と、自分の会社の社長室で筒井順慶洞が岳を決め込んでいた時田氏がモニター画面を見ながら呟いた。画面上にはもはや電子の戦場と化している第三新東京市があった。目には見えないメギの軍勢に完全なまでに包囲されきっている。圧倒されるのも時間の問題だった。
仮想の軍勢ではあるが、現実に力を及ぼせる。住民はその足音さえ聞かず踏みつぶされる。
今現在も膨大な量の電脳攻撃が仕掛けられている。メギの軍列の中でも将軍武将クラスには停止がかけられているようだが、個人端末の下っ端構成員、いわゆる兵卒クラスはレミングのような暴進を続けている。赤木ナオミが全世界で流した噂のせいだ。第三新東京市のマザーコンピューターに呪いの言葉を吐きかけ石もて投げにこなかったなかった者は髑髏の騎士によって首を刈るとかなんとか。おそらく、その意図としては物量作戦といったことより素人衆に矢でも鉄砲でも一揆かまされ百矢突き刺されて赤恥かけ!という意地悪であろう。ただ、問題なのは皇帝の意地悪は独裁者の厳命に等しい。その声で動かされる数が半端でない。数十萬単位の人間が動員されてネルフのマギに攻撃を仕掛けている。もちろん、その中には時田氏の会社のようにネルフの機密データが欲しくて欲しくてたまらんので仕方なく己の欲望に従いつつ火事場ハッキングを試みているところもある。
自慢の666結界も穴ボコだらけで入り込むのもたやすい。レベルの低いところならば情報を手に入れることも出来た。ただ、その帰りに今度は「メギ」の検閲に会い、エヴァや使徒関連の情報は欠片すらも持ち出し禁止で奪われた。そのへんはしっかりしている。
赤木ナオミとそれなりの関係を結んでいる時田氏の会社はそのへんは少々目こぼししてもらっていたので、あってもなくてもどうでもいい情報からちょっとうれしい情報までゲットすることが出来た。まさに日和見・・・・
「べつに私はネルフの味方なんかじゃないぞ!むしろライヴァル!競争相手なのだ!!だからいいのだ!!」
「なにを力説してるんですか?虚空にむかって・・・」
「ああ、いつも冷ややかな真田君か。いいところに来た。これからは機密性が下がりネルフの情報ももっとこちらにリークされるぞ。これを見てくれたまえ」
「真・JAの照射テストがありますので・・・・・」
「う・・・なんだその軽蔑しきったような目は」
「別に・・・・それでは失礼いたします・・・・・あ、社長。そのモニター脇に零れておりますよ」
「何がだね?」
「魂が・・・・それでは」
「フフフ・・・・・」だが時田氏は笑う。社長の務めとして世の動向を見極めるべくしばらく情報収集にかかりきりで工場現場に立っていないのは認めるが・・・・ネルフのマギはどうせメギに取り込まれるだろう・・・なにか小細工したところであのナオミが見逃すはずはない。だが、秋葉森で見た「アレ」がある。信じられないがアレがまともに作動するならば・・・まだ事態は予断を許さない。まだまだ戦いの勝ち負けは分からない。
ネルフは奥の手をもっている・・・・。フフフ・・・その笑いは自称とはいえ、「ライバル」にのみ許される笑み。大一番を見ることで高められる製造へのモチベーション。
時田氏は気楽な観覧席にいる気はない。いつか再び戦いに参加する。いや、すでに新たなる戦いは始まっている。時田氏の頭の中では!そして、その目に映る画面には、メギの軍列の様子が長々と。それはまさに、皇帝列会・・・・・
兵士列
『かるのふ』「ライーザ」「コズミックイプシロン」「ザナック」「サンザーラナーガ」
「ジャウスト」「シャンカラ」「ガンプ」「スペランカー」「ディーダプンジョン」
「ディグダグ」「テグザー」「テラクレスタ」「ヌィーゼン」「ハイドライド」「バルトロン」
「ゲンバリングベイ」「えんどる」「ぶんぶん」「えどまえ」「にらんでる」「めしいらず」
「のあのあ」「すこんちょ」「まけろう」「こねえす」「きゃっちゅ」「びょるぐ」「ふくた
ろう」「なぶらっち」「すてっぴい」「えばると」「さぼちいに」「プーヤン」
「ボールブレイザー」「魔鐘」「マドゥーラ」「メタロイド」「メルヘンヴェール」
「レッドアーリマー」「イーフ�機Ν供廖屮Ε譽謄�マ」「イダルゴ・ウルカ」「エメドラ」
「ガヂュリン」「かまいたちの騎士」「シュババーン」『カマンチャイ』「アストロジョー」
「ドンチューカ」「キョンキョンシー」「ギンガラマオー」「セプテントリオン」「ゴリア
テ」「アルモリカ」「グリザロー」「バルマムッサ」「アシュトン」「コリタニ」「ブリガン
デス」「ライム」「フィダック」「ウェアラム」「グリスびー」「バーニシア」「ダライアス」
「サーディオン」「チョップリフター」「ランデアグリッサー」「「ライオットソード「ミ
ラージャダイブ」「つばめがえし」「シャドウファング」「ロイヤルショック」「タイガー
ブレイク」「スピニングエッジ」「セバーソウル」「スタープリズム」「ブラッディガード」
「モーグリラング」「オシオキメテオ」「マグナブラバン」『ぎーぐ』『あれさ』「ガルマァ」
「ヴァトルギウス」「キラートマト」「ネメシス」『ふりすきーとむ』「メガリット」「アル
ザディック」「アルシャーク」『シュビビンマ』『かだっしゅ』『キアイダン』「ファージア
ス」「バング・ハイボット」「ディリア・ローゼット」「オットー・ハルフォード」「ハー
マン・ド・エラン」「ラブルハルト」「スピノザ・ハンマーヘッド」
「カルナーザ・ル・ボン」「シャドウ・フェング・ホロウ」「シーナ・バンハイド」
「グライール」「ムーンライズ」・・・・・・
「、と、ざっと申し上げるなら、この資料に掲載されているとおり相当数のコンピューター並びに本部のオリジナルを除いたマギシリーズ、全てが敵の配下にあると考えてもらってよろしいでしょう」
赤木リツコ博士は電話帳よか分厚い「マギ侵入コンピューターリスト・・・通称・皇帝列会表」をもって敵戦力の説明をした。
ここはネルフ本部の作戦会議室。出席者は総司令碇ゲンドウ、冬月副司令、霧島ハムテル博士、オペレータを代表して青ざめた日向マコト、それからマギの宿老頭目たちを始めとするマギエンジニアたち。作戦会議にわざわざエンジニアまで呼びつけたのは赤木リツコ博士の意向だが、その視線は冷たく協力的とはお世辞にもいいかねた。会議室の雰囲気も人数に反比例したように寒い。ここで葛城ミサトか野散須カンタローあたりがいればまだしもあれだったのだろうが、あいにく両名ともいない。
状況は激変し、作戦部長の、または顧問の不在の重圧はただでさえ激疲労の日向マコトの肩と腰と胃腸とにどっしりとかかってきていた。石抱きの刑に処された一揆農民のような恨めしげな顔であった。
なにせ、使徒が現れたのだ。ただでさえメギ対抗で忙しいというのに。
第87タンパク壁から突如現れた劣化部分「生体痕・シミ」はいきなり妖しく発光、激しく発熱、けたたましく「パターン青」警報、そして、シグマユニットを急速に汚染、第六パイプの超純水を沸騰爆発、エヴァ模擬体の取り込み、さらにATフィールドの発生、模擬体の暴走、オゾン注入でさらなる増殖、知能回路状組織の形成、保安部のメインバンクに侵入、マギへのアクセスコードを検索し、そして、マギ「メルキオール」への侵入を果たし、そのまま居座る・・・・・の三・三・七拍子で深夜の発令所は踊りまくりであった。
「俺には予知能力がある〜〜〜〜!!!」
日向マコトが危惧したとおりの展開になってしまった。人生最悪の夜。
わずかな光明といえば、エヴァのパイロット、碇シンジと惣流アスカが二人してなぜかこの時間帯に本部に待機していたことだ。銀色の繭に包まれた初号機はやっぱり緊急時には使い物にならなかったが、弐号機がさっさとスタンバイして暴走模擬体の方は片をつけてくれた。その後で、執務室の扉がロックされて閉じこめられていたのが、なんとか秘密の逃走経路から発令所まで復帰してきた碇ゲンドウと冬月副司令の登場。指揮を執り始めた。
「これ以後、マギ・メルキオールを使徒と認める」菌糸のようにねっとりと内部に巣くった使徒を引き剥がせる方法はない。だが、それを認めてしまうとメギのメルキオール爆破を正当化させることになる。もとより尋常な交渉の通じる相手ではないが。もちろん、委員会への通話もシャットダウンされている。されなくても向こうは電話をとらんだろうが。
だが、それを聞いても異議を唱えるどころか、顔色一つ変えない赤木リツコ博士。
うすら笑いさえ浮かべていた。・・・・ように日向マコトには見えた。恐怖だった。
マイクロマシンな極小使徒はてめえの城となったメルキオールにてさっそく自爆制御にかかったようだ。まずは弱点を排除する地盤固め、というわけだ。
「一時間後にメルキオールを爆発させてやる」と宣言した、メギの赤木ナオミは使徒侵入に気づいていないはずもなかろうが、なにも言ってこない。それが不気味であった。
使徒の出現で発令所の人間が期待したのは、「人間同士、ここで争っている場合ではない」
ということでメギが協力するなり手を引くなりしてくれることであった。
が、赤木リツコ博士の「クシャマン」である。あれで大人しく「大人の対応」をしてくれるのかどうか、望みはかなり薄い。「ざまあみろ泣け!」とばかりに高見の見物モードに移行した可能性も高い。理知的とは言い難い態度だが。
とりあえず、「メギナオミ・マギ使徒・ネルフ発令所」の三竦みの空白状況による時間ができた。メルキオール爆破をリミットとするわずか一時間足らずだが。
そのため、作戦会議も早めの決議を求められる。
まずは、戦力の把握から。はっきりいって、いきなり「メギ侵略」「使徒侵入」にさらされた発令所の人間たちはこの状況を「三竦みの三国志」くらいに考えていた。魏・呉・蜀の、いくらなんでも一番弱小の劉備玄徳の蜀くらいの戦力はあろうじゃないか、と。
なにせマギ、腐ってもマギである。だが。
甘い、大甘であった。
その例えで言うと、「まだ旗揚げもしていない、”桃園の誓い”、の段階の。ぷーが三匹」くらいの戦力しかないらしい。赤木リツコ博士の算出によると。(もちろん実際の表現はもっと理系なものを使用したが)日向マコトの理解がそんなもんだった。
出席者の一発理解を求めるために、分厚い資料を出してきてメギ戦力の説明を行ったが、あまり成功したとはいえない。出席者、とりわけ呼びつけられたマギエンジニアたちの求めるものはそんなことではなかった。オペレータ代表日向マコトとしても聞きたいことは他にあった。この疑問にまずは答えてから、説明をしてくれっというのが正直な気持ちだ。「なぜ、作戦立案に関係ない自分たちをこの場に呼んだのか」
「それと、あの赤木ナオミってのは誰なんですか?」
自分たちの抱えている疑問が解消されないうちは、人の話など聞けるもんではない。
とりわけ、理解と常識を大幅に越えた豪快な話は特に。
信用できない人間の話は特に。
碇ゲンドウと冬月副司令が無言の圧力で抑えていなければ、詰め寄っていただろう。
「メギと使徒を互いに噛み合わせる」という、最もタイムリーな離れ業の具体的対策案を冷たく淡々と語られても。命令には従うが、納得はできない。あまりにも多く隠されている事象に対する説明がなければ。
「”皇帝列会式”が完成していた、と言うてもらえれば、儂らには分かる・・・」
宿老頭目の一人が堪忍袋の緒が切れかけたような顔で言い出した。
「誰が完成させたのかは知らんがマギの上位機種としてのメギ式・・・あれが稼働し始めたなら確かにそれくらいの力はあるじゃろうな・・・なにせそのためだけに設計されておったのだから」
「赤木ナオコ博士が果たせなかったマギシリーズを統合する最終頭脳、そのメギ式が敵にまわったというならばマギに対抗する手段はないだろうよ。・・もともと、そのようにして造られているのだから」
「設計基が同一ならば、親和性も高い。接続後の稼働も殆ど問題なかろう・・・ただし、それが本物のメギ式であるならば、の話だが。あれを完成させられるのは、本当の、太陽のごとき天に唯一輝くような天才のみじゃろうよ」
「偽物か、本物か、天才か、凡人か。この四つの門を潜り抜ける人間がおるとすれば」
「それは、リツコさん、あんたしかおらんと思っていたんじゃがな。儂らは」
賢者の法灯を継ぐ者は誰ぞ、と問われればそれは、同じ赤木の名をもつ娘。
「赤木ナオミ・・・・とかいったか・・・・あの娘は誰なんじゃ!?メギ式はほんとうのメギ式なのか?他に誰があれを完成させうる?あんたには答える義務があるはずじゃ」
話がやばい方向に向き始めている。メギを完成させた人間が「誰」であるのか不明なために、いっそメギの軍門に下るもよし、などと宿老頭目は考えていた。
人間味と暖かみに欠ける実の娘より、大天才赤木ナオコ博士の果たせなかった夢を実現させたあっぱれな同じ血筋の関係者をまだしも認める。赤木リツコ、支持率一桁%。
メギを敵とするより、ここはひとつ、頭でも下げて手を組んだ方が利口というものだ。
メギが本当のメギ式であるならば、その上位機種の麾下に入ることは”自然”なこと。
「確かに、あれは皇帝列会式・・・・メギに間違いありません」
赤木リツコ博士がそれを認めた。その名を用いたブラフでも偽物ではない、と。
総司令碇ゲンドウは早々にメルキオールを使徒認定してしまっている。
おそらく、最も穏やかな解決策が採られたとしても、メルキはただではすむまい。
一度、使徒に汚染されたのだ。廃棄処分は免れまい。すでに、マギはマギではない、「賢人会議式」ではなくなっている。ただの二基連結のスパコンにすぎない。大天才赤木ナオコ博士の精神は、魂は、人格は、あそこにはない。マギがただのスパコンに成り下がった無念。儂らの気持ちは誰にもわからん・・・・。宿老頭目たちエンジニアは苦虫を噛みつぶす。論理ではない。はっきりいって、メギに接続することで、赤木ナオコ博士の精神を呼び戻せる気がしていたのだ。だが、それゆえに、あのオレンジ髪の小娘の正体を切望した。メルキ爆発宣言からして、マギにまともな感情を持っているようではない。だが、この崇拝感情はどうしようもない。その輝きを見るだけでひれ伏してしまいそうになる。
マギを”双賢者”としてでも生かすには、メギと接続するしかあるまい・・・皇帝列会式にはそれが可能だ。同設計基から生まれたものならば、麾下最上位の思考システムとしてマギを選択するだろう。マギの思考機械世界一の座は守られる。マギはメギの”軍師”になるのだ。それしかない。その後、使徒に対抗する。彼らは、マギを守りたかった。
「ただ、メギにはその方式自体に重大な欠陥があります。設計者の誤算でしょう・・・」
そして、実の娘赤木リツコはどうも、相手の正体を知っているようでもある。
前々からメギ式の稼働を知っていたらしいのはその立場上とにかくとして、あの姿を見ても動揺する気配すらないのは、やはり・・・と勘ぐられても仕方あるまい。
「相手を完全消去するとか息巻いておられたが、一体どうなさるおつもりか?
ユダロンだかいうものが、そのための作戦だったのですか?どうなんです?」
どういう関係なのか、ナオコ博士をよく知る宿老頭目らにも分からないが、メギの麾下に入れという申し出を蹴る立場には赤木リツコ博士はない、ということだけは分かる。
その異常なマギ独立に対する固執は偉大な母親の才能への嫉妬か。それを抑え殺し、才能の上位者へはそれなりの礼をとり、迎え入れることこそが実の娘の義務ではないか。
それこそが、真の理知というものではないか。知性とは、力ではない。戦争に勝利するためのものが力ならば、争いを鎮めることが知性。火と水、相反するもの。戦闘による科学技術の進歩、などという詭弁の入る隙間もない掟。
使徒戦などやってきたせいか、赤木リツコ博士の知性の形は、水より油に近くなっている。
注いでは火を、争いをますます大きくする。機械油で動く硝子人形の冷たさ。それゆえに、お前さんには誰も心からついていこうという気がせんのじゃ。
ええかげんに目を覚ましてくれ、頼むから、賢くなってくれ、と宿老頭目たちは願う。
崇拝したあの女性の娘であるから、どんなことがあっても見捨てはしないが、今こそほんとうに儂らの上に立ってくれ、と。あの人の後を継げ。知性の影に隠れずに。
それができぬのなら、見限ろう。お前に賢者の資格はないのだと。
メギ式を造り上げた血筋の者に、儂らのほんとうの尊敬を捧げよう。
エンジニアの中でも宿老頭目たちには”赤木ナオミ”と名乗った危険の幼女の正体には薄々感じるものがあった。大昔に耳にしたいくつかの血脈に関する極秘実験・・・それに赤木ナオコが参加を余儀なくされたことも。<チルドレン>そして<マルドゥック機関>・・・・・あくまで噂に過ぎないが。それは鮮血の悪夢。
実際に、赤木リツコ博士は”赤木ナオミ”の正体を知っていた。だが説明する気はない。
自分の血脈の話をする主義ではない。誰にも。聞かせてはならない・・・そういった話。
それは、”赤木ナオコ”の正体にも通じる話だから・・・・
<メジュ・ギペール>
母さんがどんな人間だったか。赤木リツコは冬々と噤む。
「皆さん、この会議の議題は使徒殲滅についてなのでは?」
霧島ハムテル博士がひとり超然としてドロドロとした会議の流れに棹さした。
いつもながらマイペースな人だった。これで村八分にされないのは自分の王国をもつ余裕。
会議参加人員の構成割合から、話がマギとメギ関連に流れるのはやむなしだが、ネルフは使徒を殲滅するための機関だ。内部施設の話もいいが、仕事もせねば。
「さても人工頭脳に関しては門外なのですが、皇帝列会・・・メギ式ですか、
なんと言ってもそれとメルキオールを占拠した使徒と噛み合わせることで使徒が広く深く
ここから世界に流出してしまうことにはなりませんか。使徒がメギ式をも倒し、なおかつ
そこで十分に余力を残している、という仮定の話ですが・・・・」
「はあ。今回の使徒は興味深い。生体ベースから始まり、自らの進化の終着地点・・・・
”死”すべき形態に電子回路の模倣を選択している・・・・
なんとすれば破壊兵器としての物理的手段をもたぬのは、今回の使徒は情報収集用・・・
・だという可能性もありますね。使徒のアプローチの変化は注目に値します。
ふふふ。さながらガン細胞の如くに増殖を繰り返し広がりゆく脳神経といったところです。
ありがちな見方をちょっと変えれば、今回のケースは使徒の成長と発生の原理が間近に確
認できる貴重な機会となりますね。メルキオールはいっそ研究用にわたしのラボに欲しい
ですね・・・・」
この場にいる皆が信じられないものを見たような顔をした。
あの霧島教授が、口調も表情も変わらぬままに”知に”飢えたケダモノ・・・マッドサイエンティスト気質、いわゆる高知能の犬、といわれる自分勝手な周囲に対する気配りゼロなことを言い出したことに皆驚いた。あの天性の役者めいた、立ち姿だけでその場を舞台にする、空気を読む達人であったはずの霧島教授が・・・・「はあ。」などととても霧島教授の言葉とも思えない。だが、すぐに「やはり科学者なんて本性はこんなものか」と驚きと失望を諦めに転化させた。美味しすぎる素材を前にしては本性を隠せなくなったのか。唯一人、「同類」である赤木リツコ博士を除いて。
「赤木博士には、コアが目視確認できない、極小サイズの使徒をいかなる方法を用いて殺傷されるおつもりなのか、その方法を提示して頂きたい」
霧島博士には似つかわしくない、あえて殺傷という言葉を用いたのは皆の頭を冷やすためかもしれない。エヴァ二体が待機していても、今回の使徒にプログナイフをぶっ刺してやるわけにはいかないのだ。その発言は正鵠を射ている。それだけに、決して赤木リツコ博士に助け船を出しているわけではなかった。拘りがなく冷静なだけに、エンジニアたちよりきついかもしれない。可及的速やかな回答を、沈黙を許さずに求める。
赤木家の血の物語にこだわっている時間はないのだ。
「うふふふ・・・・リッちゃんが孤立してる、孤立してるう!」
百面モニターにネルフ本部の会議の様子を映しながら、赤木ナオミが驚喜している。
なにがそんなに楽しいのか、使徒が登場してから赤木ナオミはハイテンションであった。
クシャマン呼ばわりされた機嫌はすっかり直って、配下のチョキチョキズに伊吹マヤ抹殺指令を出したこともコロッと忘れてしまっている。これで伊吹マヤが首を狩られたらまさしく死に損である。
「使徒、使徒、使徒〜〜〜〜第壱拾壱使徒、イロウル〜〜〜お待ちかねのイロウル〜〜」
使徒名鑑を繰りながら歌う赤木ナオミ。指先を指揮棒のように振る。
それでモニターが一部、切り替わり金魚すくいのアニメーションと「サルベージ準備完了」と表示が出る。「使徒分裂進化成長度」との意味不明のグラフも表示された。
「準備もオッケー、あとは向こうの出方を待つだけ〜〜、計算通り、リツコはメギと使徒との噛み合わせなんてタイムリーなだけの優等生的方法を考えてくれるし、実行してくれる。それでしくじって全てを失えばいいのさっ。賢者の席に空きはないのよ。どちらの血と知が濃いのか、勝負だねえ、リッちゃん。うふふふふふふふふ。けたけたけたけた」
あの復讐の女神の笑顔。高らかな笑い声。
「ですがナオミ様」とダビデ斉藤。
「ユダロンには本当にジェーゴンだけの凍結でよろしいのですか。」
「どういうこと?手ぬるいっての」
「あれはゼーレの枢機も恐れる魔性の機械。我々の理解の通じない相手でもあります。
なんの手違いで起動するやも・・・・多少の危険を冒しても内部の人員を捕獲監禁する手段も・・・」
「やめときなよ。さすがにそこまでやればZの字も黙っていないよ。結界の中で流血沙汰はね。あたしはともかく、後でダビデやヘドバは八つ裂きにされる。それに・・・」
「それなら、それでいいよ。どうせリッちゃんにはユダロンを起動させる度胸はないよ。あの子くらい賢ければ、もう分かってるはずさ。例えユダロンを使ってメギとそれに同調させた使徒を消去しようとしても、同時にそれはマギを消去させることでもあるってね。もはやマギはメギの中にある。メギが消えるときはマギも一緒さ。メギだけを直接攻撃できる都合のよい呪いのような力があったとしても、マギはただではおかない。道連れさ。使徒が漁夫の利を得ようとした構図に誤魔化されなければ本質は見える。すでにゲームの決着はついてるんだ・・・・」
「これからリッちゃんが取るだろう選択を予想してみようか。使徒とメギとの戦力比が明らかになっていない、つまりどちらが勝利するか分からない、またはメギの勝利を信用できないしたくない状況で、使徒殲滅を至上目的として考えた場合、まず絶対に避けなければならないのは使徒を外部に広めてしまうこと。イロウルが機械、知能回路への進化を選択したのはネルフ本部という自然から切り離された不自然の極みのような人工の地下施設で一番都合よく生き延びられるのがその姿だったからでしょうし。事実、自爆プログラムの解除・消去なんて”定住措置”を始めている。あの姿がけっこう気に入ったんじゃないの?そうじゃなければタンパク壁からもっと別のルート、あるいは人間をその寄生の対象に選んでもよかったんだし。寄生獣〜!!とか。怖っ。それからネルフ本部からネットワークを用いて世界中に極小使徒がまき散らされたらどうする?正確にはそのコピーだけれど。極小の敵が一カ所に集まっているこの状況は考えてみれば最高の環境というか戦場でもあるわ。ま、使徒の方の行動目的がよく分からないから向こうにとってはこの状況が良いのか悪いのかほんとは判断できないけど。
それで、リッちゃんが考えることは、メルキに巣くった使徒を、罠を仕掛けたカスパーとバルタザールのどちらか、または両方に呼び込んで閉じこめて始末しちまおうってことでしょうね。両方使うのが確実ではあるけどね。片方だけだと罠を仕掛けてない方を乗っ取られた日には悲惨だからねえ。二対一のマシンパワーバランスが崩れて最期の一つもあっさりとられちまうのは目に見えてる。だけど、時間がない。カスパーとバルタに同じものを単純にコピーして使えないからね。リッちゃんが二人いればそれも可能だけど。その辺の駆け引きで決まるかな〜。多分、使用する罠は使徒の進化を促進して終末の自滅に追い込むようなプログラム・・それを取り込ませることで使徒殲滅を計ろうとするでしょうね」
「それでも・・・・・」赤木ナオミは真顔になって続けた。
「それでもなお・・・・・リッちゃんがユダロンを起動しようってんなら、それはそれで面白いと、あたしは思うんだよ。マギの消去、それは第三新東京市の全機能の停止を意味する。街が停止する・・・都市の枯れ死に・・野晒しになった鎧武者の骸がすぐに出来ああがる武装要塞都市の最期・・それを選択する愚かさを自らの手で選ぶのも・・・まあ、それはそれで一興だわね・・・・隷属より死を選ぶのも・・・・あの子らしい。
それを選択する確率は・・・・66.6%・・・・妥当かな」
「たぶん・・・その選択の機会さえ訪れないよ。ジェーゴンの凍結を解除するのはわたし以外には絶対不可能だし、接続を人力でやってもいいけどユダロン語の分かる人材が365人ほどでまる一年はかかるしねえ。昔はそうやってたんだけど、今は人間が横着になってスパコンなんか接続するから、人減らししちゃって。まあ、昔でもそんなに人材はいなかったから、死んだ人間をいつまでも幽霊にして使ってたって馬鹿な話が残ってるけど。・・・・現代のスパコンは、知識人の幽霊団体のかわりだね。そちらの方も手を回して使えなくしてあげたし。青葉君には”がんばったで賞”をあげたいわ。まあ、なんだね〜、”携帯できるマギクラスのスパコン”か、”たった一人で複雑怪奇特殊言語操作作業を365×365の量でこなせる超高速脳味噌バースト君”でも連れてこなけりゃ無理でしょうねえ」
そう言って世界中の誰にもできっこない条件をあげて高笑いする赤木ナオミ。
「そう言うわけで、ユダロンには三重の安全措置がかかってるの。心配することないわ」
メギは世界中を飛び回り暴れ回る巨大な怪物皇帝であり、もはや何者もその進軍を阻めない。もともと進軍停止をシステムに組み込んだかも怪しいものだが。いかなる破壊兵器でも権力でも足止めすることはかなわない。唯一それに介入できるのは賢者の椅子に腰掛けるオレンジの髪を持つ少女だけ。使徒はどうだか不明だが、エヴァにも止められまい。
そのメギにしても、ユダロンの持つ力は恐怖警戒に値するものらしい。
実際に瑞西の結界に隠されたそれはデータが少なすぎて、ゼーレ首脳部以外にはよく分かっていないのだ。口伝として漏れたものを碇ゲンドウはどこからか聞きつけたらしい。
消された言語は記録には残らない。謎なものを恐怖するのは知性のサガである。
ユダロンを起動する資格を得るにはどこで、どうしたらよいのか。正直なところ、全世界情報という名の冠をかぶるメギを擁する赤木ナオミにも分からない。分かっていれば己がその資格を手に入れていただろう。この時点で、綾波レイ一行がその資格を手にしたのか否やさえあやふやなのであった。
ユダロンの案内人・クラウゼ・ギミックが一行と出会ったとこまでは確認できたのだが。
”馬車”で移動していたのに、「撒かれた」などと追跡者(マーカー)はふざけた報告を返してきた。どこをどうすりゃ、空でも飛んだか地に潜ったか馬車に撒かれるわけ?
その一点は不安材料だったが、結局の所、綾波レイにユダロン起動のゴーサインを出すのはリツコだ。ユダロン村には情報封鎖をかけてある。第三新東京市の現状を確認せずに単独判断での使用はない。ぱーぺきた。
もう一つの不確定要素、ギルガメシュ機関の動向・・・・エヴァ後弐号機と参号機を擁したことでネルフと並ぶ実力機関と化してきた・・・・岩人間・人間細工師マイスター・カウフマン・・・独逸の妖怪の考えも今ひとつ計算の外だ。ハイリンヒックの霧谷の件の報復としてギ機関の「エァー」「ルドラフ・ケムター」、二基のスパコンを破壊してやった。
そのとばっちりで深度催眠療法をうけていた訓練生の子供が何人か眠りから覚めなくなったり、訓練機械の急停止で人身事故が発生したがそんなことは知ったことか。
後弐号機操縦者A・V・Thは機体とともに南洋実験諸島へ。まあ、それはいい。
不完全サードの”エサ情報”に食いついた葛城ミサトにさらに食いついた形だ。
情報ってものがなぜ大事なのか?それは相手の力量を正確に読むために使えるからだ。
力量を知りたい相手の前に放り投げてみて、どんなタイミングで探知して食いついて呑み込むか、そしてその後の消化力・・・それらを分析してみれば相手の力量と本性が剥き出しになる。まあ、釣りのようなもの。ギルは怪魚であるが・・・・釣れるのさ。
肝心要の、あの憎みても余りある参号機専属操縦者・黒羅羅明暗は土耳古の地下迷宮都市・カッパラル・マ・ギアへ。機体は置いたままだが、気になる。単なる「ソドラとゴドム」土柩・・・「ニェ・ナザレ」・・・エヴァ十号機の見舞いであればいいが。
出張記録には「観光」とある。むかつくガキだ。
まあ、チルドレンきっての武闘派であるのは認めるが、こういう頭脳戦には縁があるまい。
いずれ、新式のダミープラグでその座を粉々にしてやるから、待ってなさいよ。
模擬戦にかこつけて事故にみせかけてブチ殺す手もあるかもしれない。今から楽しみだ。
赤木ナオミは早々と今後の覇業展開を考えていた。その道は血の彩り。目的に向かって驀進する。刃向かうものは蟷螂の斧、ペチャリコと情報の軍輪で潰してみせる。その目には使徒の存在さえ、いいとこ狩りの獲物の虎皮のハンドバックくらいにしか映っていない。
いわんや、伊吹マヤなどテントウ虫くらいなもんであろう・・・・
「伊吹ちゃん、あんたたちいつもこんなことやってんの?ハードだねぇ」
「こんなのは番外編ですっ!。いつもはもっとデスクワークで楽なんです・・・・あっ、このへんで下ろしてください。もう撒いたみたいですし」
怪人ハサミ男にさんざか追い回されたが、なんとか撒いたようだ。喫茶店バス「海底二萬マイル」は人気のない児童公園のところで伊吹マヤを下ろした。
「ビーコンでも打ち込まれていたら大変ですから、ネルフに保護を求めて下さい」
ここで別れても目をつけられたのは、バスだから無関係の彼らを追い続けるかも知れない。
伊吹マヤは強くなった。やはり元社長は伊達ではない。恩を仇で返さないために保護の算段をつける。自分の職員コードは当然抹消されているだろうけど・・・・
「冬月先生はご存じなんだけどね。あたしたちのことは。この街での営業許可も実は先生に都合してもらったんだよ。それで、伊吹ちゃんは一緒にいかないの?ここまで来れば同じだけど」
「私はまだ、やることがあって本部には戻れない身なんです・・・・」
「ワケありってこと。ん、分かったよ。じゃあね」
「ほんとうにご迷惑をおかけ・・・・いえ、お世話になりました」
「そうそう、あの姉さんをこれだけ体張って慕ってくれる後輩といえば、こっちもなんとかしたくなるよねえ。あの変人の父さんが会う気になったのも分かるよ」
そういって、にかっと赤木ナナセは笑った。そして、バスは夜の街に消えた。
おそらく、彼女らはネルフの保護など求めない。そのまま街を出てしまう・・・
ほんのわずかの邂逅。よく考えたら、なぜあっさりと自分を信じてくれたのだろう?
伊吹マヤは自分の事ながら、不思議に思った。
ネルフを自分の一存で失踪して、秋葉森で人材を頭狩りして募集して揃えて用が済んだら解散させて、人を捜して、探して、最期には待ち伏せして。とてもじゃないが、人として誉められたやり方じゃない。人義をわきまえないアウトローなやり方だった。
ネルフでは、三羽ガラスの日向君と青葉君がその空席を埋めるために余計な仕事を強いられているだろう、自分の後が早く決まっていればいいけれど・・・・
秋葉森の伊吹商事では、こちらの要求以上のものを造ってくれた。彼ら彼女らはその気になればいくらでも手を抜くことができた。いくらでも反逆できた。それをされたら、正直、自分にはどうしようもなかった。なのに、それをしなかった。自分のごり押しを受け止めて黙って造ってくれた・・・・人捜しまでつきあってくれた・・・・
赤木レンタロウ博士はいきなり席に押し掛けたのにもかかわらず、怒りもせずにおだやかに話をきいて、「二つの名前」を教えてくれた。学者にとって、自分の弟子でもない何処の馬の骨ともわからぬ小娘が秘匿した論文の在処を問いただすなど激怒されても仕方ない暴挙だが、それでも・・・・
伊吹マヤは人気のない公園のベンチに座ると、トランクから通信端末を取り出すと、先ほどダウンロードしてきた「”人造人間における脳神経の情報伝達速度と強度についての一考察”」を接続し、転送する。組み込み処理も数秒で完了。
そして、その手に残ったのは、「総門雷冠」・・・(β版)
からたった今(完成版)に仕上がった。伊吹商事初にして最期の製品。・・・・という、
「事実」だけ。なにもない、に等しい。PDSよか報われることがないプログラム言語には著作権がもとからないのである。どうせ、それを使えるのは世界でも唯一人・・・。
少しでもその子の危険が、負担が、減るように・・・・・
だが、余韻に浸っているヒマはない。
「フフフフ・・・・・見ツケタチョキ」
はっ!、と顔を上げてみるとスグ目の前に怪人ハサミ男、チョキチョキズが立っていた。その後ろに夜の虹のような少女とターバンをまいた褐色の僧侶。
逃げる間もない。伊吹マヤの首にはチョキチョキズのチタン合金でもやすやすと切り裂くハサミが突きつけられた。ちょっとでも力をいれれば人間の女の首など花の茎と同じだ。
「ル・シフェンは後ろを向いているチョキ・・・・それでは、死ぬチョキ!!」
細いものを切断するのは彼の存在意義であり、本能である。細く白くほっそりとした伊吹マヤの美しい首はさぞ切りがいがあるだろう。きりがみね。
「ちょっと待ってくれんか。鋏男殿」とターバン褐色僧侶・カンプラーラァが制止した。
「この娘には聞きたいことがある」
「何チョキ?コウイウ事ハ、ヤレル時二ヤッテオカナイト邪魔ガハイルノガオ約束ダチョキ」
「別に構わぬではないか。邪魔が入ろうと、鋏男殿なら負けるものはあるまい」
「ソレハソウチョキガ・・・・・コノ街ニハ”奴”ガ現レル心配モナイチョキシ」
「なーに?チョキでも怖い相手でもいるの」後ろを向いた少女がちらりと振り向く。
「苦手ナ相手ハイルチョキ・・・・”奴”ハ、チョキチョキズヲ倒スタメダケニ造ラレタ改造人間ダチョキ・・・以前、一度不覚ヲトッタコトガアッタチョキ」
「チョキ!倒されちゃ、だめだよう!いやだよう!」
「ル・シフェンを守ルタメニ、チョキチョキズハ今度ハ誰ニモ”奴”ニモ負ケナイチョキ」
・・・・どういう馴れ初めがあったか知らないが・・・待てよ・・・ル・シフェンといえばどっかで聞いたような・・・”深窓の零嬢”とあだ名をとったフランスの中央銀行の預金残高を全て”零”にしてしまったという大ハッカー、その名が確か・・・・・事件当時、小学生くらいで大々的にニュースになった・・・・夜の虹のような少女と改造人間との淡い交感・・・・あるいは美しい会話なのかもしれないが、首切りハサミを突きつけられている伊吹マヤとしては・・・・・「くたばれ」・・・・・としかいいようがない。ちきしょう。
それにしても・・・・話を聞くにこのハサミ男には絶対的に苦手とする相手、まるで昔話の「しっぺい太郎」のような、がいるらしい。ほとんど情緒らしいものを感じないハサミ男から怯えを見て取る伊吹マヤ。いくらなんでもそれほど世の中、都合よく出来ていないから今、この瞬間にその苦手の相手・・・”奴”が通りがかるなんてことはないだろうなあ・・・出張サービスしてやってきてくれないかしらん。
「それに公園の入り口には”ただいま撮影中”の札を下げておいたから安心だ。」
と、冷酷に褐色ターバン僧侶が告げた。なんていう手抜かりのなさだ。
これでは外国はともかく、シャイな日本人は絶対に入ってこれない!!たとえ大声で悲鳴を上げても夜間警邏の警官も遠慮してくれるだろう。非日常を日常にするなんてプロだ。
「それで、だ・・・・聞きたいことというのは、3点ある」
「君たちの造ったプログラム、アレは一体なんなんだ?巨大な神殿に猫を一匹住まわせるような非効率極まる巨大な記憶槽が延々と続く・・・・ただそれだけの、何者も使用不可能な領域設定をした意味皆無の製品を、無償公開した理由は?そして、先ほど入手したデータをどこに転送した?第参新東京市を囲むメギの包囲網には引っかからなかった。武蔵野秋葉森ではないな・・・・マギの中か」
「ここから解放してもらえれば、じきに明らかになるんですけど。すべて。
それと、あなたたちの正体も詳しく聞きたいんですけど」
「なるほど・・・・・成すべき事は成した者の表情・・・これ以上の詰問は無用だな。
鋏男殿。この娘に用は済んだ。後は存分になされよ」
あっ!まずいっ。もうちょっと引っ張ればよかったの!なんでそんなにあっさり諦めるんですか?淡泊すぎ。しつこい人は嫌いですけどすぐあきらめちゃう人も嫌いです。
「チョキ」ハサミに力が入る!その時!
「あれっ?社長?なにやってんの」
第三者の、聞き覚えのある第三者の声が。公園のポール灯に照らされたその姿。
橘エンシャ、祭門チサト、そして、ISDN回線男が。「むむっ!貴様はっっ!」
「げげっっ!!”奴”チョキ!!」
カーン!!と遠いリングでゴングが鳴ったような気がした。
いじめっ子を見つけたいじめられっ子のような声をあげたチョキチョキズに疾風の如く駆け寄ったISDN回線男のスライディングからのサソリ固め、キャメルクラッチ、パロ・スペシャル、卍マイライン固め、市内通話はとうとう半額サイクロン、そしてトドメの恐怖の必殺技・”48の接続技”の最高峰・ISDN回線バスターが炸裂した!!。
ウグワアアアア・・・・ (エコー・三十秒くらい)
だが、苦痛の声をあげたのはチョキチョキズではなく、技を仕掛けた方のISDN回線男の方だった。その分厚い胸板にぐっさりとハサミが突き立てられていた。片方のハサミが発射されて街灯を挟んでいた。そのせいで完全落下せずにISDN回線バスターが不発に終わったのであった。「ISDN回線バスター破れたりだチョキ!!二度も同じ手は通用しないんだチョキ!!」「やったー、チョキ、つよいー」「ぐぬぬ・・・・ふ、不覚をとった」
「しっかりおしよ、ガードマン料払ってやんないよ!」「回線男さん、血がっ!」
「あ、あのう・・・・・」いきなりの熱すぎる怒濤の展開についていけない伊吹マヤ。
「こうなったら・・・・伊吹社長の元で研鑽を積んだ新しい必殺技を見せるしかないようだなっ!!とうっ!!」「なっ、なにチョキ!!」「あ、あのー、誤解されるような言い方は・・・・」胸板に突き立ったハサミをどこか嬉しそうにも抜き取ると・・・・
「回線変換っっアナログチェンジ!!ADSL回線男っっ」
武蔵野秋葉森でこの怪人を捕獲したというのは・・・元・伊吹商事警備員・・・・
ISDN回線男・・・・あの人だったのか・・・エーと、今はADSL回線男さんか・・・
児童公園に展開される阿鼻叫喚。うわっ・・・・ほんとに手加減ないな・・・・
この間、わずか三分たらず。改造を受けていない者たちには目にも止まらない、改造人間たちの激しくも悲壮で壮絶な戦いであった・・・。
「なんで橘さんたちがこの街に・・・・」
ISDN回線男はターバン僧侶カンプラーラァを砂場にパワーボムで人柱に埋め込んで、少女ル・シフェンを児童公園の一番高い木の上に運んで下りられなくした。
なんとか落ち着いたが、伊吹マヤはこの再会に感謝する前に驚いてしまった。それと、ちょっと気恥ずかしくもある。回線男さんはハサミ怪人を護送するパトカーの警官に偉そうに注意を与えていたりする「総監賞は辞退する。あくまで一存の正義でやったことだ」
・・・「社長」チサトちゃんの微笑み、「無事で何より」ライゾウ教授の乾いた機械音声。
そして
「忘れもんだよ・・・・軽の運転席の隅っこに落ちてたよ」
そう言って渡してくれたのは。銀色の記憶ディスク。
「悪いと思ったんだけど、中身を見せてもらったら、まー、なんだ、例の工学先生の有り難いお話が詰まった・・・・”脳神経の強度と伝達速度がウンタラ”とかいう・・・」
「”人造人間における脳神経の情報伝達速度と強度についての一考察”ですよ?橘さんあれだけスラスラ言えてたのに・・・やっぱり嬉しいんですか。みんなで苦労したし」
と祭門チサト。
「チサト・・・」左肩鎧のライゾウ翁が孫娘をたしなめた。やはり小娘は小娘。
「あ!、さ、探すのに苦労したって意味です。座席を。そういう意味ですから!」
まさかと思うけれど・・・・橘さんは赤木レンタロウ博士の来る場所、水天門近くの喫茶店”よこたま”だって知ってた・・・まさか・・・わたしが帰ったあとに、皆で押し掛けてレンタロウ博士に何か迫ったんじゃ・・・・それでまさか・・・・自分たちでも?
「ちょっと海の中に潜っただけだから大したことはない。幸い水天門よりそう遠くない地点の銀行の中だった。竜宮城よりは近かったぞ、わっはっはっは」
「警備員の職がなくなってヒマだってんで護衛にと思ったけど、やっぱりこいつを連れてくんじゃなかったねえ・・・馬鹿」
赤木レンタロウ博士の書斎は海の中だが、秋葉森には旧マギ、赤木家の別荘がある。
その一つが秋葉森近くの海中にあってもおかしくない。おかしくないけれど・・・・・
自分なんかのために、縁の切れた自分なんかのために、専用の海線を使わずに情報を引き出すために、直接、海に潜るなんて・・・・・おかしい。いや、確かにそれがないと意味がないとか言った覚えはあるけど・・・。彼らがどんな風にそれをやったか、正確に想像できてしまう・・・・。なんてお節介な・・・・
そんなことがあって、いいはずがないじゃない・・・。そんなことをする力はあなたたちの一体どこからわいてくるの・・・・それに対するわたしの価値は・・・完成版を送り出した時点で、それは余分なデータになってしまった。けれど。
「ありがとう・・・・ございます・・・・わすれもの・・・・」
しっかり抱えて、いつか、誰かに、それをわたしてあげたいと、思った。
「なあ、クラウゼ」
とイヨマンテ城長は外の野原でのんびり羊の毛狩りや山羊の乳搾りを体験している一行を窓から見下ろしながら銀仮面クラウゼに問いかけた。
「日本人というのは勤勉だと聞いたが、彼らは怠け者だな」
凡人オーラを放ちつつ、凡人な視点で彼らを評した。
「そうですねえ・・」
あいかわらずジェーゴンは麻痺しっぱなし。メギにねじ伏せられたままだった。
にもかかわらず、彼らは城に到着してよりなんの行動も見せない。
「ユダロンを起動する気は実のところ、ないのかな」
「あってもなくても、実際に起動させられないのですから同じことですよ」
「それはそうだが。ここまで来たのだから、もう少し頑張ってみようとか、悪あがきしてみようとかいう発想は彼らにはないのか?」
「じゃあ、自分であの人たちにそう言えばいいじゃないですか。がーんばれーがーんばーれー頼む!がんばれ!がんばってーくれーとか。ゴールデンエイトな感じで。城長はゴールデンエイトな人に似てますし。髪のバサッと長いところとか」
「なんで私が。イヤだ。別に彼らにどうしてもがんばってもらいわけではない」
「じゃあいいじゃないですか。怠けてたって」
「それもそうだな。というわけで、世界一勤勉なのはドイツ人だな・・・・って、おい、何を沈んでいるクラウゼ」
「いや・・・・もう慣れたつもりですけど、出来ればもう少し神秘的な会話をして欲しいな、と希望するものであります」
「人間、平凡な会話と分かりやすい言葉を使うことが大事だぞ」
「それでも、もう少しなんとか・・・・彼らとの会食の時、びびったようにドモるのもちょっと。別段、彼らも城長を責めとりゃしませんから。逆に気の毒がられてますよ」
「仕方がないだろう、彼ら彼女らは怖い!怖すぎだ!!。どういう場数を踏めばあんな迫力が身に付くのか想像もつかん。油断してるととって食われてしまいそうだ。だいたい、彼らの武勇伝をお前も聞いてただろ!」
「まあ、ここにくるまでいろいろあったのでしょうから・・・・」
銀仮面は再び、羊の毛狩り・山羊の乳搾りをする一行に視線をやる。
今は、ただの休養を楽しんでいる一般のご家族にしか見えないが・・・・・
使徒・メルキオールが自爆に関するプログラムを全て解除消去した。
地盤固めが終了。再び増殖、他エリアへの侵入を計る。
その五分前に赤木ナオミ・メギより「発令所からの全員撤退勧告」が出た。
「使徒のことはなんとかしてあげるから、マギを大人しく明け渡して去れ」ということだが、使徒殲滅のための特務機関ネルフがそんな要求に応じられるわけがない。応じたが最期、明日から全員失業である。早い話が挑発で、なおかつネルフと手を組む気はない、と明言したに等しい。その勧告が実際力をもつのは、マギによる自爆決議が果たされる危険性がある場合だ。使徒殲滅を旗印しにマギの物理的消去の実行を正当化されてもまたたまらんが。とにかく、本部自爆という最悪のカードを引かない予備策としてメルキオールの仮死化があった。そのため、逆に使徒にはあっさり乗っ取られてしまったという説もあるが。その時点でメギ侵攻を予想していたはずの赤木リツコ博士の打ち出す「極小使徒殺傷」の方策とは・・・・もちろん、エヴァは使えない。葛城ミサトはこの場にいなくて助かったかもしれない。
「使徒を殲滅するには、カスパーとバルタザールを解放し、そこに罠として配置する”自滅進化促進プログラム”を取り込ませて内部から崩壊させていくしかありません」
だが、その方策は集中砲火を受ける。
「なんなんだそりゃー!どうやって進化なんか促進させる気ぞなもしー!!」
「ほどよいところで進化を止めてウルトラ賢くなって人類を支配されたらどうする!」
「宇宙人のUFOに地球製のコンピューターウイルスを仕込んで倒したどこかの国の独立記念日じゃないでごんす精神病院におむかえでごんす」
「それではお話になりませんね・・・・私は研究室に戻らせてもらいます」、と霧島教授にさえ愛想をつかされた。
赤木リツコ博士の方策は赤木ナオミの予想通りのものだった。
ただ、それをやればマギの内部もグズグズに崩されり、ほとんど使い物にならなくなる。
修復にどれほどの時間がかかるのか、文字通り計算もつかない。
そのために、カスパー、バルタザール、どちらかを残して置いて修復用に用いる・・・・が、その場合罠を仕掛けていない方を乗っ取られた場合、どうなるか。
罠を両方に配置しても、同時に双方向に使徒の侵入があった場合はどうか。
一番上手くいったところで、マギは一基が残るだけで、今後の本部の、そして第参新東京市の運営に重大な支障をきたすであろうことを考えると・・・もはやマギは。
松代の実験場など外部にバックアップを頼もうにも、全てをメギに包囲されている。
もとより籠城戦のところを内部から敵が現れたようなもの。敗北は決定的であった。
世界を守護するものと世界を征服しようとするもの。争えばどちらが勝つかは明白である。
確かに、これはメギの軍門に下って助けてもらうしかないのかもしれない。ちなみに。
メギ・赤木ナオミには使徒殲滅の手段があるのだという。ぬけぬけと宣言した。
碇ゲンドウに向かって「委員会と日本政府にはもちろん黙っていてあげるわよ」とも。
そして、「その代償にファースト・チルドレン綾波レイと零号機を頂戴」と来た。
委員会と政府への通信を操作することなどたやすいことであろうし、使徒殲滅の手段というのもまんざらハッタリにも聞こえないのだ。碇ユイや赤木ナオコが持っていた太陽のような状況打開力を確かに感じさせて、碇ゲンドウ、冬月副司令の両名をして一瞬、顔が歪んだ。赤木ナオミ・・・・この血の流れに悪夢を見せられているように。
「特務機関ネルフが内部に侵入した使徒を殲滅できないとあれば、ギルの方に連絡して、強攻型の後弐号機と参号機の出撃を要請するけどね。マギが三基とも使徒に汚染されたら、まあそれもしかたないよねえ。その前に私に任せてくれれば後はぜんぶ上手いことやってあげるけど。”他人じゃないから”・・・・・そう悪いようにはしないわよ」
チルドレンである碇シンジや惣流アスカらより遙かに年下の外見であるくせに、グイグイと喉元を締め上げてくる。プレッシャーを強めてくる。処女暴君の政治手腕に沈黙するしかない。今頃、委員会は七面鳥とシャンパンで祝杯だろう。
考えてみれば、敵として来てるのは極小使徒(一体?)だけである。
それもサイズからいって、破壊力貫禄ともに今までの最弱クラスであろう。
成層圏から飛来する超巨大爆弾使徒でもやすやすと退けてきたネルフが。
いいようにオレンジ髪の小娘にボコられてえぐえぐとしている。とんでもない状況だ。
第参新東京市は深夜、今、住民たちは使徒来襲も知らず避難することもなく眠っている。
「使徒をどうやって殲滅するか?別にもったいぶることもないから教えてあげるわよ。
そうしないと皆さんも大人の判断ができないでしょうからね。それは・・・ズバリ!!
使徒の飢え死に〜アンド、寿命を待つ!!ってコト。今度の使徒にはコアがないわ。なおかつ、急激な成長と進化・・・・膨大なエネルギーを使っている割に補給源がない。それを完全に断ち切ってそのまま一週間か一ヶ月かそこら放っておけば枯死するでしょう。」
一瞬、葛城ミサトがこの場に帰ってきたのかと錯覚させるような鮮やかな切れ味で。
赤木ナオミがもったいぶらずに説明した。
「そのために、ネルフ本部の機能を、とくに電源や空調水道ライフライン関連を完全に封鎖して、とくにマギは絶対に機能凍結させておく必要があるわねえ。電源さえ完全に切ってしまえば何も出来ないわ。もうほぼ完全に電子回路化してるから。・・・・ああ、分かてる分かってます、マギが止まると第参新東京市の機能に支障が生じるってんでしょう。
いっときますけどねえ、今現在だってメギがサポートしてあげてんのよ。だから街が静かに眠っていられる・・・・私には赤木ナオコの血が流れてるんだから、この街に住まう人たちはけっこう可愛いのよ・・・・だから、マギが止まっている間はメギが代理を務めるわ。使徒迎撃を含めた第参新東京市の市長さんの任をね。」
碇シンジが惣流アスカに語ったことと同じような内容だが、赤木ナオミのプロパガンダデイドリーム口達者。どんどんと発令所内の人間を魅了し、シンパに変えてゆく。
「だから、この都市を停止めてしまってもいいでしょ?
・・・・死ぬまで」
おだやかにしんでいく。賢者の死とはそういったものだろうか。賢者葬列式。
今宵、マギはおくたばりあそばす。
その前に、皇帝の庇護を求めた方がよいのではないか。
武装要塞都市の門を開放し、無敵の皇帝を大人しく迎え入れて恭順の意を示した方が。
そう言った声がマギエンジニアのみならず、発令所オペレータの中からも出始めた。
渚カヲルという神性の天才少年を間近で見てきたせいか、幼女外見の抵抗もすくない。
使徒に下るよりは、まだ同じ人間に下った方がましであろう。
なんといっても赤木ナオコ博士の血脈・・・関係者なわけだし。
「ですが、それはネルフ本部内での決着に限定しての話です。」赤木リツコ博士が微笑む。
歪んだ月のような、その瞳。科学者は探求するのみで受け容れない。賢者の名も現実も。
「先ほど、霧島教授が指摘された通り、メギへの使徒感染による外部への使徒の放出という問題がありますが・・・・フフフフ、そんなことはなんということもないんですよ」
ぎょ。今度は赤木リツコ博士が周囲を恐れさせた。その白い顔に亀裂が、亀裂のようなものが走ったのが見えた、ような気がした。裂け目からもれたその笑いには壊れた狂気成分が多量に。そして、それを抑えることもなく総司令碇ゲンドウに向き直ると。
「碇司令。・・・・・・”メギ”への使徒認定をお願いします」
おいっ!と会議場がどよめいた。何を言い出したか分かってるのかこの女。
いくらマギを凌駕されて、悔しくてもそりゃないだろう。その我が儘さはヨハネの首を欲しがるサロメに相当する。この瞬間、赤木リツコの評価は最低値をさらに割り込み、「実はバカ女」にまで崖を転がり落ちるように落ちるところまで落ちた。
「どういうことかね」
碇ゲンドウは顔色も変えない。
「使徒メルキオールに接触した全てのコンピュータは使徒に汚染されている可能性があります。特に、マギ内部に潜み数年に渡り本部の情報を収集していたメギはその可能性極めて高く、今現在もマギのサポートと称しこちらとリンクしているというならば使徒は既にメギ内部への侵入を果たしていると見るのが当然。対象への攻撃もやむを得ません・・・・・碇司令」
「マギに侵入した使徒と、マギを組み込むメギは同一、ということか・・・」
ざわざわざわ・・・・尋常ならぬ二人の会話に、事態の終結の形が見えなくなる。
言い掛かりのようにも聞こえるが、碇ゲンドウに区切られると、何が真実なのか分からなくなってくる。分かるのは、赤木リツコが絶対にメギに屈しないということだ。
碇ゲンドウは結論を下す。
「メギ、及びそれに同調する全てのものを使徒と認識する。この件に関する総ての交渉も終了する・・・」
「ばっ、ばっ、ばっかじゃないの!アンタ達。一体何考えてんのよ!!」
大慌てで赤木ナオミが会議に介入してくる。
「こっちが使徒に汚染されてる?!いいかがりはやめてよね!何を証拠にそんなこと言えるのよ」
あれだけ余裕をかましていたくせになぜかえらく慌てている赤木ナオミ。
「で、なければメルキオールが使徒に乗っ取られた時点で堂々と奪い返して自分のもの・・・陣地にしていたはず。違うかしら。使徒が自爆プログラムを解除するまでの時間にあなたは何をしていたの?つまり、あなたには、メギには使徒を殲滅する力もなければ知恵もない、そういうことでしょ。待つだけなら犬にもできるわ」
「皇帝は口先だけの法廷では裁けない。こっちにはこっちの都合ってもんがあるだけよ・・・・ってちょっと待ちなさいよ。
何よそのトランクは」
よっこいしょ、と赤木リツコは議場台の上に頑丈そうなトランクを置いた。
「むぅ・・・それは」冬月副司令が唸った。トランクには厳重な封印が施してある。
「ユダロンを使うわ。生まれてはいけなかったのよ。”あなたたち”は」
「ひどい。一方的な存在否定?あとで泣きみるわよ。言ったでしょう。その奥の手は先刻承知だって。ジェーゴンはまだ凍結させたままだよ」
「それも分かってる。だから、彼らに”これ”を持たせたの・・・・今すぐマギから手を引きなさい」
スイッチを押す。トランクがゆっくりと開いていく・・・・
「母さんは・・・・」
内部には硬化テクタイトで固められた・・・・救いのない未来を弥勒の冬夢を見て眠る
「マギは・・・・・誰にも渡さない・・・・」
四つ目の胎児が。
「・・・”アベル”。弟(カイン)を起こして」
イヨマンテ城長がトイレから戻ってきてまた眼下の野原を見ると、もう彼らはいなかった。残るは虎刈りにされた羊や山羊が迷えるだけ・・・・
「なんなんだ。いい加減な奴らだな。仕方がない、残りは後で私が刈っておこう・・・・・・クラウゼ、彼らはどこにいったんだ。後でお前注意しておけ」
「血相変えて城の中に戻ってきましたけど。とうとう仕事する気になったみたいですね」
「おお、なるほどな。それなら仕方ないかもしれない。で、クラウゼ、何で案内役といいつつ、さりげなく見張る役のお前は彼らの後をついていないんだ」
「城長を待っていたんですよ。彼らの”仕事”、興味がおありでしょう?」
「別にい。いかにも普通な連中じゃないか。世界を動かすVIPでもあるまいに興味なぞ」
「・・・・・この銀仮面でキスしてさしあげましょうか」
「あるような気もしてきたな。よく考えたらなんであんな普通人がゼーレの結界施設に宿泊できるんだ。しかもタダで」
「血筋が何代も続いた挙げ句に魔力が絞り滓・・・・ああ、その名を聞いただけでゼーレも恐れたあの時代が懐かしい・・・・・」
「なんか言ったか」
「いえ、何も。急ぎましょう。先ほど、尋常ならぬ妖気の発生を感じました」
「陽気・・・・確かにいい天気だが・・・・・ああっ、待ってくれクラウゼ!」
銀仮面クラウゼとイヨマンテ城長が地下のユダロン聖堂に駆けつけた時、綾波レイ一行はジェーゴンの前に集結して何かやっていた。自分たちの仕事場を占領されたユダロンスタッフ達は遠巻きにしてその様子を見守っていた。
綾波レイ。少女がトランクを開いて・・・・ゆるよると怪煙がたつ・・・何かを取り出していた。
「うわあっっ!!な、何だこいつらは・・・・あ、赤ん坊をトランクに・・・・ひどい、ひどすぎる!いくら従順温厚なわたしでも今回だけは言わせてもらうぞ」
非道を詰ろうとしたイヨマンテ城長に一瞥もいれず、綾波レイはトランクから胎児を抱き上げた。泣き声を上げることもない無音の三つ目の胎児を。
ギッガ
怪物語で黙れ、という意味かも知れない。その不気味悪い声を三つ目の胎児があげた。
ギョロン、と見開かれた三眼がグルグル回転する。手袋を填めた加持リョウジがその頭に銀の茨の冠を被せる。続いてその出来かけの口にコードをくわえさせる。そのコードはジェーゴンの金属鱗怪獣卵部分に接続されている。そこから枝分かれした線が一本、青葉シ
ゲルの電光石火で入力作業を行う独立端末に繋がれて。
宇宙人の子供への人体実験・・・としかいいようのない奇妙な光景はジェーゴンの異様に相まってはまっていた。手際がよい。なまけつつ、ずっとこの算段を巡らしていたに違いない。そんな彼らにユダロン起動の命令がこの結界内にどうやってか今、届いた。
「”カイン”・・・・よくもそんな物騒なものをトランク一つで・・・・」
三つ目の胎児の名を唱えて銀仮面クラウゼが絶句する。ネルフ本部所有の秘蔵の必殺宝物。
「知恵の樹から生まれた双子の胎児の片割れ・・・・”黄金脳”を持つ植物胎児・・・クルモニット・ハー・ネイヴス!!・・・・あれならば」
あの胎児をジェーゴンの代機に仕立てるつもりか!!わざわざ奪取の危険性を犯してでも運んできただけのことはある。あの植物胎児の化け物度はジェーゴンのそれに比肩する。
「城長、あの調子だと彼らはユダロンを起動させますよ。いいんですか?」
「別にかまわんだろう。”指輪”は本物だしな。ユダロンシュロスが許しを与えている。あの少女がどんな言葉をこの世から消し去ろうが全て問題ない。そうだろう?クラウゼ」
イヨマンテ・イスカリオテ・ジュロダカラ・ユダロンは言った。
クラウゼ・ギミックは主の言葉に停止する。
「ああ、いやだいやだ。また恐れられてしまう。怯えるZの字から結界はまた強化されてしまうぞ。わたしはのんびり観光客相手にペンションでもやりたいというのに」
それは魔王の溜息。
「わたしがユダロンを使えたら、イの一番にこの名を葬り去ってやるのだがな」
綾波レイの指に填められた銀色の指輪。
銀色の指輪が填められた綾波レイの指。
銀色の人面指輪の口から赤い茨のような、棘舌がシュッと伸びる。
それは綾波レイの首から全身をグルグルと緊迫する。この世から言葉を消失させる、その巨大な罪科の代償といわんばかりの強烈さ。「くうっ・・・」あまり長くは保たない。
耐え切れなければ絞め殺される。白い指が動く。
すうっと三つ目の胎児カインの頭部に。
あてられた。目標効果範囲を頭の中でイメージして転送する。
そして、となえられる言葉。
「ぜろ」
それだけでメギ皇帝の率いる軍列は壊滅的なダメージを受けた。天文学的な、だが静かで見ることも触ることも出来ない甚大な衝撃。
たとえるならば何の予告もなく天空の月が落下してきたようなもの。
阿鼻叫喚の起きる間もなく、全てが終わってしまった。
全てが。
綾波レイに指令されたユダロン使用の目標とは第三新東京市ネルフ本部地下「マギ」。
なんの遠慮はいらないから、「マギ」から「ゼロ」を消してしまうこと。
そして、それを実行した。東方の賢者が、消えた。それによって導かれてきたもの全て。
記されてきたもの全てが。万象が。崩れ、消え去った。永遠の奇夜につつまれて。
赤い瞳の少女が、賢者を眠りにつかせた。
遥か東方では夜の雲の瞳をした少年が、大王を呼び覚ます。そして雷の戴冠を。
ゼロやマイナスではない、絶妙の間で。壱秒近くは余裕があったか。
消えた。
全て消えた。
暗闇の中。
導き手の賢者を失った第三新東京市。
なまじ同化していたせいで使徒も。あっけなく。
メギも。
そして、マギも。
そのまま、どれくらいの時間が経過したのか・・・・
「マギが消えた・・・・なんの反応もない・・・・これが・・・ユダロンの力・・・」
百面モニターも全てブラックアウト。包囲役として第三新東京市に進軍させていたメギの勢力は全て消えた。おそらくユダロンの余波であろう。
赤木ナオミの声が震える。
どうやってジェーゴンを使わずにユダロンを起動できたのか謎なのだが、ユダロン起動の報が入った時にはもう遅い。あっという間にマギを中心とする第三新東京市は消滅。闇に呑まれてしまった。建物も破壊されず、人間も生きてはいるが、もはや武装要塞都市どころか普通の都市としても使いものになるまい。機能が働いていない。循環しない。動かない。ただ、物体が集積しているだけのゴミの山だ。生命が停止した肉体が死体と呼ばれるように。この都市も「死都」と呼ばれることになったわけだ。
「これが・・・・リツコ、あなたの選択だったの?」
ほんとうに隷属より死を選ぶとは思わなかった。まさか自殺されてしまうとは。
ユダロンの刃もて皇帝暗殺を仕掛けてくるかと思ったのだが。
マギオリジナルのデータが消失してしまった。”専門”である戦闘データはコピーをとったが関係のない都市機能関連はさすがにようようバックアップなんかとってない。
第三新東京市を動かしていた巨大なデータ群が消滅した・・・それは取り返しのつかない。静かなる大惨事。肝心のマギが消えてはそれに接続しての助勢も出来ない。
パターンは消失している・・・・完全に使徒も消えたか。凄まじい力。
使徒と相討ち、という名誉の死を選んだか・・・・また、それも・・・・
「なんだかな・・・・後味の悪い結末になっちゃったなあ。折角、”ナオト”が造ってくれた”メギ”なのにね。うまく使えなかったよ・・・・・次は”リツナ”・・・・いや、男型だから”ナォタ”か。ダビデ、彼にうまく言っておいてくれる。お願いね」
「はい・・・ナオミ様」
「”メギ”進軍停止。作戦名”皇帝列会の夜”、現時刻をもって終了。全エリア連動復帰・・・ゼーレ、及び関連の議定機関に報告・・・・後、打撃破損部分を修復・・・・」
「本当にこれで良かったの・・・・・?いや、たぶん・・・・」
通信が入ってきた。「誰?ヘドバ?このナンバーはチョキ公か・・・・今頃かけてきても遅いのよもう済んじゃった・・・」
途中で相手の声に絶句する赤木ナオミ。「リツコ?!なんであんたがここに・・・・・・」
「・・・・まあ、そんなことはどうでもいいじゃない。これからマギシステムの新式への書き換え作業を行うけど邪魔はしないでね・・・」
電話口の声は雑音が多いがどこか陽気。それでいて強い意志を感じる。
「な、なにを寝ぼけたことを・・・・・」
「今度はメギを狙わせるわよ・・・・本気で」
「・・・おかしいわよあんた。マギはもういないのに・・・・
そんなことできるわけがない。
その地下施設の中で満足に生命維持だってできないくせに」
「ここにこうやって電話で話しているのが何よりの証拠じゃなくて?・・・・とにかくこっちの邪魔さえしなければいいわ。無駄な時間は使いたくないの。じゃ、さようなら」
「ちょっと!ちょっと待ってよ!!マギはホントに生きてるの?」
「生きてるわよ・・・・”この程度”のことで消えてなくなるなら、この先の使徒戦を切り抜けていけないもの・・・マギのマギたる中枢部分は世界で一番頑丈な容れ物の中にしまわせてもらったわ・・・・メギにはそれができない。マギの中には今まで私たちが生きていた証、多くの知恵や記録が積み重なって保存されている・・・何があってもそれは後世に伝えていかなければならない・・・・私達の記憶を保存するには、メギでは脆弱すぎるのよ・・・雷の大王に統治される第三新東京市に皇帝は必要ないの・・・賢者は何者にも跪かない。もちろん、ユダロン・・・混乱の大君にもね」
「メギがマギに劣るっての・・・・・」
「もし、メギが本当にこの世で最も頑丈な存在であったなら・・・・喜んで従うけれど・・・・・この身も心も捧げてね・・・・」
「そんなの嘘だ!!マギの全データを・・・都市一つ分の巨大なデータを納めきれるキャパシティを持つ記録体なんて・・・・第三新東京市のどこにも・・・・」
「あるわよ・・・・」
「どこにっ!?そんなのあるわけないっ!!」
「エヴァ初号機の頭の中、よ・・・・」