ウサギの穴だと思いこみ、
虎の穴に頭をつっこんで、かじられた・・・・・・ガブ
そして、血がダラダラと
 
 
MJー301、UBダイアモンドの現状を端的に文学的に表現するとこうなる。
 
 
こんなはずではなかった・・・・正義の味方に作戦を邪魔された悪党の決まりのセリフであるが、それは、悪党は悪党でも三下の、頭の悪い計画性のない悪党のセリフであり、悪人の国際A級ライセンスなどというものがあれば一発検定合格間違いなしの筋金入りの年季はいった悪党のUBダイアモンドのセリフではない・・・・・・はずだった。
だが、目の前の現状に、そう呟くしかなかった。
「こんなはずでは・・・・・・・・・・・・・・・」
 
 
万全の布陣を敷き、なんの手抜かりも慈悲も情け容赦もなく行動し、愚かで意固地な時田のJA連合を惨めに崩壊させてやれる・・・・はずだった。
 
それが、このザマである。第一回戦の間に、SUPERロボ、”地底の鉄管より朝は手を上げる”、”人影のない戦場”、”殺人光線・(ヴァニッシングシャドウ)”、この四体が戦闘不能状態に追い込まれて、旗艦クトゥルーフも沈没。残るは、マッドダイアモンドとヨッドメロンの二機だけ。
しかも、JA連合側はエリックも真・JAもダメージらしいダメージを何一つ負っていない。皮肉なことに、まだ戦っていないネルフのエヴァ参号機が破損している・・・・・が、これは時田が難つけしてきたようにこちらでやったことではない。おまけに、仲違いをして決闘に不参加でいたはずの小型化研究所の人型サイズ・オリビアと帝都財団の大学天測までしゃしゃりでてきた。戦力の計算違いも甚だしい・・・・本部へ戻ったら諜報課の連中をこの指で引き裂いて挽肉にしてやる・・・・・・!ネルフのエヴァは過大評価しすぎ、JA連合のロボットを過小評価しすぎた。今回の被害の増大はそこに全ての原因がある!。
 
ガードの兵器人間もいなくなり、式典会場で完全に孤立したUBダイアモンドは胸中で責任転嫁を叫ぶ。責任転嫁とは己は悪くない、ということだが、悪者が悪いのは当たり前だろう・・・・お前が悪いのである。
 
そして、最大の読み違えは、やはりU・R・Uについてだった。
連合に誘った時田氏もよく知らなかったのだが、表舞台に出なかったU・R・Uが持っている強大にして絶大な能力とは、「鋼鉄法廷」と呼ばれる、ロボットの罪と罰を認定し、裁くことができるというとんでもないものであった。あまりいないと思うが、小学生読者諸君向けに分かり易くいうと、U・R・Uは「ロボットさいばんちょう」なのである。
中学生以上の諸君に理解を求めると「ロボット裁判長」ということになり、年齢層をもうひと越えすると、「ロボット刑事Kが昇進した姿ですか」ということになり、それは違う。
 
人類に反旗を翻したロボット対策として製造されたU・R・Uである。ロボットの身でロボットを断罪する、という立場からしてそうならざるをえない。つまり、絶対的な「権威」をもっているのだ。ロボットが、守らざるを、従わざるをえない、「新造法典」を携えて。
これがあまり、表立つようになると、SFでよくある、ダメダメな人類を支配してしまうマザーコンピューターのような話になってしまう。いわば、機械仕掛けの閻魔大王。揺るぎない正確無比な正義・・・・それに長年触れていると人間どうなるか・・・それは総裁の顔色を見ると分かる。それを知っていたら、時田氏も誘わなかったかもしれないが。ともあれ、そのおかげで兵器人間による式典会場の制圧という暴挙は避けられた。
U・R・Uのところまで血の涙が流れるような強制力により出頭させられた兵器人間たちは、今頃、相応の制裁を受けていることだろう。UBダイアモンドの指示の下、相当な悪事を重ねてきているので「バラバラ改造の刑」に処せられる可能性が高い。弁護士のラディウスも大物を何体も控えているとあって、小物にはやる気がないし。
だいたい、この法廷において無罪も有罪もなく、開かれたが最後、あるのは量刑後の実力発動のみで、あとは阿鼻叫喚の酸鼻シーンが展開する。ついでにいうなら情状酌量もない。
そのあまりにえげつないシーンは子供向けではないので、削除する。
ちなみに、U・R・Uはイースター島など世界に何カ所か、ロボット専用の刑務所までもっており、刑の種類によってはそこにブチこむこともあるという。刑期がなんと三億年というのもあり、明ける頃には新たなる伝説が生まれることだろう。もちろん恩赦もない。
逆らおうにも逆らえない。なんせ伊達にロボット黎明期からいない、ロボットを法典で呪縛するシステムはもはや究極無敵のところに至っている。他にこんなことをするロボットはないのだから完全独走であり、専売特許であり、さすがは大御所。後発がいくらがんばろうと太刀打ちできるレベルではなかった。
よって、その気になれば、SUPERロボも、他の三体も、マッドダイアモンドも、もちろん真・JAをはじめとする連合所属のロボットも、裁けてしまうわけである。
大学天測が抜け出してきたもう一つの理由が、この鋼鉄法廷に巻き込まれないためである。
少々逃亡しようと、世界中追いかけ回しても捕縛する能力もU・R・Uにはある。
特に、ロボットを半壊させて見せつけての脅迫行為のマッドダイアモンドなど、もろにバラバラ封印・三億年コースである。いかなるロボットが・・・たとえU・R・U以外の世界中全てのロボットがまとめて襲撃してこようと、恐れはしない。厳然と立ち阻む。
U・R・Uとはそういうロボットなのだから。仲間を敵に回すべく運命づけられた孤高の機体。秘された気合い、課せられた重責、誇りの気迫において、真・JAといえどまだまだ赤ん坊レベルといえる。
さすがのバトル大好き時田氏といえど、そこまで徹底的に孤絶すれば狼狽えるだろう。
世界中、自分のロボット以外は全て「敵」・・・・という状況を想像してみればよい。
それはバトルロイヤルですらなく、それらが一団となって襲いかかってきたら・・・・・
それに対処するためには、どれほどの力が必要となるか・・・・・腕力ではなく、権力が必要になってくることが分かるだろう。権威に基づいて有無を言わせず従わせる力。
大人しく従わぬのであれば罪の上塗り、さらなる制裁と罰則を。与える。
ちなみに、総裁とU・R・Uの考えにおいて、ロボットは人間に操られているだけだから、そんなのひどいじゃん!というのは通用しない。人間には背を見せるだけで、守るべき人間を相手にしていないのだ。ロボットには当然、人間にも好かれるはずもない愛想の欠片もない蹙めつらロボット。基本的に己以外が全て敵、という設定がされているU・R・Uにおいて今回の決闘など茶番どころか、砂場での子供のケンカ以上のものではなかった。
「もー!お前ら全員、先生がいいって言うまで正座だ!!」という教師の立場と代わりはしない。
 
 
さて。
 
 
ここまできて、現実的な判断力をもつ、常識的人物な方にはどうも”納得”がいかないことがあるはず・・・・・それは、U・R・Uの「権威」について。正確には、その権威を裏付ける「実力」について。納得がいかないはずである。あまりいないはずの小学生読者諸君は仕方がない。さいばんしょのいうことはすなおにききましょう、ですむ。が、いい大人の方、神様なんか信じてない方、悪法でも法であると思ってない方、権威の構成組織は尊敬心と深い知識と歴史のほかになにかあると思ってらっしゃる方、技術の進歩の速さをその目で見て体感できる工学系の方など、納得がいかぬはず。
しかも、さきほど「出頭させられた」兵器人間たちは、悪党であるUBダイアモンドの手下。悪党とは法の目をかいくぐるのが仕事の、法を敬する、公共の福祉精神など微塵もない連中である。それらを従わせる「権威」とは・・・・・結局のところ、それを上回る強い腕力なのか、どうか。それとも、大学天測のように、ロボットのくせにあやしい霊力をもちいて相手を縛るのか。しかし、それでは調伏である。宗教である。法律とは言い難い。
 
 
歴史があるから、古いから、老舗だから、というのはロボット業界において、さして重い意味はない。そんなことより、なにより新しい技術、新しい力が尊ばれる。
たとえば、百万馬力を誇っていた怪力ロボットも、新しく二百万馬力を出すロボットが出てきたらどうするか。こっちが先輩だから、後から来たお前はオレに従え、といって従うか、どうか。そういうことである。その次だんだんと、三百万、四百万、五百万、とくればもう忘れ去られて、蟻の如く踏みつぶされて終わるだろう。眼中にもはいらずに。
 
 
それなら、歴史があるから、古いから、経験を積み重ねているから、常に自分とこのロボットを改良改造し続けて、無限にパワーアップし続けて、最高地点を維持するか?
 
・・・・・そんなことができるわけがない。世界が六畳半くらいしかないならまだしも、世界は広く、超新星のように生まれる綺羅星才能、早い話が、天才だ、それが凡人が思っても見ない発明をしでかしたり、運の良い人間が神に祝福されたような思わぬ良素材を発見したりすることがある。海の貝殻、天の星を全て手にいれようというようなものだ。
皮肉なことに、そういう極端な天才に産み出された強力ロボットにかぎってまた人類に反逆しやすいのだ。まあ、貧弱ロボットでは反逆する力じたいがないわけだが・・・
 
 
1,黎明期からいるから、時間だけはある。
2,最大最悪の場合、自分を除いた、新旧とりまぜた世界中のロボット全部を相手にしないとならないので、それだけの力をもつ必要が、どうしても、ある。
3,それを神様等、奇跡霊力に頼らずに、純粋に人間の能力だけで果たさねばならない。
ついでにいうなら、権威など紙切れくらいにも思ってない悪党どもの相手もする。
4,しかも被害はできるだけ少なく、旗印が人類守護のため、人の被害はゼロの方向で。
 
 
U・R・Uの「権威」とは、これらの条件をすべてクリアしたものである。
総裁の顔をみてもらえば分かるが、トリックなどは用いていない。なので。
 
 
そんなことは、まるっとお見通しだ!!
 
 
という方がほとんどであろう。
が、蛇足ながらつけて加えておくと、以下このようなシステムになっている。
 
U・R・Uは新しい発想など一切必要とせずに、発足当初よりこの方法でやってきた。歴史を生かす初志貫徹。どうすれば自分たちが、普通に考えればちょっとムリ気味の、都合が良すぎる力を手にできるのかと・・・・・頭をひねった。
・・・・で、どこに目を付けたかというと。
 
 
ロボットの、これから製造されてくるであろうものも含めた、ロボットの、内と、外。
 
 
サンドイッチには具がはいっている。誰かがいれたからはいっている。また、具がはいっていなければパンの二枚合わせにすぎず、パンが一枚しかなく具がのせられていれば、それは某トーストと呼ばれる。ロボットそのものではなく、それを構成する部品と、それを組み立てる人間、内と外への双方向アプローチ。
 
 
どんな天才であろうと、部品がなければロボットは造れないし、
巨大ロボットなんぞは、とても一人で組み立てられるものではない
どんな大金持ちで邪悪思想の持ち主でも、科学的知識がなければ計画さえたちいかない。
 
 
人間じたいが進化せぬことには、それは変わることがない。
人は非力で個体は弱くさえある。ゆえに、U・R・Uの守護が必要となり、存在理由となるのだが。
 
ソフトをも含めた、膨大な構成部品、その中に一つ、U・R・Uからの信号を受け付ける装置が紛れ込んでいたとしたら。
巨大ロボットを製造する膨大な人間が動く巨大なプロジェクト。その中に一人、U・R・Uのメンバーが入り込んでいたとしたら。
 
その二つの仮定は歴史の中で錬磨され、今やおおよそ現実的な反応速度をもつロボットでU・R・Uの黒箱製造部品を用いないものはないし、製造上の難点が浮かぶたびに的確なアドバイスを与えてくれる信頼厚いプロジェクトの指揮者クラスにまで上り詰めたメンバーも数多くいた。いわゆる「裏」の世界で、たとえばMJ−301のように、製造されるものでさえ、有能な博士を”わざと誘拐させる”等の手段により、U・R・Uの監視から逃れることはできない。それらのシステムの総称を「新造法典」という。罪と罰の種を埋め込まれたロボットはイノセントではいられない。知らず縛られ汚されてしまっているわけだ。もし人工知能が発達してロボットを自らの手で造り出すロボットが誕生したとしても、新造法典の糸は必ず彼らをがんじがらめにするだろう。それは人の意志そのもの。
U・R・Uとは、ロボットの法典でありながら、最も細微な歴史書でもあった。
その力は、地球規模の蜘蛛に我が身を捧げた人間の意志の力。強靱な、糸。
 
いうなれば、現在過去未来に稼働する世界中全てのロボットの首に、爆薬入りの首輪をつけて、長い鎖をその手に握っている、というところで、・・・・・慄然とするしかないその事実を知る者は少ない。また、それゆえにU・R・Uは表舞台に立つことを避けてきた。
そのまま影の存在であり続けるはずだった。黄昏の支配を。ある意味、U・R・UはMJ−301など問題にならぬレベルの「大悪党」なのだった。ゆえに病的な堅忍を続けた。
 
 
だが、ここにきて総裁がU・R・Uの起動を決めたのは・・・・
 
今回の事の成り行きを見てみたかったからである。存在への好奇心や現象に対する興味などとうに失せたかと思っていたが、そうではなかったようだ。時田氏の真・JAが電気騎士の馬となってみせてより。戦闘用でないレプレツェンをまだ闘わせる気でいることも。
それらは元来、あり得ないものだ。・・・・・それをなんと表現すればよいのか、総裁はしばし言葉を求める。それは、正義ではない。正義は力であるから。勝利してこそ正義。
単独ではエリックはSUPERロボに敵わぬであろうし、レプレツェンも言うに及ばず。
海水から金を一グラム得るのに銀10�鼎鮑猯舛箸垢襦∀6盻僂稜,�の不経済な話。
力が足りぬものを悪党の刃の前に差し出して、敗北を占わせるのは。選択した方法が正しいとはとてもいえない。かぎりなく不正解に近い。直線最短コースの舗装整備された太い道があるというのに、わざわざ遠回りで崖崩れの危険があるような脆い山道をいくような。
自明の理だ。それが分からぬような人間にロボットを造ることは出来ない。断じて。
百人にその問いの解を求めれば、おそらく百人とも、真・JAで事件の処理をし、それによって連合の今後のイニシアチブをとることを選択するだろう。それが、理だ。
U・R・Uの総裁は世界中の誰よりそれをよく知っている。理に反することは、U・R・Uの首輪から離れることであるから。それなのに、なぜ、時田氏はその道を選ぶのか。
 
総裁は言葉を求める・・・・・・その有り様をなんと形容するか・・・
それをただ愚かというのなら、そもこのような東方の島までやってきはしなかった。
 
けれど、日本人なら子供でも知っている。それは、なにゆえに。
それは、
 
 
正義の味方であるゆえに
 
 
だが、まあ、あまりかっこいいものではない。どちらかといえば。
赤子の夜泣きに手を焼きながら、なんとかあやそうと奮闘する若い父親のような。
 
しかしながら、歴史と時間を力にしてきた影の支配者、総裁にしてみれば、それが暁の光に見えたのかも知れない。ロボットであるくせに、他のロボットの面倒をみようという心意気。奴隷の奉仕には、ある日突然の反逆を。共栄の見習いには、末永い平穏を。
U・R・Uはこれからも、U・R・Uであり続けるだろうが・・・・
未来に予想されるロボットの反乱を止める手だての種類が多いにこしたことはない。
そして、時田氏とJA連合はその信義にあたいするか。U・R・Uの歴史上、初めて見出した、同じ使命を果たす・・・・同志。それを、見極めんがために。
まずは、悪党から「子供」を守りきれるか。まだ正義に味方するほどの力はない子供たち。
そのために、マッドダイアモンドには執行猶予を与えた。
 
さて、どうするのだ。マシンファーザー・時田よ。
 
勝手に時田氏に新たな名称をつけて遠くから一方的に呼びかける総裁。U・R・Uの力をもってしても、マッドダイアモンドを自壊させることはできても、レプレツェンに自力で勝たせることはできない。こればかりは法典、歴史の力をもってしても無理だった。
もし、そんなことができるのだとしたら・・・・・
 
 

 
 
「海じゃないのに起こすなんて、なにがあったんだよん」
 
「よん!?」
 
カプセルを開けると、酒の香りがそこいらいちめんに。潮風と混じり、もはや酒飲みにはなんともいえん桃源郷に。その中央に立つ、赤ら顔のうっすらと桃色がかった白髪の。
 
 
朱夕酔提督・・・・・
 
 
黒羅羅明暗が休眠の間際にいった名前が、そうだとしたら、というより、その名は現状をそのまんま言い表していて疑う余地はない。その顔色、この酒の匂い、とろんとした瞳。
どれをとっても、朱夕酔。ただ、提督というのが今ひとつ判明しないが・・・・・
しかも語尾が「よん」・・・・まさにフォースチルドレンの神秘。
葛城ミサトの頭が痛くなったのは、酒の香気を胸一杯に吸い込んでしまったせいではなかろう。綾波レイの行動もあるが、こうも連チャンでこられては・・・・
 
「陸の上だとふらふらするんだよん。ああ〜・・・・・」
酔拳の動き、といえば聞こえはいいが、ほんとにただの酔っぱらいなのか判断つかない。
ゆら ゆら ゆら
天国から来たのか!?その表情は春風駘蕩としていかにも幸せそうな酒飲みの。
さきほどまでの明暗のダメージは完全に・・・・消えているのは確か。
 
「あなたが・・・・朱夕酔提督・・・・?」
「そうだよーん」
”ハズレ”をひいてしまったのか・・・・・・・これは
戦闘なんかどう見ても出来そうにない、確かにエヴァには飲酒運転禁止の条項はないが。
にしたって・・・・これは・・・・・長い白髪をふらふらしながらも器用な手先ですいすい編んでいき、不思議なかたちにまとめてしまう朱夕酔提督。さながら、キャプテン帽子のように。「それでぇ・・・・・」水分がずいぶん多そうな桃蜜瞳で葛城ミサトを見る。
 
「なに?」明と暗があまりに使えすぎた・・まーようするにアレだ、シンジ君だ、彼の場合をイメージすればいい・・・そう、だから、命が助かっただけでよしとするか、と頭を切り換えて、初対面の三番目に笑顔をみせる葛城ミサト。腹の中はそれどこではなかったが。何事も第一印象だ。だが・・・
 
「わっちの参号機を壊したのは誰なんだよん。ころしちゃうんだよん」
 
「あの戦艦よ。今は沈みかけてるケド」
即答する葛城ミサト。ここで「うっ!」とか思わせぶりなヘタをうっているようでは作戦部長はつとまりません。明暗に予告にしたがい脊髄反射で大ウソをつくにかぎる。
ターゲット指定されたクトゥルーフこそいい面の皮だ。
にしても・・・・「ころしちゃうんだよん」とはまた、直接的で物騒な子ね・・・・。
酔っぱらいの冗談にも聞こえないし。
あとでレイにはそれなりの償いはしてもらうけれど。あの暴発オヤジを抹殺した後で。
物事には順序があり、臨機応変。指揮を執る人間は最大限のケジメをつけてね・・・。
だが、葛城ミサトはここで「提督」の意味をよく考えてみるべきだったのだ。
 
「ふーん・・・・・では、完全に沈めて来るんだよん」
春風は、疾風になった。あっ、と言う間に参号機に乗り込んでしまう朱夕酔提督。
止める間もない。白色変化した参号機は、片腕も取り付けぬままに走り出した。
いくら専用機としてカスタマイズされてるとはいえ、信じがたいシンクロ速度。
試験機でも実験機でもない、まごうことなき実戦機の扱い。この熟練はなに!?
 
「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」慌てて止めにかかる葛城ミサト。白参号機は、戦艦、つまりは海に向かって走っている。まさに酔っぱらいの暴走運転。この状況で海の中へジョウチャーン、じゃなくてボッチャーン!などと。あのとろん、とした目に誤魔化された。
怒り心頭で周囲の状況が分かっていないらしい。腕に覚えがあるらしいので逆に手に負えないパターンだ。あやかし、赤壁からの第2砲撃を予想し決闘場の警戒にあたっている綾波レイの零号機にも止められない。まさかエヴァが青春映画よろしく海に向かって走るなどと。サイズからしてオリビアにもちょっと無理だ。
 
向かってくる参号機にビクッとしてファイティングポーズをとるマッドダイアモンドを無視して、そのままつっきると陸地は終わり。速度は落ちない。停止する気配は微塵もない。
そのまま。
ダイブして、巨大な水しぶきがあがる・・・・・・のを誰もが予想した。だが。
そのまま。
海上にても参号機の疾走は続いていく。
 
「なっ・・・・?!」この場にいる全員、この光景をカメラで見る者たちも絶句する。
 
海の上を、移動する・・・・・・エヴァの巨体が海上を・・・・滑るように。
走っているのではなく。二本の足は動かずに、海面がベルトコンベアのようにして白参号機を運んでいる、という感じだ。
ほんのわずかな泡と、波紋をおこすだけで。完全に海面を支配している者の動き。
 
「ATフィールドを足下に展開してるわけでも、ない・・・・・ただ純粋に、あの子の技・・・?」
ゆえに提督。海上を大いなる気概をもって進む者。こんな方法が使えるならば、戦歴で見る参号機の神出鬼没ぶりにも納得できるし、運用の弱点である長距離輸送時の問題もずいぶんと改善される。それは強襲型として必須の条件なのかもしれないが、この目でみると攻撃兵器としてのエヴァがいかに恐るべき、手に負えないものなのか、思い知る。
しかも、モニタグラフをみれば使用電力を海に乗った時点でセーフモードに切り替えている。芸が細かい・・・・・エヴァの移動に電力を必要としない、「高等技」・・・・
成る程、ただの酔っぱらいじゃないわけか・・・・・、いや、感心してる場合じゃない。
 
沈みゆくクトゥルーフに、それを救助するあやかしと、赤壁。そこに迫る白参号機。
もともと陣営が違うところに、その速度と笑ったような口の形はどう見ても応援にやってきたようには見えない。「襲撃」。それ以外には。白浪狼。
 
葛城ミサトが助かったのは、海上を高速で迫り来る白参号機に怯えてか、向こうの方から攻撃を仕掛けてきたことであった。それで一応の弁解はできたのだが・・・・
 
空母「赤壁」から出現した「先攻者」の「人民雷鋒拳」をあっさりかわすと、それを引きずり込んで、海に放り捨てた。先攻者の形状が形状であるから、海には浮いて沈むことはないが悲惨このうえない。バルカン砲の威嚇射撃で接近を阻もうとしたあやかしを簡単に回避すると、「沈むんだよん」踏みつけながらクトゥルーフの救助活動を思い切り邪魔にかかったので葛城ミサトも目を剥いてやめさせた。黙っていればそのまま残った乗員ごと海の底に沈めたに違いない。血も涙も常識もないのかこやつは・・まるで海賊だ。
まー、私にも責任あるけど。さすがにどこぞの悪人と違って責任転嫁はしない。
・・・・タイミングが悪いと加持がまだ艦内にいる可能性もある・・・
・・・これで正直に「犯人はちょっとバーサクしてたレイです」とか話してたらどうなっていたことやら・・・・
 
 
「仕返しさせてくれないなんて・・・・ひどいんだよん」
葛城ミサトの制止に大いに気分を害したようで、そのまま「赤壁」の甲板上でふて寝してしまう白参号機。ひどいのはお前だ!と赤壁の乗員などは言いたかっただろうが、そんなことを言える相手ではない。空母「赤壁」は占拠されてしまったのだ。たった一人の人造人間と、酔っぱらいの子供に。
 
うう・・・・・つ、使えない・・・・・・・・・
大量の人の上に立つ者の位置から、一気に転落して、ただのダダっ子に変化してしまったフォースチルドレンに弱る葛城ミサト。提督どころか、ただの暴走水兵じゃないの。
確かにセーラー服を着せると似合うかもしれないが。まあ、そんなことはどうでもいい。
よくいますね、自分でふっといて、自分で投げ出す人、と自分の裡で一人三役トライつっこみをやる。・・・・だけどまあ、これで海上からの砲撃に怯えなくてもいいわけだ。
いじけててもふて寝しててもいいから、あの位置をキープしてくれれば、残る戦力はマッドダイアモンドと、ヨッドメロン・・・・これだけになる。ヨッドメロン戦のことを考えると、サポート役の参号機が明暗から朱夕に変わったのは痛いといえば痛いが、それは贅沢というものだろう。・・・・・決闘場に視線をうつす葛城ミサト。
そこには、人型サイズ・オリビアを肩にのせて全域の警戒にあたっている零号機、綾波レイの姿がある。動き、視線、体勢で分かる。ファーストチルドレンは調子を取り戻した。
しくじりを償うには全力で動かねばならず、動くには反省の麻痺、悔恨の石化に陥らぬ事。
彼女・・・・オリビアに、調律してもらったのだろうか。
 
人がロボットを守るなら、エヴァがロボットを守る・・・・そんな響きで。
 
 
「参号機の左腕はどうしますか。再接続、いけますが・・・」
少し歯切れの悪い朗報が届く。驚くべき再生速度、貴重なデータではあろう。それでも、整備の専門家にしてみれば単純に喜べない、収まりの悪さが残るのかもしれない。
「まだ、いいわ。スタンバイだけお願い。どうもお船が気にいっちゃってるみたいだし」
作戦部長の冗談混じりの笑顔で、多少は気が晴れたようで背を伸ばして現地に戻っていく。
整備の人間が感じる・・・・「恐怖」「畏怖」を自分も感じぬわけではない。それが生死にかかわる現場の人間としては、学者のようにのんきに観察もしていられないし。
 
「・・・・・明暗たちが場所を譲るワケか・・・あの海戦闘力・・・・聖なる杯に満たされた・・・・液体・・・復活と生命の祝福酒・・・・
片腕でも平然と・・・・・あの子に、似てるんだ」
ここが発令所ではない、重さと寒さを改めて、感じる。第二回戦が始まるまで、もう少し。
 
話しておくことがある。ものすごいことを、しかも二つも、やらかしてくれた少女に。
 
葛城ミサトは零号機、綾波レイとの回線を開いた。
 
 
 
「あの子供の専用銃を造るのだがな・・・・銘はなにがいいと思う」
グルグル巻きにされて転がされているとは思えないC・H・コーンフェイドの態度である。彼を捕縛し問われた相手は冷然と見下す。エミハ・磁光・ポンプマン。
 
「どのように舌を回すのかはそなたの自由だが、なぜ私に問うのだ」
葛城ミサトから依頼されたとおりに、コーンフェイド以下、ファンたむ社の全員を畳んで逃げられないようにした彼女は、律儀に見張りの任を続け、必死の第一回戦を越えて命長らえたリチャード・ポンプマンのもとへ馬で駆け寄る、という映画的行動はとらなかった。
くせ者であるコーンフェイドを抑えておけるのは実力的に彼女だけという事情もあるが、他の騎士団メンバーが驚喜して団長を出迎えているのに、こんなことをしているから武芸指南役は団員からまた嫌われるのだった。武器商人とこんなところでヒマ話など。
 
 
「出来れば”漢字”を用いる日本的な名がふさわしかろうと思ってな。それも、銃より速い刀の名人に考えてもらえれば、より価値があがるかとな・・・・どうだ」
「・・・承知した」
 
「・・・・・・・」
 
「どうした?何を驚いた顔をしている。自分で頼んでおいて、奇妙な男だな」
「自分で捕らえた男の頼みをなんの躊躇もなく受ける女も奇妙なのだぞ・・・・」
平然と名前を考えるエミハ・磁光の横顔には微塵も隙がない。コーンフェイドはここで観念した。取りあえず逃げるのはこの女の目が届かない場所だな・・。
 
 
「”零手観音”・・・・・というのはどうか」
さらさらと、流麗な文字を小刀でそこらの石に刻んでみせる。
「レージュカノン?・・・・・それは銃器の神なのか」
 
「違う。仏だ。命長らえることがあれば、己で学ぶがよい・・・・・」
エミハ・磁光が不思議な笑みを浮かべてみせたのは、サイボーグ馬の蹄音が聞こえたせい。
百にひとつ、千にひとつのはずだった、愛する命を拾ってくれた少女への感謝のため。
 
コーンフェイドも葛城ミサトに首をチョン切られることなく、なんとか命長らえて、零号機綾波レイ専用の銃を造っていずれネルフに送りつけてくるのだが、仏教など学ぶことなど無論なかったが、名前だけはそれを採用した。
 
魔弾を撃った者は、その代償を支払わされる。
 
コーンフェイドは魔弾製造師の運命の元に造り、空の軌跡に禍々しいものを感じたエミハ・磁光はそれが浄化されるようにその名に願いと祈りをこめた。魔性の武器に魅入られた者が救われる道は、真正面から立ち向かうこと。それしかないことを知るがゆえに。
 
 
そして、機を見るに敏なこの二人の対話はこの決闘の大勢がほぼ決まったことを表していた。たとえ第二回戦でマッドダイアモンドにレプレツェンが敗れようとも、それで何が変わるわけでもない。力の論理を用いて殴りかかってきた者に、義を語る資格はあるまい・・・・・つまり、第二回戦が終わった後、もしくは途中で、JA連合の全機で取り囲んでタコ殴りにされても文句はいえない、ということだ。勝負はもはや、ついている。
実際問題、レプレツェンがマッドダイアモンドに勝てるはずがなく、第二回戦は第一回戦のように綺麗には終わるまい。まともな判断力がある指揮官ならば撤退するだろうが。
いくら時田氏が人並みはずれたお人好しでも、この二機の戦力差で二回戦を落としたからといって敗北を認めるはずがない。JA連合は相手の逃げ道、本陣である旗艦すら沈めているのだから。
 
第三回戦のヨッドメロン対エヴァンゲリオンの対戦にしてもそうだ。ここまでくれば、エヴァが勝とうと負けようと、連合とは関わりのないことでござんす、で通すだろう。
決闘開始の前では信じられない状況ではあるが、それが事実。それをもって判断する。
大局でみれば、すでに勝負はついた。
今後、おいそれとJA連合に手を出す組織はあるまい。その名は世界に鳴り響く。
 
 
式典会場から各組織から派遣されてきた情報分析担当がこれまでの経緯とそれを分析したデーターを大量に高速送信している。高いパーティー代のもとはとらねばならないし、何よりこの情報の重要性は今後、ますます高くなることが予想されるだけに一刻を争って自分のとこのトップに報告の必要があった。JA連合は「本物」である、と。
一石や波紋レベルではない、使徒殲滅業界に新たな旋風を巻き起こすことが必至であると。
エヴァ零号機とオリビアの連携などは、見る者が見れば仰天刮目ものの「事件」だった。一大ニュースといっていい。葛城ミサトは今現在それどこじゃないのだが、その一点から想像の翼を広げて、エヴァとロボットの共闘で使徒に立ち向かう未来予想図を描く者もいた。そうなると、JTフィールドの扱いと価値はまた変動してくる・・・・。
オレンジの髪の少女が会議場で吼えたように、ここが「最後の機会」なのだということが明白に分かってくる。使徒殲滅業界の舞台にあがれるか、どうかの。
 
 
と、いうわけで、大局的に勝負はついちゃったし、こうなったらエヴァの戦いぶりこそが重要であるので、早いところ第三回戦が始まって欲しいし、っていうか、もう第二回戦なんてやらなくていいんじゃないの?という空気が式典会場に蔓延してきていた・・・・
 
第二回戦に人生の全てをかけているUBダイアモンドとレプレなどはたまったもんではなかっただろうが、観客は正直であった。それだけ、MJ−301のプレッシャーが減衰した、ということであろうし、何より誰もレプレツェンがマッドダイアモンドに勝つなどと思ってなかったので、破壊という陵辱、ロボットの暴行現場など見たくもなかったのだ。
早く第三回戦を見るには、早く第二回戦が終わらないとならない。当然の道理である。
しかし、その声が鈍いのは、やはり知れきった結末を先延ばしにしたい、という心があるのだろう。
 
 
レプレツェンは破壊される。今度こそ、コナゴナのズタズタに。スクラップに。
こわれた うさぎ。
 
 
マッドダイアモンドは真・JAやエリックその他の介入を恐れて決闘が始まればすぐにケリをつけるようにUBダイアモンドに命じられている。一切の油断も遊びもない。
先ほどの意趣返しだ。ものを言うヒマもなく、ボロボロにしてやる・・・・いいな。
マッドダイアモンドに組み込まれている残虐回路は獲物を弄ぶ時間を削られて機嫌が悪かったが、それでその実力が目減りすることもない。そこは悪人の使用する極悪ロボである。
ボスの仰せのとおりに「クレイジーダイアモンドパンチ」で一撃粉砕してやりますよ。
上位者の命令には狡猾に従う程度の人工知能は搭載されているので、素人がつけいることのできるような甘っちょろいスキはなかった。
 
 
ここですでにレプレツェン側には誤算がある。マッドダイアモンドはこちらをナメきって油断だらけで、こちらを弄ぶつもりで決闘に出てくるだろう、という。
弱者が悪者に反撃するおりに、必ず抱く幻想であった。だが、対マッドダイアモンド戦にむけてレプレツェン関係者のほとんどはその幻想を脳の片隅に住まわせながら作戦を練っていた。だが、それは仕方のないことでもあった。圧倒的な実力差に歯がみしながら精神論で時間を無駄にするよりは遙かに有益な時間の使い方であるし、現実的だった。
 
凶悪な相手に油断がなく、しかも圧倒的な、対戦相手の耳を噛み千切るヘビー級の王者と闘う方法すら知らないラウンドガールくらいに差がある同じリングにあがっても次元が違う実力、となると。一度半壊の憂き目にあわされたあの時からこの時まで備えた奥の手がどれほどものを言うのか・・・・・それが全てを決める。それしかない。
 
油断がない、というのは凄まじいことで、その奥の手を「使わせてもらえるかどうか」ということに他ならない。それを使う前に勝負がつく。
 
従って、そんな誤解は致命的でさえある。だが、その致命的ミスをレプレツェン関係者のほとんどの者が犯してここまできてしまった。
 
 
たった二人をのぞいて。
 
 
「とにかくなにがなんでも絶対に勝つの・・・・!とられてたまるもんですか・・・」
なんの論理的根拠もなく瞳を燃やすレプレ代表と。
 
「きー!なんでネズミなんかにメンテナンスロボがやられてんのよ!そこの整備員!修理はいいからネズミ駆除!」
旧臨海テレコムセンターを改装した”ドクロタワー”で叫ぶオレンジ髪の少女。
 
「いまは駆除より修理が先です!ですが、慎重に、念入りにお願いします。特に電力関係はくれぐれもチェックを三度は行ってください」
その実務補佐に、地下の埃をおとす間もなくねじりネクタイ鉢巻きで号令をかけているのは伝江タイゾウ。
 
いざ使おうと勇んで来たのはいいが地下での仕事でしばらくほうっておいた間、留守番にメンテロボをおいていたのに変異ネズミにやられて内部は非道い有様になりはてており、大慌てて連合から手すきの帝都財団と小型研究所の整備スタッフを借り受けて飛行船で空輸するとすぐさま復旧作業にかかっているのだが、手間取っている。作業指揮者が途中で現地のレプレ代表とケンカなどするのでよけい手間取る。追いかけてきた伝江タイゾウがいなければ、にっちもさっちもいかなかった。
それでも、ドクロタワーを完全に起動させるまでにはいかない。時間が。一回戦が早く終わりすぎたのだ。
果たして、間に合うかどうか。
 
 
大局にはもはや関わりないが、なにかと不安な第二回戦が始まる・・・・・