スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<走れ走れルート>
 
 
経験がすべてじゃない さぼってもへらないし
いのちを見たことあるか いつも笑うが勝ち
 
 
                ダイ・ガードED 「走れ走れ」遠藤響子
 
 

 
 
「それでは十八番、大十字九郎、いきまーす!!」
 
と、大十字九郎がデモンベインを出撃させるでもなく、隠された<もうひとつの己の姿>こと<女装>を皆にさらしたところで宴はまさに最高潮を迎えた。
「れ、連続しての十九番、アル・アジフ・・・九郎と歌を、唱う・・・・」
もはや見栄もなにも捨て去って昇華している大十字九郎のドレス姿は、アル・アジフと見事にユニットしており、このまま美人姉妹と称して芸能界デビューを果たしてもおかしくはなかった。やんややんやの拍手喝采、まぶしいを通り越してめつぶし、めぶしいほどのカメラのフラッシュが二人に注がれる。「愛してるー!」のコールとともになぜか飴やイカクン、小銭のおひねりも飛ぶ。もはやこの場に正気の人間は数少ない。
 
 
しかも歌う歌はなぜか「アタック�癸院廖�
 
 
ヒリュウ改の大食堂で開かれた歓迎会だかドロン・ベルの発足式だかなにかと不幸続きだったヒリュウ改の憂さを払う壮行会というか、渾然一体となってもはやなにがなんだかよく分からない状態の「宴」である。その中で、ヒリュウ改のクルーと、いきなり押し掛けやってきたドロン・ベルのメンバーはうち解けてゆく・・・・とはいえ、葛城ミサト率いるドロン・ベルの面々からしてそりゃもうすでに寄せ集め以外のなにものでもないのだから、ヒリュウ改クルーとうち解けるもなにもない。なんせてめえたちもまだうち解けきっていないのだから。これが幸いというのかどうか、すでに出来上がっている同士、ハヤシライスとカレーライスを混ぜるようなことにはならず、まだ調理以前の素材同士で、これからシチューを作るかみそ汁にするか、それとも他のものになるか、ともあれ同じ台所、まな板、鍋に入っちまった者同士、男は往生際が、女は諦めが肝心です、とばかり、
 
 
もうにげられねえ、このメンツでやるしかねえ、ということを全員が腹の底から理解している。葛城ミサト、レフィーナ艦長、互いのアタマを信用しているからには。
 
 
「・・・だけど、涙がでちゃう、女の子だもん」
の独白のあたりで悶絶する者が続出。大十字九郎の女装は本物の女も黙る、ウグイス鳴かせるレベルのそれであるし、歌詞カードをあまり意味もわからずに訥々と読むアル・アジフの破壊力はその手の嗜好がないものにとってさえ強烈なものだった。
 
 
「く、くやしいのである・・・・まさに完敗であるッ」
ドクター・ウエストがハンカチを噛みながらなぜか悔しがっている。
「博士が完敗をみずから認めたロボ。ダーリン、さすがロボ!」
エリザは喜んでいるが、はたして大十字九郎は喜んだかどうか。
 
 
最強レベルの魔術師・大十字九郎、伝説の魔導書・アル・アジフの両名にしても、初対面の人間同士をいきなり深く信頼させてうち解けさせるなどという都合の良い術は知らない。ゾンビにして操る術とかいうのはあるが、べつにそこまでの臭い仲になりたいわけではない。だが、悪と、魔と戦うためにはやはりパイロットのみならずバックアップをしてくれる者たちとのコンビネーション、気持ちの繋がりが重要である、と己の力を信じる魔術師でありながらデモンベインの操縦者でもあるふたりはよく知っている。というより、もともとデモンベインは覇道財閥の所有物であるのだから思い知らされている。魔術師にしてはまともな普通人の発想であるが、九郎だけに苦労しているのである。そして、自分の役割を考える頭と果たそうとする気概をもっている。
葛城ミサトやロジャー・スミスの立場ではまた言いにくいやりにくいレベルでの交流。
それをやろうじゃないかと。改めて考えると、こちらのメンツはなんというか、子供が多い。ダイ・ガードの赤木たちもいることはいるが。アルの年齢は勘定にいれないとしてだ。
 
 
やはり人間、第一印象も大事だが、第二印象も大事だ。
こんな話がある。人間、一番や二番目に好きなものはセンスがよいのは当然で、その人の本当のセンスは、三番目以降に出してきたものに顕れる、と。
本音や本性がどうこう、という話ではない。それはどうにもならないこと。
とりあえず。
 
 
この歓迎会、なんとか皆をうち解けさせて成功させねば!!。
 
・・・・・要するに、お人好しの発想であり、大十字九郎は自由にお人好しなのだ。
 
「つくづく汝は馬鹿な男だ・・・・・・だが、それでも妾の主だ。つきあおう!」
アル・アジフもその話その考えを聞くと左を揶揄に、右に誇りを、エメラルドの瞳を微妙な角度に細めた。
魔を断つ者は、ハッタリをかませて自らを強く大きく見せる必要などなかった。
だからこそ、トラウマぎりぎりの己の「とっておき」を解放する気になった・・・。
なんとか場を盛り上げるのは、やはり「美女の」存在だろう、うふふん、というわけだが。
北の空に思い切り、プテラノドンくらい巨大なシラケ鳥が飛び交う可能性もあったのだ。
気象を読める魔術師とて、人間の宴会が成功するかどうかなどと分からない。
ドロン・ベルの特攻切り込み隊長として、大十字九郎とアル・アジフは大真面目に準備をして宴に臨んだ。こうして、大受けしているからいいのだが、ダイ・ガードチーム、広報二課の女性連などに言わせると、
 
 
「いや。それはいいから準備を手伝って?」
 
ということになる。半分、この手のイベント管理は本職であるからいいといえばいいのだが、それにしてもまあ、葛城ミサトを筆頭に、こういう場面で使えないのが揃っている。パイロット連中でこの手のこまごまとした準備仕事ができるのは、自分とこのダイ・ガードチーム赤木俊介たちを除けば、なんと美嶋玲香だけ、という始末。なんというか、浮世離れしたのがそろっており。今さらながらに呆れる。「どうにかした方がいいのかなー」と広報二課女性重鎮、大山さんなどは心配する。感心するほど何もできない。ネルフの子供たちなどは知能指数はおそらく高いのだろうけど・・・・うーん、神名綾人くんなんかもおぼっちゃまだしねえ。生活感覚がないというのか。違和感がある、それも自分たちとの距離か。余計なお世話かも知れないけれど、短いつき合いになるかもしれないけれど、これも何かの縁、うん。面倒見のいいことと甘やかすことは違うと思う。
十代のガラスの破片を向けられるような不器用な拒絶を覚悟で
 
 
「あなたたち、手伝ってくれる?」と手招きする。
 
美嶋玲香のあとをぶらぶらくっついていく神名綾人はともかく、惣流アスカ、綾波レイ、渚カヲルに、それを言うのはなかなかに度胸が必要だった。ハーフか、クオーターか惣流アスカは激しく弁がたちそうだし、あとの二人はなにを考えているのか分からないし。
パイロットは休めるときに休むのが仕事で基本、そんなのも知らないの?くらいは言うか。
「うわー、大山さん勇気あるぅ」などと谷川など二課員たちには言われたが。
 
 
「え?アタシ?うん、いいけど。なにすればいいの」
「・・・了解」
「女性がふたりも・・・おそらく、必要にして十分な数・・・・そういうわけでぼくはお邪魔にならないように、立ち去るのが最善だと思う・・・天狗山からシンジ君の無事でも祈るよ」
 
あっさりと受け容れた惣流アスカと綾波レイ。そしてとんずらしようとする渚カヲル。
意外というか、意外。とくに三人目の白銀の美少年。
 
その襟首をつかまえる惣流アスカ。「たった今気づいたけど渚、あんたって・・・・・もしかして、本性は、怠けもん?・・・・シンジと仲がいいわけだわ」
「碇君に補完させるつもり?そのつもりで近づいたのね・・・・・」
 
「いっておくけれど」渚カヲルが白銀の髪をかきあげる。襟首さえつかまれていなければエレガント純度100%だったのだが。それに、さいたまジュピターの一件を考えれば、怠け者よばわりはかなり不当であろう。ゆえに、笑顔と共に自信をもって渚カヲルは高らかに告げる。
 
 
「ぼくは、力仕事にはむかないよ」
 
 
「ハナから期待してないわよ・・・・・しかし、あたしたちの中で一番力仕事に向いてるのがシンジってんだから・・・・なんだか世も末よねえ・・・」
「やはり、あともう一人必要なのかもしれない・・・・」
 
「ふぅーむ・・・」こんなやり取りにあきれてしまう大山さんであるが、実際に指示を出しながら手伝わせるとそれなりによく働く。力仕事はべつに男手がないわけでないからかまわないのだけれど・・・そういえば割合にマメそうな大十字九郎さんはどこへいったのだろう。特殊な能力がいるわけでもないこんな仕事はふつうの中学生のそれなり、だった。ただ、やはり普通の子供ではないのは、この短い間に、三人ともヒリュウ改の全クルーの氏名と部署をすべて暗記してしまってるらしいこと。艦内地図もばっちり頭にはいっているらしい。こちちら逆に訂正されたり教えられたりするくらい。手伝いをさせながらの経験積みなんてのは古いのかなあ・・・・歓迎会という名の親睦など必要ないとでもいうような優秀性。これが選ばれた子供、人類エリートというものか。思わず、
 
「よっしゃー、これで全部運び終わりましたよっと!」大車輪で艦外から食堂厨房までビールや酒やジュースのケースを元気にピストン運び続ける赤木俊介を見てしまう。
 
「にいちゃん、あんた力持ちだなー」「いやいや、普段の仕事もこんなんっすから」
食堂内を集魚灯、いわゆるイカ電で飾り付けているヒリュウ改整備員のおじさんたちから感心されているが。もちろん、笑顔をかわす赤木くんの頭では「整備のおっちゃん」程度の認識しかないだろう。もちろんこんな状況で名刺交換なんぞするわけもないし。
 
「次はなにしましょうかあ?大山さーん!」元気良く呼びかけてくる赤木俊介。
 
いいなあ、彼は。
 
 
「21世紀警備保障って、職場恋愛はオーケーなの?」
ふいをつかれて、ぎょっ、とする大山さん。ふりむくと惣流アスカ。これで意地の悪い小悪魔的笑みでもうかべていればまだあしらいやすいが、なんというか、この素直そうな疑問系は。普段から大人に混じっているとはいえ、この子らのいるネルフとか言うのは特務機関だそうだから・・・いや、これは保護者のしつけね。いえ、落ち着きましょう・・・
 
「べつに赤木くんとはなんでもないのよ、ただの同僚」
にこっと、大人の微笑。見事。しかし。
 
「?べつにそんなこと聞いてないじゃん。赤木俊介がどうかしたの」
「なんでフルネームなのかなあ・・・」
とはいえ、指揮者であり保護者でもある葛城ミサトさんのこともミサトで呼び捨てだし。
 
「馬鹿にしてるわけじゃないんだけど・・・、赤木さん、っていうのもなんかしっくりこないし、”先輩”っていうのはあたしにとってはちょっと特別だから。パイロット同士の愛称ってことでかんべんして」
ひねている・・わけでもなく素直というか、まあ堂々と悪びれたとこがない。
逆に言うと、さんづけは距離の証かもしれない。対人切替は無駄な軋轢を避ける知恵。
 
「大山さんと赤木俊介とじゃ、大山さんが一方的に苦労するだけで、バランスがとれないわよ」かかか、とそう言って惣流アスカは笑って、大人の女性を苦笑させる。よく見ているけれど、さすがにまだ深く感じることまではない、といったところか。人の間を。
「それよっか、魚とか買い出しにいった青山さんがまだ戻ってこないから厨房の人が連絡してくれってさ」
「青山君はさんづけなのね」
「彼女もちだし。やっぱ悪いでしょ、中原さんに。それにあの眼鏡の奥の光がなんか一途でこわいし・・・・で、どーしよ?」
「それはするしかないでしょ。道に迷ったのかしら・・・」
携帯を取り出そうとする大山さん。
 
「ふふん、やっぱりそうなのか。じゃ、連絡するのやめましょ。馬に蹴られたくないし」
ずいぶんと意外なことをいう。いたずら好きの天使のような顔をして。
「え?」
 
「この先、なにがあるかわからないから。大山さんも言っておきたいことがあるならいっておいたほうがいいんじゃないの?まあ、そんな後悔なんてアタシたちがさせないけど」
 
 
ああ きえてゆくそら
ああ いだきあうひと
あんまりくらやみで かえってはっきりとする
 
 
「え?え?」
 
「だいたいの段取りはつかめたから、あとは任せて赤木俊介と一緒に買い出しにでも行ってくれば?食材なんてのはあればあったで保存しておけばいいんだし」
手がすいてきたのかだんだんと手伝うヒリュウ改のクルーも多くなり、この調子なら人手は余るくらい。勝手にやってくれてるし。これはもしかして、葛城ミサトあたりからの入れ知恵なのかもしれないが。
 
「いや、そ、そういうわけにもいかないでしょ。大丈夫、青山君はあれで冷静だしきちんと間に合うようにはしてくれるわよ」
嬉しくない、と言えばウソになるけれど。「あなたたちも整備で疲れてるところに手伝ってくれてどうもありがとう、あとはやっとくから始まるまで休んでて」
 
 
「そうしたいところだけど、うちの指揮官はそんなに甘くないの。質実剛健がモットーだから」
この間も影では葛城ミサトとロジャー・スミスがシャレにならん仕事量をこなしていることを知っている。シンプルはやはりベストで、寄り合い所帯はどしても苦労が多くなる。
碇シンジ、ロンド・ベルの行動はまだつかめないし・・・・・
紫東遥という渚が連れてきた女性工作員?の件もある。
 
ティターンズあたりがさっそく仕返しの第二陣を仕掛けてくるかと警戒もしていたのだけど、渚の顔色をみればそれもなさそうだ。ヒリュウ改クルーの流れを見るに”強盗犯”は完全に遠くへ逃げ帰ったらしい。存外だらしない、ざまあみろ、だ。
ヒリュウ改。この巨大な鋼鉄の龍は、爪も角も持ち去られてしまったけれど、今は自分たちがいる。罪なくしてえぐられた空虚を、戦果という食事に飢えからっぽの胃袋を、すぐに満たしてやる。龍を飛ばすために、翔させるために、シンジのもとまで。龍を。
 
今後の動きはどうなるか。まずは、あの新聞広告の効果を確認にいく。指定した無人の荒野にどこの正義が来ているか。・・・・・歓迎会が早いとは思わない。おそらく、あんなんで誰もくるもんか。来たとしても今後のチームプレーが心配になるくらいの超バカだろう。間違いなし。必ず儲けられる、という広告でひっかかるのもバカなら、必ず損します、という広告でノコノコやってくるのは気が違ってるとしか。状況分析能力の欠如。目をあけたま夢を見られる、デイドリームなひとだろう。
もしくは、心配になった基本的に小心者の悪党だけ・・・・・ぶっ潰して、血祭りだ。
こっちで派手にやれば少しはシンジたちの負担も少なくなるだろう。ロンド・ベルのネームバリューはあまりに高すぎて狙われやすい。
そのために、龍は一刻も早く高く飛ぶ必要がある。
そのために。
あしたのために。
 
けどまあ、この大山って人は嫌いじゃない。懸命な割に警戒心が足りないけど、それはもう守備範囲の違いってやつだろう。集中力の使い方、というものが。なんていうか、ヒカリが勤めだしたらこんな感じになるんじゃないかなあ、と思う。悪くないんじゃないの。
 
 
惣流アスカも、大十字九郎も、その他の者たちも、考えてなさそうで、いろいろと考えてこの歓迎会に臨んだのであるが、結果からいえば、
 
 
それは杞憂
 
 
だった。なんというか、”相性”がよかったのだ。ドロン・ベルの面々とヒリュウ改クルーとは。これがガチガチの軍隊艦であれば完璧に合わなかっただろう・・・なんせ魔導書の精アル・アジフを筆頭に、中間として民間企業、そしてたとえ科学であってもドクターウエストの存在など特に・・・・・ところが、いろいろと奪われ続けてきたヒリュウ改は良い意味でも悪い意味でもその手の覇気や硬さが抜けており、彼らを受け容れた。
奪われ続けてきた者たちに久方ぶりに与えられた新戦力。それを許容した。
ロジャー・スミスの交渉と、ティターンズの強奪と渡り合ったという実績の信頼の下地があってのことであるが。とにかく。
 
 
 
「20番、21世紀警備保障、広報二課一同で
”年下の男の子”うたいまーす!!せーの、神名綾人くーん!!」
 
大十字九郎とアル・アジフのおしどり姉妹の盛り上がりをそのままにダイ・ガード擁する広報二課の面々が、連続懐メロ攻撃。「な・な・な・なんなんですか!」その標的にされた神名綾人の顔が声はうわずり真っ赤に染まる。もちろん未成年はアルコール禁止だが。
 
「綾人ちゃん・・・てば」その隣のべったりの美嶋玲香が腕をだっこちゃんする。
いくらさいたまジュピター内でもそこまで古くないんだけどなー、とは思ったが黙っておく。会場は爆笑、あんど、おひなさまのような高校生のカップルぶりに賞賛の口笛嵐。
その中に冷ややかな中学生女子二名の視線も。小樽だから太鼓を叩く者もいる。
 
 
ぼくらのうまれた街はよくわからないところ
わたしがそだった場所は いまは記憶の中
 
ああ すぎたものたち
ああ あいするべきひと
 
あんまりまざりすぎて かえってまっしろになる
 
 
この状況がとんでもないことなのは分かっているけれど、隣に綾人ちゃんがいる・・・
それだけ頭と心の中をかがやくように白くしながら美嶋玲香は神名綾人のそばにいる。
 
 
広報二課の歌の間、ほとんどの人間がにやにやしながら神名綾人と美嶋玲香を見ている。
若々しいというか初々しいというか、こうまで美少年美少女カップルだともはやべっかむ、じゃないやっかむよりは祝って楽しみたくなるものだ。というよりは違う時を刻む、ほぼ異世界と化した「さいたま」から来たふたりの間に冗談で割り込めるものではなかった。
何年も前から御予約済みのふたり、という感じで、惣流アスカも綾波レイも、そこらへんが了見できないというか。同世代として見ていてたいしておもしろくないというか。もちろんうらやましくなどない。全然。うらやましくなんかない。
 
 
だが、そんないたわりからかい雰囲気に包まれて困ったようにも照れ笑いする、ある意味あまり悩みがなさそうな神名綾人の背中に悲しい視線をなげる者がいる。
大食堂の入り口影から。葛城ミサトとロジャー・スミス・R・ドロシーと同行してきた紫東遥である。いろいろと彼女の所属する組織、奏者・神名綾人とラーゼフォンの捕獲というか招聘をねらっていたテラ関連の話がついたので皆への紹介ついでに連れてきたのだ。
 
 
が・・・・・
 
 
「綾人くん・・・・・」
そんな切ない表情をされてはいくら葛城ミサトでも「いやー、あたしたちどうもキャラがかぶってるかなーとか思ってたけど、これで証明されたわね」などという冗談はかませない。だって年下は領域外だし、と思っておったが、よく計算してみればさいたまジュピター内では時間の流れが違うのだ。その視線を「ショタ」と切って捨てることはできないわけか。やれやれ・・・これは乙姫様か人魚姫か。任務以上の私情、因縁があるわけだ。その目、その表情は。遠路はるばるやってくれば王子様は、というわけか。神名綾人は女の敵か。渚君の報告によれば彼女と同化した「ドーレム」は美嶋玲香のミーゼフォンに襲いかかったとか。けっこうつらいなあ、これは。仕事を優先させてもらわんと困るけど。高校生ではない、大人だから。一緒に歩めればよかったのだろうけれど。
 
 
「ロジャー、彼女のメモリーは・・・」
「その先を言うのはあまりに哀しいね、R・ドロシー・ウェインライト」
 
 
ここでもし、神名綾人か美嶋玲香が入り口を振り向けば、宴は一気に凍りつく。
 
 
「ちっ。遅かったか。なんかもう、出来上がってるから、混じれないわねこのテンション。ねえ、ロジャーさん」
「そ、そうですね・・・」
その目は場を盛り上げようとせんと、秘蔵中の秘蔵ネタ・レフィーナ艦長十の秘密をバラそうとして艦長にひじ鉄で気絶させられて転がる隅で寂しくショーン副長の姿を。
 
「外で夜景でも見ながら一杯やりましょうか。そういうのもいいでしょ?ドロシー、適当にそのへんから飲むものと食べるものをお願い」
「分かったわ・・・ロジャー、あなたも?」
「無論だ・・・・女性二人のお邪魔にならなければおつき合いしましょう」
「・・・三人よ」
「そうよ、ドロシーを忘れてる。ロジャーさん、最低!」
「・・・美女三人と夜景を楽しむ・・・・男としてこれ以上ない贅沢ですな。さぞ羨ましがられることでしょう。自伝を書く折には今夜のことは外せませんね・・おや?」
 
 
「ふふ・・・・すいません、ちょっと・・・・無事な彼の姿が・・・・うれしくて」
紫東遥の泣き笑い。顔で笑って心で泣いて。なんか、ここだけ演歌だ。
 
 
会場の歌はレフィーナ艦長の歌う「水の星より愛をこめて」に。Zガンダムだし。
しかも年代微妙だし。「いまのはオーケー?セーフ?アウト?」神名綾人と美嶋玲香が審査員。もはやゲームと化しているし。けれど、こっちは歌詞に濡らされる。びしょびしょになる前に艦橋上にあがってしまおう。
 
「ドロシー、上がる前にブリッジの当番の人たちに適当につまめるものを差し入れしてあげて。気配り系の人間が全員つかまってるから」
「わかったわ」
「でも、つまめるからって洗濯ばさみなんか差し入れしちゃだめよん」
「わからないけど、わかったわ」
「・・・・ほんとにドロシーって優秀ですね。お姉さんとか妹とかいないんですか、ネルフで雇いたいくらいですよ」
「・・・姉はいましたが、彼女ほど家事向きではないですね」
「・・・・冗談ですから額にシワよせてにらまないでくださいよ」
「え?ああ、失敬」
 
「ドロシーのことになると途端に面白くなるしロジャーさん。あ、外寒いかな〜、ロジャーさん、わたしたちちょっと化粧なおしてきますから」
 
葛城ミサトの突然のセリフに、ロジャー・スミスはちょっと考えたが
 
「・・・ああ、どうぞ。そう、冷えるかもしれませんね。私もドロシーを待ちますよ」
できれば、ドロン・ベル大将たる貴女はどんな時でも一人になるべきではないのだが。
その度胸と度量こそがこの混成軍をまとめているのだとしたら、やもうえまい。
 
紫東遥は艦橋上にあがるまで、事情を知らぬ者がいなくなる所まで、我慢できそうもない。ドーレムという異形と同化して、美嶋玲香に襲いかかってしまったことを、己の本当の音をいやがおうにも聞いてしまったからには。神名綾人と美嶋玲香のふたりの姿を見てしまって、やはり我慢しきれない。仇なす感情があふれだす。それを斬り分かつ清冽な禊ぎの声が必要になる。大きな、我を忘れるくらいの。離れた時間の谷間に落ちてゆく、涙。
 
しばらくして、離れた闇から女の泣き声が響く。
 
途切れ途切れのサイレントナイト。
 
それを聞くほどロジャー・スミスは野暮ではない。
 
腕時計型通信機でドロシーに葛城ミサトのガードを任せる連絡をいれ、己はハッチを開けて艦橋上に上がる。
 
 
「なるほど、冷えるが・・・見事な星空だ・・・・」
どういった騒ぎ方をしているのか、ここまで歓迎会の声が聞こえてくる。宴と言うよりもはや祭りに近い。全員が一丸となったエネルギーを感じる。だから孤独なネゴシエイターは北の風を胸を張り快く受ける。ちなみに、現在の順番は、城田氏と赤木俊介の「あずさ二号」である。時間は8時丁度。狙っていたのかも知れない・・・。
 
なんとか、うまくいったようだ・・・・・己のネゴシエイションの結果にまずは満足する。
問題は山積しているが、一息くらいつかせてもらっても罰はあたるまい。罪はなかろう。
 
 
だが・・・・
 
 
人に赦しを与え、ビッグオーを鋳造した存在は、そんなロジャー・スミスに一時の安息すら与える気はないようで。あくまでコキ使うようだ。
 
 
シュカ・ハー・・・・・・
 
これまで聞いたことのない類の風切り音をロジャーイヤーがとらえた。生物とも機械とも判別しがたい異音。未知のテクノロジーが産みおとす音。位置は天上。
近い!急いでもう一度星空を仰ぎ見る。
そこに。
 
 
「君は・・・・・・!」
 
 
金属の翼をもった、女子高生が、墜落してきた。その童顔は確かに。
文字通りに仰天するロジャー・スミスめがけて。