おそらくは、現在の日本で唯一、失われた四季の植物が顕在する空間。
いかなる造園技術を用いているのか、一つの植物、例えば桜だ・・・・の四季に装う姿を一景一望に出来る。天人五衰。ただの植物園ではなかった。空気そのものが違うのか、温度に秘伝があるのか、土に先祖伝来の奥義があるのか、フィンドホーンのデヴァでも招いてあるのか、ともあれ、釈迦の出家の原因ともなった、四苦の門に一脈通じるものをもった施設であった。時間の流れ、四季の美しさ、儚さを凡人でも確実に感じることが出来た。
一同に会す四季など、一歩違えば、ゲテ物めいた景観になるところを、霧島教授のセンスが名人の手による京織物のような美しさにまとめ上げていた。
セカンド・インパクト以降、変わりゆく植物相・フローラの比較など、行われている研究も数多い。外部の学会に発表できる、という点で数少ないオープンな施設でも、ある。
時刻はすでに夜に入っているが、ここは採光の都合で昼夜反転している。降る光が白い。
その中央に、簡素なドーム状の休憩所がある。
「おや、冬月先生」
霧島教授に声をかけられ、「秋」を眺めていた冬月コウゾウ副司令は
「おじゃましているよ」
立つのが好きなのか、座るのがいやなのか、立ったままである。年経た鳥の賢者と。
外部にむけての多少はオープンな(要するに人畜無害で機密重要性のひくい)場所であるが、実はネルフ内部では、ほぼ関係者以外立入禁止(人気と評判は高く、しかもセキュリティレベルが高いわけでもないのに)になっているのは、ここが冬月副司令のお気に入りだからである。日向マコト的に言えば、自分で別荘もってるくせに、会社の保養所に新婚時代の昔の思い出がうんたらとかでやってくる重役・・・・のようなものである。
若い世代は四季の風景などほとんど忘れて消えかかっている。
それを思えば、本部勤務者には開放してもよさそうなものだが、「なぜか」頭の切れる策士である副司令がそこには頭がいかないのであった。碇ユイと行った紅葉狩りのことでも回想しているのかどうなのか、ともあれそういうわけで「ネルフ本部内・あなたの行ってみたいスポット・ナンバー2」に挙げられながらも、訪れる者はすくない。
ちなみに、「行ってみたくないスポット・ワースト2」は男性オペレータ仮眠室である。
「どうぞ」
紅茶を入れる名手でもある霧島教授が入れた紅茶をあいかわらず座らず立ったまま受け取る冬月副司令。カップとソーサーのイギリス方式。立ったまま飲むのはゆえに上品。
「すまんね・・・」
妖精の小姓に命じたようなさり気なさで、テーブルの上にはカボチャラダムスのパンプキン・パイが現れる。いちいちやることにそつがない霧島教授であった。
下手をすると、ぎょっとするような時間帯にも冬月副司令がいたりするので、研究室の助手たちも困っていたりする。英国劇の地下幽霊に間違われたこともあった。
いつお休みになるのだろう・・・と霧島教授すら疑問に思うこともある。
冬月コウゾウ副司令も謎の人物なのであった。四六時中、総司令碇ゲンドウと同席していそうだが、そういうわけでもないらしい。いくら「謎」でも、「人間」である方が先に立つ。
「ここに来ればよく分かるのだが・・・・・秋というものはよいね。人間の精神に安らぎと深みを与えてくれるような気がするよ」
「実りの季節ですからね。そういえば・・・・北欧も黄金の秋刻が長くなっています。
日本が四季を失った分、他国にその恩恵が分配されているようで・・・少しばかり寂しいのですよ」
「・・・フフ、霧島君ほどの人物でもそのような妬心を感じることがあるとはな。・・・彼らもちょうど良い時分に訪れているわけだ」
ふたつの知性の影は、しばらく北欧を話題にして語り合った。
「そういえば、霧島君。”カイン”のことなのだが・・・・・」
しかし、冬月コウゾウ副司令はわざわざ学者紳士を気取りに来たわけではない。
だが、すぐさま切り出すには億劫な話題だったのだろう。この人物にして。
霧島教授も弁えている。ここは特務機関ネルフなのだ。知恵の園の庭師でいられない。
「例の・・・・マギに関することですね」
「早急に手を打つ必要がある・・・・赤木君には内密にな」