シチ曜会





スクランブル交差点の信号待ち。篠田シンジは時間を気にしながら何の気なしに横断歩道の向こうを見た。行きすぎる忙しい自動車の連なり。両脇を固める歩行者も青に変わればすぐに、一秒でも早く向こうに渡るべく、油断することはない。

都会生まれの都会育ちである篠田シンジにはごく、当たり前の光景。
いや、気に止めることのない、という点で流れ去る風景、というべきか。
秒刻みの日常。振り返ることは無論、「意味もなく」足を止めることさえ許されない。

天気は快晴。ほこりっぽくはあるが、騒音も普段どおりの大きさで。
雲の上から見下せば、この一帯は巨大な染め物工場に見えるかも知れない。
灰色のコンクリートジャングルなんていうけれど・・・・ここには何万という色がある。

その色は何によって染められたの?

その色は何を染めていくの?運命の縦糸と人の時間を用いて織り上げられていく・・・・

タペストリーは・・・・・




その中の・・・・・・・「白」
篠田シンジの眼にはそれが際だつ白さに見えた。なぜだろう・・・・。

歩道向こうの女の人・・・・・金髪なのに・・・日本人で・・・・白衣だからかな。
きれいな人だった。急いでいる様子はないから、コンビニにちょっと買い物しにきた病院のお医者さん、かな・・・。あ。・・・・・今、僕と目があったような・・・・
にこっと笑ったような・・・・・・、じ、自意識かじょうかな・・・・これって・・

信号が青に変わった。人の流れがふたたび。


ネル富デパート屋上、十一時だっていってたっけ・・・。これなら間に合うな・・・。
篠田シンジは腕時計を確かめる。時間の流れはそうそう速まったりしないのに。


でも・・・・<シン曜日>って一体、なんだろう・・・待ち合わせの暗号って言われたけど・・・・・
立ち止まったままぐずぐず。信号は黄色になっていた。

「あ!」



「・・・あなたが<シン曜日>ね」
横から声がかかった。女の人の声。歩道向こうの白衣の女性だった。

「え・・・・<リツ曜日>さんですか・・・」
それが暗号を指定した人物の名前。自分を呼びだした相手の名。


「そう・・・・じゃ、行きましょう」
<リツ曜日>という謎の理知的で金髪だけど日本人の女性は微笑んで、そっと篠田シンジの手をとった。ひんやりと冷たい手だった・・・。

「あの・・・・<リツ曜日>さん・・・・」
おどおどと篠田シンジは声をかけた。

「なに・・、照れているの?かわいいわね・・・・」
その気品は西洋の絵画を思わせる。そんなリツ曜日にかわいく思ってもらって悪い気はしない篠田シンジだったが・・・しかし、彼にも男として固持しなければならないものがあった。


「・・・信号、です・・・」

「え?」

男として、人間として、死んでしまってはおしまいである。命は大切だった。


「いのちだいじに」


ZAPPING 雨宮アスカ
十月十一日 午前十時ごろだろう