シチ曜会







行き先はネル富デパート屋上ではなく、「ねおん」という喫茶店になった。
<リツ曜日>は紅茶を頼んだ。冷静を装ってはいるが、あやうく死にかけて冷や汗が浮いている。
篠田シンジはこんな喫茶店に入るのは初めてだった。校則で禁じられているからだ。
それに・・・・こんな美人と一緒するのも初めてだった。生徒手帳に従うならば、リツ曜日は保護者、ということになる。保護者同伴ならばいいのである。
「あなたは、なににするの?」
「あ・・・ぼ、僕も紅茶をお願いします」
こんな所の紅茶はそれだけでも高いんだろうな・・・・と財布の心配をする。

高そうなカップに入って紅茶が運ばれてきた。ピアノ曲のBGMが大人のイメージ。

<リツ曜日>は紅茶に口をつけた。外国人のように、うっとりするようにかっこいい。
篠田シンジは見ほれていた。

「フフ・・・・飲まないの。冷めてしまうわよ」
「あ、はい・・・・・」
痺れるようにすこし震える手でカップをとろうとしたその時。


「は?」


いきなり向こうの方の席で大きな声を出した・・・・女の人がいる。
和田アキコさんではないようだが・・・・・。

「あちちちちっ!」
謎の美女があまり言ってはならないような言い方で騒ぎ出す<リツ曜日>。
大声に驚いてカップをもっている左手がはねてしまったのだ。中身もそれにつられて・・・・跳ねた。猫舌ではあるのだが、鼻にかかってしまった。熱い。
「あ、あ、あ。これ、ハンカチです。どうぞ」
おしぼりもあったが、それはぬくいタイプのものであった。
慌てて差し出す篠田シンジのハンカチで鼻をぬぐう<リツ曜日>。なんだか今日はアンラッキーな日だ。化粧がハンカチについてしまった。
「あ、ありがとう・・・・<シン曜日>」
「いえ・・・・・だいじょうぶですか・・・」
「ええ・・・」

<リツ曜日>は篠田シンジに礼をいいながらも、自分をこんな目に遭わせてくれた大声女の顔をしっかりと脳にインプットした。どこかで見たような気もするが・・・・・・。

「ところで・・・・ご用件はなんなんでしょうか」
「そうね・・・そろそろ本題に入りましょう」

星の巡りが今日は悪いのかも知れないが、別の日に変えるわけにもいかない。
話を進める<リツ曜日>。簡単に終わると思ったんだけど・・・・・・・。
額面通りにいい子だしね・・・・篠田シンジ君は・・・・

「まずは、この写真を見て」
一枚の写真を取り出すと、裏向きにして篠田シンジに渡す。

それを見る篠田シンジの顔色がリトマス試験紙のように変わっていく・・・・。

「こ、これは・・・」

そこにはゲームセンターで友達と遊興にふける篠田シンジの姿があった。
レーシングゲームで遊んでいる横顔は無邪気としかいいようがない。

「たしか、あなたの学校ではゲームセンターへの出入りは校則で禁止されているはずね」

確かにその通りで、ゼーレ学園中学にはほかにも塀の外の人間からしてみれば「アホか」というような校則がいくつもある。まあ、校則で推薦するような学校もちょっとないであろうが・・・・。だが、ゼーレ学園は名門なだけに校則破りには厳しい。
上級生などの噂によると、テスト期間中に停学処分をくらわすようにしておいて、落第させるだの、一族郎党を呼びつけて「一族郎党面談」をやるだの、いろいろと恐怖が待っているらしい。罰としてフランシスコ・ザビエル刈りにされる、という話も聞いている。

だが、実際の所、喫煙ならばまだしも今時、不良の温床というわけでもないゲームセンターに放課後遊びに行ったところでどうということもないでせう、とほぼ黙認状態にあった。生活指導の教師の方もそんなところは見回りのルートから外しているくらいだ。

それでも、まじめな篠田シンジは今までゲームセンターに行かなかった。
別段、わざわざ行かなくとも、家庭用ゲーム機というものがある。
それに部活動もある。それが終われば外は暗くて、寄っている時間などない。すぐに帰る。

その日は・・・・たまたま音楽室が床の工事か何かで使用できないので部活は休みだったのだ。それで友達に誘われて、行ってみたのだ。けっこう、楽しかった・・・・。

しかし、そこを写真にとられていたとは・・・・そんな有名人じゃないのに・・・。
正直いって篠田シンジは内心、なんで僕だけ・・・・と不満に思った。

「お話って・・・・そのことですか」
声が重くなる。
「みんなだって行っているんです。・・・・そりゃあ、先生にばらすことはしませんけど」

「あら・・・・怒っちゃった?でも、これは序の口・・・・・」
<リツ曜日>はもう一枚、写真をとりだして渡した。

「!!!」
篠田シンジは信じられないものをみて、目を丸くした。生まれてこのかた、これほど驚いたことはない。・・・・・・そこには厳格な父、篠田ゲンドウの若き頃の姿があった。

それも・・・・ゲームセンターらしきところに筐体の前で背中を丸めて・・・・・・・・血走った目をして・・・・インベーダーのマークがついた帽子をひさしをあげてかぶっている・・・・さらに理解しがたいことに・・・・・自分の手のひらにライターを近づけて焼こうとしている・・・・・・若いときの父はおかしかったのか・・・・・?


「な、なんですか・・・・・これは・・・」

「あなたのお父様の写真よ」

「これが・・・・父さん・・・・・・信じられない・・・・・」

「お父様も若いときがあったし、もちろん子供の時間もあったのよ。すぐには信じられないかもしれないけど」
自分でこんな写真をみせておいて言うセリフではないが、謎の美人であるからなんとなく説得力がある。しかし・・・・<リツ曜日>の目的は一体・・・・・・・。

「あるルートから手に入れたものだけど・・・・・あの篠田ゲンドウ氏の過去、となると知りたい人は多いでしょうね・・・・」
知りたい人、といっても見て楽しい代物ではない。ただし、今の父がこんな姿を目の前につきつけられたら自殺するかもしれない・・・・・!
「そういうわけで、<シン曜日>、あなたのゲームセンター通いは遺伝よ。あなたが悪いわけじゃないけど、これから先、やめられなくなるわ・・・・・たぶん」



「ゆすり・・・・・・ですか」

「そう。それが今日の用件なのよ・・・・・篠田、シンジ君」



「・・・・・うちが貧乏になるまで払わせるんですね・・・・・ひどいや・・・・・・」泣きそうに・・・・ほとんど泣きかける篠田シンジ。どんどん涙腺に涙がたまっていく。

「別に恨みはないから、そこまではしないわ・・・・それに」
店の中で泣かれては困る<リツ曜日>は気分を和らげるために、微笑んでみせた。

「本式のお金の話なら、お父様と直接にお話しするわ・・・・」

「・・・・どういう・・・・・こと・・・・・・ですか」

「でも、これはユスリなの・・・・。写真の秘密と引き替えにあるものを頂きます」

ごくっ・・・・篠田シンジの喉が緊張のあまり絞られたように鳴る。

「篠田シンジ君・・・・<シン曜日>・・・・・あなた自身を」

「え・え・・・・え・え・・・・・・・えええ・・・・そ、そんな・・・・・・」
なんだかえらいなことになってしまった。篠田シンジは小学生の頃に読んだ「江戸川乱歩の少年探偵団シリーズ」を思い返していた。・・・・この人は・・・・魔法博士かなんかじゃないんだろうか・・・・・。


「あなたには特殊な才能があります・・・・・・・・それを役立ててもらうために我らが「シチ曜会」の一員、<シン曜日>になってもらいます」


「ああ・・・・・体で払うってことですか・・・・でも、特殊な才能って・・・・・僕、楽器もそんなに上手じゃありませんよ」
ここでイヤだといえば、写真のことをばらすに決まっている。父さんと母さんには後で相談しよう・・・・とりあえず、ここはこの人に合わせないと。
篠田シンジもこのくらいの知恵は働くのであった。「シチ曜会」って新手の宗教かなにかかな・・・・すごく強引な誘い方だけど・・・・。


「才能はそんな枝葉のものではないの・・・・・あなたをあなたにしている・・・原要素。それが私達には必要なのよ」
謎めいた美人にここまで言われ、悪い気のする男はホモの疑いがある。


「はい・・・・・」
毒気にあてられたか、呪にかかったか、篠田シンジはこっくりとうなづいた。







ヒロシマビル

<リツ曜日>に連れられたそのビルの七階に謎の組織「シチ曜会」はある。
さっそく入会式を執り行うというのだ。なんとも手回しがよい。




大きな金属の扉を開けたその先は・・・・・・・・・